守られた記録の欠片
まず、あの地下深くで読み取った文章を呼び出した。本の表紙に当たる表示には、タイトルらしきものはなにもなく、ただ、注意書きを意味する赤い枠とその注意書き本文しかない。
t'ut noe brenzi ekuru saaraciei tar'uenn kapos taru niurator sog eter'ides ab'enz rk.
brenzi onnd'u ab'enz rk siuuz 5 iisiapau kann'nure kuusia aacienpr kogkrdoi noe saaraiciei grumrie kann'nre ab'enz, biret.
(この記録は、最高硬度カプセルにて永久に保存されるものである。
記録保存指定都市5か所にある情報センターの最深部にて保管せよ。)
何枚か白いページが続く。本なら数ページぶんの、「(余白)」という表示が並ぶ。誰かに見せるというより、決まった存在以外に見られてはいけない文章なのだという予感。タブレットにふれるジェレミーの指が、より慎重なものになる。
Heitei noe 1378 d'isiu'a tann'ire togmerood Qtan ua'nska beegzieu (erdo sero noe madesbh kiropzienn) noe temorisi noe siaston onnd'u piQk rk.
sni ekuru, XENOU noiarinn asiurenn noe ua'kot noiarinn baita asiurenn noe nadou kaziaan tann'ire siutannd i ann'na azr aacienpr baita tspiiro onnd'u repiino Qtan namsii'a,arr.
(平定1378年に発生した甚大的災害(連鎖的地殻変動)の原因を、惑星連合から派遣された、合同他国星軍による過度の爆撃及び詳細不明の特殊兵器によるものであると断定する。)
kaziaan tann'ire siutannd ekuru nadou arr kozasantemo.
(爆撃が過度である理由。)
1.
1.koradoi resbortir-dam noe orgaar ekuru ua'kot siunn Qtan siarba merepa tann'ire barsia taru,5 ziaser rauspe kann'nre zihi 100 kaziaann tann'ire siutannd ekuru poori Qtan koza.
riroka noiustah tsma narhr riipeir onnd'u siutannd taru siuuz azr daup arr.
(1.敵性爬虫人類の勢力圏がほぼ消滅した時点より後に、五日間で約一〇〇回の爆撃が行われたから。
少数の個体ごとに逃走している生命体への攻撃として不適当である。)
表情を変えないむぃたちだったが、ジェレミーとジョシュは悲痛な面持ちになった。しかも、その二項目には、一項で述べた爆撃の多くは街やシェルターに極めて近い場所で行われた、と書かれている。
2.
(先項で述べた爆撃の多くは、市街地もしくは避難指定シェルターに極めて近い場所で行われた。
数体の敵性生命体のために市町村ごと破壊するのは、非論理的かつ非人道的と言わざるを得ない。)
爬虫人類は、人間が移住するより前に暮らしていたジロウの原生人類である。SFの恐竜人類や、ホラー映画のトカゲ人間のような、まさにトカゲが立ち上がった姿に似ているのでそう呼ばれるようになった。
凶暴で、『犬』すら群れで襲い掛かって狩り、食べる。もっと大きな、地球上ならライオンやヒグマにも立ち向かって、食べる。そういう生物だ。むぃも食料にされる。人間より体格が大きいとはいえ、自分の倍ほどの生き物にも簡単に立ち向かうのだ。
だか、人間が立ち向かえないわけではない。一対一ではないからだ。
爬虫人類は狩りのための群れで暮らす。若い個体が成長儀礼で一人で暮らす以外は、小さくても数家族単位、大きいと一〇〇人弱で固まって移動する。なので、人間側は戦争の際、そうした群れのど真ん中に爆弾を落とし、散り散りにして小さい集団ごとにして撃破するという方法を取った。
読み進めると、惑星連合が、生き物が数体逃げ込んだ街を、救助を要請した側の意向を無視して、空爆して破壊したという内容が丁寧に書かれていた。時系列の簡単なまとめや、それぞれの作戦の内容、空爆された町がどうなったか。
「逃げ遅れて死んだ者の数が不明というのは……戸籍や捜索の不備よりは、爆撃が知らされてないとか、そういうことだよな」
ジェレミーは、調査結果の詳細が書かれた部分を飛ばして、次を読もうとした。そこで目がかすんできた。気分を変えるためにも、とジェレミーとジョシュは部屋の外へ出た。
* * *
船内を当てもなく散歩していたジェレミーは船員に呼び止められてブリッジへ向かった。ジュール号船長ラグは、入ってきた彼らをある通信用モニターの前に呼んだ。
ツクバからの通信実験だ。始めは音声だけなので、画面は音波を表示している。やがて、不鮮明ながら映像が届いた。通信状態の問題なので、残していった技術者たちが何とか改善できるだろう。
何か返事をするかと促され、ジェレミーはリコを呼んだほうがいいんじゃないかと聞き返した。
「あいつらのほうが、仲間や故郷が恋しいだろ?」
ラグ船長は納得し、ジェレミーを連れてきた船員にリコを連れてくるように命じた。
結局、長話をする余裕もないからと、確認の信号とリコの声をいくつか吹き込んで返事とした。ツクバに届くまでは何日かかるか分からない。
「古典的な電波通信でないと、惑星連合に拾われるからね。正式なワープポイントや通常通信は使えない。仕方がないよ」
ラグ船長が残念そうに肩をすくめた。ジェレミーのほうが申し訳ない気分になってきて、適当にブリッジを去った。
部屋に戻る途中、ジェレミーは小さな貨物室へ立ち寄った。あの墜落船の貨物のなかで外箱が無事なものがいくつか置いてある。行き先や箱の業者から船に関する手掛かりを得るために運び込んだものだ。
調べている船員がジェレミーを見つけて話しかけてきた。すぐに来歴が分かったものがあるという。
その箱は、惑星連合のマークが描かれていた。つまり、大きな会社や国同士のような、公共的なものが入っている。あるいは、美術品や高価な商品のように何か高額な保険がかかっているかどちらかだ。不正や事故を防ぐため、細かく中継記録が残されるたぐいの荷物が入っているわけだ。
まったく無事なタグを見つけ、伝票番号を調べても、どこの運送業者にも見当たらない。発送された宇宙港のデータベースには発送記録しかなく、次にどの港やワープゲートを通ったのか分からない。発送された港からこのあたりの宙域まで、何のゲートも使わず、補給などの立ち寄りもせずにやってくるなど、連合の最新型でもありえない。
連合のマークのそばに小さく印章があり、今はそれしか手掛かりがない。そんな風に船員は話した。主に担当した船のマークだ。データベースのなかで合致する印章は、エクセリオンという名の、それほど大きくない船だという。
「フネも会社も小さいし、あんな大層な梱包のもんを受け付けるもんなのかねえ」
船員はそうつぶやくとタブレットを定位置に掛けて、休憩用の一角へ歩いていく。礼を言い損ねたジェレミーは、問題の荷物に目を向けた。連合のマークはこの船で覚え直した。だが、横の小さなマークは、ジェレミーには見覚えがあった。
(エクセリオン。あの船だ。俺が乗っていた、あの。)
ジェレミーは船員に、そのエクセリオンという船について調べるように頼んだ。そして、船長と話をするためにブリッジへ引き返した。
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