第8話 訪問者
Tフォースシドニー支部
地図と海図をのぞくケインとイスラ。
「月夜の花を探すのはいいよ。サラトガやヴァーゴに波王が出没するとなると探しづらいな」
三神がグレートバリアリーフの地図を見ながら口を開く。
「ヴァーゴを引き離せないかな」
翔太が口をはさむ。
「ジョコンダと組んでいたあの中国客船だろ。また遭遇したら呼ぶかも。今度は中国艦隊を連れてきそうだ」
朝倉が地図を見ながら言う。
智仁やミゲル、ランディ、パオリは琥珀球を眺め、福竜丸は古文書を見ていた。
「ミレニアム達は?」
翔太が聞いた。
「そこの桟橋で釣りしているよ」
答えるパオリ。
「間村さんや沢本さんがいないですね」
智仁が気づいた。
朝から見ないし、マリアンヌ達もいない。
ドアが開いて部屋に入ってくる背広の男女。一人はアラブ人で二人目は日本人である。
「なんですか?」
振り向く翔太達。
「日本大使館の者です」
「サウジアラビア大使館です」
大使館員が名乗った。
部屋に飛び込んでくる初老の男性。
「黒沢さん?」
翔太が気づいた。
「智仁さま。テレビをつけてください」
荒い息で指示を出す黒沢執事。
ケインはTVをつけた。
「・・・日本時間一〇時頃。東京湾に謎の球体が出現しました。物体は直径二〇〇メートルです。その一時間前に昭和基地から日本政府に南極点上空に時空の亀裂が出現の報告があり、そこから侵入したと思われます。同じような物体は北極海、地中海、バルト海、カリブ海、サハラ砂漠、ルブアルハリ砂漠、カナダ沖、太平洋、大西洋、日本海、南太平洋、インド洋に出現。形は違いがありますが同じ物体だと思われます」
女性キャスターは報告した。場所は東京湾アクアラインの海ほたるからで、そこから黒色の球体が見えた。
イスラは画面を切り替える。
どこかの砂漠に現われた黒色のひし形の物体が映っている。別の番組では南太平洋に現われた立方体が映っていた。
唐突に警報が鳴った。
部屋に飛び込んでくるミレニアム達。
「沿岸警備隊チームの召集メールだ」
三神と朝倉は携帯メールをのぞく。
「だからオルビス達もいなかったんだ」
納得する翔太。
部屋に入ってくる佐久間。
「司令室に来て。全員よ」
司令室。
部屋に入ると沿岸警備隊チームと特命チームメンバーが顔をそろえていた。正面スクリーンが六分割されて世界中に現われた物体が映し出されている。
スクリーンの前にレナ、タリク、トリップ議員がいた。
「お父さんは?」
翔太が聞いた。
「葛城長官は国連本部だ」
タリクが答えた。
「今からあなた方はそれぞれの地域に別れてもらうわ」
レナ議員は口を開いた。
「なんで?」
ケインと三神がたずねた。
「謎の物体は十三の地域に出現した。いずれも太平洋、大西洋、インド洋、サハラ砂漠といったいくつもの国や地域をまたがった場所に現われた。そこの地域はいくつもの国が領有権を主張していたり国境をまたがって出現している。これにより共同でエイリアンと接触を図ろうとしている」
レナ議員は答えた。
「ええええ!!」
驚きの声を上げるケイン達。
「そんな悠長な事を言っていいのですか?」
三神がたずねた。
「彼らが本気で侵略する気ならとっくに我は攻撃を受けている」
タリクが答える。
「十三個の物体は可塑性を持つ宇宙船と思われ、時空の亀裂を通過しているのを見ると高度な科学力を持つ時空船だ」
トリップは腕を組む。
「サブ・サン同様の科学力を持つかそれよりも勝っていると思われる。そして電波妨害や有害物質が出ているという報告もない」
レナが報告する。
「接触ってどうやって?」
ケインが聞いた。
「出入口らしい穴が開く時がある。そこへ侵入する」
タリクが指揮棒で指さした。
「本気ですか?」
三神と朝倉が声をそろえる。
「防護服を着て言語学者と一緒に侵入する。彼らが何を求めて来たのか聞くのが任務だ」
トリップが困った顔をする。
「エイリアンと俺達の言語はまったくちがうだろうしどうやって探る?」
黙っていたアレックスが口を開く。
「使っている言語は何か探るのが最初の作業になる」
レナが答える。
「サブ・サンやカメレオンの仲間だったらどうする?ワナかも」
ケインが怪しむ。
「サブ・サンの仲間ならわざわざ十三隻の宇宙船を送ってこない。カメレオンの仲間でもなさそうよ。アーランが言うにはカメレオンは集団でやってきて効率よくカウントして攻撃をする。またはスズメバチのようにやってくるのがやり方よ。それともちがう」
レナがはっきり指摘する。
「それにサブ・サンはタイムラインをほぼ使って動けないし行動もしていない」
トリップが声を低める。
「攻撃した方が早くない」
イスラがじれったく言う。
「核ミサイルで吹き飛ばす」
イライラをぶつけるケイン。
「あんたはバカ?」
あきれかえるマリアンヌ。
「バカってなによ」
ムッとするイスラとケイン。
「東京湾で使うのか?彼らがいる地域は国境や重要な航路や要衝になっている」
マリアンヌがあきれかえる。
「威力偵察して相手の出方をみるべき」
ミレニアムがわりこむ。
「今、攻撃して撃墜すべき」
フォーチュナがイタリア語でわりこむ。
「ICBMで吹き飛ばす」
クラウンがわりこむ。
「却下」
ピョートルがしゃらっと言う。
ため息をつくランディとパオリ。
あきれ顔の巡視船のミュータント達。
それぞれの言語で詰め寄る客船のミュータント達。
ヒンディ語で一喝するアッシュ。
黙ってしまう客船のミュータント達。
「だから様子を見て相手が何の目的で地球にやってきたのかを聞き出すのが目的よ」
レナがあきれた顔で言う。
「僕はお父さんと一緒に砂漠に現われた物体に侵入して何かあったら連絡する」
ミゲルは何か決心したように言う。
「僕もそうするよ」
翔太と智仁はうなづく。
「あなた方は帰国して指示があるまで待機だ」
マリアンヌが言った。
翌日。横浜大桟橋
新聞を見てため息をつく長島、夜庭、にっぽん丸、ふじ丸。
新聞の第一面に
”なぞの物体が十三個出現”
”株価大暴落”
「僕達の仕事はなくなったね」
ふじ丸がつぶやく。
「ハローワーク行かないとダメかも」
さじを投げた医者のように言うにっぽん丸。
「僕達も他の仕事を探そうかな」
求人誌をながめる長島。
「仕事を探しているんだ?」
隣りの席に座る六人の男女。
振り向く長島達。
住吉丸、福寿丸、小林丸、飛鳥丸と見習いハンターの亜紀と雅人である。
「日本海フェリーは欠航。東京湾は航路規制が出ていて羽田空港は全便が欠航。アクアラインとゲートブリッジは通行止め。すでに経済は大打撃だね」
住吉丸が困った顔をする。
「日本海フェリーの「すずらん」から電話で聞いたけど韓国、ロシア、日本で共同で何かやるみたいだよ」
長島が別の新聞を見せた。
「あれ?仕事に行かないの?」
不意に鋭い声が聞こえて振り向く長島達。
見るとカフェに入ってくるイスラとケイン、翔太、智仁、ランディ、パオリ、福竜丸が入ってきた。
「いつ帰ってきたの?」
にっぽん丸と長島が声をそろえる。
「昨日の夜だよ」
翔太が答えた。
「仕事がないの?」
わざと言うケイン。
「当たり前だろ。Jアラートが発動されて周遊クルーズは中止になったし、入港規制と航路規制が出て貨物船とコンテナ船は護衛つきで東京湾を大回りしてやってくる。すでに大打撃だ」
目を吊り上げる長島。
「残念よね。一緒に船会社を捜しに行く?」
ケインがバカにしたように聞いた。
「ちょっと失礼じゃない」
にっぽん丸が目を吊り上げた。
「東南アジアに売却されていい船会社だといいわね」
バカにするイスラ。
「イスラ。警察から逮捕状が出ているよ。僕達が通報すれば警察がやってくる」
ふじ丸はタブレットPCを出した。
「石にしてやるからね」
イスラが詰め寄る。
「僕達はケンカしに来たんじゃない」
翔太がわりこむ。
「なんで氷川丸は山下公園にいないの?」
ケインが指さした。
「彼女は旅客船のミュータント達に説明して回っているんだよ」
夜庭が答えた。
「僕達は東京湾と日本海に出現した物体に接触する」
翔太は新聞の紙面を指さした。
「本当?その客船二隻も連れて行くの?」
長島達が声をそろえる。
「反対よ。大騒ぎしか起こさない」
にっぽん丸が指さした。
「黙りなさいよ。小娘」
ケインは目を吊り上げる。
その時である。ヘリの飛翔音が響いた。
窓から赤レンガ公園を見ると自衛隊のSH
ー60Jヘリコプターと輸送ヘリが着陸するのが見えた。数人の自衛官が降りてきた。
大桟橋に入ってくる間村、室戸、霧島と佐久間。
「行くぞ」
間村は手招きした。
間村達と一緒に出て行く翔太達。
「長島、夜庭。来て。やってもらうことがあるわ」
佐久間が手招きする。
「何を?」
長島と夜庭が聞いた。
「ハッキングは得意でしょ?」
「パソコン修理やプログラミングはできるけど?」
「ハッカーのまね事の仕事よ」
佐久間が答える。
「僕達は?」
雅人達が聞いた。
「待機よ。にっぽん丸。住吉丸。この子達を頼んだわ」
佐久間は答えた。
東京湾に遊弋する護衛艦「ひゅうが」の甲板に着陸するオスプレイ。機外に出てくる翔太、ケイン、イスラと福竜丸。
「すごいね・・・」
福竜丸がつぶやく。
自分達の目の前に直径二〇〇メートルの物体が浮き回転している。可塑性があるのか物体の周囲にトゲが生えていた。
「パオリとランディは日本海にいる護衛艦
「いせ」だよね」
翔太がふと思い出す。
「かが」は日本に着いていない。太平洋に現われた物体はカナダとアメリカの合同調査になる。そして東京湾の物体は日本とアメリカの合同で行う事になった。
艦首側エレベータが降下する。格納庫には自衛官達が忙しく行き交っている。その中に米軍兵士が四人いた。
「あらアイリス。邪魔しに来たの?」
わざと言うケインとイスラ。
「調査に決まっているでしょ。海ほたるに野戦テントがあるからそこで言語学者と一緒にあの物体へ入る事になる」
アイリスは目を吊り上げる。
「もう入るの?」
驚く翔太とケイン。
「当たり前でしょ。私達がテントに案内するわ」
アイリスは呪文を唱えた。青い光に包まれ彼らの姿が消えた。次の瞬間、海ほたるに姿を現した。
「売店は空っぽか」
長島や夜庭はのぞいた。
ショーケースには何も残っていない。従って品物はない。
「業者にその分の損害は払う事でしばらく出払ってもらっているの」
佐久間が答える。
海ほたるには上り線と下り線の駐車場があり両方合わせて四〇〇台収容できる。
上り線の駐車場に自衛隊。下り線の駐車場に米軍の野戦テントがいくつもあり、道路には自衛隊と米軍の車両が忙しく出入していた。
テントに入る翔太達。
「三神さん朝倉さん」
翔太はあっと声を上げる。
「俺達は呼ばれたけど他の連中は警備だ」
戸惑う三神。
「俺の場合は父親が古代文字を研究しているけど魔術関係なんだ。役に立つのかな?」
困惑する朝倉。
「いちよう役に立ちそうだから呼んだ。ケインとイスラの祖父は言語学者で古代文字の研究者だし、福竜丸も記憶がなくなる前は研究者だからね」
当然のように言うアイリス。
「紹介します。慶応大学で言語学者の仙人掌次郎博士です」
稲垣が紹介する。
「え?」
「さぼてんっていう苗字よ」
困惑する椎野。
初老の男性は名刺を見せた。
「本当にさぼてん・・・なんだ」
驚く三神達。
「変わった苗字ですね」
翔太が名刺を見ながら言う。
「よくそう言われます」
困った顔をする仙人掌(さぼてん)教授。
「椎野、稲垣。学校は?」
三神が聞いた。
「授業中に政府関係者が来て銀座のTフォース東京支部に連れてこられたの」
椎野が思い出しながら言う。
「僕も大学で講義中にやってきた」
稲垣が困惑する。
「オルビスとリンガムは?」
翔太が聞いた。
「アメリカとカナダの共同チームに派遣されている」
佐久間が答える。
唐突に警報が鳴った。
「え?何?」
翔太、ケインが見回す。
「あの物体の出入口が開く時間だよ」
稲垣が物体を指さした。
「オルビスやアーランの話だと地球の重力が1だとすると物体の中は0・8Gで酸素は薄い。富士山の八合目と同じ濃度。バリアで仕切られた部屋の向こうは未知の物質で満たされていて地球の大気ともちがう。時空フィールドが形成されていて物体のエイリアンは宇宙服を着用している」
佐久間は物体の内部の見取り図を書きながら説明する。
「つまり、エイリアンはこの世界や地球の大気では生存不可能で時間の流れもちがう」
ケインが鋭い指摘をする。
「そう言う事になるわね」
うなづく佐久間。
「あの物体内部に誰が行くの?」
イスラがわりこむ。
「翔太、ケイン、イスラ、アイリスと私と仙人掌(さぼてん)博士よ。博士と翔太君は防護服を着用であのヘリに乗る」
当然のように言う佐久間。彼女はTフォースの戦闘作業服をケインとイスラに渡した。
六人を乗せたヘリは道路から飛び立つ。物体までは十分である。
身を乗り出す翔太と佐久間。
「向こうから誘導電波が出ています」
パイロットが報告する。
「オルビスやアーランの話だとトラクタービームの一種だそうよ」
佐久間がわりこむ。
相手の作戦なのかわからない。だまし討ちにすることも可能だろう。
ヘリは物体の内部に入った。駐機場らしい場所に着陸する。
「出入口の大きさといい着陸場所もヘリやオスプレイが入るには充分な大きさね」
つぶやくアイリス。
「計算しているわね」
佐久間がうなづく。
機外から降りると長い廊下をすすむ。廊下を出ると広い部屋に出た。体育館ほどの大きさの部屋は半透明なシールドで仕切られている。部屋と廊下は暗褐色の金属で構成されつなぎ目が見当たらなかった。
「武器を持ってこなかったけどいいの?」
ケインが聞いた。
「ここでは武器は無効化されるわ」
佐久間があきれる。
「僕の持っている時空武器もどこまで使えるのかわからないな」
翔太が心配する。
いまのところ時空武器は機能している。相手が友好的であればいいが。
足音が聞こえた。
薄暗いシールドの向こうから近づいてくる。
身長四メートルはあるだろうか。鎧のような宇宙服を来たエイリアンが近づいてくる。
ヘルメットの向こうの顔は四つの眼が不気味に輝き、爬虫類のような肌が見えた。顔は彫りが深く恐竜めいてみえる。
「・・・まさしく生命体だ」
仙人掌博士は絶句した。
二人のエイリアンが何かしゃべっているが発音も声もちがうようだ。
「口唇を読んでいるけどまったくなんの言語かわからない」
イスラが気づいた。
「読唇術が使えたのは初耳ね」
感心するアイリスと佐久間。
「テレパシーのやり方も違うのかも」
困惑する翔太。
進化の過程がちがえば当然、テレパシーのやり方もちがうのかもしれない。それにここの空間には酸素があるが重力が少し軽いだけ。防護服はいらないだろう。
翔太は防護服を脱いでシールドに近づく。
無線を出すアイリス。
佐久間はアイリスの腕をつかむ。
「僕は人間。ここは地球」
身振り手振りで言う翔太。
仙人掌博士も何か決心したように防護服を脱いだ。
「ライト」
ケインは呪文を唱えた。しかし何も起こらなかった。
「魔術が使えないわ」
つぶやくケイン。
困った顔の仙人掌博士が戻ってくる。
「使う言語も発音もだいぶちがう」
「通じているのかわからない」
翔太が首をかしげながら戻ってきた。
「モールス信号や発光信号もダメか」
イスラが首をかしげる。
「文字を見せてみるのは?」
翔太がひらめく。
「光の魔術で文字を映し出す事は可能だけど魔術が使えない」
困った顔をするケイン。
「・・・一回戻るしかないわね」
佐久間が言った。
海ほたるにある野戦陣地。
自衛隊の野戦テントで映像を見ている三神と朝倉達。
「あのシールドの向こうは探知不能よ」
佐久間が肩をすくめる。
「眼が四つあって身長が四メートル近いよ」
身を乗り出す椎野と稲垣。
「皮膚の質感は爬虫類。顔は恐竜っぽい感じ。祖先は恐竜かもね」
仙人掌博士が推測する。彼は紙に恐竜の進化図を簡単な絵で書いた。
「それはありえるかもよ」
翔太や椎野、稲垣がうなづく。
「すげえな・・・」
三神と朝倉が驚く。
「あの物体に近づくとトラクタービームで引っ張られる。そしてあの内部では魔術が使えない」
ケインが画像を見ながら指摘する。
「トラクタービーム?」
聞き返す三神と朝倉。
「エイリアンの使う機器は時空フィールド内だけ使える。サブ・サンが持っている物よりも高度ね」
テントに入ってくるアイリスと佐久間。
「彼らがこの世界にやってきた「目的」を聞くのが俺達の役目だ」
アレックスがテントに入ってくる。
「君ねえ。簡単に言うけど簡単ではないね。少なくとも言葉がわからなければ進まない」
困った顔で腕を組む仙人掌博士。
「確かにそうよね」
ケインがうなづく。
「発光信号やモールス信号を送ったけど使っている機械も機能がちがうみたい」
イスラが気づいた事を言う。
「パオリやフォーチュナ、ミゲル、マリアンヌ達にも聞いてみようよ」
翔太が口を開く。
「司令部フロアに案内する」
アイリスが手招きした。
翔太達は駐車場から上の階のショップモールに入った。普段なら商品が並ぶがそこはNASAにあるようなコンソールやモニターが並んでいる。正面には十三の地域に現われた物体が映し出されている。
「ここなら情報が入るわね」
納得するケインとイスラ。
手前のオペレーターのいるモニターをのぞく三神と朝倉。
「日本海にいる隊長達とつながりますか?」
三神がたずねた。
「それは可能だ」
鋭い声が聞こえて振り向く三神達。
「ここの責任者のオルソン大佐」
アイリスは黒人将校を紹介する。
「米軍関係者ばかりですね」
佐久間が声を低める。
「機密情報を扱うからね」
当然のように答えるオルソン。
「日本海のチームを出して」
オペレーターに声をかける翔太。
オペレーターは画面を切り替える。モニターに智仁、パオリやランディだけでなく沿岸警備隊チームの李鵜、烏来、キム、ペクと沢本が映し出される。彼らの他にミレニアムやサミットもいる。
「そっちはどうですか?」
「僕達は日本、ロシア、韓国と合同でやっているんだけど北のスパイが混じっている」
智仁は周囲を見回す。
「そうなんだ」
うなづく翔太。
たぶんピョートルやリドリーもいるし、護衛の不知火や執事の黒沢さんがいるだろう。
「言語学者の円(まどか)博士とサブロフ博士」
智仁が紹介する。
「そっちは何か進んだ?」
翔太がたずねた。
「まだ進んでない」
首を振る智仁。
「明日、僕達の方は文字を見せようと思っている。それで理解できればいいけど」
翔太は困った顔をする。
「それはいいかも。こっちは韓国とロシアと日本だからどれか一つにしないとね」
智仁がうなづいた。
通信が切れて通常の顔面に戻った。
「ミゲルや地中海、バルト海にいるアマデア達にも聞いたけどエイリアンとのファーストコンタクトをしただけね。本題に進むにはいたってない」
佐久間は報告した。
翌日。昨日と同じメンバーでヘリに乗り宇宙船内部に入った。昨日と違うのは防護服なしでの接触である。接触といっても時空シールドごしだ。エイリアン側に敵意はない事はわかっている。
翔太や仙人掌博士はボードに書いた物を見せる。人間とか地球といった簡単な言葉で日本語である。
「わかるのかな」
ケインがささやいた。
「どうかしらね」
アイリスはつぶやいた。
しばらくするシールドに文字らしいものが浮かび上がる。
「図形?」
イスラと佐久間が声をそろえる。
「なんか曼荼羅図みたいだけど文字と記号できている?」
眼を丸くする翔太と仙人掌。
「象形文字に似ているけどちがうわね」
ケインが首をかしげる。
古代エジプトやメソポタミアにある文字に似ているが完全に違う。
「一歩進んだと言っていいね」
仙人掌はうなづいた。
次の日もエイリアンと接触した。こっちは日本語でのやり取りで向こうは図形や記号が混じった文字のやり取りが何日も続いた。
彼らを「フォーアイズ」と呼ぶ事にした。見たまんまで四つの眼があるからである。彼らにも名前があるが発音不可能で長い名前だから「バージル」「コルテス」になった。
「・・・なんで彼らは俺達と意思の疎通をやろうとしているのだろう?」
三神が未知の文字や記号の羅列をのぞきながらつぶやく。
「なんか言いたいから来たのかも」
福竜丸は図形の半径を定規で測り、他の記号や図形と見比べる。
「他の所も聞いたけどみんな同じような進み具合ね」
佐久間がエイリアンの文字と記号を見比べながらわりこむ。
「それでも第一歩は踏み出せたね」
仙人掌博士はお茶を飲む。
「エイリアンの目的を聞きたいわね」
アイリスがわりこむ。
「君ねえ。それを聞くには二ヶ月位はかかるね」
仙人掌は答えた。
数日後。
エイリアンの記号や図を組み合わせる仙人掌とイスラ、ケインと翔太。
「エイリアンと文字や言葉が少しづつわかれば質問も可能だろうね」
仙人掌がお茶を飲む。
「アマデア達が言うには高度な数学も理解できるそうよ」
ケインがわりこむ。
「さすが宇宙船でここに来るだけの力はあるね」
翔太は記号を見ながら言う。
「そろそろ目的を聞けるんじゃない?」
ケインが疑問をぶつける。
「そうだね」
仙人掌はうなづいた。
次の日。
ケインと仙人掌はエイリアンの言語をタブレット端末に入力。入力するとスクリーンに投影される。
質問は「地球に来た目的」である。
しばらくするとシールドの壁に文字が浮き出てくる。
「自分達のいる世界が消滅の危機にあるから「時空の花」を探している」
ケインと佐久間は文字や記号を見比べながら読んだ。
「時空の花がどこにあるのかも私達も探している」
佐久間は文字を入力した。
エイリアンがシールドに文字を書いた。
「向こうから質問が来たね」
仙人掌がつぶやく。
「この船は仲間か?」
シールドに映し出されたのは光る模様がついた客船や空母である。
「ちがうわ。数年前に勝手に時空侵略者が連れてきた。私達は追い出そうとしている」
佐久間は尖閣諸島の戦いや南太平洋の異変で戦ったカメレオンを説明した。
「我々も時空侵略者やレギオンには手を焼いている」
シールドに文字を書くエイリアン。
映像にはサブ・サンとは違う異星人が連れてきた宇宙生命体はカメレオンのように船体に光る模様がある。宇宙船と融合して惑星を乗っ取り巣にしてしまう様子が映し出される。
「イナゴやヒアリと同じね」
アイリスと佐久間がうなづく。
「あの果物のドリアンみたいな頭の異星人が時空侵略者みたいだね」
翔太がささやく。
肌色は男女共にピンク色でドリアンみたいなイボイボだらけの頭部。赤紫のピッタリフィットする戦闘スーツを着用している。
「こっちはサブ・サンだけど彼らの世界でも時空侵略者がいるのね。頭部が果物のドリアンみたいだから「ドリアン」でもいいかも」
ケインがうなづく。
「私達とちがってそいつらせいで彼らの世界は危機に瀕しているのはわかったけど渡していいの?」
イスラが怪しむ。
「彼らは取引をしようとしているのよ」
気づくケイン。
「私達では決められないわ。他の地域でもどうなっているのか聞かないといけないわね」
佐久間が言った。
東京湾沖。護衛艦「かが」
オスプレイが「かが」の甲板に着陸。艦首側エレベーター内にある格納庫に収容される。
機内から出てくる翔太、イスラ、ケイン、佐久間、福竜丸、椎名、稲垣、仙人掌博士。
艦尾ハッチから入ってくる三神と朝倉、アレックス。
「海ほたるで会議じゃないのね」
ケインが腕を組んだ。
「あの四人がいなくても情報は集まるわ」
佐久間がしゃらっと言う。
格納庫から艦内のミーティングルームに入った。部屋にパオリ、ランディ、智仁とリドリーがいる。
正面スクリーンが六分割されてアマデアやミゲルの姿もある。
「ここで会議やっても米軍にバレバレね」
イスラがしゃらっと言う。
「アイリスがよっぽど興味あれば盗聴するかスパイを送り込むでしょうね」
リドリーが答えた。
「ここでの通信では暗号通信に切り替えられる。アーランとオルビスが開発したの」
佐久間がタッチパネル操作する。
「翔太。智仁。彼らの世界はどうやら滅亡の危機にあるみたい」
ミゲルは口を開いた。
「それは日本海チームもだよ。僕達の世界は地球だけ。彼らの場合は惑星だけじゃなくて宇宙全体に時空異変が出現して危機にある。規模も大きい。だから種族全体が消滅の危機にある」
智仁が重い口を開いた。
「いくつかの時空の扉を超えて何千光年も旅してやっと時空の花を突き止めたと言っている」
アマデアがわりこむ。
「サブ・サンよりも進んだ科学を持っている。彼らの技術があればサブ・サンだけでなく他の侵略者やカメレオンを追い出せる」
三神がわりこむ。
「協力は無理かもよ。彼らの世界が危機にあるから見つけたらすぐ自分の世界に帰るわね」
佐久間が腕を組む。
「見つけたなら手がかりがあればいいわ」
シンフォニーとセレニティがわりこむ。
「でも月夜の花は私達だってほしいわ」
困った顔をするドゥロス・フォス。
「彼らと取引するのはどう?」
それを言ったのはケインである。
「取引すればなんらかの技術供与があるかもしれないわ」
マリアンヌがわりこむ。
「彼らも同じように時空侵略者とカメレオンに手を焼いている。彼らのいる世界にいるカメレオンは宇宙船と融合して惑星を乗っ取って巣を造っている。中には複数の女王カメレオンがいたり、掃討作戦を何度もやっている画像があった。カメレオンには複数の群れと複数の女王がいるようだ。女王を倒せばその群れはどこかへ逃げていく」
アッシュがわりこむ。
「映像の中には饕餮に似た怪物がいた。その怪物とカメレオンがタッグを組んで連合軍と戦っている場面もあった。黒幕は時空侵略者だ」
アッシュが口をはさむ。
「月夜の花がどんものかわからないのに彼らは手がかりを持っているのか?」
三神が疑問をぶつけた。
「でもなんでバラバラに情報を渡す?」
朝倉がわりこむ。
「彼らは戦争する気はない。なんらかの技術供与なり手がかりを渡すかもしれないわね」
それを言ったのはケインである。
「あら珍しくまともな事を言うわね」
セブンシーズマリナーが言う。
「それはアーランやオルビスも言っていたけど取引に乗った方が有益な情報なら技術を交換できる結論よ」
佐久間がうなづいた。
二時間後。海ほたる司令部
部屋にはオルソン大佐とアイリス、クリス、レジー、レイスがいた。
「あら待ってたんだ」
イスラが声をかけた。
「あんた達が「かが」に行く時は何かあるからに決まっている」
アイリスが答えた。
「日本海のパオリやランディと智仁ともいたし、通信も広範囲に飛ばしている事は知っている」
アイリスは写真を出した。
「だから?傍受しても解読したの?」
ケインが聞いた。
「あのエイリアンに関係するものだろ。今後はどうするんだよ?」
クリスがわりこむ。
「傍受できているなら聞く必要ないんじゃないの」
佐久間がケインを押しのける。
「あせっているの?」
わざと言うイスラ。
「彼らから見れば我々は先住民だ。歴史的に見ても先住民は征服される」
オルソンが答える。
「本当にそう思っているんですか?」
翔太が聞いた。
「彼らが何か取引と見せかけて実は別の時空侵略者を連れてきていたり、本当は艦隊を連れて来ているとしたら?」
中年の男性が口を開いた。
「誰?」
イスラとケインが聞いた。
「CIAのデービス」
中年の男性は答えた。
「そうは思えません。彼らは本当に困っているから来訪したと思います」
翔太ははっきり言う。
「ではなぜ彼らはバラバラに情報を渡す?それに来訪するなら一隻でいいはずだ」
デービスがピシャリと日本語で言う。
「情報をみんなで共有すればもっとやりやすくなると思います」
翔太は食い下がる。
核心は持てていないが生存不可能な世界に来た理由もそこだろう。彼らはここよりも優れたネットワークを使って共有している。
「君ねえ。その通りには受け取れない。我々は大統領に報告をしなければいけない」
腕を組むデービス。
「つくづく嫌な男」
それを言ったのはイスラである。
「このハゲ」
ケインは身を乗り出す。
ため息をつく三神と朝倉。
「あんなロクでもない大統領がまともな判断ができるの?政策もあまり進んでなくて大手のニュース番組をこき降ろしているようなジジイに報告するんだ」
ケインはわざとらしく言う。
「それは当然だろう」
ムッとするデービス。
「だからハゲって言っている。どんなに備えても相手がエイリアンでまともに戦えると思ってる?相手は時空フィールドで守られていてサブ・サンよりも高度な科学力を持っている。攻撃が効くかわからないのに?」
鋭い指摘をするケイン。
「君がなんで同じマシンミュータントから嫌われているのかわかるな。彼らのシールドはサブ・サンよりも上回っているが弱点もあるのもわかっている」
デービスが図面を出した。
「本当に攻撃するつもりですか?」
佐久間がわりこんだ。
「状況が変わればだ」
オルソンが答える。
「アイリス。あんたの上司は頭は大丈夫?このハゲと一緒に攻撃するの?」
ケインが指をさした。
「命令なら攻撃するしかないわ」
アイリスは答える。
「だからバカって言っている。話にならないし電子脳を修理してもらった方がいいんじゃない」
「本当に口の減らない女ね。営巣送りにした方が進みやすくなるわ」
アイリスは詰め寄る。
「ケイン。エイリアンの船に行く時間よ」
佐久間がわりこむ。
「わかった」
ケインがうなづいた。
エイリアンの宇宙船内
船内に入る翔太、仙人掌、ケイン、イスラと佐久間、アイリス。
ケインはタブレットPCに彼らの文字を入力した。スクリーンに投影される。
「君ねえ。本気かね」
驚きの声を上げる仙人掌。
「まさか取引するの?」
驚きの声を上げるアイリス。
「提供を受ける」
佐久間は入力した。
「もらえるならもらった方がいいという結論よ」
しゃらっと言うイスラ。
「本当に人選は失敗ね」
アイリスはしれっと言った。
三時間後。護衛艦「かが」
ミーティングルームのスクリーンが六分割され、ミゲルや智仁、アマデア、オルビス達が映っている。
「進展はあったの?」
ケインが聞いた。
「月に関係する手帳をもらった。文字も図面もない」
首をかしげる智仁。彼は皮で装丁された手帳を見せた。
「僕は宝石と数字が書かれた地図。異世界からやってきた難破船が持っていたというのを聞いた」
ミゲルが困った顔をする。
「僕の場合は本格的なカメレオンとの戦いに備えての武器設計図と宇宙船技術。だけどまだ地球の技術じゃ無理そう」
オルビスが腕を組む。
リンガムが図面を見せた。しかし複雑な曼荼羅がいくつも重なったような図面が出た。
「翻訳するのは一〇年かかりそうね」
佐久間がため息をつく。
「彼らが言うにはサンゴの穴を探せと言われた。海に穴ってどこ?」
ル・ボレアルがわりこむ。
「そうすると手がかりはそろったなら。その場所に行くしかないけど月の手帳は翻訳できているのですか?」
翔太がたずねた。
「明日は珍しいストロベリームーンで月が苺色になる日よ。カップルにはいい日なの」
サミットが画像を見せた。
アメリカでは、イチゴの収穫時期でもある事から6月の満月の事を「ストロベリームーン」と呼んでいる。夕日は大気の影響影響や光の反射で真っ赤に見えるが、それが月にも適用され、月が赤く見える事がある。
これは六月の満月が一年で最も低い位置にあり、地平線からそれほど高くない為に、大気の影響を受けて、月が赤みがかってみるのだという。「ストロベリームーンを二人で見ると、その人とは永遠に結ばれる」という言い伝えがあり、「恋を叶えてくれる月」とも言われている。
反対にブラッドムーンは赤色に変色した月の通称。地球の影が月に完全にかかる皆既月食の時に神秘的な赤色になる現象。皆既月食は、太陽からの光によってできた地球の影の中を月が通過するときに見られる現象だ。
つまり、太陽-地球-月が一直線にならんだ時に見られる。地球の大気を通過した赤い光は大気でわずかに屈折するので、地球を回り込んで月を照らす。そのため皆既月食の月は赤く見える。ブラッドムーンは人類に災害を知らせる役目があるとも言われている。
「じゃあ苺色の月灯り手帳を照らせば何かが浮き出るんだ」
福竜丸が身を乗り出す。
「地図もそういう仕掛けがあるのかもしれない」
ミゲルがわりこむ。
「明日。「かが」に集まろう。ストロベリームーンでしか見れないならわかるかもしれない」
翔太は提案した。
彼らはうなづいた。
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