reme(夢)
ドールは夢を見た。もちろん、見ている間には気づくはずもなかったが、意識がぼんやりと、一度境を失って、もう一度はっきりしたその時、彼は出来事がただの夢だったことを悲しんだ。
* * * * *
図書館の中、娘も息子もどんどん好きなほうに進んでしまって、文字通りあっという間に姿が見えなくなった。俺は苦笑しながら、妻を見る。妻は子どもたちに目をやっていて、俺のほうは確認とばかりにさっと目を動かしたきり、見てくれない。
適当にぶらついて、小説を適当につまんでいると、いつのまにか娘が足元に来ていた。
「パパぁ、今日はこれ借りてもいい?」
両腕でしっかりと抱えた本は絵本と図鑑だ。息子はカートゥーンばかりを好むし、この子はまだ文字が少ししか読めない。
おお、いいぞ。俺は娘の頭をくしゃっと大きく撫でてやる。娘は一生懸命早足して、カウンターの列に並ぶ妻のもとへ向かう。
俺も妻も息子も本はあまり読まない。しかし、娘はまだこんな内から、絵や字を必死に吸収しようとしている。
一度だけ使った、日本の図書館のように、一人で一〇冊とか二〇冊とか限定されているほうが俺たちにはよかったのかもしれない。息子は読まないくせにどうしても一〇冊借りると言ってうろうろ歩き回っているらしい。俺は息子を探しながら、適当な本を二、三冊手に取って、妻と別にカウンターに並んだ。息子は見当たらなかった。帰るぎりぎりにやっと見つけて、俺は眠くなってしまった。しばらく、図書館の壁際で椅子に座っているうちに眠ってしまって、妻に怒られたことは何度かある。
あれ、妻って誰だっけ。子どもたちも、見覚えがない。本当に俺は、彼らの言うパパなのか……?
めまいを起こした人のように、なんども瞬きをして、視界を確かめる。妻は気にする様子はない。
「あなた。今日は何を食べましょうか。そうそう、隣町に、ちゃんとしたジャパニーズ・スシを出してくれるお店ができたそうよ。とくになければ、そこにしようかしらねえ」
ああ、テレビでやっていた、日本から上陸した回転ずしという形式のスシレストランだ。スシが回る、と言葉だけ聞くと意味が分からなかったが、『回っている』ところを見ると、なるほど、と思う。映像では、東海岸のどこかや、東京の家族の様子が紹介されていた。
「俺も行ってみたくなってきたなあ」
俺が言うと、妻はいつもと違う出口へ車を走らせて、弾んだ声で「出発」と合図した。子どもたちもそれに続く。
俺は……
* * * * *
ドールは目を覚ますときに、はっ、と声が出た。それでブールが振り返り、ドールの頭を撫でた。
「怖いこと あった?」
「違うんだ、違う……だけど、少し、怖かったかもしれない。」
ブールに涙をぬぐわれて、ドールは余計に涙をこぼした。
「こわくないのに こわいの?」
「家族と暮らしている夢だったんだ。細かいことは覚えてないけど、一緒に図書館に行った夢。でも、俺は家族のことを忘れちまってるから、夢に出てきた妻や子どもたちが今どうなっているのかわからないし、それ以上に、本当に俺の家族の夢なのかもわからないことが、怖いんだ。」
さあ、次の資料を探そう。ドールはそういって席を立ち、資料室へ向かった。
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