第50話 ◆姉妹愛

◆姉妹愛


次の週、三流芸能誌に”ティンカーベルのミキ実はニューハーフだった! そして妹エミは何とクローンの疑い”の見出しがデカデカと載ってしまった。

さあ、この後いったいどうなってしまうのだろうか。


「お姉ちゃん。 これって・・・」

「あちゃー。 壁に耳あり障子に目ありって本当だね」

ミキは相変わらず、思考が明後日よりだ。


「で、どうするの? お姉ちゃん」

「大丈夫。 困った時は、吉田美奈子マネージャーよ!!」

ミキはビシッとポーズまで決める。

「でも美奈子さんは、いまグアムで・・・」

エミは申し訳なさそうに小声でマネージャの不在を呟く。


「あっ。 そうだったっけ? 肝心なときに、もぉー」

「でも、あの日の事がどうして、杉山さんにばれちゃったのかなぁ・・・」

週刊誌のリポータ名を見て、エミは首を傾げ、しきりに不思議がっている。


「ねぇ、エミ。 あんた盗聴器かなんか付けられなかった?」

「ううん。 付けられてないと思うけど・・」

「ちょっと、こっち来て」

「なあに?」

「ほらっ、服脱いで」

「やっ。 やめてよお姉ちゃん」

「大丈夫よ。 ここはわたし達の楽屋なんだから」

「怪しいのは、お姉ちゃんのほうだよ。 お姉ちゃんこそ脱いでみなって」

「う゛ー。 こうそっくりだと、自分を脱がせてるみたいで変な感じだな~」

「ほらっ。 何にも付いてないでしょ」

「う~ん。 それじゃココはどうだ!」

ビクッ

「キャー。 なにすんのーー」

「アハハ。 それそれー。 うりゃー」

「はぅ~」

ミキは、完全にくすぐりモードである。 もう本来の目的を完全に忘れている。


「キャハハ。 やめてよー。 おねーちゃーん」

「はぁ、はぁ、はぁ。 あ゛ー疲れたぁ。 それにしても杉山のヤツめー」

ありゃりゃ。 エミが笑い疲れて、ぐったりしている。

その時、ミキの携帯の着メロが ♪♪♪ ♪♪♪~ 鳴る。


ピッ

「ハイッ。 ミキです。 あっ、鋭二さん。 うん。 そう。 それがおかしいんだ」

どうやら電話してきたのは鋭二のようだ。 言わずと知れたミキの旦那様である。

「だからね。 家の中で話したことが、ほとんどそのまま記事になってるんだ。 もう気味悪いよー」

『でも、いまのところ信憑性が無いんだから、君たちが動揺しなければ大きな騒ぎにはならないサ』

「う~ん。 そんなもん?」

『そう、そう。 そんなもんサ』

「わかった」

ピッ

「お姉ちゃん。 いまのはお義兄さん?」

「うん。 騒がないで、知らん顔してろって」

「・・・」

エミは、たまに知らない単語に出くわすと黙るのだ。 どうやら”知らん顔”がわからないようだ。


「つまり、無視よ。 無視! わかった?」

ミキが察して補足する。

「うん。 わかった」

「よしっ! それじゃー 今日も元気に行こうかぁー。 ファイトォーー! イッパーツ」


そのころ、三流芸能誌・出版社には、ファンからの苦情や問い合わせの電話が殺到していた。

「ハイ。 こちらは週刊芸能○○。 はっ? ああ、ティンカーベル。 おい杉山!」

「ちっ。 またですか。 俺ちょっと出てきます」

「おい。 杉山! しかたねーなー。 ちゃんと取材したのかよー。 ったくー」


こちら、会社を出て近くの公園にやってきた、杉山レポーターであるが・・・

「さてと・・ 次の作戦(取材)は、どうしたもんかなぁ・・・」

杉山レポーターしばらく考えていましたが、突然にやりと笑みを浮かべて立ち上がった。

「確か妹のほうが、天然ぽかったなー」

大変だ。 やっぱり、エミ狙いなのか?


さて、ここはTV局のスタジオの前の通路である。 ちょっと広くなったところに自販機が置いてあって、その前にちょっとしたソファもあり、休憩ができるようになっている。

そこに、さっきから見慣れた男がひとり座っている。 そう、あの杉山である。

一方、こちらはミキ達。 番組の撮影が一段落したので、30分ほど休憩時間なのだ。

「お姉ちゃん。 ジュース飲む?」

「うん。 わたし、オレンジがいい」

「それじゃ、ちょっと買ってくるね」

「迷子にならないようにねー」

「うん。ここは何回も来てるから大丈夫!」

楽屋を出たエミは、自販機へまっしぐら。

「自販機は、確か・・・ あっ、あったー」

蜘蛛が巣に獲物がかかるのをじ~っと待ち構えているかのような、杉山レポーターであるが。


「んっ! 来た来た。 かわいい子羊ちゃん。 待ってた甲斐があったぞ~」

ガコン

「お姉ちゃんのオレンジ・・・」

ガコン

「わたしのコーラっと。 よしっ」

ジュースを抱えたエミの後ろへ杉山がそっと回り込み、背後から突然声をかける。 これも作戦のようである。

「お嬢さん。 またお会いしましたね」

ビクッ

「あっ・・・ あっ・・・ ・・・」

エミは、あまりの驚きで声にならない。

そのまま杉山の前を回って、ミキの所に戻ろうとしたが・・・

「おやおや、ちょっと冷たいじゃないですか」

杉山に腕をつかまれてしまう。


「ちょっと。 すみません。 放してください」

エミは、つかまれた腕を振り解こうと体をひねるが。

「あのね。 そんなつれない事言わないで、ちょっとだけ、話を聞かせてくださいよ~」

杉山はしつこい。

「でも。 ほんとに時間が無いので・・・」

「3分だけ。 ねっ!」

「困ります」

「それじゃ、1分だけ」

杉山は、つかんだ腕を放そうとしない。 エミは、もう泣きだしそうだ。


そんなところに

ポン、ポン

誰かが後ろから杉山の肩をたたく。

「んっ? 誰だ あんた?」

『あっ、お義兄さん』

「エミちゃん。 ミキが向こうで探してたよ」

そう、杉山の肩をたたいたのは、鋭二だった。


「おいおい! 誰だか知らないが、取材の邪魔をしないでくれっ!」

「僕は、ティンカーベルの初代マネージャーだ。 今のマネージャがグアムへ行ってる間はマネージャ代行をやってる。 ティンカーベルの取材なら僕の許可が必要だ。 もっとも、あんたみたいなリポータからの取材はお断りだけどなっ!」

「くそっ、覚えてろ。 報道の自由は俺らにあるんだからな」

杉山は、そう捨てゼリフを吐くと、どこかへ行ってしまった。


「エミちゃん。 大丈夫だった?」

「まだ心臓がドキドキしてます」

「それじゃ、楽屋まで送って行くよ」

鋭二は、エミの腰にしっかり手を回して、体を支えて歩いていく。

エミは、ポーッとして頬が赤くなっている。 こんなところをミキに見られたら、ちょっとまずいんじゃないのか?


エミは、前に鋭二のことが好きだったから尚更である!

エミは鋭二に支えられて、ようやく自分達の楽屋に着いた。

ガチャッ

「鋭二さん!! どうして? あっ、エミ! いったいどうしたの?」

「ミキ。 エミちゃんを一人にしちゃダメじゃないか!」

「えっ。・・・それじゃ、また杉山が?」

「お姉ちゃん。 ごめんね」

「エミ・・・ 大丈夫? 怪我なんかしてないよね」

「うん。 大丈夫だよ。 お義兄さんが助けてくれたの」

「それで、杉山は?」

「あぁ、どっかに行っちゃったよ」

「あんのぉ、絶対にゆるせない!」

そう言うとミキは、鬼の形相で立ち上がった。

「ミキ。 いったいどこに行くつもりなんだ?」

ミキは、楽屋を猛ダッシュして出て行こうとするところを、鋭二に止められる。

「だって。 エミのこと・・・」

「杉山は、もうこの近くには居ないと思うよ」

「だって、だって。 大事なエミを・・・」

「お・・お姉ちゃん」

エミは、ミキが自分のことを想ってくれているのが、とっても嬉しかったようだ。

初めての感情・・・実はこの気持ちがこの後、大変な事につながって行くのであった。


次回、「ひとつになりたい」へ続く

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