カッコよく告白なんてできないから僕は叫ぶ
告井 凪
カッコよく告白なんてできないから僕は叫ぶ
「好きだ!
「な、
放課後、学校の屋上に幼馴染みの春音を呼び出して、僕は告白をした。
「突然じゃない! 僕はずっと好きだったんだ。小学校でも好きだった。中学でも好きだった。高校入ってからももちろん好きだ。好きなんだ。好きなんだー!」
気持ちを伝えられる喜び幸せを声に乗せ、大空に轟かせる。大地を、いや屋上のコンクリートを踏みしめ全身の力を使い、腹式呼吸による発声は太くよく通り、雲を突き抜けフライアウェイ、宇宙ステーションまで届け僕の気持ち。
「声でかすぎ……! きゅ、急に言われても、って意味よっ。びっくりしたじゃない。……ほら、そういうのって、その……もっと伝え方があるっていうか……ね?」
「伝え方? 好きだ。僕は君のことが好きだという気持ちを伝えたいんだ。好きなんだ」
僕の身体の中には春音への想いでいっぱいいっぱいだ。ついつい漏れ出してしまう。
「言い過ぎっ。……もーちょっと気の利いた言葉とかさ。スマートにっていうか……つまり、カッコよくできないの? って話!」
「そう言われてもな好き。僕にはカッコよく告白なんてできない好き。好きだと言い続けるくらいしかできない好き」
「語尾みたいにしない! もう……。少しは頑張ってみなさいよね。言い方変えるとか」
「言い方か……わかった、やってみよう。僕は君のことが好きだ! 黒髪が好きだ。艶のある綺麗な髪が好きだ。前髪ぱっつん好きだ。腰まである長い髪が好きだ」
「えっ……! か、髪は自信あるのよねー。えへへっ。毎日お手入れ大変なんだよ?」
「トリートメントをしっかりしているのも好きだし、寝るときに布団に巻き込まれないように気を遣っているのも好きだ」
「ありがと……ってなんでそんなことまで知ってんのよ!」
「好きだからな。好きの力は偉大なんだ」
「わけわかんない! まったく……」
春音が小さくため息をついてそっぽを向くが僕は続ける。
「長い睫毛が好きだ。切れ長の美しい目が好きだ。引き込まれるような大きな瞳が好きだ。鼻立ちが好きだ。スッとした真っ直ぐで美しい鼻筋が好きだ。口元が好き! 小さな唇が滑らかに動くのをじっと見つめるのがなにより好き!」
春音は慌てて手で顔を覆った。
「や、やめてよ! え、うそ、直太ってそういうフェチなの?」
「違う、僕は君が好きなだけだ。君のすべてと、唇が好きなんだ」
「なんですべてと唇分けて言った?」
「うん、春音のそういうツッコミ気質なところも好きだよ」
「誰のせいよー!」
やっぱり春音はサイコーだ。地球上で一番。宇宙で探したって春音以上の女の子はいない。断言できる。例え絶世の美女が目の前に現れたとしても、僕の目には春音しか映らない。そういう風にできているんだ。つまり対象を春音に絞ることで常にロックオンを可能にした僕の瞳は春音を隅々までサーチすることができるのである。
「あぁ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだー!」
溢れる想いがだだ漏れだ。よく振ったコーラを開けてしまったかのように、さらにメントスを入れた時のように(実際にやると大惨事になるからやめよう。もったいないし)、吹き出したこの想いを止めることはもう誰にもできない。想いの洪水が始まる。
「うぉぉぉ好きだー! 僕より10センチ背が低い君が好きだ! 抱きしめたらぽっきり折れちゃいそうな細さが好きだ! 触れたらふにょんって柔らかそうな二の腕が好きだ! 美しいくびれの手首が好きだ! ……小さい胸も、好きだよ」
「ぶっころそうかなー?」
「ひゃー! 殺気をまったく隠そうとしない君も好きだ!」
ゴスッ! 春音のジャンピングチョップが頭に炸裂した。説明しよう、僕よりも背の低い春音が本気チョップを入れようとした場合、ジャンプしなければ頭上に垂直にチョップできないのだ。だがしかしぴょこんと跳ねる春音がまたカワイイ。僕は違うところにダメージが入りノックアウトだ。
「な、なに笑ってるのよ気持ち悪い」
「……いいね。やっぱり僕は君が好きだよ。ジャンプした時にスカートからチラッと見えた太ももが眩しくて好きだ。しなやかな膝とふくらはぎが好きだ。ソックスに隠された足首の細さが好きだ。意外と靴のサイズは大きめなのが好きだ」
「そんな! 今の一瞬で見たの? 直太、足フェチでもあるの?」
「ふっふっふ! 違うな、僕は春音フェチだ! すべてが好きなだけだ! チラリズムを見逃すわけが無いだろう? 好きなんだから」
「なんか変態じみてきたんだけど……」
むむ、僅かに春音が引いている気がする。おかしい、僕は自分の気持ちを伝えているだけだというのに。言い方を変えてみろと言ったのは春音なのに。これではまずい。さらなる想いが必要のようだ。僕はもはやコーラにメントスを入れるのを躊躇わなかった。
「好きだ好きだ好きだ好きだー! 好きなんだー! なによりも誰よりも好きなんだ!」
「だからっ、声大きいってば! 下まで聞こえちゃうわよ」
「聞かせてるんだよ! 好きだ! 恥ずかしくてずっと耳まで赤くなってる春音が好きだ!」
「やーめーろー!!」
春音は両手で頬を押さえてしゃがみ込んでしまう。あぁなんてカワイイんだ春音。この瞬間を僕は目に焼き付ける。目を瞑っても開いていても現れるように。完全に焼き付けてやる。だってこんなにも恥ずかしがっている春音はとってもレアなんだ。小学校の時に演劇で白雪姫役になった時以来だろうか。僕が王子役でキスのフリをしたのだが、あの時の春音の顔は絶対に忘れない。それとも中学の時に春音が体育で足を挫いて、僕がおんぶして帰った時以来か。顔こそ見ることはできなかったが、恥ずかしそうに背中におでこをくっつけて周りの視線に耐えていた。あのぬくもりは今もはっきり覚えている。
「うん、好きだな。僕はやっぱり春音が好きなんだよ。僕は君がいないとダメなんだ、好きなんだ。いつまでも側にいて欲しい。好きだから!」
「な、直太……」
「僕は例え君が異世界から転生してきたお姫様でも好きだ!」
「もうわかったから………………は?」
「タイムマシンに乗ってダメな僕を助けに来た未来人でも好きだ! 毎晩正義のために悪と戦っていても好きだ!」
「そんなわけないでしょ!」
「実は裏社会を牛耳る悪党のドンでも好きだし、僕を騙す女スパイでも好きだ」
「あんた、騙されたいの? 私に?」
「騙される……か」
彼女は言う。悪かったわね、騙して。僕は笑って応える。どうして謝る? 仕事なんだろう? 銃を向ける彼女に近寄る。手は震え、銃口は定まらない。だって私は……! 春音……! 抱きしめ合う二人。彼女の手から、銃が落ちた――。
「うん、それも悪くないな。好きだから大丈夫だったし」
「……なにを妄想したのよ」
「例えどんな妄想をしようとも、僕が春音のことを好きなのは変わらなかったんだ。そういう話をしているんだよ」
「変な妄想しないでよ! あっきれた、いつもそんなこと考えてるの?」
「いつもじゃないけどな。なんだかんだで目の前にいる春音が好きだし」
「さ、さらっと言わないでよ!」
「さっきから何度も言ってるのにか? 好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ」
「何回も言わないでよ!」
「どっちなんだ……。そんな理不尽なことを言う春音も好きだけど」
想いは溢れ続けていたけれど、さすがにそろそろ抑える時かもしれない。何故なら気持ちを伝えてそれで終わりではないからだ。僕らは常に前を見て、前へ前へと進んでいくから。光のように真っ直ぐに、輝きながらどこまでも。春音と一緒に走っていきたい。そのためには、僕だけが告白をしてもダメなんだ。
だから……その前に。残りすべての想いを出し切るつもりで、僕は叫ぶ。
「春音! まだまだ行くぞーついてこい!」
「えぇ? ちょっと直太?!」
「好きだー! 好き好き好き好き大好きだー! 僕は春音のことが好きなんだー!」
やっぱり止まらない! これ抑えられるのか? 僕は一瞬不安を覚えるが、それすらもどこかに吹き飛んでしまう。強い想いだけが僕を支配する。
「あぁ僕は春音が好きだ! 好きすぎるよ! なんだこれ、あはははっ! 好きだ! あっはっは! 好きだ好きだ好きだ!」
「わ、わかったから、直太……」
「春音! 好きだああああぁぁぁぁぁ!!」
叫ぶ。この純粋な想いが、世界中に聞こえるように。宇宙の隅々にまで聞こえるように。過去も未来も時を越え、神も悪魔も関係無く、異世界だろうがあの世だろうがすべての者に、僕の声が、想いが、叫びが、届きますように。
「好きなんだあああぁぁぁぁ!!」
人生で一番の声で、僕は叫んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……そろそろ、春音に僕の気持ちが伝わったと思うんだけど」
「そりゃ……あんな大声で、しかも九九回も言われたら、十分すぎるわよ……」
「……数えてたのか」
「っ!! あっ、あっ、いまのはそのっ! いいいいいでしょそんなのー!」
手をブンブンと振る春音。でも確かにそうだ。今は……次に進む時。
「春音、僕の気持ちが伝わったなら、今度は春音の気持ちを教えて欲しい」
「えっ、わたしっ?!」
「それはそうだろう。僕の告白を聞いて、春音はどう思ったのか。僕のことをどう想っているのか。教えてくれないか?」
「私は……。だ、だめ! そんなの言えないよ、だって……だって」
「そこをなんとか頼む。僕にはカッコよく告白できなかった。叫びまくることしかできなかった。だから春音には、気の利いた言葉で、スマートに応えて欲しいんだ。僕に手本を見せてくれ」
「えぇ?! あ、あれは本気でそうしろって言ったわけじゃなくて……いきなりあんなこと言われて驚いて……つい照れくさくてっていうか……だから別に、手本とか……」
「……大丈夫。例えどんなことを言われても、僕の気持ちは変わらない。だから春音、安心して気持ちを伝えて欲しい」
「直太……あんた、自分がワガママ言ってるってわかってる?」
「ごめん。しょうがないんだ、僕は春音のことが好きだから」
「今ので一〇〇回目。もう……」
春音は僕の顔を見て、口を開こうとして……俯いてしまう。顔は相変わらず真っ赤で、目が泳いでいる。俯いたままなにかを言おうとするけど、やっぱり言い出せないみたいで、目を閉じたり首を振ったりしている。
「春音」
名前を呼ぶと、彼女は導かれるように僕の目を見る。真剣で、少しだけ濡れた瞳。
ゆっくりと唇が動く。
「……好きよ!」
カッコよく告白なんてできないから僕は叫ぶ 告井 凪 @nagi_schier
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます