第20話 ◆それでもアイドル

◆それでもアイドル


「こ、ここは・・・」

なんと、飛び込んだ部屋はトイレ&シャワールームだった。

「よかったぁ。 わたし、もうモレそうだったんだ。 ちょっと失礼」

手術台の上に縛り付けられていたときから我慢の限界だったので、目の前のトイレに迷わず飛び込む。

「えっ、ミキちゃん・・・」

「大沢さんのエッチ。 耳塞いでてくださいよ。 もぉ~」


ジャー 水を流してから気が付いた。

しまった~! 音をさせない方がよかったか~!

気づかれたらどうしよう! その時はその時か。 え~い、男は度胸、女も度胸だって!

「ふぅ~・・・スッキリしたぁ」 思わずにっこりしてしまう。

何故か大沢さんの方が顔が赤くなってる。


廊下の男達にも何とか気づかれなかったようだったけど、奴らがあの部屋に行けばわたしが逃げ出したことは直ぐにバレてしまう。

ドアに耳を付け廊下の外の様子を窺っていた大沢さんは、そっとドアを開けながら、わたしを手招いた。

「ミキちゃん、ここからは全力疾走だぞ! 僕から絶対離れないようにね」

そう言って、わたしの手を強く握った。 何故か胸がドキドキした。


幸いなことに玄関の近くまでは誰とも遭遇しなかったけど、あと少しというところで背後から男達の怒鳴り声が聞こえた!

「いたぞ! こっちだ!」

「オイ! もう一人いるぞ。 逃がすな! 追え!!」

「お、大沢さん。 どうしよ~ 捕まっちゃうよ! 表にいる警備員は催眠スプレーを持ってるんだ」

「大丈夫、ミキちゃん。 僕がついてるから心配しないで」


正面玄関を出ると案の定、警備員がこっちに駆けてくる!

しかも今度は右や左から5人も!!

「キャー、助けてーーー」

わたしは突然後ろから髪を掴まれ、後ろに引き倒されてしまった。

「あっ、ミキちゃん」

大沢さんも数人の警備員に囲まれ乱闘中で、こっちまで手が回らない。

ああ、またしても絶対絶命。 今度こそ殺されちゃうよーー!


ファン ファン ファン

その時、正面ゲートから赤色灯を回したパトカーが数台、飛び込んでくるのが見えた。

「ヤバイッ! 逃げろ」

警備員や白衣の男達は、大慌てで建物の中に逃げ込んで行く。

わたしたちの前に急停車したパトカーの後部座席から、警官より早くみどりが飛び出してきた。

「ミキーー  ケガは? 大丈夫? どこも痛くない?」

みどりは、矢継ぎ早にたくさんの事を聞いてくる。

「みどり・・・みどりぃーーー」

頭が、いま現実に起きている事に付いていかない。


きゅうにボロボロ涙が出てきて、わたしは不覚にもみどりに抱きつき、わんわん泣いてしまった。

「よっぽど恐い目にあったのね。 でももう大丈夫よ!」

みどりは、優しくわたしの髪を撫でながら、ちょっと強めに抱きしめてくれた。

ホットしたけど、膝がガクガクして上手く立っていられなかった。

「そうだ、大沢さんは?」

数人の警備員と乱闘してたから、大怪我してるかも!


心配で辺りをキョロキョロ見回していると。

「僕なら大丈夫だよ。 大学では合気道をやってたしね」

そういいながら、泥のついたズボンを叩きながら、大沢さんが歩いてきた。

わたしの泣き顔を見ると、にっこり笑いながら白いハンカチを手渡してくれた。

その大沢さんの顔には殴られたのだろう、幾つかの赤アザが出来ていた。


「よかったーー。 大沢さん。 助けてくれてほんとうにありがとう」

ぺこりとお辞儀をした弾みで、着ていたダブダブの手術着がスルリと地面に落ちてしまった。

「キャー。 ご、ごめんなさい」

助けてもらったお礼ではないが、わたしはFカップのナイスバディをポロリと大サービスしてしまった。


「ミ、ミキちゃん。 これを上から羽織って」

大沢さんはすぐに自分のジャケットを脱いで、わたしを優しく包んでくれた。

「あ、ありがとう・・・大沢さん」

殴られたからだろうか? それともわたしのFカップのせいなのだろうか?

大沢さんの鼻からは、ひとすじの血が流れていた。

その後、警察が建物を包囲して、全員逮捕!

悪者達はやっぱり、ライバル製薬会社の研究所の者だった。

次の日の新聞に「アイドル誘拐される。 勇敢なマネージャー大救出劇」なんて見出しで大々的に報道されちゃって、ティンカーベルも一躍有名になっちゃった♪


その日の午後、警察の事情聴取が終わった後、サキから電話がかかってきた。

「ミキ、明日の夜8時から、臨時で1本TV出演の依頼があったの。 準備よろしくね」

「なっ・・あんな事があったばかりなのに、もう仕事なの?」

「あらぁ・・でも大沢さんが6時に向かいに行くってよ!」

「えっ♪ 大沢さんが♪♪♪」

「ふ~ん。なるほど~。 もうミキも、すっかり乙女ね~」

ポッ



第一部終了です。 如何だったでしょうか? みなさんのコメントをお待ちしております。



(本作品は、2008年11月24日~2011年6月25日まで、某携帯小説サイトに連載したものをリメイクしたもので、全248話あります)





◆主な登場人物紹介◆


●山口美樹ミキ

 中学三年の二学期末テストの最中に、誤って両親が開発中の薬を飲み、

 女の子に性転換してしまう。 みどりの特訓と陰謀でアイドルになる。


●神崎みどり(サキ)

 転校先のクラスメイトで理事長の娘。 ミキを完璧な女にするために特訓を行う。 


●大沢鋭二

 アイドルグループ「ティンカーベル」の初代マネージャ。 とってもカッコイイ♪

 26歳、独身、次男、お金持ち。 ミキが誘拐された時、救出に大活躍した。


●山口智子

 ミキの母親。父親の博史と共同研究で、妊娠後の男女産み分け薬を開発。

 ミキの良き理解者。


●山口博史

 ミキの父親。 世界的に有名な医学博士。 男の子のミキが女の子になってしまい複雑な心境。


●吉田美奈子

 「ティンカーベル」の二代目マネージャ。 結構気が強い。 


●高嶋教授

 ミキが性転換したことを知り、その秘密を調べるためにミキを誘拐した悪人。


●高瀬さん

 みどりの家のお抱え運転手。


●高村マネージャ

 大沢産業グループのホテルのマネージャ。


●山本ディレクター

 吉田マネージャーの婚約者。ミキの隠れファンでティンカーベルの写真集出版のきっかけをつくる。


●ユイ、マユミ、ミカ

 具合が悪くなったミキちゃんを心配してくれた女子高生トリオ。 ミカちゃんはレズッ気?があります。


●エミ

 ミキのクローン。 高嶋教授につくられたが心はピュア。


●杉山記者

 芸能レポーター。 ミキとエミの秘密を嗅ぎまわる。


●高辻ドクター

 心療内科のお医者さん。 エミのカウンセリングを行う。 カッコイイ系のよう・・・


●2号

 二人目のミキのクローン。 エミと違って学習システムで、心は悪に染まっている?


●清水 アイ

 鋭ニが不在の間、ミキの身のまわりの世話を頼まれている。 空手3段、合気道2段、柔道初段。


●大沢秀一

 財閥大沢家の長男。 天才工学博士。


●未来【ミク】

 人型ロボット。 白血病で死んだ秀一の恋人に似せて作られた。


●千織

 ミキと鋭二が迷い込んだお屋敷の地下室に住む付喪神か? はたまた?


●陽子

 職業:霊媒師、でも実は幽霊は苦手。


●貴子

 宝くじ1等2億円を当てたが、銀行に向う途中でクルマでミキを撥ねてしまう。


●白い犬

 天国にいる犬。 実は東の神様の仮の姿。 


●イケメン神様

 神様が化けたイケメンの若者


●ルナ(セレーナー)

 ミキと神様の間に生まれた女神様


●浅野氏

 鋭二や美奈子マネージャと同じ芸能プロダクションのモデル部門担当マネージャ


●三崎マネージャ

 ルナのモデルの仕事専門の営業担当(女性)


●北の神様

 美しいがドSな神様 ミキはひどい目に遭わされる。 万物の死を司る神様


●南の神様

 10歳くらいの女の子に見えるが・・・実は


●西の神様

 復活を司る神様 


●キャサリン

 地獄の大王の使者


●スティーブ

 千織のボーイフレンド 実は組織の殺し屋


●ソンティ

 タイの研修医


●ジュディ

 金髪の美女だが実は残忍な殺し屋


●ジェイソン

 タイでミキを投げ飛ばした大男 (ミキはひそかにター○ネーターと言うあだ名を付けている)


●山本

鋭二の執事

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