a'i(私・俺)

 ジェレミーは改めてツクバの市民として戸籍が作られることになった。改めて戸籍の制度が見直され、ツクバ市だけでなく、現在住民が暮らしている五つほどの市全ての市民を登録する。つまり、ジロウの生存者全てといってもいい。さらに、特別に、ブールとネール、ジョシュの戸籍も作られ、仲間の証として贈られた。


「じゃあ ツクバのなかに おうち つくっても いいの? じゃあ じぇれみーの おうちの 近くが いいな」

「わたしのようなものが、人間と同じ権利を有するのは誠に恥ずかしいが、その名誉に甘んずることなく、精進を続けるつもりだ」



 様々な船員や技術者の中には帰らずにジロウで結婚し家庭を持つ者もいた。止まっていたライフラインやインフラのためのAIや機構の回復によって、多くの住民の食住は確保できた。衣類は人口の増加に追い付いていないが、生産ラインを確保しつつあり、数年のうちに解消すると見込まれていた。


* * *


 数年後、ツキシロが後輩や先輩を連れて戻ってくるとき、宇宙から見えたジロウには、街の灯りの塊が一〇以上もあった。その中で、ひときわ大きなツクバの輝きは、ツキシロだけでなく人々の心に刻まれた。

 その頃ジェレミーはむぃたちと共に、夜空を見上げながら簡素な食事をとっていた。落ちてきた頃のような非常食量である。ツキシロたちが乗った船の明かりが航跡を描き、ヒャクリサワのほうへ向かうと、ジェレミーはリコとヒノヤに誘われて、普及型のアシダカに乗り込み、ツキシロを迎えに行った。


 ツキシロはラグからの伝言として、その気があればいつでも迎えに行くと伝えた。ジェレミーは冷めた笑い方をした。


「諦めてくれないかなあ。俺にはそんな気はない。」


ツキシロが頷き、送ってくれた船員にラグへの伝言を頼んだ。

『俺の故郷は今いるこの家なんだ。ほかを当たってくれ。この星は中立を守ると各市の代表が話し合って決めて、去っていく船全てにそれを伝えている。俺はツクバ市民としてそれを破る気はない。』


 ツキシロは伝言を宇宙船に送信すると、もう宇宙へは出ないのかジェレミーに尋ねた。


「宇宙船をこの星で作れるようになって、近くの惑星へ遊びに行くくらいは、出来るようになるといいと思ってるけどなあ。

 戦いに行くくらいなら、ヒャクリサワでネールに読み聞かせでもするさ」


 ツキシロが笑った。ネールは図書館から持ち出した絵本の読み聞かせをねだるのがここ数日のマイブームだ。一度読んでやると、数時間おきに一冊読めと体当たりで催促してくる。重い。たいていはジョシュが犠牲になる。


 ツクバへの道。軽やかに走る普及型アシダカの窓から眺めながら、ジェレミーは、初めてツクバを訪れたときと違い整備された道路の周りには商業施設が広がりつつあり、『犬』の気配もないこの状態が、せめて自分が生きている間は続くようにと祈りたくなるのだった。

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