a'i ekuru te'ua, rim-at onnd'u.(俺は俺が暮らす場所へ帰る)
ジュール号は少し手前の惑星系で寄港した。物資の補給や船員の休息もあるが、船員たちを解散させた後、ラグはジェレミーを船長室へ呼んで大切な話をした。
「この船は、これからあるレジスタンス組織に編入する。編入したら戦えない奴を乗せてはおけないんだ。だから、ここからは交代要員の技術者たちの船に同乗してくれないか。相手の船に話はつけてある」
ジェレミーは、やっぱりその話か、と返した。
「リコたちには聞いたのか?」
「あの船長を捕まえる前から聞いてある。まだ勉強途中のツキシロをコネがある医療ステーションに下ろしてもらうよう頼んである。あのぽよぽよした奴らは聞くまでもない。そもそも戦えないしな」
ジェレミーは少し肩を揺らした。ブールもネールも、間違いなく戦わないだろうが、自分の身を護るくらいはする。戦えないというのは間違いだろうと心の中で突っ込んでおきながら、表層では同意した。
「違いないな」
乗せてもらう船の停泊場所などの話が終わったあと、航行AIの整備確認をする最低限の人員を残して、船長もジュール号を下りた。残った船員と少し雑談をしてからジェレミーは気ままに降りた。
惑星を公転する衛星とステーションが合体したような奇妙な構造の星だった。惑星や衛星ほどたくさんの遊興施設はないが、多くのステーションよりは伸び伸びした気分になれる。数少ない施設として、資格を持っていて最低限の遊泳装置があれば宇宙遊泳ができる店もある。
ジェレミーが何となく眺めていると、ヒノヤとツキシロが資格がなくても体験できる、補助装置と係員付きの遊泳ではしゃいでいるのが見えた。ヒノヤは上手く操縦しているのに怖がってギャアギャア叫んでいる通信が周りに漏れていて、順番待ちの人の笑いを誘っている。逆にツキシロはあらぬ方向へ姿勢制御をしてしまい、ぐるぐる回っているが、慌てることもなく係員の操縦補佐を眺めながらゆるゆると操縦を楽しんでいるように見える。
交代のためにジロウへ向かう技術者らしき人に声をかけられ、ジェレミーはちょうどいいからと船を案内してもらい、船内のバーでひと休みすることにした。
「意外だなア。あんたひどい目にあったんだろう?連合の奴らにやり返してぇとは思わないかねえ?」
「どうだろう。記憶を捨てたときに、憎いと思う気持ちも捨ててきちまったのかもな。どうでもいいっていうか、俺がどうのこうの出来る話じゃあなくなっちまったよ」
* * *
やがて、技術者船団はステーション衛星を出発した。リコたちは大きな船窓の前で遠ざかっていくジュール号に向かって一生懸命に手を振っていた。ジュール号が見えなくなると、リコとヒノヤは、しばらく会えなくなってしまうツキシロと抱き合って号泣していた。ジェレミーも三人の肩にそっと手を置いて、抱きしめるのだった。
ツキシロをラグの知り合いにゆだね、船団はジロウを目指す。一番近いワープポイントまで飛んできてしばらくして惑星系が見えてくると、出発の時とは違いいくつか他の船とすれ違った。
そして、見えてきたジロウには、夜の面に明かりの塊があった。それなりの規模の町がしっかり生きていることを示していた。リコもヒノヤもジェレミーも、その光はなんて美しいんだろう、と感動で涙した。
ヒャクリサワ宇宙港へ降り立ち、着く前の連絡を受けて待っていたアシダカ隊の出迎えを受け、ジェレミーとリコは口頭で隊長へ短く無事戻ってきたという報告をした。そして、三人は肩を寄せ合って泣いた。
「リコ、ジェレミー、ヒノヤよく帰ってきてくれた。ジョシュ、面倒な仕事をこなしてくれてありがとうな。ブール、ネール、おまえたちも、お疲れ様。
みんな、今日はゆっくり食べて、飲んで、布団に入って再生しつつあるツクバを……いや、ジロウを、実感してくれ!!みんな、お前たちがやったんだ!!」
抱き合う三人にヒノヤが突撃し、そこへむぃ二体がぼよんとぶつかっていった。引いた位置で残りのアシダカ隊とジョシュが眺めている。
涙をぬぐった隊長が合図をして、帰ってきた者たちを隊員たちがアシダカに同乗させていく。アシダカの群れは整列したまま乱れず、綺麗に整えられた道路を進んでツクバへ向かって行った。
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