遠いお隣 xenou-dakob-kuorep

 ジュール号は、ジロウのある恒星系に最も近い恒星を回る惑星の一つに寄港した。物資の補給の為であるし、ジェレミーたちに外の世界の常識について多少まとまった話をしておくためである。




 地球人類が宇宙に進出して最初に出会った知的生命体、彼らは既に自分たちの銀河と、地球のある天の川銀河の一部を管理下に置いていた。そこに地球人類も混ぜてもらう形で再編され、惑星連合となった。

 相手側からしたら天の川銀河は辺境もいいところで、あまりに遠い。なので、天の川銀河とそれに近いいくつかの銀河を地球人類側に任せた。単純に惑星連合と呼ぶときは、その地球側が主としている、天の川銀河を中心とした宙域にある惑星が参加するあつまりを指している。


 惑星連合に参加すると、地球やほかの参加惑星との航路が開かれ、ヒトやモノの往来が盛んになる。資源の乏しい惑星でも、天候を利用した休養のための別荘地として栄え、様々な惑星からの輸入をはるかに超える儲けを出す惑星があるし、人は住めないが特定の物資が取れる惑星に航路を開き、銀河中に売りさばく会社がある。


 惑星内や惑星間で何か問題があれば、『本部』に人を派遣して裁判をすることで、第三者をはさんでほぼ平等に解決まで導くことができる。

 新しい惑星の開拓とネットワークづくりに力を入れており、ジロウも移民船の入植の際に多大な支援を受けている。


 だが、連合傘下に入らない惑星も多く存在する。地球人類や他の知的生命体の文明や文化を受け入れることを拒む惑星や、そこまでではないが個々の船や惑星同士のつながりで充分だと考えている惑星だ。

 連合に参加しない惑星はもちろん援助を受けられない。一番大きな障害は、連合が銀河中にポイントを敷いているワープシステムの利用ができないことだ。ワープシステムは人やモノだけでなく、惑星間などの超長距離通信にも利用されている。

 出入りした者がすべて記録されるので、犯罪捜査や特定の荷物の追跡による補償や証明など、便利な半面、連合に管理されているという感覚が重いこともある。


 連合の交通網ばかりの惑星や宇宙港で育った人の中には、教育や広告などによる刷り込みのおかげで、連合のシステムを使わないのは犯罪者だという認識を持っている者が少なくない。実際犯罪者などはいかに連合のでない、各惑星間独自のワープ網を知っているかで儲けが変わるという証言が残っているし事実である。



 ジュール号が立ち寄っているこの恒星系は連合に参加していない。人が住む惑星が二つと資源採掘をしている惑星が一つある。人が住む惑星同士は惑星間ワープシステムを持っているので、地球の外国旅行くらいの間隔で移動できる。

 採掘惑星はそのシステムに入っていないため、その二惑星へ行くには数日かけて航行するしかない。そこそこの港があって、補給するだけなら採掘惑星だけで充分なのだが、むぃたちのための水場を用意するだけの水を手に入れるには、近い成分の海のあるどちらかかへ行かなくてはならない。


「ごめんねえ」


 ブールがラグ船長にすすっと寄り添う。そういうことはいくらでもあるから、と船長は気楽に笑う。地球人類に似た種族ばかりだったからいい機会だよ、と言いながら船長はブールの上面を撫でた。


「水ならいいよ。ククシュ人だと、定期的にククシュまで行って、そこの土と溶岩を持ってこないといけないんだぜ。

……仕事始めたころの客の中に子孫がいてさ、見た目は俺たちと変わらなかったし本人も知らなかったもんだから、気づくのが遅れて、近くの星の溶岩と土を混ぜてしのぎながら最短コースを補給なしぎりぎりで突っ走ったっけ」


 ククシュという惑星は地面の一部が固まっていないどろどろの状態という高温の星だ。

 ククシュ人は岩盤や地中を掘ることに長けており、出稼ぎとして採掘屋に就職する者がいるのだが、彼らはほかの惑星へ行くと低温かつ乾燥しすぎてしまい、皮膚がひび割れたり、窒息とまではいかなくても十分な呼吸ができなくて倒れてしまう。

 それを防ぐため、睡眠や休息の際に土や溶岩で作ったかまくらにこもって保湿するのだ。

 環境に注意しないといけない人種はいくつかあり、人を輸送する船には環境を用意するための船室を作らなくてはいけないし、自分の船を持つ資格を取るときに学ぶことにはなる。

 ただ、実際にそういう人種と出会って対処する準備がいつでもできているかと言えばそうではないという話で。



 数日後、三つの惑星を回り、予定した全ての補給とジェレミーの抑圧緩和第一段階手術を済ませたジュール号は、離れた宙域にある宇宙港群にある医療専用ステーションへ向けて出発することにした。

 船内で、ラグ船長はジェレミーたち全員をブリッジに呼んだ。


「改めて、君たち全員を、正式なジュール号の船員として認めます。……はい、これで君たちは僕らの家族さ!」


 船員の証となる、身分証明チップをジェレミーたちの耳たぶとむぃたちの体内に埋め込んで、ラグ船長は彼らを祝福した。物理的な身分証カードも手に入れたので、連合傘下の惑星で不審者扱いされることもない。


 目標は、ジェレミーの全ての手術の完了。それから、連合にあるジロウとエクセリオンに関する記録の入手のために図書館ステーションを探す。




 手術のために、せっかく思い出した過去の記憶を一部完全に失うことになったが、ジェレミーは負の感情を持たなかった。

 どうせ多くは思い出せなかったのだし、これから先、今以上に思い出すことはないだろう。そしてあの家族に二度と会うことはないだろうし、会っても俺には分からない。それよりは、これ以上おかしくなるのを防ぐほうがこれからの生活に必要だ。

 そういう考えである。

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