落ち着かない休息
物資の補給で減った資金を稼ぐため、医療ステーションまでの道のりで物資輸送の仕事をいくつか受けたジュール号。立ち寄った先でラグ船長は消耗品や生鮮品を買うように船員たちに命じた。
そしてもう一つ。ある有名リゾート惑星に荷物を届けた帰り、ラグ船長は、珍しく生鮮品を買わなかった。
「しばらく、寄れなくなるから、存分に羽を伸ばしてこい!……もちろん、無理にホテルに泊まったり、リゾートしなくてもいい。
だけど、しっかり休んでこい!遊んでこい!すっきりしてこい!俺もすっきりしてくるからな!」
集合の日時と、その時に生鮮品の買い物をすることを伝え、船長は操縦に必要な最低限以外の船員たちを全て港に下ろし、駐機場へと去っていった。
もらった身分証カードには、平均的な相場なら一週間存分に遊べる額がチャージされていた。船員たちは勝手がわかるが、ジロウにいたジェレミーたちは、物価の具合が分からなかったので、仲良くなった船員と食事をして、その代金から、膨大なチャージ額を実感した。新入りなので少ないほうだとはいうが、やはり、お高いグレードのホテルに、集合の日まで泊ってもぎりぎり払える額が入っているというのは恐ろしい。
「ジュール号の船内で充分快適なんだ。そんな恐ろしいところに泊まりたくはない」
ジェレミーは多少繁華街へついていったあとは船員たちと別れて、ホテルを探すことにした。つけられている感じがして振り向くと、リコたち三人のアシダカ乗りが付いてきていた。リコを真ん中にして、左右に何かにおびえる若いのと、リコと同じくらいの年の落ち着いた男。
「僕らも、ここに着いてからなんだか落ち着かないです」
リコが言うと、隣の若いほう・ヒノヤが、さっさと行きましょうよ、とせかす。もう一人・ツキシロがなだめる。ツクバには、というかかつてを除けば、ジロウには繁華街なんてないのだから仕方ない。
工事や機械の駆動音、喧嘩や言い合いで五月蠅いことはあっても、街の喧騒や店のスピーカーから流れる雑多な音楽が混ざり合った何とも言えない雰囲気など、あの場所には、たぶん、これからしばらく、ありえないだろう。
ジェレミーはあらかじめ調べてもらっておいた安宿を探し、そこで目いっぱい寝て過ごした。ついてきたリコたちも同じ宿に泊まった。
起きている間ジェレミーは適当に娯楽小説を買って読もうとしたが字が読めなくて断念した。そこで近くの雑貨屋を冷やかしたりして時間を潰した。リコたちは冷やかしなどもせず、宿内にある娯楽室の遊戯で遊んだ。彼らのほうが、言葉に関しては大きなハンディがあるのだから仕方がない。
集合する途中にそれぞれ土産物屋やスーパーマーケットを物色し、ジェレミーはブールとネールへの土産と、ジョシュ用のごはんを買った。土産は二体が食べたことのある食材だけで出来ている総菜で、ごはんは流通第一位という猫専用の餌の大袋だ。
* * *
集合時刻の一時間前にジェレミーとリコたちはついてしまったので、適当な場所に腰かけて、道行く人の服装を見たり、おしゃべりに耳を済ませたりした。駐機場の出入り口に近く、待ち合わせにおあつらえ向けの、目印になりそうなオブジェが並び、時計がそびえたっている。
時間が近づくにつれ、次々と船員たちが戻ってきた。集合時刻の一〇分前に、ラグ船長が駐機場の管理の建物から出てきた。船長が持っているスティックで身分証カードに触れていき、全員そろっていることを確認して、駐機場の出入り口の係員に声をかけた。チェックの機械にカードを通し、通路を抜ける間に各種ボディチェックを済ませ、再び船に乗り込む。
ラグ船長は全員配置に着いたところで、船内放送で呼びかけた。近くのとある惑星に技術者が集まる街がある。ジェレミーを医療ステーションに届けたら、手術と入院の間に、そこにいる技術者たちを雇いツクバへ届ける算段が付いたのだ、という内容だった。
雇い入れたのは、生活基盤のシステムに手を入れる技術者と、近隣の正確な測量を行うための人員、そして外敵を追い払うための武器や大量の燃料を扱う人々だ。
彼らは故郷の惑星を追い出されたり、自発的に出ていったり、不測の事態によって惑星にいられなくなったりしてその惑星で暮らしているが、安住の地が欲しいという思いを持っている。ラグは、自分たちの働きでツクバというか、人間の生活圏を広げ、自分で自分の住むところを用意すればいい、と彼らを誘い、承諾した。
その先遣隊として、ツクバとの通信を担当していた船員一人と、技術者数名、詰めるだけの燃料と物資を小型船に詰め込み、ツクバへ送ることになった。
小型船はまずジロウの近くの宙域まで、出来る限り連合のワープシステムで行けるところまで行き、ジュール号がここまで来たよりもはるかに早い日数でたどり着ける。
先遣隊を見送る際に、リコたち三人は映像と手紙を先遣隊に託した。ジェレミーは少し離れたところでその様子を見ていた。
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