第42話 ◆わたしはエミ
◆わたしはエミ
さて、山口夫妻に引取られたクローンは、その後どうなったのであろうか。
「あなた、この娘の名前どうしましょうか?」
「そうだな。 ミキのままじゃ、ややっこしいしなぁ・・・」
「同じ名前じゃダメか?」
クローンも、ミキとして培養されて(育って)きたので、ミキと呼ばれたいのだろう。
「う~ん。 同じ顔で同じ名前はちょっとねぇ・・・」
「そうだ。 最近よく笑うようになったからエミちゃんってのはどお?」
「エ・ミ・ エミか?」
クローンは、智子ママが提案した名前を反復する。
「そう笑うの笑みでエミ! 漢字は絵美がいいかしら?」
「エミ・・・気に入った」
そう言うとクローンは、わずかに微笑んだように見えた。
最初は表情がなかったエミであるが、智子の助手として24時間ぴったり付き添っているうちに、いろいろな事をどんどん吸収していった。
それにつれて、表情も徐々に豊かになっていった。
「あなた。 この娘のほうがミキより、きっと頭がいいわ」
「ハハハ・・でもDNA(遺伝子)は、ミキとまったく同じだぞーーー」
ブワーックション
「う゛ーーー。 また母さんが、わたしの悪口を言ってるなぁーーー」
そう不思議なことに、エミは驚異的な早さで、いろいろなことを覚えていったのだった。
あとでわかったことなのだが、あの高嶋教授が記憶や学習を司るDNAを少々操作し、学習能力をUPしたらしいのだ。
う~ん恐るべし、高嶋教授!
そんなワケだからミキとしては、頭の良さを比べられてもしょうがない。
ただひとつ智子の悩みは、エミの顔と姿。 だってミキと瓜二つという事は、すなわちアイドルのミキと同じって事なのだ。
どこに行ってもすぐにファンに気づかれて、大変な事になる。
いくら違うっと言っても、何しろクローンなのだから・・・そっくり。
そこで智子は思い切ってエミの髪型をショートにしてみた。
お化粧も、少しだけ大人っぽくして、縁なしの伊達メガネもかけさせた。
「あら~、意外といいかも」
これだけで効果抜群。 これ以降は、街に出ても全然気づかれなくなったのである。
そしてエミが退院してから3ヶ月が経った、ある日の夕方。
「こんばんは~♪。 お母さんいる~?」
おや? どうやらミキのようである。
「は~い。 遅かったじゃない。 ずっと待ってたのよ!」
「ごめん。ごめん。 鋭二さんの仕事が終わるの待ってたから」
「すみません。 僕の所為なんです」
後ろから大きな荷物を抱えた鋭二が、すまなそうな顔をして立っていた。
「あら。 そうだったの? でも仕事じゃしょうがないわねぇ」
智子ママがニコニコ笑いながら、鋭二が持っている荷物を受け取る。
「仕事でも、ゆ・る・さ・ん!」
そう言いながら、ミキが鋭二の胸を指で突っつく。
「ひゃ~。 そりゃ奥さん、ちょっと厳し過ぎませんか?」
「ふっふっふっ。 罰として、今度のお休みは・・・」
「はいはい。 わかりました。 仰せの通りにいたしますよ」
「さぁさ。 早く中に入って! もう直ぐご飯よ。 きょうはエミちゃんにも手伝ってもらったから美味しいわよ」
「お母さん。 エミちゃんて?」
「あっ、そうだ。 ミキは知らなかったんだっけ。 ほらっ、クローンの娘。 エミって名前付けたのよ。 かわいいでしょ!」
「ふ~ん。 もうひとりの自分かぁ・・・わたしの代わりに掃除や洗濯してくれないかなぁ。 そう言えば怪我はもう治ったの?」
「ええ。 傷跡も形成外科の先生に頼んで綺麗になったし」
「お母さん。 準備できましたよ♪」
ちょうどエミが玄関までやってきた。
「お母さんって?」
「あぁ。 お父さんと相談してね、エミを正式な養女にしたの」
「えぇーーっ。 そうなの? 知らなかったよー。 それで?」
「それでって?」
「どっちがお姉さん?」
「それは、あなた。 ミキがお姉さんよ」
「やったぁー! 妹だぁ・・・」
この時、喜ぶミキの後ろでエミが、じっと鋭二を見つめていたのであった。
次回、「クローンの恋」へ続く
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