第41話 ◆ミキ撃たれる!

◆ミキ撃たれる!


さて、鋭二、ミカ、クローンの変な組み合わせで「ミキ救出隊」が臨時結成され、鋭二のクルマで一路○○○公園へと向かっている。


ブロロロォーー

クルマは、もう○○○公園駅前を通過。

『ミキ待ってろよ! いま助けに行くからな。 どうか無事でいてくれよ』

鋭二は、心の中でミキの無事を必死に祈る。


「そこっ! そこの交差点を右に行く」

クローンが感情のない声で案内する。

「了解。 ところで、そっくりさんに聞きたい事があるんだ」

「そっくりさん? わたしは、ミキだぞ」

「あ、あなたは本物のミキさんじゃないですよ!」

すかさず、ミカが怒って抗議する!

「・・・」

クローンは、少し怖い目をしてミカを睨む。


「まあ、いい。 ところでミキ。 本物のミキを拉致したのって、高嶋教授なのか?」

「・・それは、わからない・・」

「大沢さん。 高嶋教授って?」

ミカは教授のことは知らないため鋭二に尋ねる。


「教授は、前にミキを拉致したことがある悪い科学者だよ。 確か刑務所に入っているはずなんだ。 もしかしたら勘違いかも知れないけど、こんなクローンを作れる奴はそうはいないしね」

「ミキさんを拉致? それじゃあ、その人もミキさんの熱狂的なファンなんですか?」

「いや違うけど。 どうして?」

「ミカもミキさんを一度拉致しましたしぃ・・」

「そ・・そうなの?」

鋭二はミカのことは、ミキに詳しくは聞いていないようだ。


『もし、高嶋教授だったら、もう拉致されてから12時間近く経っている。 ミキ、どうか無事でいてくれよ』

「そこを左に行った先にある、白い建物がそうだ」

「これだな」

キキーッ  鋭二はクルマを建物の少し手前で急停車させた。


「ミカちゃんは、クルマの中に残ってミキのお父さんや警察への連絡係りを頼む!」

「わかりましたぁ」

「山口家の電話番号は、携帯のアドレス帳に入ってるからね。 それじゃミキもいくぞ」

「わかった。 案内する」

ミキと呼ばれたクローンは、この時初めて少し微笑んだ。 やっと感情が芽生えてきたのかも知れない。


さて、クローンの案内のおかげで建物の中には、比較的簡単に進入することができた。

「ミキ。 本物のミキは、どこにいるんだ」

やはり会話が少々ややっこしい。

「それは、わからない。 だけど檻があるのは地下室」

「檻だって! ちくしょう犯人のやつめ、絶対に許さん!」


さて、時間を30分前に戻してみよう。

カチャ。 カチャ。

高嶋教授がミキの檻の前で手術道具を並べている。

「卵巣、子宮の状態。 乳腺・・・ どうなっているか楽しみだよ。 ミキくん」

ムーーーッ

『助けて鋭二さん。 こんどこそ解剖されちゃうーー』

今回は流石のミキもクローンが自分の身代わりとなっているので、誰も助けに来るはずが無いと思っていた。

ミキの目からは、恐怖のあまり涙がボロボロ出ている。


「さて、麻酔はかけるから痛みは無い。 但しココには酸素マスクや心電図、止血に必要な設備や器具は無い。 だから君は確実に死ぬし、わたしも助けるつもりは無い」

ムグーーー

『死ぬのは嫌だーーー。 助けてーーー』

「昔から言うだろ。 医学の進歩のためには、犠牲はつきものだ。 そして今回の犠牲者はミキくん。 たまたま君なんだよ」

ムグッ、ムーーーー

『そんなのお前が勝手に決めるなーーー!』


「さぁ、それではそろそろ始めようか」

ガラガラガラ

可動式の檻は、スイッチを入れると、どんどん狭くなっていく。

しばらくすると、とうとうミキは檻に挟まれ、身動きが取れないようになってしまった。


キラッ。 注射器の針が冷たく光る。

「痛いのは一瞬だ。 次に目が覚めたら天国にいるだろう」


プツッ

ミキの肩に注射針が刺さっていく。

フグッ フゥーーー カクッ

強力な麻酔薬のため、ミキはすぐさま意識がなくなる。


ガチャン

狭い檻の扉が開かれ、教授によってグッタリしたミキが運び出される。

手術台にみたてたテーブルの上に裸にされ、寝かされたミキ。 果たして鋭二は間に合うのか!

・・・

・・

その頃、鋭二たちはクローンの先導で、既にミキが閉じ込められている部屋の前までやってきていた。

「ここだ。 ここに檻がある」 クローンが古ぼけたドアを指差す。

「しっ! 静かに」

鋭二がクローンに声を出さないように注意していると、パタパタと廊下を駆けてくる音が聞こえてくる。

「んっ?」

鋭二が、音のする廊下の先を見ると

「大沢さーーん!」

大きな声をあげながら駆けて来たのは、クルマで待っているはずのミカだった。


「ミカちゃん! 何で? シィーーー 静かに!」

鋭二は、必死にゼスチャーで声や音を立てないように諭すが、時すでに遅し!


「何だか表が騒がしいな。 こんなこともあろうかと思ってコレを用意しておいて正解だったかな」

高嶋教授が異変に気が付いてしまった。

カチャッ

なんと高嶋教授は本物の拳銃を持っていた。 しかも今、教授はそのセーフティロックを解除した。


「よしっ。 こうなったら一刻の猶予も無い。 強制突入だ!」

鋭二はドアを蹴破ろうと身構え、数歩後ずさる。

「まって、まってください大沢さん。 もうすぐ警察がくるってミキさんのお父さんから電話がありましたぁ」

ミカは、そのことを知らせに来たのであった。

「いや、たぶんもう犯人に気づかれたはずだ。 だとすればミキの命が危ない」

「で、でも・・・」

「いまドアを蹴破るから、下がっていなさい」

そう言うと鋭二は、助走をつけてドアを思いっきり蹴った。


ドカッ

パーーーンッ

ドアが勢いよく部屋の内側に吹き飛ぶと同時に、銃声が一発、大きく鳴り響く。

「わっ」

「キャーーー」 ミカが大きな悲鳴を上げる。

弾は、鋭二の肩をかすめて廊下の壁に大きな穴をあけた。


「ミカちゃん。 危ないから、直ぐに表に出て!」

「あわわ・・・ミカ腰が抜けて動けませーーん」

パァーン パァーン

「クソッ。 これじゃ近づけない」

「みんなそこを動くな。 動くとコイツの命が無いぞ」

「高嶋教授!? やっぱり、おまえだったのか!」


大変! 高嶋教授の拳銃がミキのコメカミにピッタリと突きつけられている。

「ミキーーーッ!」


鋭二は、教授がミキに銃を突きつけているため、迂闊に動くことが出来ない。

「ん? クローンじゃないか。 何をしている。こっちに来て早く手伝え」

教授は部屋の入り口に立っていたクローンを見つけ、傍に来るように命令する。


「はい・・」

「しまったーーー。 クローンは高嶋教授の手先だった。 ミキの顔をしてるんで、すっかりこっちの味方だと勘違いしていた」

鋭二は事態の悪化に焦る。


「オイ。 コイツを運び出すから手を貸せ」

「・・・」

「どうした。 早くしろっ!」

「わたしは・・・」

「あっ。 な、何をする!」

クローンは拳銃を持った高嶋教授の手を掴むと教授ともみあい始めた。


「よしっ、今だ!」

鋭二が、ミキのそばに駆け寄ろうとした、まさにその時。

パァーン 4発目の銃声があたりに響き渡った。

次の瞬間、クローンがお腹を押さえ、力なく床に倒れ込む。


「きさまぁーーー!」

鋭二は、手術台に横たわるミキの傍に立っている高嶋教授の胸を目掛け、強烈なドロップキックを放つ。

ドガッ

キックが見事に決まり、教授はそのまま後ろの壁に激突! 気絶して動かなくなる。


「ミキッ! ミキッ! しっかりしろっ!」

鋭二はミキの体を揺さぶる。

「zzz、zzz」

ミキはスゥスゥと小さな寝息を立てている。

「ふぅ~。 どうやら大丈夫そうだな。 どこも怪我は無いみたいだ」

「グッ。 ウウウ・・・」

ミキの無事を確認しほっとしたのも束の間、部屋の隅から苦しそうな呻き声が聞こえてくる。


「そうだ、クローンは?」

「大変です。こっちのミキさんが・・・血がいっぱいで」

ミカがクローンのお腹にハンカチをあてて、青ざめている。

「ミカちゃん。 大至急救急車だっ!」

「は、はいっ!」

・・・

・・

ピーポーピーポー

・・・

・・


ここは、ミキの父親(山口博士)が勤務する研究所に併設された大学病院である。

この病院の最上階にある特別病室に、ベッドが二つ並べられていた。

「こうして見ると本当にうりふたつねぇ」

智子(ミキの母親)が、ふたりのミキの顔を交互にながめながら感心している。


「高嶋教授もクローン技術に於いては、世界一の技術をもっているんだがなぁ・・・」

自分の娘を2回も殺そうとした高嶋教授なのに、山口博士は少々残念そうだ。

「あなた。 ミキは精神的なショックを受けているだけだけど、そっちの娘の怪我は大丈夫なの?」

智子はミキに瓜二つのクローンの事も心配なのだ。


「あぁ、腹部の弾は上手く摘出したし、幸いなことに内臓は傷ついていなかったから、2週間程度で退院できるだろう」

「だってあなた・・ 退院って言っても、この娘は行くところがないわよ」

「智子。 相談なんだけど・・」

「わかってるわ! うちでこの娘を引取りましょう」

「智子・・・」

「わたしも、ミキが家を出てからなんだか寂しくて。 娘がもうひとりいたっていいじゃない。 それになんて言ってもミキの命の恩人だし」

こうしてクローンのミキは、山口夫妻に引取られることになったのであるが・・・


「さて本日のゲストは、こちらの方達です。どうぞ!」

そうそう、「笑っていいだろ」に出演中のサキをすっかり忘れていたのであった。

「んもぅ。 ミキったら。 いったいどうして来ないのよー! 美奈子さ~ん」


次回、「わたしはエミ」へ続く

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