borbor(回転する/悩む)

 隔離された空間で、時計も見える範囲にない状態では、時間の感覚は狂うばかりだ。一人と二体は、何度か腹が減って、扉の近くに集まって持ってきた食料を食べた。

 からからに干からびたような、固焼きのビスケットと、透明な水、そこに付属する丸い粒が三つ。一つにまとまって入っているのを、ブールは丁寧に包装パックを開けて、ドールに手渡した。彼は、食べ方が分からず、入っていた説明も完全には理解できなかったため、ビスケットをそのまま口に頬張ってしまい、喉が詰まる思いをしたのであった。

(このビスケットは、一口ずつかじり、水を含みながら食べるようになっている。)


 時計は、図書館のカウンターのそばに置時計があるのをすぐに見つけたが、その時計は動きが止まっていた。ドールはぽいとそれをカウンターの奥へ投げ込んで、館内を歩き回り、閉架書庫らしき、棚の間隔が狭い地下深くの部屋に、掛け時計が動いているのを見つけた。ドールの胴体を隠すくらいの大きさのその時計を、外して持ち出した。

 針の数字を見て、ブールがドールに寝るよう促した。


「にんげんは ねむるじかん。つづきは またあした。」


* * *


 何日かかかって惑星資料室の本をありったけ読んでもらい、ドールは、この図書館があるシェルターが一つの町であることと、今からどれほど前かわからないが、人が生きて死ぬ程度前に、災害があって少しずつ町が衰退していく過程にあったことを知った。

 災害は最低でもいくつかの町を巻き込み、それによって多くの人がシェルターにこもって何代も過ごしていたようだ。

 それが続いていくうちに滅びたのか、シェルターの中にも影響が出たのか、そういったことはもちろん知る由もないが、人間より環境変化に強いらしいむぃたちですら、人間のシェルターから何世代、何百年も出ずに暮らしていたとブールに教えられたドールは戦慄した。


 そんなところになぜ、俺は来なければならなかったんだろう。あの船は、来なければならなかったんだろう。


 ドールは、惑星間航行船や、移民についてのことを学んだり思い出したりしていた。例えば、地球人が入植した惑星は、定期的な輸送船が通っていなくても、行政的な確認のために惑星連合の調査船が一〇〇年に一度以上の頻度で訪れるはずだということや、同様に入植惑星側からも定期信号を送らなければならないこと、その信号が一〇回途切れたとき、必ず連合の船団が送られてくるということだ。


 最終的に送られる惑星連合の船団はAIも含まれ、人間に適さない環境に変わってしまっていても調査や管理ができるようになっている。というかAI管理者以外人間がいないのがほとんどだ。


 それなら、このジロウにも、どこかに連合の船団がいるのだろうか。いや、それなら現地の生き物であるむぃと接触している地球人らしき俺がAIに見つからないはずがない。

 いや、でも俺はすぐにシェルターに連れられて、上空からなら見落としてもおかしくない

 でも、……


 ぐるぐると考えがワルツを踊り、自分が何を考えているのかわからなくなる。ドールは小さなパックの水を飲み干して、ため息をついた。ブールは読みつかれて眠っている。ネールはどこからか本を持ってきて読んでいる。一生懸命に読み漁っているように見えるがドールにはそう見えるというだけである。




 いくつかの本を拝借し、用意しておいた大きなリュックサックに入れて、一人と二体は一度図書館から帰ることにした。ドールは、支度をして両方のシェルターを調べることを提案した。


「俺ももっと思い出せるかもしれないし、それがなくても、いろいろ分かるかもしれないだろう?」


 ちゃっかり関係ない絵本をいくつか突っ込んだネールに呆れながら、ドールは満杯のリュックサックに手をかけた。

 わからないなら、手近なところから調べたらいい。ドールは思いながら、先導するネールを追いかけるようにやや早い足取りで進んでいく。

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