解かれるページ

 パンフレットはジェレミーたちから見て、新しく見積もっても数百年は昔のものだ。むぃであるブールの知っている『にんげんのことば』の中の古いものに似ているが、「似ている」のであって、差異は数多ある。


 宇宙港タネガシマへようこそ、という一文から始まる五つ六つの文章をアマギやブールが解読しジェレミーが内容を理解するまでに一時間以上を費やした。


『宇宙港タネガシマへようこそ! 次郎最大の宇宙港へお越しいただきありがとうございます。

 各所への移動は、姉妹港ウチノウラ、ツキジ、ヤイヅ、メイコウ、サセボ、マイヅルへの直通便への乗り換えをご利用ください。各港から全ての次郎県空港への乗り換え、鉄道ターミナルがご利用いただけ、大変便利です。詳しくは各港・駅の案内所へご相談ください。』



 その日一日かかって、パンフレットの内容を全員が共有できた。


宇宙港の設備案内

各宇宙港への乗り換えの案内

各宇宙港から空港や鉄道への乗り換えの案内

有名(と思われる)観光地と名産品の簡素な紹介

あいさつなどの簡単な日本(次郎)語のフレーズ




 併記されている連邦英語をゆっくり読みながら説明を聞き、ジェレミーは大きくため息をついて、アマギに夕食を催促した。夕食後次の資料の表紙を解読している途中で、その日の作業を終了した。

 アマギが従業員用の仮眠室を貸してくれ、そこで皆眠った。


 朝食もアマギと共に職員食堂だったであろう部屋で配給らしき弁当を食べた。リコと再会したのは食堂だったが、配給に関してかなり珍しいことだとリコやアマギが教えてくれ、ジェレミーは現在の食糧事情の厳しさに思いをはせた。


「食事自体をいきなり変えてしまうと士気は下がるし反発も大きいですから。このツクバ内では、肉を早いうちに合成肉だけにした以外は、食べもの自体はそんなに変えてないんですよ。その代わりに、量と流通を厳しく管理しています。職業や体格、体調など食べられるメニューが厳格に決まっています」


 おぼろげではあるが、宇宙船の合成肉は肉らしく見せることを忘れたかのような薄茶色の不揃いな塊だったのが思い出される。ジェレミーは弁当の香りをいっぱい吸い込み、はぁっと声が出るほど、いっぱい吐き出した。最初にいたシェルターではかけらも食べていない食材だ。わくわくしながら、受け取っておいた先割れスプーンを合成肉のハンバーグに突き刺す。ひとくちで入る分量だけ切って、下に敷かれた米と共に食べる。


「うまい!」


 リコとアマギが苦笑いを浮かべる。足元でむぃと猫は野菜くずからできた合成野菜チップスを食べている。


「うまい!」


 ブールが真似をして言うと、ジェレミーは急に恥ずかしくなって、やめろよ、と大笑いした。


「毎日こうとはいかないですけど、しっかり食べて、しっかり読んでくださいよ!」


 アマギがやや強く、ぼんっとジェレミーの肩を叩いた。


* * * * *


 二冊目は宇宙港から各地の空港へ出ていた航空便について書かれていた。固有名詞のほとんどが地名で、アマギやジョシュでも、地図を見ないと知らないようだった。それぞれ市が独立して往来がなくなってから、離れた地名を覚えているのはマニアや好事家くらいだ。リコのような警備担当はまだ近隣の市町を知っているだけエリートである。

 アマギは教養と好みでいくつか覚えているが、たいていの人はツクバ内だけでも自分の住んでいる町だけ分かれば十分な生活をしている。どうせ外へは出ないし、学校でも最低限の読み書き計算に、生活上必要なルールやマナー、配給などの制度の利用方法くらいしか教えていない、というか教えられない状態だ。


「もう100年くらい前からずっと、娯楽本とツール以外で本読む人っていう時点でオタク扱いですしねえ。」


 近くを通りかかった、アマギの同僚が声をかけてきた。彼はそういうオタクの仲間だ。だからこそこの仕事を勝ち取った本オタクは彼以外にも結構いるらしい。


「じゃあ、むぃもオタクなんだねえ」


 ブールが無邪気に言う。そういえば、前に見つけた図書館で、こいつらは自分の読む本を持ちきれないほど選んでいたっけな、とジェレミーは思うのであった。

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