第18話 ◆新薬モルモット
◆新薬モルモット
ガチャガチャ・・ドアはノブが虚しく音を立てるばかりだ。
ダメだ、やっぱりドアは開かないや。 わたし、完全に拉致された?
でもいったいどうして?
その時、ドアの向こうから何人かの人が歩いてくるクツ音が聞こえてきた。
わたしは、音を立てないようにベットに急いで戻り、まだ意識がもどらないフリをして目を閉じた。
ガチャ
ドアが開いて白衣を着た男達が数人、部屋の中に入ってくる。
「オイ、 ほんとに、この娘なのか?」
「ああ、間違い無いそうだ」
「それじゃぁ、山口の息子って事だよな?」
「でも外見は少女にしか見えないよなぁ」
「それを言ったらニューハーフだって本物の女性よりも綺麗な人がいるぞ」
「俺たちが知りたいのは薬でここまで短時間に性転換したって事だけどな」
「まだ麻酔が効いてるようだし、それは目が覚めてからゆっくりと調べてみるさ」
なっ、わたしはモルモットじゃないぞ!
そうか。 コイツラは父さんたちの開発した、あの薬の事を狙ってるんだな。
でも、こいつらいったい何者なんだろ? ライバル会社の研究者とかかな?
う~ん。 いずれにしても早くここから脱出しなくちゃ!
それにしても、あれからいったい何時間くらい経ったんだろう? 急にいなくなって、サキ怒ってるだろうな・・・
一方こちらは、サキとマネージャの大沢さん。 ちょうどホテルから姿を消したミキの捜査を開始したところだ。
「サキちゃん。 フロントの人が、ミキちゃんがいなくなった時間に怪しい男たち3人が大きなトランクを重そうに運んでるのを見たって!」
「まさか、そのトランクにミキが? でもどうして・・」
「単純な誘拐だったら、もっと小さな子どもを狙うだろうし・・・」
「カワイイから拉致されたのかしら?」
「いや、もしトランクで運び出されたのなら、もっと計画的な犯行だろう」
「サキちゃん! ミキちゃんが何か事件に巻き込まれるような理由を知ってたら教えてくれないか」
「でも・・・」
「何か心当たりがあるんだね? だったら早く教えてくれ! これはミキちゃんの命にかかわる事かも知れないんだぞ!」
「実は・・・ ミキはちょっと前まで男の子だったの」
「なんだって!?」
「ミキのお父さん達が開発中の薬を飲んだら、突然女の子になっちゃって・・・」
「う~ん。 それはもしかしたらその薬の開発に関係した事件に巻き込まれたのかも知れないな!」
「わたし、ミキのお父さんに連絡する! 大沢さんは、警察に連絡してください」
「OK。 とにかく急ごう」
一方、こちらは捕らわれの身のミキ。 男達が出て行った後、念のため部屋の中を調べて見ることにした。
こっちのドアは、バスとトイレかぁ。 ホテルの中では無いみたいだし・・ここは、どこかの研究所の施設なのかな?
一応、監視カメラや盗聴器はなさそうっと・・・
ガチャッ
その時、急にドアが開いてさっきの男達が部屋に入ってきた。
「あっ・・」
「おやっ? お目覚めでしたか? お嬢さん」
「・・・あなた達は誰? いったい、わたしをどうするつもりなんですか?」
「おとなしく協力していただければ、別に乱暴はしませんよ!」
「協力って?」
「ほんの少しだけ、お嬢さんの体を調べさせてもらえればいいんですけどね」
「い、いやです! 早くうちに返してください!!」
「協力していただけないなら、お家に帰れなくなりますよ! それでもいいんですか?」
「そ、そんな・・・」
わたしはその場にへなへなと、しゃがみ込んでしまった。 なんだか体に力が入らない。
「オイ、ラボに連れて行くぞ!」
「あっ、やめてください」
抵抗むなしく男達に両腕を抱えられ、部屋から連れ出される。
ちくしょー。 女になってから、なんだか力が出なくなったような気がするよ~。
部屋の外の廊下の造りは、やはりどこか研究所の内部を思わせるものだった。
その長い廊下を引きずられるように、どんどん先へと連れて行かれる。
体を調べるって、いったい何をされるんだろう?
30メートルも歩いただろうか、いきなり前方に明るく広い場所が見えてきた。
その前を通りかかると、そこはどうやらこの建物の出入口のようだった。
遠くに一般道らしいものも見える。 やった、バスも通ってるじゃん。
あそこまで、逃げられれば助かるぞ!
よし、今だ! わたしは男達の腕を振り払って、玄関ドア目指して一気に駆けた。
「おい、逃がすな! 追えっ」
「待てぇーー」
へん! 待ってたまるか!! こう見えても、わたしは走るの速いんだ!
バンッ! 勢いあまってドアに体がぶつかる。
ドアを押してみた。 あ、開かない!
男達がすぐ後ろまで迫ってくる。
「開け! 開け! クソッ なんで開かないんだ!!」
ガチャガチャ
「ひょっとして・・・」
ドアを手前に引いてみる! あっ、開いた。
ひゅん
一人の男の手が背中をかすめる。
ころがるように玄関から外に飛び出したわたしは、正面ゲート目掛けて全力で走った。
ハァハァ・・・たかが50メートルくらいの距離なのに、まるでスローモーションのようにしか体が進まない感じだ。
しかも、男達の怒鳴り声で、前方のゲートからも警備員らしき男が出てきてしまった。
もう絶対絶命!
「だれか、助けてーーーー!」 叫んだつもりなのに、声にならない。
もうダメ!
あと20メートルくらいだったろうか。
後ろから一人の男が、わたしの足に猛然とタックルをしてきた!
足に飛びつかれ、バランスを崩したわたしは、芝の上に前のめりに倒れ込む。
それでもすかさず、男の顔面に蹴りを一発入れる。
ガッ
「ギャッ」
男が怯んだスキに、すぐさま立ち上がり、駆け出した途端。
シューーーー
前からやって来た警備員にスプレーをかけられた。
途端に、意識が薄れていく。
「あぁ・・・だ、誰か・・・」
次回、「脱出」に続く
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