kahr-mariuka(四つ足、『犬』)
その『犬』どもは、アシダカが武器を抜くのを見ると同時に、ぞろぞろとアシダカの足元をうろつきまわった。時折、足部分などに体当たりしてくる。
通常の個体でもあまり踏みつけたりどかしたり轢いたりしたくない。操縦者の精神的に堪えるのももちろんだが、機体も相当痛むのだ。表面はへこむし、硬い部分に当たれば骨格が曲がる。まして、サイズが大きいとなれば、はね飛ばしたら脚部が折れる可能性も高い。脚部にぶつけられて関節に負荷がたまっている機体もある。
踏んだりしないように、当たらないように、アシダカたちは『犬』の行進を避け、逃げ続けた。そのせいで、経験の浅い何人かの機体が、隊長たちから離れてしまった。
ばらばらに離れてしまった三機に、待ってましたとばかりに『犬』が集中する。ほかのものには目もくれず、はぐれた機体の脚部の、関節などの他より弱い部分などに、何匹かが交互に体当たりや叩くなどして、三機は次々に歩みを止めた。
さらに、一機を助けに行った機体の足先一本に、同様に集中的に攻撃してへし折った。一本だけでなく、三、四本折ろうと、『犬』どもは動作を繰り返す。
人間で言えば足首の上あたりか、細くなっている部分を引きちぎられ、その機体は助けようとした機体より先に、その場から動けなくなった。
『馬鹿者ッ!』
隊長は一秒だけ悩んだ末、見た目の損傷が少ない、また足先一本だけで済んで這いずっている機体に全員で接近し、『犬』どもを火器や棒で打ち倒した。
その間も、あちこちから、助けなかった機体の操縦者が泣き叫ぶ声がする。操縦席に踏み込まれたらもうどうしようもない。手持ちや、操縦席に積んである火器が切れたら、『犬』のなかの屈強な個体が、腕力で扉や装甲をへし曲げで隙間を作り、前肢を差し入れてむりやりに引きはがすのを見ているだけだ。
中のひとりは、その叫びで皆の戦意をくじかないようにと、通信を遮断した。
『もう、いいっす。隊長、みんな、ありがとう』
通信を遮断したアシダカは、操縦を損傷時専用のAIに譲られて、操縦者の身体を無視した足さばきで、犬を蹴散らし続けたが、脚部を六本折られて動かなくなったのち、爆散した。アシダカの自爆機能を使用したのは、今の機体シリーズが配備されてから数十年、彼一人だけしかいない。本来は、資材や予備パーツ取りとしても使えなくなった機体を火薬代わりに遠隔で爆破するための機能である。
結局、最初にはぐれた機体はすべて動けなくなった。おそらく一時間も経っていないかもしれないのに、一〇機のうちの一機を失い、目の前で二機めがこじ開けられ、操縦者が必死に、仲間の機体の脚部にしがみついている。片足が、動きを潰された時のように千切れているが、本人は必死で気づいていない。
これまで、人のいない場所に住む『犬』が、こんなに統率の取れた動きをみせた記録はない。そもそも、番や兄弟だけで過ごすのがほとんどで、多くても親と子のみの数匹までで、群れと呼べるような、大勢を率いて動く生き物ではない。ジョシュのような、人間による実験や学習を受けた個体がいるわけでもない。
つまり、環境の過酷さか何かわからないが、この『犬』どもは、自ら、群れという生きかたを見つけ、学び、確立してきたのだ。
足首のない操縦者が力尽き、落ちそうになって何とか格納場所に放り込まれた。助けが来ないほうの操縦者が諦めてお経を唱え始めたのを、隊長が叱咤する。助けられているほうの操縦者も、あいつを先に、と叫ぶ。
一団になっている状態で、ひときわ巨躯の『犬』が離れた位置からじっと見つめている。そいつが一声唸り、まとまりがなくなりかけていた『犬』どもの動きが、再び整っていく。
このままでは順番になぶられる。隊長はうまく固まって、脚部のパーツから一度火炎放射を行って、様子を見た。本当はこんな乾燥したところでやりたくない。
数分おきに数回放射した後、隊長は放射をやめ、諦めたかのように腕を組んで目を閉じた。大分数を減らしたが、まだ一〇〇匹以上いそうだ。
一〇機の内、動けるのは六機。それもどこまで持つか。
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