第19話 ◆脱出

◆脱出


うっ・・・・

意識がぼんやりとしながらも、もどってきた。

チクショー。 あと少しのところだったのに! 思わずくやしくて涙が流れ出す。

それにしても、今度はアイマスクまでされていて何も見えない。

体も手術台のようなものに寝かされて、大の字に手足を固定されているようだ。

腰の部分もベルトのようなもので縛られているようで、ピクリとも動かせない。

オマケに病院の手術着のようなものを着せられているようだ。

下着も着けてないし、かなりヤバイ状況かも・・・


ガチャッ

うっ、誰か入って来た。 ヤバイ、ヤバイ。

もう心臓はバクバクして、破裂しそうだ!

「午後一番で検査開始だそうだ」

「まずはMRI検査だろうけど、最終的には開腹してみるのかな?」

そう言いながら、わたしのおへそから下に向って、メスに見立てた指で切開するであろう部分をなぞる。

ひゃぅ~ どうしよう、手術されちゃうのわたし?


「いや、それは高嶋教授の腹次第じゃないのか?」

もう一人の男が答える。

「ノーべル賞がかかってるんだ。 少々の犠牲はしかたないさ」

「でもこれってやっぱし、犯罪だよなぁ」

そうだ、バカヤロー。 わかっているなら早くこの手術台から降ろせよ! わたしは犠牲になんかにならねーぞ!

そう叫びたいところをぐっとこらえて、さらに男達の会話に耳を欹てる。


「表沙汰になったら、やばいんじゃないか」

「ああ、でもこの娘。 昨日からの24時間TVの途中で行方がわからなくなったって、もう大騒ぎになってるよ」

「ホテルの防犯カメラにも、オレ達がトランクを運んでいるところが写ってたってテレビのニュースでやってたしな!」

「それじゃ、もう手遅れって事か?」

「あぁ、後は証拠を隠滅するか、このままどこか遠くに連れていって開放するかのどっちかだろ!」

証拠隠滅って、殺すって事か? オイオイ、普通は開放するだろ!!


「まぁ、昼飯を食ったら、1時にまたココに集合だ」

「まだ意識はもどっていないか?」

「あぁ、だいぶ催眠スプレーをかけられたようだからな」

「それなら検査時の麻酔の手間が省けていいじゃないか」

「ハハハ そうだな。 じゃ、飯にでも行くか」

バタン


どうやら男達はみんなして出て行ったようだ。

会話からすると、そんなに悪いやつらじゃなさそうだけど。

でも最悪、わたしは生きたまま解剖されて埋められちゃうかも知れないし・・・って、やっぱ悪者じゃんアイツラ!!

それにしても、身動きできないんじゃ、どうにもならないぞ!

おまけにさっきからオシッコしたいし・・・クソッ いったいどうしたらいいんだ。


ガチャッ

手術台の上で、もがいていると突然ドアが開いた。

ドキッ

ヤ、ヤツラもう戻ってきた? それとも悪の黒幕、高嶋教授なのか?

「ミキちゃん? ミキちゃんだろ?」

ヒソヒソ声で自分を呼ぶ声が、すぐ近くで聞こえた。

「そ、その声は・・・大沢さん?」

「しっ。 いま、助けてあげるからね」


パチン、パチン

手足と腰のベルトのロックを大沢さんが外してくれた。

アイマスクは自由になった自分の手で外す。

うわっ眩しい。

しばらく、アイマスクで目隠しされてたんで、部屋の照明がものすごく眩しく感じる。

「大沢さん、ありがとう♪」

思わず大沢さんに、ぎゅっと抱きつく。


「ミ、ミキちゃん。 それより早くここから脱出しなくちゃ」

「あっ、そ、そうでしたね」

「さぁ、こっちからだ。 ボクについて来て」

「はい」


あぁ、良かった助かった。 これでお腹だけは手術されないで済みそう。

捕まっていた部屋を出ると見覚えのある長い廊下が続いている。 これじゃ隠れるところがどこにも無いよな。

「ところで大沢さん。 わたしがココにいるのがどうしてわかったんですか?」

「うん。 ミキちゃんのお父さんの研究内容から、ここの高嶋教授が怪しいってことがわかったのさ」

「それじゃ、わたしが男だったってことも?」

「それは、サキちゃんに聞いたよ」

「そう・・・ごめんなさい・・・」

「どうしたの?」

「えっ、だって結局みんなを騙してたんだし・・・」

「なんだ、そんなこと気にする事はないよ! 今は、すっかり女の子じゃないか」

「う、うん」


「まずい!! ミキちゃんこっちへ。 早く!」 大沢さんが小声で叫ぶ。

そう、前からさっきの二人が歩いてきたんだ。

咄嗟に近くの部屋のドアを開けて飛び込む。

「こ、ここは・・・」

 

次回、「それでもアイドル」に続く

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