第33話 ◆捜索願い

◆捜索願い


「実は嘔吐したラットが死んでしまった原因は、分析してある程度はわかっているの」

智子ママが鋭二の目を見ながら、説明を始める。

「えっ? 原因は何だったんですか?」

「ラットの餌に配合してあった検査試薬で、それを食べた方のラットが死んだの」

「それじゃ、ミキは」

「もちろん、2週間で吐き気は止まるし、試薬と同じ成分を取らないようにしていればそれで直るハズなんだ」

博史パパが説明を続ける。

「同じ成分って言っても、薬なんだから普通の食生活ではありえないんじゃないですか?」

「いいえ、それがそうでもないのよ」

智子ママは複雑な表情である。


「えっ? いったいどんなものなんですか?」

「例えば、牛乳だとか・・・」

「牛乳ですか? それは大変だ!」

「まぁ、ミキは牛乳が嫌いだから大丈夫だと思うけど・・・」

「でも乳製品は沢山ありますし、ヨーグルトやアイスやバター・・・数えればキリがないですよ」

「鋭二くん、加工してあるものは心配ないんだ」

「??? 原乳ってことですか?」

「まぁ、それは説明すると余計に難しくなるから」

「お父さん。 そんな事より、早くミキを探しにいきましょう!」

「おっと、そうだったね」

「はい。 急ぎましょう」


さて、一方ここはミキがさっきまでベンチで横になっていた公園である。

「ミキーーー。 どこだぁーーー」

「ミキーー。 心配しなくても大丈夫なんだってーーー」

「居るなら返事をしなさーーーい」

「おかしいな。 ここじゃないのかな?」

「お父さん。 他に公園は?」

「近くだと、駅に行く途中の団地の中にあるんだ」

「あぁ、あの凄い滑り台のある公園ですか?」

「そうそう。 鋭二くん。 よく知ってるね」

「実は、一度ミキに誘われて滑った事があるんです」

「そうか、君も滑ったか。 近くだと、後はそこしかないはずだよ」

「じゃあ、これから僕が探してきますから、お父さんは先に戻っていてください」

「そうだね。 もしかしたら家に帰ってきているかも知れないし」

「ええ。 それじゃ」



さて、ミキは、いったいどこに行ってしまったのだろうか?

それでは、鋭二達が公園にやって来た20分前に時間を戻してみよう。

グッ・・ゲホッ、ゲッホッ・・・

「ふぅ、 なんだかだんだん酷くなってきてるみたい」


「あのー。 もしもし、大丈夫ですか?」

目をつぶっていたので近くに人が来たのに気づかなかったが、数人の女子高生がミキを心配そうに覗きこんでいた。

「えっ? あっ・・だ、大丈夫です。 気分が悪くなって、ちょっと横になってただけですから」

「よかった~。 ユイが死んでるかもなんて言うから」

女子高生の一人が隣の娘を肘でつつく。


「だってぇ、顔色が真っ青だったんだもん」

「あの~、もしかしたら。 ティンカーベルのミキさんじゃないですか?」

「えーーー。 あーーー。 ホントだぁ。 そっくりぃー」

「えっ、いえ。 その・・・」

ミキは変装もせずに飛び出して来たのを思い出し、慌ててどう説明するかが思い浮かばない。

「マユミったら、バカね。 アイドルがこんな所にいるワケないじゃない」

「あっ、そっか~。 そうだよね!」

「でも良く似てますね~」

「・・・」

ミキは下を向いたまま、じっとしている。


「あのぉ・・・まだ気分が悪いんでしたら、うちで休んで行ってください」

「えっ、でも・・・」

「あっ、遠慮しなくてもいいですよ。 うちの親、朝まで帰ってきませんから」

「そうそう、ミカの家って、居酒屋さんだもんね」

「それに、ここから近いんですよ。 そこの道を曲がって直ぐの所ですから」

「あ・・・ごめんなさい。 ほんとに大丈夫ですから」

ミキは努めて明るく返事をする。


「そうですか~。 それじゃ、気をつけてくださいね」

「ええ、ありがとう」


ポツッ・・・ポツッ・・・ポツッ

女子高生たちが居なくなってから少しして、雨が降り出してくる。

「???」

パラ パラ パラ・・・


「やだ、雨? さっきまで星が見えてたのに? よりによってこんな時に。 もぉ、最悪だぁ」

ミキは、コンクリートの滑り台(下の部分がトンネルになってるやつ)の中で雨宿りをする羽目になってしまった。


「あ゛ーー。 寒くなってきちゃったなー。 雨も止みそうに無いし。 もうウチに帰ろうかなぁ」

「あっ、居た、居た」

「きゃっ」

雨と寒さで心細くなってきたところに急に声がして、驚いてその方を見ると、トンネルの向こうからさっきの女子高生のひとり(ミカ)が覗き込んでいた。


「雨が降ってきたし、心配だったんで様子を見にきたんですよ。 ここじゃ寒いでしょ。 取り合えず、うちに来てください」

「わたしの為に、わざわざ戻って来てくれたの? どうもありがとう」

さすがのミキも寒さには勝てず、好意に甘えてミカの家で休ませてもらう事にした。


「ここが、あたしんちです。 誰もいないから遠慮しないでね。」

「お・・・お邪魔しま~す」

「どうぞ」

リビングに通されて、ソファに座っているとミカが暖かいココアを持ってきてくれた。

「体が冷えちゃったでしょ? お風呂も沸いてるから入ってくださいネ」

「えっ・・・でも」

「遠慮しないで。 下着はわたしの新しいのを用意してあげる。・・でもブラはダメですね。 サイズが・・・(T-T)」

「そ、そうね・・・」

・・


ちゃぷん。 ザザァーー

結局入っちゃってます。 お風呂。

「ふう~。 いい気持ち~」

「あのー、バスタオルと着替え。 ココに置いておきますね」

「あっ、ハイ。 どうもすみません」

カコーン

・・

バッシャー

・・

ザッバァーー

ガラガラ・・・ ← お風呂の出入口を開けた音

ゴシゴシ ← タオルで頭を拭いている音

「それにしても世の中には、親切な人もたくさんいるんだなぁ・・・」

ゴシゴシ


ミカが用意してくれたTシャツとスエットパンツを着てリビングに行くとミカがテレビを観ていた。

「さて、今週の第3位は・・・ジャンッ 2週連続で Love Letter デス」

ヤバッ・・・ティンカーベル!!


「あっ、ほらっ。 やっぱり、お姉さんそっくりですよ!」

「ほ・・・ほんとだぁ。 ちょ、ちょっと嬉しいかも・・・アハハ」

お風呂から出たのにもう汗が大量に噴き出る。

「そうだ。 お風呂入って咽渇いてません?」

「うん。 ちょっと」

「おいしい牛乳がありますよ。 信州の牧場直送の濃いミルク♪」

「あ゛ーー ゴメン! わたし牛乳ダメなんだ」

「えーー残念ですぅ・・・。 でもコレ、クラスで牛乳飲めない人でも、おいしいって飲んだやつなの」

「そう? それじゃ一杯だけもらおうかな」

「じゃ ここ置いときますね。 それじゃ、わたしもお風呂入ってこよっと」



「鋭二くん。 どうだった?」

「ダメです。 何処にもいませんでした。 仕方が無いので、警察に寄って捜索願いを出して来ました」

「そうか。 すまんな」

「いえ。 僕の方こそ」

「いったい、ミキはどこに行ったんだ!」



一方、こちらはミカの家にいるミキ。

「うわぁ・・・おいしそうなミルク! なぁ~んてね! 実はミキちゃん、牛乳は大っ嫌いなのよ~!」

ジャー

ミキはせっかくミカが出してくれた牛乳をシンクに流している。


ゴンッ (゜o゜

「ゴンッ?」

ミキは突然背後から頭を殴られ、意識が遠のいていく。

キューーー @o@)/ バタッ

・・・

・・


あれからどのくらいの時間が過ぎたのだろう。


『う・・・う~ん。 イテテ・・・』

フグッ フウーーン?

ガチャ!!

『何これ? 手錠? 猿轡もされてるぅーーー!』

「お、お姉さま・・・気が付いた?」

『ちょっ! お姉さまって?』

むぎゅ♪

ウーーーー!! ムーーーー!!



次回、「お姉さま」へ続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る