第9話 訪問者つづき
翌日。護衛艦「かが」
甲高い飛翔音が響き、五機のTフォースのジェット推進のオスプレイが接近。着陸して順番にエレベーターで格納庫で格納される。
ミーティングルームに入ってくるミゲルやアマデア達。
「集まったわね」
佐久間は名簿を見ながら言う。名簿には船名と一緒に本名も書かれているがもっぱら船名で呼ばれる。
「翔太。僕は彼らから杖とナイフをもらった。形状が変化する」
ランディとパオリは装飾が施された短剣と杖を見せた。
「僕とランディに反応する」
パオリが首をかしげる。
「饕餮の弱点である磁石をもらった」
セブンシーズマリナーがバスケットボール位の大きさの岩を見せた。表面がキラキラ光っている。
「リンガムやオルビスが言うには地球外の鉱物で構成されているみたいよ」
ドゥロス・フォスが書類を見せた。
「饕餮も大昔の中国の伝説によれば流星と一緒にやってきたとあるから磁石岩が地球外の鉱物であっても不思議ではないわ」
資料を見ながら言うケイン。
「月に照らすと変化が起こるのか?」
ミレニアムがわりこむ。
「だからそれを証明するために来てもらったの」
佐久間は答えた。
部屋に入ってくる本田艦長。
「何かあったのですか?」
翔太がたずねた。
「米軍で動きがあり、彼らの宇宙船への攻撃が計画されている・・・というより命令をアメリカ政府は出そうとしている」
難しい顔をする本田艦長。
「そんなバカな」
声をそろえる三神達。
「彼らが本当に情報提供に来ているのか懐疑的なのだろう」
本田艦長は腕を組む。
「地球の武器では彼らのシールドに穴すら開かない」
ライがわりこむ。
「彼らは情報、技術提供と引き換えに月夜の花を持って帰ろうとしている。海ほたるにいた米軍の司令官は懐疑的で本気で攻撃を考えている連中だった」
イスラが言う。
「アイリス達はあのロクでもないジジイの命令があれば攻撃する。サブ・サンでもあのシールドを開ける事は不可能だし、カメレオン達は静観している」
指摘するケイン。
あのシールドはサブ・サン達の技術を超えているし、穴は開かない。たぶんカメレオンの光線でも穴は開かない。だから何もしてこないが偵察兵や情報収集艦はどこかにいるだろう。
「それは僕もそう思う。時空武器を造った未来人の技術をはるかに越えている」
翔太が助け舟を出す。
「米軍の方は俺達がなんとか説得する」
間村がわりこむ。
「なんとかできるの?」
ケインが聞いた。
「聞くような連中ではないけどなんとかするしかない」
間村が答えた。
「こちら日本海の烏来とペク」
スクリーンごしにペク、キム、李鵜と烏来が映った。
「どうした?」
本田艦長が聞いた。
「韓国政府はどうやら臨時基地を引き上げて攻撃を命令するつもりでいる」
ペクが困った顔で言う。
「ロシアと日本はアメリカと韓国政府を説得しているけどあまり時間がなさそうよ」
リドリーがわりこむ。
「こっちの方は我々がなんとかする」
ミゲルの父であるファタファがわりこむ。
「こちらは昼間でもアメリカの方はまだ夜で月も出ている。一緒に行く?」
誘うケイン。
「いいよ。行こう」
翔太と三神が声をそろえる。
嫌そうな顔の客船のミュータント達。
「福竜丸。椎名さんと稲垣君と一緒に支部に戻ってくれる」
佐久間が聞いた。
「新木場までロイヤルウイング達に頼むからいいよ」
福竜丸がうなづいた。
数時間後。東京湾
二隻の沿岸戦闘艦がレストラン船としゅんせつ船に接近した。四隻とも船橋の窓に二つの光が灯っている。
「そこのレストラン船」
レジーが声をかけた。
「船名を言えよ」
ムッとする長島。
「ロイヤルウイングと清龍丸」
レイスが答えた。
「言えるじゃん」
夜庭がしれっと言う。
「木造漁船と二人の未成年を乗せてどこに行くんだよ」
レジーが聞いた。
「新木場に福竜丸と届けて二人を大桟橋に降ろすに決まっている」
長島が答える。
「飛鳥ⅡとOE2とあの少年達がいない。どこに行ったのか聞いてないか?」
レイスが声を低めた。
「僕達は何も聞いていないし、家に帰るだけだから後は知らない」
船橋ウイングに出てくる椎名と稲垣。
「どこに行ったのか知っているだろ」
レジーが艦首砲を向ける。
「ここで撃つつもりですか?」
椎名が聞いた。
「撃つわけない。海ほたるや「かが」にいないから探している」
当然のように言うレイス。
「僕は知らないし、記憶障害があるから覚えてない。自分達で探せば?」
福竜丸がわざと言う。
「そうするさ」
レジーとレイスは離れた。
海ほたる臨時基地
自衛隊側の野戦テントに入るアイリスとクリス。
撤収が始まっているのか自衛官達が忙しく行き交っている。
「ねえ佐久間知らない?それとあの少年とケインとイスラがいない」
アイリスが口を開いた。
「さあ?俺達は聞いてない」
間村と霧島は答えた。
「政府から撤収命令が来ているから片付けている。仙人掌博士はヘリコプターに乗って帰ったよ」
当然のように言う室戸。
「任務が終ったからだろ。レストラン船としゅんせつ船は漁船と二人の未成年を送り迎えをしている」
クリスが声を低める。
「ちゃんと監視しているじゃないか」
感心する間村。
「おまえの所の最高司令官はあの宇宙船を攻撃をしようとしているんだろ。それは無理だね。技術が違いすぎる。地球にある科学技術では穴すら開かない」
霧島が書類を箱詰めしながら言う。
「だからケインのバリアを壊す能力がいるのよ」
当然のように言うアイリス。
「運次第だね。うまくいくかわからないしもしかしたらもあるかもな。でも手を組んだ方がおこぼれをもらえる場合もある」
間村はチッチッと指を揺らす。
「俺達は妥協をした。それだけ。あのジジイじゃそれは無理か」
少しバカにする室戸と霧島。
歯切りするアイリスとクリス。
「あいつらがどこにいるか探せば?俺達は片付けに忙しいし、スパイ客船に頼むか?」
バカにする間村。
「あんた達だって客船に頼んでいるでしょうが」
声を強めるアイリス。
「俺達は協力してもらっているだけ。支援船になってくれなんて言ってない」
しゃらっと言う霧島。
「スパイ客船の他に賞金稼ぎ姉妹がいるんだろ。そいつらに頼めば?といっても頼んでいるだろうし」
わざとらしく言う室戸と霧島。
「衛星がそれらしき影を見つけたからそこへ行くぞ」
クリスが携帯メールを見せる。
「行くわよ」
アイリスは言った。
苺色の月がサンゴ礁を照らし出した。
日本とここは時差が一時間違う。従って日本より進んでいる。
「よかったでしょ。グレートバリアリームに来て」
調査船の上でケインは笑う。
うなづく翔太、ミゲル、智仁。
自分達が乗っているのはフランスの調査船ボヌール。南太平洋のカメレオンの巣となった海域の調査をした船である。あの時は科学者がいっぱいいたが今回はフランス人の乗員だけである。
「あなたにしてはいい案だった」
佐久間が感心する。
「私だって時差くらいわかる。妹とアマデア達には囮になってもらったからね」
ニヤニヤするケイン。
「断られたから私が頼んだ」
しゃらっと言う佐久間。
地図と手帳を出すミゲルと智仁。
苺色の月の光りに照らされて真っ白だった手帳と地図に文字や図形が浮かび上がる。
それを携帯やカメラで写真を撮る翔太とイスラと佐久間。
ランディとパオリが持っている杖とナイフの柄の宝石が苺色の月の光を浴びて紫色に輝いている。
「この短剣もあの月の光に反応している。リヤド博物館にあったのを借りた」
ミゲルはつぶやく。
「僕のは正倉院から借りてきた。「月読命の鏡」月の光に反応する」
装飾の施された鏡を出す智仁。
「どっちもいろんなものが伝わっているね」
感心する翔太とランディ。
「苺色の月の光の時にもらった時空関連の武器とアイテムを使うらしいわ」
佐久間が手帳を読みながら指示を出す。
翔太、ミゲル、智仁、ランディ、パオリは持っていた剣や杖、鏡を頭上に掲げた。
ハート型の環礁が紫色に輝き出し、真ん中の砂地からひし形の赤い石が飛び出す。大きさは五十センチ位である。赤く光る岩は甲板にフワフワ着地する。
「次はどこに行く?」
三神と朝倉が身を乗り出す。
「東に五十キロの海域に進む」
佐久間は翻訳しながら指示を出す。
調査船はサンゴ礁を離れた。しばらくするとグレートバリアリーフを抜ける。
「不審船が接近」
アレックスが割り込む。
「誰が不審船よ」
九時の方向から接近する二隻の大型客船。
「誰?」
三神と朝倉が声をそろえる。
「三代目クイーン・エリザベスとクイーン・ヴィクトリアよ。融合しているのはマチュアとカチュア」
ケインが答えた。
月明かりに照らされる二隻の大型客船。船名は「クイーン・エリザベス」「クイーン・ヴィクトリア」と書かれている。
二隻ともキュナードラインが所有する客船である。もう一隻「クイーン・メリー2」がいるがそれは普通の客船である。イギリスで格式が高く優雅な船旅を提供していた。
二隻とも全長二九四メートル。九万総トン。
三神、朝倉、アレックスが海に飛び込み、巡視船に変身した。
「ねえ。私達も入れてよ」
マチュアが声をかけた。
「アメリカ沿岸警備隊と海上保安庁が何をしているの?イージス艦と空母を連れて」
カチュアがクスクス笑う。
「我々は任務中だ。この海域から出て行ってもらう」
アレックスは英語で注意をする。
「私も月の光に反応する杖を持っている」
声を低めるマチュア。
カチュアとマチュアは船体から二対の錨を出した。せつな、廃油が船体にかかった。
「え?」
飛鳥ⅡとQE2は船体からドラム缶を出して廃油をカチュアとマチュアにぶっかけた。
「何をするのよ!!」
船橋の二つの光を吊り上げる二隻。
無言で錨で殴るQE2のイスラ。
飛鳥Ⅱはアンテナを何個か引き抜いた。
体当たりするセレブレティ・ミレニアムとサミット。
大きく揺れる二隻。
「天ぷらの香ばしい匂いがする」
朝倉が気づいた。
「ぶっかけたのは天ぷらの廃油よ。都内のそば屋で譲ってもらった」
自慢げに言う飛鳥Ⅱ
「よくそんなのを持ってきたな」
感心するアレックス。
「一〇時の方向を撃って」
イスラがわりこむ。
アレックスはミサイルを発射。ミサイルはその方向に正確に命中した。
空間にヒビが入り揺らぐと大型客船が姿を現した。
「ジョコンダと仲がよかった客船だ」
三神と朝倉が声をそろえる。
「また会ったわね」
ヴァーゴは接近した。
飛鳥Ⅱはドラム缶の廃油をぶっかけた。
「臭い・・・」
思わず匂いをかぐヴァーゴ。
イスラの体当たり。
大きく揺れるヴァーゴ。
「ちょっとぉ!!財布とパスポートを取ったわね」
マチュア、カチュア、ヴァーゴは声をそろえた。
「ちょっと借りただけ」
しれっと言うイスラ。
「調査船と巡視船がいない!!」
マチュアが叫んだ。
「ミニマム」
飛鳥Ⅱは呪文を唱えた。力ある言葉に応えて三隻は全長一メートルサイズになった。
「これどうする?」
ミレニアムが聞いた。
「ほっとけば。どうせ呪文は使えない」
イスラが答えた。
翔太達を乗せた調査船は地図が指し示す海域に進んだ。GPSや衛星画像では何もない場所である。
「多数の艦影が接近。米軍よ。それもミュータントばかり」
佐久間が報告する。彼女とマリアンヌは海に飛び込むと緑色の蛍光に包まれイージス艦と空母に変身した。
「やっと追いついた」
前に出てくる空母サラトガ。強襲艦エセックスや沿岸戦闘艦の二隻もいる。
「アイリス。あんたがあのバカな三隻の客船をよこしたの?」
挑発する飛鳥Ⅱ
「本当に役に立たないわね」
イスラがクスクス笑う。
「あのホラ吹き大統領の命令で追いかけてきた?」
マリアンヌが声を低める。
「だから有効利用するんだ」
サラトガが答える。
「アイリス。あんたの相棒はバカばっかりね。相棒を変えたら?」
飛鳥Ⅱがしゃらっと言う。
「ねえ、ランディとパオリなんだけど米軍に来ない?」
アイリスが錨で指さす。
「なんでパオリとランディ?」
イスラと三神が声をそろえる。
「有効利用さ。その農薬散布機は時空アイテムが使える。そしてアルビノの客船にはモノマネ能力がある。その能力があればシールドを破壊できる」
自慢げに言うサラトガ。
「たぶん飛鳥Ⅱの能力をコピーしても彼らのシールドは敗れないよ。でも僕は協力する気はないね」
あっさり断るパオリ。
「あんなのといたらロクな事はないわ。入隊すれば優遇するしアルビノ狩りやミュータント狩りだって追い払えるし実戦的な事も教えられる」
誘うアイリス。
「さんざん使ったら捨てるに決まっている」
ミレニアムがわりこんだ。
「少しは黙りなさいよ。自分のルーツがわかるかもと言っている」
アイリスが声を低める。
「パオリ、ランディ聞くな。どうせはったりだ」
アレックスが声を荒げる。
「アイリス。私とイスラは誘わないの?」
飛鳥Ⅱが聞いた。
「誘わない。制御装置を使わないと言う事を聞くようにできてないからね」
はっきり答えるアイリス。
三神と朝倉、アレックスは身構える。
「逃がさないさ」
レジーがにじり寄る。
「あいつらは生け捕りでシールドに穴を開けてもらうのさ」
レイスは艦首を調査船に向けた。
「アルビノの客船と散布機とあの少年達を捕まえるんだ」
サラトガは二対の錨を船体から出した。
艦内エレベーターがせり上がって五〇機の艦載機が飛び出す。
イスラは船内から煙玉を一〇個投げた。周囲を濃密な煙が包む。
サラトガの体当たり。イスラが変身するQE2は大きく揺れた。
濃密な煙から飛び出すアルタニア、イージス艦「あしがら」と飛鳥Ⅱ
三神、朝倉、アレックスは機関砲を連射しながら米軍の艦船の間隙を縫うように走る。
ヒンディ語で詠唱する声が聞こえて闇色の球体が艦載機の機体にまとわりついて海に落ちていく。空母に変身したアッシュは六対の鎖で落ちた艦載機を拾っていく。
マリアンヌが変身した空母に体当たりするアイリス。
「邪魔よ」
アイリスは機関砲を連射。
「あんたこそ客船をそんなに追い回してどうするの」
マリアンヌはフランス語で挑発した。
「重要な物を持っているからに決まっている。それだけ」
アイリスはミサイルを発射。正確にフランスの空母に命中した。
体当たりして艦船を押しのけるミレニアムとサミット。
佐久間は複数のミサイルを発射。サラトガやそばにいた艦船に命中した。
イスラはそこにいた米軍のイージス艦のマストをつかむ。
「放せ!!」
もがくくだんのイージス艦。
「私とデートしよ」
イスラがささやく。怪しく輝く二つの光。せつな、船体から氷の柱がいくつも生えて芯まで凍りついた。
レイスとレジーはミサイルを発射。
飛鳥Ⅱは四対の鎖の先端から小さな魔法陣を出した。ミサイルはすべてそのシールドの手前で爆発した。
接近してくる三隻の大型客船。クイーン・エリザベス、ヴィクトリアとヴァーゴである。
「もう元に戻ったんだ」
朝倉があっと声を上げる。
「そんなの当たり前よ」
ドスの利いた声のマチュア。
ヴァーゴは六対の鎖を出して身構える。
「あの構えは」
三神はふと思い出す。金流芯が使う技に似ている。ななめ四十五度の角度で構えると片側の鎖の動きがわかりづらい。
ヴァーゴが動いた。
三神は大きな水柱を何度もかわす。炎の槍や氷の槍をジグザグに動きながらかわした。
相手は大型客船である。あの大きさで金流芯のようには動けない。ならこっちのもの。
三神が動いた。その動きはヴァーゴやマチュア、カチュアには見えなかった。気がついたら船体に大きな傷口がいくつも開いていた。
ポルトガル語で叫びながらミレニアムはヴァーゴ、マチュア、カチュアの船体を二つの錨でなぎ払う。
サミットは三隻のスクリューをもぎとった。
「痛い・・・」
マチュアとカチュアが声をそろえる。
サミットは二つの錨で二隻を殴った。
ヴァーゴが身構えた。
三神とヴァーゴが同時に動いた。三神は彼女の錨と鎖をかわして船体を何度もえぐる。
ミレニアムは二つの錨でエンジンを何度もえぐった。
ヴァーゴは叫び声を上げてよろける。
アレックスはミサイルを発射。マチュアとカチュアに命中した。
朝倉はいくつもの泡を傷口へ投げた。エンジン部や機器に命中して火花が散った。
その脇を走る調査船とアルタニア
「サイレス」
飛鳥Ⅱは呪文を唱えた。力ある言葉に応えて三隻の客船の魔術を封じた。
イスラは円盤状の機械を三十個づつ三隻の船体にくっつける。
「取れない」
マチュアとカチュアは六対の鎖を出して制御装置を取ろうともがく。しかし強力な磁石で外れない。おまけにエンジンや重要な機器に接続ができなかった。
イスラはレジーとレイスのマストをつかむんだ。
「放せ!!」
もがくレジーとレイス。
「今度デートしてあげる」
イスラはささやき、紫色に二つの光が輝くと二隻は芯まで凍った。
アイリスはアルタニアに接近する。
「逃がさない・・・」
アイリスは最後までしゃべれなかった。飛鳥Ⅱに体当たりされたからである。大きく揺れる強襲艦。
アルタニアと調査船は島に接近する。陽炎のように二隻の姿が消えた。
ミサイルを発射するアイリス。
しかし目標が定まらないのかあさっての方向へ飛んで行く。
「作戦は成功ね」
自慢げに言う飛鳥Ⅱ
「あの島はあの子達と月の光に反応する時空アイテムに反応して現われた」
佐久間がわりこむ。
「ジョコンダやスレイグの物にならなくて残念ね」
イスラがわりこんだ。
小さな桟橋に上陸する翔太、ミゲル、智仁、ランディ。
元のミュータントに戻るパオリ。
岩だらけの島で雑草もなく荒涼した場所に教会のような建物がある。外観は教会だが屋根やステンドグラス、キリスト像やマリア像がない。
祭壇にある十字架の真ん中に穴がある。
ランディは赤い石をはめた。重々しい音とともに祭壇の蓋が開いた。そこに一メートル位のスズランが咲いている。白い花ではなくてパステルカーの七色の花だ。それが二本咲いていた。
スコップで根っこを傷つけないように五人は掘り出し、植木鉢に移した。
小さいスズランが二つ隣りに咲いている。白い花ではなくパステルカラーだ。それも植木鉢に移した。
「空に穴が開いた」
ミゲルが指をさした。
「時空の障壁がなくなったんだ。ここは必要なくなったから消える」
翔太は口を開く。
なぜそう思ったのかわからないがここはこの花のために存在する。
「船に戻ろう」
島を囲んでいた陽炎が消えて島も幻のように消えていく。島がなくなった場所に調査船がいた。
接近するサラトガ、アイリス、レジー、レイス。この四隻に他にマチュア、カチュアとヴァーゴだけ。他の艦船がいない。
「ケインさんや三神さんは?」
船橋ウイングから出てくる翔太。
「ここよ」
マチュアは八対の鎖を出した。
いくつもの大型犬のケージに全長一メートルの模型が入っている。よく見ると空母ヴィラートやシャルル・ドゴールや巡視船三隻が入っている。
「油断した・・・」
ため息をつく三神と朝倉。
カチュアやアイリスも同様のケージを持っている。その中にイージス艦「あしがら」やミレニアム、サミット達が入っていた。
「うるさい奴らは片付いた。取引しない?」
アイリスは口を開いた。
ミレニアムとサミットはポルトガル語、スペイン語で叫びながらゲージの中でもがいた。
レジーはゲージに入った模型を見せる。よく見ると飛鳥ⅡとQE2のイスラだ。
「自分で何を言っているのかわかってますか?」
翔太は眼を吊り上げる。
「有益な取引だよ」
割り込んでくる別の艦船。
誰だか知っている。地中海で自分達を追いかけてきた駆逐艦エイラート、ロマット、ヘッツである。イスラエル軍所属の艦船である。
「何が取引よ!!脅迫でしょ」
模型にされた飛鳥Ⅱとイスラが叫ぶ。
「翔太。彼らから子機をもらったんだ」
ささやくミゲル。
「子機?」
翔太は船橋内に入った。
「これは彼らの無線のような物らしい。本当かどうかわからないけど」
小さな曼荼羅図が描かれたリモコンを見せながら困惑するミゲル。
「スイッチを押すの?」
ランディとパオリ。
「使い方は無線と同じと言っていたから」
ミゲルはつぶやく。
「やってみて。僕達だけじゃあの人達を元に戻せない」
智仁がうなづく。
翔太は船橋の窓からのぞく。
どの道、彼らは自分達を捕まえてまた基地に連れて行く。この調査船の乗員達も留置場に入れてしまうだろう。
「時空の花・・回収完了」
ミゲルはアラブ語で報告した。
「生け捕りだ!!」
サラトガが叫んだ。
空母の甲板に五〇人の米軍兵士が整列している。兵士達はイージス艦や駆逐艦に変身していたミュータント達だ。
乗員達に指示を出しているフランス人船長。
するとどこからともなく雷鳴が轟き、暗雲がたちこめ、強風が吹いた。
「なんだ?」
どよめくロマット達。
濃密なもやの中から円形の物体がぬうっと現われた。
「あれは東京湾の物体だ」
あっと声を上げる翔太。
可塑性があって磁性流体のようにトゲがたくさん出ている。
ヘブライ語や英語、フランス語が飛び交う中に出現した物体から黄金色の光線が調査船に注ぐ。
エイラートやロマット、ヘッジ、レイス、レジーはミサイルを発射。しかし宇宙船の手前ですべて爆発した。
「全員、耳を塞いで」
佐久間は無線ごしに警告した。
飛鳥Ⅱやアッシュ達は耳をふさぐしぐさをした。
宇宙船から光るボールが飛び出す。海に着弾した。せつな閃光とともに衝撃波が飛び出した。
そこにいた三隻の客船のガラスというガラスが全部割れ、アイリス達のマストが全部折れて機器が全部ショートした。
くぐくもった声を上げるエイラート達。
大型犬のケージが壊れて飛び出す三神達。
光線に引き寄せられる翔太、ミゲル、智仁、ランディ、パオリ。
「走行不能。全部の機器破損」
よろけるサラトガとアイリス。
「耳をやられた」
マチュアとカチュアは舌打ちをする。
「走行不能」
ヴァーゴがつぶやく。
「やられた・・・」
エイラート達はよろけた。
翔太達五人は宇宙船の艦橋にいた。そこは白いもやがかかっており空気はあるようだ。
濃密なもやからぬうっと現われる身長が四メートルある二人の異星人。東京湾で交渉していたフォーアイズの二人で、コルテスとバージルである。あくまでも自分達が呼びやすいようにつけた名前で本名ではない。
「時空の花を回収しました」
パオリは大きな植木鉢を差し出す。
植木鉢には二つのパステルカラーのスズランと小さなスズランがある。あの祭壇の中に小さなスズランが二つあったからついでに持ってきたのだ。
見下ろしていたコルテスとバージルは片膝をついた。それでも二メートルある。よく見るとヘルメットはかぶっていないが環境宇宙服は着用している。
「あなた方、地球人には感謝している」
「あなた方に我々の世界は救われた」
二人の声は日本語、英語、アラブ語で五人にしっかり聞こえた。
「これは持っていっていい」
コップに二つの小さなスズランを移した。
「三百六十年後にこの世界は危機がおとづれる。しかし我々はその恩を返しにあなた方と協力する」
太い声でうなづく二人の異星人。
「ありがとうございます」
翔太は深くうなづくとコップに入った小さなスズランを受け取った。
五人の周囲がもやに包まれ気がつくと調査船の艦橋にいた。
宇宙船は濃密なもやに包まれ消えていく。
「葛城さん。世界中にいた宇宙船が消えたそうだ」
フランス人船長が報告する。彼はタブレットPCを見せた。
ニュース番組に消えていく宇宙船が映っていた。
「元の生活に戻ったね」
パオリがつぶやく。
「翔太、智仁、ランディ、パオリ。リヤドに来たら観光名所を案内するよ」
ミゲルは顔をほころばせる。
「もちろん。おススメの料理を教える」
翔太、智仁は破顔して握手をする。
「ランディ。予選レースがあったら招待するし、ご飯もおごる」
ミゲルは肩をたたく。
「ありがとう」
ランディはうなづいた。
翔太は船橋ウイングに出た。
「海上保安庁としては動けない船舶は最寄の港に曳航する」
元の大きさに戻った巡視船「こうや」「あそ」は接近した。
「困ってないね!」
怒りをぶつけるエイラートとサラトガ。
「元に戻れた」
声をはずませるミレニアムとサミット。
「そのエンジンと機関部は一ヶ月は治らないしドック入りね」
マリアンヌと佐久間は損傷部を見ながらはっきり言う。
「インド政府に報告しないと」
アッシュはつぶやく。
「ねえ・・イスラ。私を港に引っ張ってよ」
懇願するマチュアとカチュア。
「やだ」
きっぱり断る飛鳥Ⅱとイスラ。
「誰かエネルギーを分けてよ」
ヴァーゴが懇願する。
「やだね」
ミレニアムとサミットが断る。
「ここに放り出してもいいけど航路の邪魔になる。港に引っ張るだけでいい」
アレックスがわりこむ。
「武士の情けで港には引っ張れる。修理ドックは自分で行ってくれないか」
三神は強い口調で言う。
黙ってしまうアイリス達。
「港までは引っ張る」
渋々返事をする飛鳥Ⅱとイスラ。
「廃船置場に捨てられないだけマシだ」
ミレニアムは言い捨てるとロープをマチュアに引っ掛ける。
「サラトガ。アイリスとエイラート。カメレオンの餌食になるか置き去りかどっちがいいんだよ」
アッシュがすごんだ。
「よくないに決まっている。次の作戦があるんだからそこの海域に向かう」
言い切るサラトガ。
「シドニー港に米軍の修理部隊とイスラエルとアメリカ大使館員が来ている」
マリアンヌが報告する。
黙ってしまうサラトガ達。
ヘブライ語で舌打ちするエイラート達。
「エネルギーをわけてくれないの?」
アイリスが聞いた。
「捨てられないだけいいと思いなさいよ」
そう言うと飛鳥Ⅱはロープを出した。
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