merberaane(大好き、とっても大切)

 十二日目、先日の調査の続きで通路を調べていたジェレミーたちは、珍しく簡単に開く扉を見つけた。その部屋のある枝から少し手前から、かなり広い範囲で灯りが死んでいて、ジェレミーの手持ちの懐中電灯を部屋の中に向けたところ、そこに人間の骨が二人分あるのを見てしまった。

 ネールが何か言い、ブールが翻訳する。


「人間、いるね、って。」

「こりゃあ人間がいるとは言わん。わかったか?」

「あれは、人間じゃないの?」

「人間の骨だけど、人間は、骨だけのあれを人間とは呼ばねえ。」


 ゆっくり、部屋の入り口から順に照らして、ほかに何があるのか確認する。骨の周りに、散乱した缶詰や非常食の外袋と、かろうじて服だとわかる裂けた布切れ。他には何もない。ありがたいことに、骨は古く、野生動物の痕跡もない。獣に入り込まれて死んだ線が消えてジェレミーたちはまず安堵した。


 改めて見てみると、骨の様子から、人間の男女が最期を迎えたところだということが彼らにはわかった。ジェレミーはひゅうっと口笛を吹いた。


「よくみたら、骨になっても、お熱いねえ。ぴったり抱き着いてやがる」

「じゃあ、大好きさん同士、なんだねえ。あいしてる、っていうやつ!」


 だったんだろうな、とジェレミーが言うと、ブールは楽しそうに聞いた。


「じぇれみーには あいしてるっていうやつ いないの?」


 ぶはっ! ごほっ! と盛大にむせ、非常食の飴玉を余分に消費してから、ジェレミーはなんとか答えた。


「さあねえ。思い出せる限りは、思い当たらねえなぁ」


 黙ってみていたネールが、何か言いながら彼らの周りを飛び跳ねる。


「merberaane! merberaane noe mi!」


 初めは見ていたブールも一緒に飛び跳ね、ジェレミーをぐるぐる周回する。


「そだね、もう、だいじななかま、だねえ」


 それを聞いたジェレミーは急に胸が苦しくなって、涙があふれ出した。周回していた二体は顔を見合わせる。

 どうしよう! 何かいやなこと言った? くるしいの? いたいの? ブールが言いながらそわそわ、もぞもぞ、うごめく。


「おまえらのせいじゃねえよ。ただ、こうなるってことは、俺には、昔仲間がいて、そいつらが今は仲間なんかじゃないってことがありそうだな。」


 涙を拭いたジェレミーは部屋を出て、二体にも出るように促した。


* * *


 次に入ることができた部屋は空っぽというか、めぼしいものはなかった。空き箱や何かの空き容器が転がっているだけだった。入ることのできる多くの部屋が、だいたいこうだ。ごみか、そうでなくても現状彼らには要らないものばかりが転がっているのだ。

 既に二体が見つけている箇所も含め、二十個ほどの部屋に入ることができるが、モノが残っていたのは三つほどで、全て、現在彼らが使う部屋に運び込まれている。


 恋人や家族といった話から、ジェレミーはむぃたちの生態の一端を知った。むぃには性別はない。二体以上いれば繁殖が可能だ。精子に相当するものを一体以上から受け取って、十日ほどたつと、二体~六体のむぃが生まれる。

 生まれたばかりのむぃは親と違って、大きさは人間の手のひらにも載る程度しかないし、体の色は透き通っていないし、産毛のような細かい毛が体の半分くらいを覆っている。毛がなくなるまで、生んだ親は世話をするが、巣立ちの後は、近距離ではあるがばらばらになって暮らす。巣立ちまでは生まれてから遅くても一年かからない。

 だいたい人間の一生よりも短い時間を生きる。年を取ると体色が濁って、動きが鈍くなり、大きく跳ねられなくなる。最後は、動けなくなって、水分があればクラゲのように溶ける。


 ブールとネールは六体兄弟の二匹らしい。話し方が人間の子どものようなので気づくのは難しいが、もう二、三十年は既に生きている。ブールには年の感覚が分からないが、ネールは記録係的な役目を受け継いでいるため、人間の時間の感覚が多少わかるし、一年を数えることもできる。入植した惑星ではその星に合わせて『一年』の長さは変わるが、この星はたまたま地球に近く、一年は三六一日と約三分ある。


「おまえら、意外と大人だったんだな」

「いがい、っていうのは、ひどいよー」


 抗議するようにも”っ、も”っ、と鳴く二体に追いかけられて、ジェレミーは休憩をやめて次の通路を目指した。

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