第39話 ◆罠

◆罠


「ねぇ、聞いて鋭二さん。 わたしもついに見たわよ!」

「んっ? 何を?」

「何をって・・・わたしよ! わたし!」

「はぁ?・・」

鋭二は朝起きて新聞を読み始めたばかりのところを、キッチンから走り出てきたミキにいきなり話しかけられて、何のことかわからない。

「もぉ。 ほらっ。 わたしにそっくりな奴!」

「ああ。 どうだった? ミキによく似てただろ~」

新聞の一面を読みながら、適当に返事をする鋭二である。

「うん。 一瞬、わたしかと思った」

「なにワケのわからないこと言ってるんだよ~」

鋭二は読みかけていた新聞からミキに視線を移して、マジマジと見る。


「あ゛ーー。 つまりぃ、わたしが言いたかったのはこんな事じゃなくって、今回の一件って何だか怪しい気がしないかって事!」

ミキは自分の思っていることが上手く伝わらなくてじれったい。

「怪しいって?」

「だって、皆が声をかけてるのに無視してるって言うかー」

「それは、あっちからしてみれば、全然知らない人から声をかけられてるってワケだし」

「でも普通なら、話しぐらい聞かない?」

「きっと恥ずかしがり屋なんじゃないの?」

「えーー? そうかなー。 あっ、いけない。 もうこんな時間? お仕事いかなくちゃ」

「今日の仕事って、何処だっけ?」

「今日はネ、名古屋TV。 ちょっち遠いんで、帰りは遅くなるかも」

「んーー了解。 それじゃっ頑張って」

チュッ

↑まだ新婚さんなので(笑)


一方こちらは、高嶋教授の隠れ家。

実は高嶋教授は、莫大なお金を支払って保釈されていたのだった。

「オイ。 ミキ!」

「ハイ」

教授にミキと呼ばれた娘は、無表情のまま返事をする。

「渡した資料は、全て記憶できているな?」

「ハイ」

「よし。 それでは第二段階に移るか。 それじゃ、例の服に着替えてきなさい」

「ハイ」

なんだか、またしても悪巧みの予感。


さてさて。 場所は、またまた飛んでココは名古屋。

「ミキー! こっち、こっち」

「サキ! ああ、良かったぁー。 迷子になっちゃったかと思ったよー」

「もぅ。 ミキは相変わらず方向音痴なんだから。 こればっかりは、特訓じゃどうにもならないしねー」

「ねえサキ。 お昼はみそカツにする? それともきし麺?」

「アハハ。 ミキったら。 着いた途端にもうお昼の話ししてるの」

「うん。 お腹ペコペコなんだー。 収録中にお腹がならなきゃいいんだけど」

「やだ。 それじゃこれあげる」

サキがショルダーバッグからお菓子を出してミキに渡す。

「うわーい。 スニッカーズだぁ♪」


そして、名古屋でのセカンドシングル『Love Letter』の収録も無事に終わり、帰りの新幹線の中。 早っ!


「サキ。 わたしちょっとトイレに行ってくるね」

「あー。 じゃぁ、悪いんだけど、ついでに何か飲み物を買ってきてくれる」

「OK!」

さて、しばらくしてミキがトイレから戻って来た。

「あれ? ミキ、飲み物は?」

「・・・」

「また忘れたのねー。 しょうがない。 わたし買ってくるね」

ミキと入れ替わりに、今度はサキが後ろの車両に出て行った。

・・・

・・

少ししてサキが戻ってきた。 化粧を直して、飲み物を買ってきたので10分ほど経っていただろう。

「ミキ、ハイ。 コーラだよ。 って寝てるのかぁ。 主婦は、いろいろ大変だもんねー」

zzzZ


「ふぅー。 東京まで、あと一時間かぁ・・・ 今日は、美奈子さんもいないし退屈だなー」

サキもウトウトと居眠りを始めた。 電車の中ではすることがないし、芸能人は基本、移動時間が寝る時間なのだ!

でも、この居眠りの所為で、大事件に気づくのが遅くなってしまったのである。

・・・

・・

次は終点。 東京です。 乗り換えのご案内です・・・

車内アナウンスが、もうすぐ東京駅に到着することを知らせている。

「う・・ん。 ねえ、ミキも起きな。 もうすぐ東京だよ。 あ゛ー 私もすっかり寝ちゃったよー」

「・・・」

「どうしたの? ボーとしてないで。 ハイッ。 ミキの荷物」

「あ・・りがとう」

「元気ないわね。 大丈夫?」

「・・・」

「帰ったら早く寝なさい。 明日はお昼に”笑っていいだろ”に出演だから、10時までにはスタジオ入りね」

「はい」

「じゃあね。 気をつけて帰るのよ」

「はい」

『次はタクシーを拾って、大沢家に帰る。 地図はコレ』


大変! どうやら今ここにいるミキは、例の偽者にせもののようだ!


次回、「ふたたび」 へ続く。

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