tiQp taQp(ぴちゃ、ちゃぷ)

 住処へ戻った次の日、外は土砂降りの雨だった。ドールの部屋は外に近く、雨音が良く聞こえる。彼が朝目覚めて、体をほぐしに出ていったときに、ぴた、ぴた、と水滴が落ちてきて、あっという間に強くなっていったのだった。


 すぐに戻ったとはいえ、雨の勢いは強く、髪や肩はびしょぬれになってしまった。すぐに上半身は脱いで、タオルを収納箱から引っ張り出して、ドールはわしわしと髪をふき取った。宇宙服や潜水服用のスキンスーツではなく、ありふれたTシャツと、似たような柔らかめの生地で出来た足首丈のパンツを着ている。脱いだほうのTシャツを外が見える適当な場所にひっかけ、風が吹くことを期待して通路を奥に向かって歩いていく。


 食事は数日で慣れ切った非常食パックではなく、食材を調理して作る。帰ってから寝るまでに、食材と調理の場所を探しておいたのであった。調理室は施設の奥のほうに位置するため、ドールは先日までより早く起きている。


 ドールが料理すると言ってもただ材料を切って焼くだけのものだ。ネールたちの知り合いがくれたという、見た目はサツマイモみたいな黄色い色をしたジャガイモを適当に一口大に切り、何とか風味が残っている塩と挽かれていない胡椒を振って焼く。挽いてある胡椒は完全に匂いが消えていて意味を果たさなかった。


 この芋「ジロウイモ」は味がジャガイモに似ている。さらに、この星に大量に繁茂しているうえ簡単に育つため、ジャガイモの代替品として広く使われていた。開拓の歴史の本によると、味や見た目を近づけようと交雑も行われ、一〇の新しい品種が生まれたが、八種類は弱くて育たなかったし、残りの二種類は出来上がった芋が猛毒であった。もちこんだジャガイモをそのまま植えるよりはるかに成果が小さいとなれば、すぐに交雑は行われなくなった。



 ドールが非常食についていた小さなフォークでジロウイモの炒め物を食べている時、ブールとネールはジロウイモの葉をもさもさと口に運んでいた。ブールが言うには、むぃたちはジロウイモは食べられるがジャガイモが食べられない。


「はっぱは たべられるんだけどね。おいもは だめなんだ」


 人間でも、例えばジャガイモの芽は有害で食べられないが、むぃたちは、芽を取っても食べられないものらしかった。と言っても見た目は芋から葉から花から全部似ていないので間違えて食べることはないだろう。ちなみに、ジロウイモとサツマイモも、芋の中の色以外何もかも違う。


「でもこれは大丈夫なんだろう?ちょっと食べてみろよ?なかなかうまくできた。」

「これ食べると ドールのごはん 足りなくなっちゃうよ」


 ドールは、自信作だから誰かに食べてもらいたいんだよ、とブールに言い聞かせて、欠片を口に放り込んでやった。


「むぃ、しょっぱいの、いらないんだ。ごめんね」


 ブールのしょんぼりした顔を見て、ついドールは吹き出した。


* * *


 片づけを済ませて、ドールは歴史の本を読むために部屋に戻った。最初やってきたときに歩いた範囲より一回り広いくらい――だいたい外から三つめの部屋までやってくると、外の雨の音がざあざあとはっきり聞こえだす。


 ごはんを取ってくる、と出ていった二体を見送って、朝かけておいたTシャツが予想通り乾いていないのを確認してから、ドールは自室へ戻った。

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