さよなら、はじめての町
「なぜ謝る?」
ジョシュは猫らしいぎらりと光る瞳孔でジェレミーと見つめあった。
「いや、俺が服を漁ろうとしたとき、あんたは止めたから。……俺だって、できればこんな泥棒みたいな真似はしたくないさ。でも、どこのどいつだかわかる奴くらい、どうなったか残された人に伝えてやりたいんだ。」
ジェレミーはその後ろに、心の中で付け加える。
出来ることならば、俺のことを知る者――家族や特に親しい友人、もしもいるなら恋人くらいには、俺がこの惑星ジロウで生きていることを、伝えたい。
ジョシュは、大きく首を横に振った。止めたのは汚れや感染症などの伝染を恐れてのものだった。ヒトならばジェレミーが考えたような理由で手掛かりを探すのは普通のことであり、その行為自体に反対したわけではない。だから、謝ることはないのだ、と理由を話した。
ジョシュとジェレミーは、外に待たせた猫たちに、入らないように合図をして、部屋の外へ出た。猫たちには、ジョシュがこの場所には近づかないように厳命した。
その夜、ジェレミーはジョシュとブールたちに相談した。
どうしたら、惑星連合へ信号を送ることができるだろうか。そのための施設はどこにあり、どうすれば行くことができるのだろう。それを調べるにはどうすればいいのだろうか。
ジョシュもブールたちも、惑星の外と連絡する手段を知らなかった。連絡する手段がどこかにあるはずだということは知っていたので、まず、人間の町をたどって、最終的に最も大きな都市ジロウトウキョウへ向かうことを考えた。
持っていた本で方角を確認し、翌朝まだ日が昇りかけたばかりの時間に、ジェレミーたちはこの町『サガミハラ』を出ていった。
陽が昇り、小さな火を起こして動物避けにして、中央分離帯に生えている知らない街路樹の木陰で交代で眠っていると、何かがさがさっと足音がした。舗装を破る多様な草と飛んできた砂利と砂と埃の道を、何か四つ足の獣が歩いているのだ。
暑いから、熱いのはいやだなと呟き、ジェレミーは拾っておいた枯葉や枝を火にくべ、火力を少し増した。ネールがぐるる、と獣の鳴き声をまねてうなり、近づいてくる足音の方向へ威嚇する。ブールも、とびかかれるようにと体を縮ませている。
がるる!とネールのうなり声が大きくなった。分離帯の境目に高い草が生えていて、かきわけなければお互いの姿は見えない。
そして、ブールが偵察とばかりに、大きく跳んだ。
「まて!わたしだ!」
ブールは声の主を見た。そして、普段の声でむぃっ、と一度鳴き、臨戦態勢を解いて着地した。
「わたしも同行しよう。群れは子らに引き継いだ」
* * *
ジョシュは理由を三つ述べた。ひとつは単純な興味。ひとつはジェレミーもブールもネールも、人間の町をよく知らないから。ひとつは、群れを離れるため。
「代々、子が群れを継いだら、親は子の下につくか、群れを出ていくことにしていた。もう何十代は続いた習慣だ。わたしは、率いるのに飽き、率いられるのがどうすればいいのか分からない。そんなときに、君たちと出合った。人間が言う、奇跡とか導きというものではないか、とさえ思った。そして、わたしの知識を、ヒトに返すことは、長く夢見たことであった。」
火を消して木陰に座り直したジェレミーに迫りながら、ジョシュはまくしたてた。
「お、おう」
ジェレミーに同意を求められたブールとネールは、歓迎するようにジョシュの周りをぽよぽよ跳ね一周した。
なぜか軽く自己紹介をして、一人と二体と一匹は荷物を囲んだ。
「まずはさっさと目的の出入り口を見つけて、シェルターに入ることだ」
ジェレミーは地図の本を広げて、指さした。
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