ハコと書置き

 数十階分になるだろうか、箱は沈み続けていた。初めは会話で間が持っていたが、十五分ほど経ったあたりから口数が減り、いつの間にか全員黙り込んでいた。

 こんなに長く目的の階につかないなんて、地球に三本ある巨大な軌道エレベーターを地上からかつての国際宇宙ステーションの高度まで一気に登るくらいはしないと味わえないかもしれない。

 ジョシュのいたような高層マンションの中には地上地下合わせて百階あるようなものもあるが、そういうところには、端の階から端の階へ向かう専用のもっと早いエレベーターが別にあるから意外と乗っている時間が短くて済むものだ。まして地球に近い発達した星なら言わずもがなである。


 閉所独特の何とも言えない空気は空調のおかげで気にならない。しかし、こんなに沈み続けたら地核まで行って溶けてしまう、ジェレミーはそんな気分だった。


 ポーン、と乗ったときと同じ電子音がして再び扉が開いたとき、人間三人は思わずはっとした。それそれ、考え事をしていたのだった。


 降りると、試着室くらいの空間の向こうに厳重な扉があった。宇宙船にあるような、密閉扉で、進んでいくと結局四重にもなっていた。


 その先は、リコの一軒家がいくつも入りそうな、あまりに巨大な空間だった。びっしりと、スーパーコンピュータを形成するサーバー群とそれを動かす自家発電設備、監視カメラにつながるモニター類が詰め込まれていた。

 制御するためのモニターや端末も置かれているが、人間が入ることを想定しているかどうか怪しみたくなるくらいに、置かれているもの同士の間が狭い。


 ジョシュと隊長とネールが制御端末を起動する。この端末の電源が落ちていたということは、何百年の間、少なくとも数百キロの範囲内の機械たちは完全に人の手を介さずに動いていたことになる。




 あちこち端末に保存されていたデータを見ていくと、やたらと長いテキストデータが見つかった。他はプログラミング言語や技術者向けの専門用語が混じっているだけで、特徴や個性を感じない、丁寧な文体の次郎語で書かれている。

 だが、この長たらしいテキストだけ、共通言語で書かれていた。プログラムなどでもなく、テキストを描くだけのソフトウェアの拡張子をもったデータだ。


 印刷できるような装置も、外部端末をつなぐ端子も見当たらなかった。文字だけリコと隊長とジェレミーが交互に携帯端末に打ち込み、持ち帰ってブールとネールが読むことにした。


 打ち込んでいる間に、打ち込んでないメンバーとジョシュで、他のデータやスーパーコンピューターの働きを確かめる。全滅したコロニーへの電力を止め、食料プラントへの電力の不安定を補うように設定を変えた。

 この町だけでなく、一〇以上の県にまたがって電力をコントロールしていたようだ。ついでに、ジェレミーが最初にいたあたりのコロニーや町の電力の消費や、端末・スイッチの操作がないかなどみたが、ブールとネールがいたときらしい細々とした消費しか記録がなかった。




 生きている自販機から飲食物や燃料を補充したのち、一行はたくさんの猫に見送られてサガミハラを去った。

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