消された星々

 医療ステーションまであと数日というところで、ジュール号は図書館ステーションと遭遇した。ステーションは小規模で、物理書籍は近隣の星系のものを少し置いているだけであとは電子的な媒体にもかかわらず、収蔵数は多くない。

 それでも、全ての図書館ステーションはネットワークでつながっており、別のステーションにある本でも、一般利用者向けであれば自由に探せる。見つけたものは専用回線ネットワークで引っ張ってきて読むことができる。


 情報端末専門の船員とジェレミーは、一般利用者に混ざって端末を触る。適当に本や雑誌、新聞や各種記録を検索し、結果を見る。特におかしなところはない。しかし、記録の参照に抜けがあるような気がする。


 惑星系や銀河ごとの記録を検索してみる。ジロウのある惑星系が属する銀河は、早い星では入植してからの歴史が数千年はあるし、そういう星からさらに入植した惑星もあるので、記録が残されている星は少なくないはずだ。


 しかし、検索結果として並んだ惑星名のほとんどに、放棄済みだの、消滅だの、非干渉地だのというタグが付いている。


 そして、ジロウにも。


「放棄……済み……。」


 ジェレミーは景色が真っ白になっていく気がした。


「そんな!まだリコさんたちの町に千人近く人がいるんですよね? なんで、こんな。ひどいですよ……。」


 隣で船員も涙をすする。背後の行列スペースに並んでいる人が何人か不審な目で見ているのに気づき、ジェレミーたちはさっと目をぬぐって、素早く立ち去った。


 ネットワーク用端末をカウンターで借り、資料番号を入れ、ジロウのある銀河の惑星の大雑把な動向をまとめた資料を取り寄せる。

 機密保持や安全保障のためとかで、新しくても一〇年は前のデータだが、ジロウなど『放棄済み』のタグのついた惑星が数十はあった。

 全体で数百の惑星系があり、惑星単位では五〇〇近い惑星の名が並んでいる。

 そのうち、『非干渉地』というタグは五つ。凡例を読むと、非干渉地とは、環境破壊や大規模な戦争などを防ぐために、そこに住む人間すべてを強制的に惑星内外に移住させ、経過観察をしているという惑星だ。

 『消滅』は恒星の膨張や戦争などで惑星が破壊されたことを示す。直近では、ひとつの惑星系に属する一〇個の惑星が失われたようだ。合計で一六か所。


  そして『放棄済み』というのは、環境要因や戦争などで、有害物質に汚染された惑星、あるいは入植の際のテラフォーミングに失敗して砂漠まみれや荒波だらけになった惑星、もしくは、原住生命体との共生に失敗して人類側が撤収した惑星である。

 ジロウは、最後の共生失敗パターンに分類されていた。



『ジロウボシ』

種別:一般入植地【放棄済み】

認定:連合暦換算七三三年

入植開始:同七六四年

放棄決定:同XXXX年【削除済み】

放棄完了:同XXXX年【削除済み】

備考:原生知的生命体『爬虫類人類』による戦争の激化。それによる現地入植者による化学兵器使用に伴う入植地付近の環境激変。

 名の由来は、『地球を長男とした場合の次男に当たる星』の意。純粋な地球人類のみの入植地であり、特に日本国籍のもののみで構成された移民船団を起源とするという稀有な特徴を持つ。原生知性体は『爬虫類人類』(おそらく滅亡)、『扁平球型柔状陸生粘性水様生物(通称むぃ)』の二種。



 いくつかの惑星のデータの写しをこっそり取りながら、ジェレミーと船員は小声で胃の中の居心地の悪さをお互い愚痴りあった。冗談でも言って笑っていないと、良くないことをどんどん考えて行ってしまいそうだった。


 中央の文書館にある、より細かな資料にはいったい何が書かれているというのか。複写が終わると、船員とジェレミーはどちらからともなく、出口へ向かって素早く歩き去るのだった。

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