第38話 ◆ふたりのミキ

◆ふたりのミキ


7月20日 午後2時 詩織さんとのティーパーティーにて。

「ミキさん、昨日はどうしたの?」

詩織さんが、ダージリンティーを淹れたティーカップを右手に持ちながらミキを見ている。

「えっ? 昨日って?」

「あら、 あんなに何回も呼んだのに・・・やっぱり聞こえなかったんですね」

「それって、どこで何時頃の話しですか?」

「駅前で・・・ 確か3時頃だったかしら?」


「それは、絶対変ですよ。 だってわたし、その時間は大阪でTV番組の録画撮りだったもの」

ミキは首をかしげながら答える。

「でも、あれは絶対ミキちゃんだったわ・・・」

「えーっ? ちなみにその人って、どんな洋服着てました?」

「水色のワンピースだったと思います」

「だったら絶対に違いますよ。 わたし、普段外出するときは目立たないように、Tシャツとジーンズだし・・・」

「・・・変ねぇ。 他人の空似かしら・・・」

詩織さんは、納得が出来ないようだ。


「きっとそうですよ。 芸能人のそっくりさんだって沢山いるじゃないですか」

「そうね・・・でも本当に双子みたいにそっくりだったのよ」


7月22日 午前10時 ミカと学校の休み時間にて。

「あっ! お姉さまぁーー」

ミカはミキを見つけるなり、物凄い勢いで駆け寄ってくる。

「んっ? ミカちゃん。 あーーっ、そんなに走っちゃあぶないよっ!」

「きゃぁー」

ドシィーン

ミカは、よりによって体育の先生「鬼ゴリラ」にぶつかってしまった。

「テテテ・・・」

「こらっ! 廊下を走っちゃいかんぞ!」

早速、怒られる。

「ひゃー。 すみませ~ん」

それでもミカは、注意された傍からミキの方へ再び駆けだしてくる。


「ミカちゃん、大丈夫だった? ケガは?」

「平気ですぅ。 それよりミキさん。 昨日はなんで待っててくれなかったんですか?」

「昨日って?」 ミキは当然、何のことを言われているかわからない。

「デパートのエレベーターで、ミカが待ってって言ってるのにドアを閉めちゃうなんて、ひどいですよ」

ミカの頬はぷくっと膨らんでいる。 もうプンスカ状態である。


「わたし、昨日はデパートなんて行ってないよ!」

「またまたぁ・・うそまでつかなくってもぉ。 あれは絶対ミキさんだったしぃ・・」

「だってミカちゃん。 本人が行ってないって言ってるんだから信じてよー」

「それって、ほんとうですか?」

「うん。 本当にデパートには行ってないよ」

「それじゃ、アレは誰なんだろう?」

ミカは、目を瞑って腕を組み首を傾げて、じっと考え込む。


「ミカちゃん。 その人ってどんな服着てた?」

ミキは、ふと先日の詩織さんとの一件を思い出して聞く。

「確か、水色のワンピースだったと思います」

「ふ~ん・・・」

「お姉さま、どうしたんですか?」

「おととい、詩織さんもその人を駅前で見たって言ってた」

「えっ、詩織さんもですか?」

「やっぱり、双子みたいにそっくりだったって・・・」

「わっ、それって、ドッペルゲンガーじゃ・・・だったらミキさんが見たら大変だぁ」

「なに? それ? ドッペルなんとかって」

「知らないんですか? 自分の分身で、それを見たら死んじゃうんですよ!」

「・・・」

この時ミキは、ミカのこの言葉に何か嫌な予感がしたのであった。


7月23日 午後10時 鋭二と自宅にて。

「ただいまぁー。 ああ、やっぱり先についてたか」

「お帰りなさーい。 やっぱりってなあに?」

「うん。 ミキが乗ったバスにタッチの差で乗り遅れちゃったんだ」

「わたしが乗ったバスって?」

「ほら、9時20分発のヤツ。 氷川神社経由で少しだけ遠回りするバスだよ」

「それに、わたしが乗ってたの?」

「えっ? あれっ? そう言えば髪形がちょっと違ってたかな?」

「もしかしてその人、水色のワンピースを着てなかった?」

「う~ん。 バスの窓越しに見たから服までは・・・」

「鋭二さん。 実は、わたしに良く似た人を見たって、詩織さんとミカちゃんが・・」

「ミキのそっくりさん?」

「うん」

「そうかぁ。 じゃあ、僕が見たのもその人なんだ」

「そんなに似てるなんて、なんだか気持ちが悪いよ」

「よし! 今度見つけたら、その人に声をかけてみるよ」

「・・・」


そして、その翌日。 とうとうミキも自分そっくりな水色のワンピースを着た少女に遭遇した。

「あーーーっ。 見つけたーー! ちょっとそこの彼女~」

「・・・」

ミキに声をかけられて振り返ったその少女の無表情な顔に、ミキは思わずぞっとする。 でも勇気を振り絞って、その少女の方に向かって駆け出して行くと。

キキィー

突然、黒塗りのクルマが1台、猛スピードで近づき急停車し、ミキそっくりな少女がそのクルマに乗るや否や急発進して、あっという間に走り去ってしまった。


「いったい何なの? もうワケがわかんないよー!」

そのころ、走り去った黒いクルマの中では、後部座席に座っているミキにそっくりな娘の隣で、高嶋教授が不適な笑みを浮かべ、座っていたのだった。


次回、「罠」 へ続く。

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