停滞と前進

 手術からひと月後、いったん迎えに来たジュール号に、ジェレミーはまだ退院できないことを伝え、代わりに、ひと月ごとに状況を教えてもらうことにした。結局、手術を受けてから退院まで、一年近くかかった。




 手術は、始めは数日おきに行われ、ジェレミーは寝たきり同然だった。体は動かないし、今日の食事はなんだろう?程度の考え事もできない。それでも、半月後全ての手術を終え、さらにひと月かけて院内をある程度歩ける程度に体力を回復したあと、不思議と心身が軽くなったような覚えがあった。


 ジェレミーは術後すぐから、身体のリハビリと同時に、脳の損傷などを確かめるテストを受けた。どうしても避けられない、軽い副作用以外に不具合が出ないことを喜んだ。楽しみは時々ある特別メニューと、ジュール号の来訪による、ジロウの経過を聞くことだった。

 ツクバは、かつての栄光とはいかないが、市内は安全が確保され、生活を回すAIシステムがずいぶんと回復あるいは改良されたため、食糧事情が格段に良くなった。商人たちが物資を持ち込むためにごく近いヒャクリサワ空港を整備し、そこまではシールドを拡大した。市民の行動範囲も、ツクバの収容施設付近のみから市全体に広がりつつあった。


「食料がだいぶ自由になってきたのが大きいですね。人々が明るくなったし、ラグさんたちに快く協力してくれるようになってきました。」


 外部からの客人に反対の者がいないでもないが、協力する者が増えたおかげで、大規模な衝突は起こらない。リコは嬉しそうに語った。外の話を、文書館のアマギたちに残してもらったとか、やってきた商人や技術者の一部が先生となってツクバに残り、小さな商業や技術の学校を運営しているなど、次世代を育てるしくみもできつつある。


 もう、ジュール号が往復しなくても、回復して行ける。ラグたちもそう考えている。話を聞いたジェレミーも、退院が近くなると、ツクバに戻るのは後でもよさそうだと彼らに伝えた。


「俺個人の問題だと思っていたが、それだけじゃ済まないってわかったからな。今度こそ、俺がいたあの船を見つけて、女船長に問い詰めてやりたい」


 ジェレミーは退院の日、身元引受人として迎えに来たラグに言った。ラグは、図書館ステーションの中枢を探すと船内に宣言した。

 図書館ステーション自体は、まさに星の数ほど点在しているが、それを統括する上位ステーションがあり、それをいくつか束ねるステーションがあり、とピラミッド状の構造になっていて、頂点に中枢図書文書館ステーションがある。このステーションは名前に文書もついている通り、図書館というよりは、惑星連合の会議の議事録などの資料を主として扱っている。そのため、連合の機密情報を守るため、ステーションの所在や航路が一切伏せられているし、エネルギーの許す限りステルス効果のあるバリアを張っている。


 ジェレミーが入院している間に、ラグとジュール号に協力する船舶や船団が協力し、船窓などからの目視によるステーションの目撃情報を集めに集め、半年分ほどの足取りが辿れるほどになっていた。


「驚くなよ。快気祝いだ、受け取れっ」


 ラグは、メインモニタに何か映し出した。彼らは、中枢ステーションの半年分だけでなく、同じ期間内のエクセリオンの足取りが追跡できるだけの情報も集めていた。


「攻略は追跡がめんどくさい中枢ステーションからだな。予測される経路をいくつか割り出しておいた。さっさと乗り込もう!」


 ラグが声を上げると、周りから船員たちが呼応してときの声が上がった。早速進路を中枢ステーションの予想進路へ向かわせる。通信速度のせいで数日の遅れはあるが、元を考えればそれくらいは何とでもなるという自信が船員たちにはあった。

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