第6話 調査団「月夜の花」つづき
港から離れる六隻の巡視船。
巡視船「やしま」「あそ」「つるぎ」「かいもん」「いなさ」「ジャーヴィス」
沖合いに出ると「やしま」のヘリ甲板から海に飛び込む七人の男女。緑色の蛍光とともにそれぞれ融合する客船に変身した。
「フォーチュナ・・・大きい船だね」
「やしま」の船橋ウイングから身を乗り出す翔太。
「俺より大きい客船はけっこういる。ほとんどは普通の客船だ。俺とコスタ・マジカがミュータントで、プリンセスクルーズ社のクラウンプリンセスとルビープリンセスはミュータントなんだ」
フォーチュナは答えた。
「こちら福竜丸。アメリカの軍事衛星が到達する」
船内無線にTフォース基地からの通信が入ってくる。
「モシャス」
シンフォニーとセブンシーズマリナーは呪文を唱えた。力ある言葉に応えて紫色の蛍光に包まれシンフォニーの船名と煙突マークが変わった。
セブンシーズマリナーも紫色の蛍光に包まれてクリスタルシンフォニーに偽装完了した。
「米軍の四隻組がそっちに向かっているのと金流芯達やニコラスとカプリカも地中海をうろついている」
福竜丸からの無線が入ってきた。
「了解」
沢本達は答えて散開した。
ギリシャ沖
大型客船一隻と小型客船二隻に接近する五隻の海警船。八隻とも船橋の窓に二つの光が灯っている。
「金隊長。この客船だと思う」
夏謳歌が大型客船の船尾を指さす。
「そこの客船。止まれ」
金流芯は声を荒げた。
停船する三隻の客船。
「船名くらい言えよ」
「船名も言えないの?」
男性の声と女性の声で言う三隻の客船。
「コスタ・フォーチュナとクリッパーオデッセイとアマデア。日本人の少年とサウジアラビアの少年と海保の巡視船を知らないか?」
金流芯が聞いた。
「知らないし自分で探せば」
突き放すように言うクリッパーオデッセイ。
中国語でののしる箔麗花。
ドイツ語でののしりバカにするアマデアとクリッパーオデッセイ。
「ドイツ語はちっともわからない」
困惑する金流芯達。
「直訳すると中国海警船は海保から聞いたとおりにロクでもなくてしょうもない。特におまえたちはすごい弱い」
コスタ・フォーチュナがはっきり言う。
「バカにするなよ。客船なんてミサイルや機関砲の的だ」
金流芯は語気を強めた。
フォーチュナは二対の鎖で馬兄妹が変身する海警船の船体に巻きつけた。
箔麗花が動いた。アマデアとクリッパーオデッセイの船体に二対の錨でえぐった。
「残念ね。私とアマデアは毒には耐性があるの。もともと効かないけどね」
クリッパーオデッセイがしゃらっと言う。
「バカな・・・」
箔麗花が驚く。
夏謳歌が動いた。気がつくとフォーチュナの船体に大きなえぐれた傷口がいくつも口を開けていたがすぐにふさがる。
「船室と防水区画のせいでダメージが与えられない」
夏謳歌は船内無線で報告する。
フォーチュナは二対の鎖に力を入れる。
くぐくもった声を上げる馬兄妹。
金流芯と箔麗花が動いた。
フォーチュナの船体を何度もえぐった。
「船内備品ばっかり」
部品を引っこ抜いて驚く箔麗花。
「ダメージが与えられない」
つぶやく金流芯。
えぐってもえぐっても船室と防水区画ばかり機関室や生命維持装置が見えてこない。
「残念だな」
フォーチュナは馬兄妹を捨てた。
「あなた達を相手をしている時間がもったいないもの」
「本当に使えない巡視船」
「じゃあな」
三隻は船首をイタリア沖に向けて去った。
同時刻。キプロス沖
レーダーに二十隻を超える船舶が映る。
「客船と巡視船だ」
「海保の巡視船とあとは客船だ」
アメリカ沿岸警備隊の二隻の巡視船の船橋の窓に二つの光が灯った。
目標海域に近づくと同じ形の小型客船が二十隻と海保の巡視船とアメリカとイタリア、フランスの巡視船がいた。
「カプリカとニコラスだ」
「やしま」の船橋ウイングから翔太は顔を出した。
アラビア語であいさつするミゲル。
「そこの客船。みえみえの分身だし役に立たないな」
無視してニコラスはからかう。
「船名を言えよ」
ル・ボレアルが強い口調で言う。すると分身の船達が消えて彼だけになる。
「ポナン・クルーズ社所有のル・ボレアル。ル・リリアルが行方不明でしょ」
カプリカがしゃらっと言う。
「俺達が探してやろうか?」
わざとらしく言うニコラス。彼は二対の鉤爪でボレアルの煙突や側面デッキをつかむ。
「放せ」
ボレアルは二対の錨で振り払った。
「客船と組む事にしたの?」
カプリカが聞いた。
「彼らは協力してもらっているだけだ」
沢本がわりこむ。
「ディスペル」
ニコラスが呪文を唱えた。力ある言葉に応えて一隻の巡視船の正体があらわになる。
「あら巡視船「いなさ」の貝原じゃない」
カプリカはいきなり「いなさ」のマストをつかんだ。
「触るなよ」
貝原は二対の錨で振り払った。
「三神はどこだ?」
ニコラスは声を荒げた。
「自分で探せば」
ベレッタが突き放すように言った。
エジプト沖。
三隻の客船に接近する四隻の米軍艦船。
七隻とも船橋や艦橋の窓に二つの光が灯っていた。
「そこの三隻の船。止まれ」
サラトガは声を張り上げた。
レジーとレイスは三隻の客船の正面に回りこんだ。
「飛鳥Ⅱとシンフォニーとセレニティ」
強襲艦「エセックス」は三隻の客船の周囲を回りながらつぶやく。
「海保の巡視船はどこにいる?」
「あれはキプロス沖に小型客船といたのをニコラスとカプリカが見ている」
レジーとレイスがささやく。
「アイリス。気になるのか?」
サラトガが聞いた。
「怪しいから検問よ」
二対の錨と四対の鎖を出すアイリス。
アイリスは飛鳥Ⅱとクリスタルシンフォニーの周囲を回りながら飛鳥Ⅱに接近する。彼女は飛鳥Ⅱの船首のリドデッキ、第10デッキ、第9デッキを四対の鉤爪でつかんだ。
「放してよ」
飛鳥Ⅱは二対の錨でエセックスの船体を何度もえぐった。
「おとなしい。おかしい。ケインなら殴ってくるのに」
くぐくもった声を上げるアイリス。彼女は飛鳥Ⅱを放した。
セレニティとシンフォニーは船体から二対の錨と四対の鉤爪を出した。
「ディスペル」
アイリスは呪文を唱えた。力ある言葉を答えて本当の正体があらわになった。
セブンシーズ・マリナーとクリスタルシンフォニーがそこにいた。
「セレニティはそのままなんだ」
声をそろえるレジーとレイス。
「ケインがいない。彼女だけで侵入なんて考えられない」
アイリスはシンフォニーの船体側面のデッキを四対の鉤爪でつかんだ。
「引っ張らないでよ。壊れた備品とか弁償してもらうからね」
シンフォニーは声を荒げ、その鉤爪を振り払った。
「基地に言えば。俺達はしないけどペンタゴンに言えば弁償してもらえるかもな」
クスクス笑うサラトガ。
「セレニティ。ケインはどこ?」
アイリスは声を低めた。
「知らないわ。探せば」
突き放すように言うセレニティ。
「あんた達の姉がまともに団体行動ができると思っているの。よくできる二人の妹とはちがって出来の悪い姉よね」
意地悪く言うアイリス。
「黙りなさいよ。あんたの国の大統領がなんて呼ばれているか知っている?」
セブンシーズマリナーがわりこむ。
「言ってみろよ」
サラトガが声を低める。
「ホラ吹き大統領よ。あんなジジイの言う事をよく聞けるわね」
セブンシーズマリナーが言う。
「合衆国大統領で最高司令官だからに決まっているでしょ!!」
強い口調で言うアイリス。
セレニティは二対の鉤爪でレジーとレイスが変身する沿岸戦闘艦のマストをつかんだ。
「痛い?」
セレニティが聞いた。
「当たり前だろ!!」
もがく二隻。
「空母なのに戦闘機のミュータントがいないなら追い払うのは簡単よ」
シンフォニーが錨で指さした。
「いいのかそんな事を言って?おまえ達を所有している船会社に政府からクレームが入るよ。それに戦闘機のミュータントくらい呼ぶのは簡単だ」
サラトガは声を低めた。
「嫌でも基地へ連れて行くからね」
当然のように言うアイリス
「私達は何もしていないわ。イタリア沖で偶然会っただけ」
しゃあしゃあと言うセブンシーズマリナー。
「尋問するだけよ。ケインには友人や知人なんていないし素行が悪くて嫌われているし、最近は氷川丸や横浜港湾局から入港の賃料が払えないから追い出された。本当に出来の悪い姉よね」
バカにするアイリス。
シャアアア!!ガルル・・・
アイリスとセレニティ、シンフォニーは舳先を付き合わせ威嚇音を出した。
「私達にだって黙秘権もあるし弁護士を呼ぶ権利もあるわ」
当然のように言うセブンシーズマリナー。
「呼べばいいでしょ」
アイリスは言った。
その頃。
船内を見回す飛鳥Ⅱ
自分達はアーランが操縦する潜水艇の船内にいる。普段乗る乗り物とちがい異質で居心地はよくない。
操縦席でアーランが操縦して助手席でオルビスがレーダーや機器を操作する。
「気になるのね」
佐久間が聞いた。
うなづく飛鳥Ⅱ
「俺も慣れないんだ」
三神がささやく。
「この潜航艇はもともとハバル・タグと同じような宇宙船よ。それも敵のバリアを通過できるように大昔改良された次元潜航艇よ」
アーランが答えた。
「次元潜航艇ってアニメ「宇宙戦艦ヤマト」
に出てきたガミラスが使っていたようなのか」
あっと思い出す三神。
「あれと同じ原理よ。消費電力を使うから一回だけ。帰りは力任せに破壊するしかない」
アーランが燃料の状況を見ながら言う。
「侵入できればいいわ。あとは壊すから」
飛鳥Ⅱは声を低める。
「イスラエルの領海に入った」
アーランが報告する。
「次元潜航開始」
オルビスはタッチパネルを操作する。
「何も起きないわね」
周囲を見回す飛鳥Ⅱ
「次元移行装置を使って第五次元に一時的に移行してバリアを通過する」
アーランは操縦桿を操作する。
息を呑む佐久間と三神。
海図をのぞく飛鳥Ⅱ。
ガザ地域の海域には地上、海上、水中にも結界があり脱出は不可能である。もし出れたとしても警備隊がやってくる。警備しているのは戦闘機のミュータントとエイラート達がやってくるのだ。
「ガザ地区の海域に侵入完了」
オルビスが海図とモニターを目配せしながら報告する。
「エネルギーをすごい消費するね」
燃料タンクやエネルギーの残量を見ながらため息をつくアーラン。
「アーラン。ありがとう」
三神は頭を下げる。
「当然の事をやっただけ。これより浮上する。漁船に偽装完了」
アーランが操縦しながら報告する。
岸壁に接岸する潜航艇。
出入口ハッチから上陸する五人。
「この腕輪をはめて」
オルビスが腕輪を渡した。
「これは?」
佐久間が聞いた。
「魔物がうろつくならこっちも魔物に見えて匂いも偽装する装置よ」
アーランが答えた。
五人は腕輪をはめてスイッチを入れて港を離れた。
しばらく行くとすぐそばを全長十メートルもあるオオトカゲやドラゴンが横切った。
「アーラン。何に偽装?」
三神が疑問をぶつける。
「ガーゴイル。統計からして石像ならたいがいの魔物は襲ってこない」
アーランは答えた。
空を翼長十メートルを超えるタカやワシが何羽も舞っている。
「確かにこれでは居住不能ね」
飛鳥Ⅱが納得する。
畑は小型の魔物が群れで荒らし、空と地上は大型の魔物がウロつく。はたしてこんな場所でイスラ達は生きているのだろうか?
しばらく行くと電柱が立っていた。それは何の変哲もない普通の電柱である。しかし違うのは他の電柱は折れたり、バラバラになって倒壊しているのがほとんどなのにそこだけ無傷だった。
地図をのぞく四人。
飛鳥Ⅱは電柱の周囲を回る。
どこかにドアがある。なんでそう思ったのかわからない。半壊した建物は屋根がなく瓦礫と一緒になぜか横倒しのドアがあった。それだけ無傷である。
「たぶん。出入口はここよ」
飛鳥Ⅱは呼んだ。
駆け寄ってくるアーラン達。
「これが?」
佐久間と三神が首をかしげる。
「次元移行装置もないし歪みも感知できない。魔術でもなさそうだ」
アーランはハンドモニターを近づけるがなんの反応もない。
「おかしいな反応もない」
困った顔をするオルビス。
「魔術でもなく科学でもない。これを造った能力者がいる。ここから入る」
飛鳥Ⅱは目を吊り上げドアを開けた。
そこはダクトになっていてずっと下まで続いている。
「ここに行くのか?」
困惑する三神。
「魔物のエサになりたくなければ行くしかないよね」
腕輪をはずす飛鳥Ⅱ。彼女はダクト内に飛び込む。
顔を見合わせる三神達。
すると向かいの通りにいたアイアンバッファローが吼えた。地響きとともに群れがやってくるのが見えた。
「飛び込め!!」
三神が叫んだ。
四人は飛び込んだ。
ここはどこなんだろう?
どこかに頭をぶつけたのか痛い。でも記憶ははっきりしている。
飛鳥Ⅱは飛び起きた。
留置場のようだ。隣りに三神、佐久間、オルビスとアーランがいる。
「なんで留置場?」
飛鳥Ⅱは見回した。
「気づいたらここだった」
戸惑うオルビスとアーラン。
すると男性のパレスチナ人が入ってくる。彼は鍵を開けるとアラビア語で手招きした。
「ついてこいって」
飛鳥Ⅱが翻訳する。
「そうするしかないわね」
佐久間がしぶしぶうなづく。
五人は長い廊下を出ていくつかの部屋を抜けて会議室らしい場所に出た。
案内のパレスチナ人が出て行く。
部屋に入ってくる修道女と何人かの男女。
「ドゥロス・フォス・・・カレンさんですか?」
三神はたずねた。
うなづく修道女。
ドゥロス・フォス号。全長一三〇メートル。
六〇〇〇総トン。
蒸気貨物船としてタイタニック号の二年後に建造され、後に客船、さらにディーゼルエンジンを搭載したクルーズ客船、洋上書店に改装された船。一時期世界最古の現役船であった。アメリカで建造されてから三回も船名が変わっている。現在はドイツの慈善団体が所有している。メディナ、ローマ、フランカC、ドゥロス、ドゥロス・フォス博物館兼ホテル船である。
「ケイン。あんたとここで会うなんてね」
背の高いイギリス人女性はにらんだ。身長は一九〇センチ位だろうか。
「QE2・・・イスラいたんだ」
ケインは腕を組んだ。
「セレブレティ・ミレニアム号とサミット号のマフォンさんとカミラさんですか?」
三神がたずねた。
「本名で呼ばれるのはひさしぶりだけどほとんど本名は呼ばれないから船名だ」
すました顔で言うミレニアム。
「私はポルトガル出身で彼はスペインよ。隣りがスタークリッパーでル・リリアル」
サミットが自己紹介する。
マフィンもカミラも背が高く身長は二メートル位でがっちり体形である。
タブレットPCでプロフィールを見る佐久間達。
セレブレティ・ミレニアム号とサミット号。
全長二九四メートル。九万一〇〇〇総トン。
セレブリティクルーズはプレミアムクルーズとして一九九五年から運航。船体は白と濃紺で塗り分けられていて、他社と比較すると角ばったフォルムをしている。ファンネルの形は台形で濃紺、白地でXが強調されたデザインをしている。大小一三隻保有しており、
活動エリアは世界広域。夏はアラスカ・ヨーロッパ、冬場はカリブ海といった具合にベストシーズンなエリアを一週間からそれ以上の日程でローテーションを組んで回る。バミューダに強いのが特徴。ガラパゴス諸島クルーズ専用客船を三隻保有している。
スター・クリッパーはスタークリッパークルーズ社所有の帆船客船で三隻のうちの一隻である。全長一一五メートル。二三〇〇トン。
ル・リリアルはポナンクルーズ社所有の小型客船である。極地を主にクルーズしており六隻のうち二隻がミュータントである。
「特命チームが結成されたのは知っている。俺達も仲間に入れてくれないか」
ミレニアムが真顔で聞いた。
「セレブレティクルーズ社はマイアミにある船会社よ。アメリカは参戦していない」
佐久間は答えた。
「スレイグはアテにならない。ほっとけばもっと時空侵略者が入ってくる。だから私達は時空の亀裂を閉じたいの。その活動を第五福竜丸がしているのを知っている」
はっきり言うサミット。
「彼女の状態はわかっているわ。彼女が木造漁船でアルキメデスの指輪という時空遺物の所有者というのを知っている」
リリアルがわりこむ。
「彼女がいくつか障害を抱えていて苦しんでいるのは知っている。放射能は俺達のコアを破壊してしまう」
ミレニアムの顔がくもる。
「光の精霊なら彼女から私に移った」
飛鳥Ⅱは精霊の指輪を見せた。
「嫌よ。あんたなんか」
サミットとリリアルは声をそろえる。
「私はあなたとは嫌よ」
スタークリッパーがはっきり言う。
「もっと嫌なのはあの女」
サミットが指をさす。
ムッとするイスラ。
「指でさすのはやめろ」
三神が注意する。
「ドゥロス・フォス。手紙を第五福竜丸に出したそうだけどちゃんと届いた」
飛鳥Ⅱが真顔になる。
「僕達は金属生命体とのハーフを保護にやってきました」
オルビスは話を切り出した。
「おいで」
ドゥロス・フォスは手招きした。
部屋に入ってくる二人の男女の子供。
「僕と同じ仲間だ」
オルビスは冷静に言う。
「ここには五〇人のパレスチナ人ハンターしかいない。他の人達は壁の外よ」
ドゥロス・フォスがホッとしたような顔で言う。
「ここのシェルターを造ったのは誰ですか」
三神がふと思い出す。
「シェルターじゃなくて時空の泡の中にいると思ってね。時空の通路を作れるの」
サミットがチッチッと指でふる。
「俺がその空間を安定させる事もできてその時空の泡も作れる」
自慢げに言うミレニアム。
「私は魔物を操れる。訓練もなしにもともと操れた」
スタークリッパーがどこか遠い目をする。
「私は他人の能力をコピーできる。マシンミュータントだけ。もちろんできないのとできるのがあって、航空機と地上の車両のミュータントのはコピーできないの」
リリアルが視線をそらした。
「この子達を保護をお願いするわ」
ドゥロス・フォスは話を切り替える。
「もちろんそのつもりで来た。でもそのままだと魔物に見つかる」
アーランがうなづく。
「私のを使って」
「俺のも使って」
佐久間と三神は二人の子供に渡す。
「五〇人のハンター達は?」
オルビスが聞いた。
「トンネルを使って壁の出入口にある待避所へ行くそうよ」
ドゥロス・フォスは答えた。
「漁港には砲台があったけど結界内部のは私が破壊する。漁港に着いたら私がみんなを乗せてこの結界の境界へ行く」
佐久間が海図を見ながら言う。
「私が結界を破壊する」
はっきり言う飛鳥Ⅱ。
「俺は?」
三神が聞いた。
「私と一緒。結界を壊したらエイラート達がやってくる。足止めよ」
佐久間が結界の境界線を指さす。
「了解」
うなづく三神。
「アーランとオルビスはその二人を連れて私達が引きつけているうちに本部へ行って」
佐久間が言う。
「わかった」
アーランとオルビスはうなづいた。
三十分後。
オルビスとアーランと二人の子供は岸壁から潜水艇に乗り込み、潜航した。
岸壁に入ってくる三神達。
装飾が施された杖を掲げながら周囲を見回すスタークリッパー。
「本当に君は魔物を操れたんだ」
感心する三神。
「魔物使いはブレガー国防長官が有名だけど私はもともと操れる」
笑みを浮かべるスタークリッパー。
黙ったままの飛鳥Ⅱ。彼女は精霊の指輪をはめた。
三神と佐久間は海にと飛び込み巡視船とイージス艦に変身。
ドゥロス・フォス達はヘリ甲板に飛び乗る。
佐久間は艦首の5インチ砲に精神を振り向ける。砲台を正確に撃っていく。
海に飛び込み客船に変身する飛鳥Ⅱ。船体から二対の錨と四対の鉤爪を出す。黄金色のオーラに船体全体が包まれ二対の錨が輝きだした。船橋の窓の二つの光が怪しく紫色に輝き出し、二つの錨の先端から六角形の円板が現われそれを結界の壁に貼りつけ、四対の鉤爪で魔法陣を貼りつける。せつな、ガラスが割れるような音が響いて大きなヒビが入り、大きな割れ目が現われた。
「結界が修復される前に出て」
飛鳥Ⅱは声を荒げた。
みるみる結界の壁が修復され穴が狭くなる。
「3で一緒に出るぞ。1、2、3!!」
三神は指示した。
三隻はエンジン全開で飛び出した。
と、同時に結界の穴はふさがっていく。
「エイラート達が来る。逃げるよ」
佐久間は敵の位置を二人に送信する。
「#$%=☆★#!!」
何隻かの駆逐艦やフリゲート艦が接近してくる。
ヘブライ語が響いた。
三神が動いた。
その動きは飛鳥Ⅱやドゥロス・フォス達には見えなかった。気がつくとエイラートやロマット、ヘッツ、ハガネの船体に大きくえぐれた傷口があいていた。
くぐくもった声を上げるエイラート達。
ミサイルを発射する佐久間。数十発のミサイルはエイラート達だけでなく他の警備船のミュータント達に命中した。
「飛鳥Ⅱ。走れ!!」
三神と佐久間は二〇ミリ機関砲を連射しながらエンジン全開で動いた。エイラート達や警備船の艦橋を撃っていく。
飛鳥Ⅱは二対の錨でその艦船達を押しのけエンジン全開で走った。
佐久間は対艦、対空ミサイルを発射。接近してきた二十機の戦闘機に命中した。
三神は機関砲を連射。数十機もの戦闘ドローンを撃墜していく。
しばらくすると静かになった。
「イスラエルの領海を出てエジプト領海に入ったわ」
佐久間はスピードを落とした立ち止まる。
ため息をつく三神と飛鳥Ⅱ
ヘリ甲板から海に飛び込むリリアン達。
緑色の蛍光に包まれその光が拡大して船の形になりそれぞれ融合する客船に変身した。船橋の窓に二つの光が灯った。
「特命チームに俺達を入れてくれないか。俺達も一緒に戦いたい」
セレブレティ・ミレニアム号が話を切り出した。
「アメリカやイタリア、ドイツ、フランスは参戦していないわ。地中海ではカメレオンが見当たらないからね」
言い聞かせるように言う佐久間。
「あなた方は客船で戦闘艦じゃない。戦うのは戦闘艦や巡視船の役目だ」
三神がさとすように言う。
「でもこのまま何もしなければ他の時空侵略者がやってくる。氷川丸やクイーン・メリーを説得するわ」
ドゥロス・フォス号がわりこむ。
「私も手伝いたいわ」
クイーン・エリザベス2号に変身しているイスラが名乗り出る。
クイーン・エリザベス2号。全長二百九十メートル。七万総トン。元キュナード社の客船だったが二〇一〇年で他の三隻の客船が就航して役目を終えてシンガポールの企業に売却されてホテル船になる予定だったがどうなるか決まっておらず彼女は逃げ出してシンガポールの企業から捜索願いが出ていた。
「え?」
「このまま逃げ回る・・・」
イスラは最後まで言えなかった。米軍の四隻とアメリカ沿岸警備隊の巡視船が数十隻現われたからである。
「見つけた。不法入国の不審船」
サラトガはわざと声をかけた。
空母の第二エレベーターから五〇機の艦載機が出てくる。コクピットに二つの光が灯っていた。
「ケイン。よくも私の許可証をスったね」
アイリスは怒りをぶつける。
「それがどうかしたの?入国できるか確かめてみただけ」
しゃあしゃあと言う飛鳥Ⅱ。
「じゃあ全員刑務所行きね」
アイリスはビシッと錨で指さした。
「冗談でしょ!!」
サミット号がわりこむ。
「イスラエルに不法入国で強制送還になりパスポート偽造で刑務所だ」
サラトガははっきり言う。
「私達は国連職員として入った。パスポートも政府発行の物で手続きも国連弁務官事務所で手続きして入ったのよ」
ドゥロス・フォスの船橋の二つの光が吊り上った。
「俺達には黙秘権があり弁護士を雇う義務だってある!!」
ミレニアムが声を荒げる。
「それがどうした」
「いつだって放り込める」
ニコラスとカプリカがわりこむ。
「基地に連行して尋問だ!!」
サラトガが叫んだ。
空母の甲板から五〇機の戦闘機のミュータントが飛び立ち対艦ミサイルを発射。
とっさにバリアを張る飛鳥Ⅱ
彼女達の手前でミサイルがすべて爆発した。
スタークリッパー号の帆という帆が舞い接近してきた一〇機の戦闘機の機体に巻きつき海に落下した。
佐久間は対艦ミサイルを発射。サラトガやアイリスに全部命中した。
三神が動いた。
ニコラスやリリアン達にはその動きは見えなかった。気がつくとアメリカ沿岸警備隊の巡視船達の船体にえぐれた傷口が口を開いていた。
アイリスの体当たり。彼女は飛鳥Ⅱの船体右舷デッキを四対の鉤爪でつかみ引っ張る。
「引っ張らないでよ!!」
もがく飛鳥Ⅱ。
三神が動いた。
鋭い痛みに飛鳥Ⅱを放すアイリス。船体に大きくえぐれた傷口が開いている。
「逃げろ!!」
三神はアイリスが変身する「エセックス」の艦橋を機関砲で撃つ。
「逃がすかぁ!!」
接近してくるレジーとレイス。
飛鳥Ⅱは二対の鉤爪でマストをつかむ。
「痛い?」
飛鳥Ⅱは聞いた。
「当たり前だろ!!」
二隻はもがいた。
「じゃあこれは?」
飛鳥Ⅱの船体から金属のロープが右舷や左舷から三十本飛び出し二隻の船体に巻きつく。
三神はそれがなんだかわかった。
岸壁のボラートに固定するロープである。
飛鳥Ⅱは力を入れた。ロープが巻きつき強く締まる。
くぐくもった声を上げるレジーとレイス。
「どう?」
飛鳥Ⅱはマストを放した。
目を剥いてぐったりする二隻。
「飛鳥Ⅱ。気絶している」
三神が錨でつっついた。
飛鳥Ⅱはロープを緩めて放した。
目を剥いて横倒しに転覆する二隻。
アイリスに体当たりするイスラ。大きく揺れる「エセックス」。
「私を見てよ」
誘うイスラ。船体全体が紫色のオーラに包まれ船橋の二つの光が紫色に輝いた。
「あの紫色の光を見てはダメ」
注意する飛鳥Ⅱ。
三神は目をかばうしぐさをする。
「その手には乗らないわね」
アイリスはミサイルを発射。
正確にQE2の船体に命中した。
くぐくもった声を上げるイスラ。
アイリスの体当たり。そして船体のえぐれた傷口からエンジン部品を引っこ抜いた。
「イスラ。痛い?」
アイリスは横づけすると部品や発電機を引っこ抜いた。
くぐくもった声を上げ船体を激しく揺らすイスラ。
アイリスは煙突とデッキをつかんだ。
「放して」
もがくイスラ。
飛鳥Ⅱの体当たり。
アイリスが変身する「エセックス」は大きく揺れた。
「アイリス。私達は不法侵入したかもしれないけど異変を調査しているだけ!!」
飛鳥Ⅱは二対の錨で何度か突き刺した。
「私達は司令部に言われている。尋問するだけよ。もっとバリアで攻撃しなさいよ」
挑発するアイリス。
「いいよ。あんたなんか閉じ込めてやる」
飛鳥Ⅱは六対の鉤爪を出した。先端から六角形の光る円板が現われる。
三神は飛んできた物体を機関砲で撃墜した。
「飛鳥Ⅱ。制御装置に気をつけろ」
三神は撃墜した物を見せながら注意する。
「あの円盤が制御装置?」
飛鳥Ⅱが船内無線に切り替える。
「あれをつけられると動けなくなる」
三神が指摘する。
すでにミレニアムやサミット、イスラ、ドゥロス・フォンに三十個もの円盤が船体にくっついているのが見えた。
リリアンやスタークリッパーの船体に一〇個も制御装置がくっつき動けない二隻を四隻の巡視船が引っ張る。
ミレニアムとサミットは六隻の巡視船をつかみ放り投げた。
サラトガの船体が青色のオーラに包まれた。
「あの技は」
三神と佐久間が気づいた。
サラトガが動いた。水柱を上げながら動き回り一〇対の極太の鎖の先端が鉄球に変形してその鉄球で速射突きを繰り出す。
ミレニアムとサミットの船体が青色のオーラに包まれ、一〇対の鉤爪でそれを受け止め受け払った。
三隻は何度も水柱を上げながら動き回り轟音と立ててぶつかり弾かれたように離れた。
「ぐはっ!!」
ミレニアムとサミットの船体に大きな傷口が何ヶ所も入りガラスというガラスが全部割れた。
サラトガの船体にもえぐれた傷口は何ヶ所もあるがふさがっていく。
傷口を押さえるようなしぐさをするミレニアムとサミット。船体は傷だらけで船体中央部のエレベーターホールに大きな穴が開いてそこから煙が上がる。
転覆していた二隻の沿岸戦闘艦が船体を起こした。
アイリスは制御装置を投げた。
イスラが変身するQE2の正面の船橋構造物に五個。船体に二十個くっついた。
イスラはくっついた装置をもぎとろうと鉤爪でつかんだが力が入らない。
「イスラ」
飛鳥Ⅱはイスラに接近すると鉤爪でそれをつかむ。しかし強力な電磁石で取れなかった。
「飛鳥Ⅱ。逃げるわよ」
佐久間が駆けつけてくる。
「それはなかなか外れないからイスラを引っ張れ」
三神が指示を出す。
飛鳥Ⅱは金属ロープを十本出すとイスラの船体に引っ掛け曳航する。
「逃げられると思っているのか?」
接近してくる米軍の艦艇三十隻。艦橋の窓に二つの光が灯っている。
イージス艦の艦橋ウイングから出てくる黒人女性と中年の男性が出てきた。
「飛鳥Ⅱ。止まって。潜水艦のミュータントが一〇隻いる」
佐久間が注意する。
「囲まれた?」
三神と飛鳥Ⅱが聞いた。
「米軍のイージス艦一〇隻と駆逐艦、フリゲート艦が二十隻。どう暴れても出られない」
佐久間が答えた。
「あらあら飛鳥Ⅱと三神と佐久間じゃない。ひさしぶりに会ったわね」
黒人女性は笑みを浮かべる。
「ジョコンダとパシリのゼクでしょ」
佐久間は声を低めた。
汽笛を鳴らすミレニアムとサミット。
「あなた方はみんなまとめてテロリストとして刑務所行きよ」
ジョコンダははっきり指摘する。
「冗談だろ。俺達は調査に来ただけだ」
三神は声を荒げた。
米軍の艦艇を押しのけて接近するミレニアムとサミット、ドゥロス・フォス。
「私達は国連職員として入ったの。パスポートも本物で許可証もあるわ」
ドゥロス・フォスがわりこんだ。
「そんなのは偽造は簡単だし、政府が圧力をかければ船会社や所属団体はあなた方を売却する」
しゃらっと言うジョコンダ。
「あんた達のせいであっちこっちに異変が起きている」
サミットがビシッと錨で指さす。
「時空の異変を制御なんてできるわけがないわ」
飛鳥Ⅱが声を荒げる。
「ねえ、ケイン。クルーズはやめて米軍に入らない?」
ジョコンダは話を切り替えた。
「やだ」
あっさり断る飛鳥Ⅱ。
「普通にクルーズやるよりおもしろいわよ。だってアデプトでは命令どおりに動いてくれたしギャラも弾むわよ」
笑みを浮かべるジョコンダ。
「普通にクルーズしているよりも戦っている方がおもしろいでしょ」
たたみかけるアイリス。
「あんたはバカ?」
あきれる飛鳥Ⅱ。
「バカとは失礼ね」
目を吊り上げるジョコンダ。
「あれは命令だからやっただけ。それにやりたくもない仕事だったし、日本郵船からオファーが来たからアデプトはやめたの。あんな殺し合いがおもしろいなんて一言も言っていないし思ってもない」
声を荒げる飛鳥Ⅱ。
もちろん本音である。戦いたくはないがバリアや結界を破壊できる能力のせいで軍隊からオファーが来るのだ。
「ねえセレブレティ・ミレニアムとサミットは時空の通路や泡を作れてそれを固定できるのだから米軍に入らない?クルーズしているよりマシよ。飛鳥Ⅱと一緒に「花」を探してくれればいいの」
語気を強めるジョコンダ。
ポルトガル語やスペイン語で悪態をつき、ののしるミレニアムとサミット。
ドイツ語でののしるドゥロス・フォス。
「ねえイスラ。その邪眼を活用しない?」
ジョコンダが誘う。
英語でののしるイスラ。
「基地へ連行して電子脳を操る装置をつけてこき使うわよ」
ジョコンダは指示を出す。
「そんなの条約に違反している!!」
佐久間が声を荒げる。船体から二対の錨と一〇対の鎖を出した。
三神は身構える。
「エジプト海軍である」
「え?」
十隻の駆逐艦とフリゲート艦が接近してきた。半数が普通の艦船で半数がミュータントであるがその背後に他国の空母、艦船や巡視船が数十隻いる。
「なんでエジプト海軍の中にインド、ロシア、フランスの空母と自衛隊の艦船と海保と他国の沿岸警備隊がいるの?」
ジョコンダが振り向いた。
「エジプト大使のマメッドです。ジョコンダ議員。アメリカ大使館から迎えが来ています。エジプト政府はあなたの入国は認めていません」
駆逐艦の艦橋ウイングから出てくるエジプト人大使が口を開いた。
ムッとするジョコンダ。
「そこの空母「サラトガ」強襲艦「エセックス」と「フリーダム」「リトルロック」はこの領海から出て行ってもらう。その仲間もです」
エジプト人大使が穏やかな口調で言う。
「何をえらそうに」
声を低めるサラトガ。
「国連討伐隊は継続しているし特命チームも継続している。スレイグ大統領は特命チームとその関係者の入国禁止という大統領令を出しまたが議会と裁判所が拒否して無効になった」
エジプト人大使が強い口調で言う。
歯切りするジョコンダ。
「ここから出て行きなさい!!」
エジプト人大使は声を荒げた。
「アメリカ大使館に帰るわよ。サラトガ。仲間を連れて基地に待機よ」
不満げな顔で指示を出すジョコンダ。
「了解」
サラトガは答えると他の艦船と一緒にこの海域から去っていった。
くだんのエジプト人大使のそばに顔を出すミゲルと翔太、智仁。
「基地に戻ろう。話がある」
間村は言った。
一時間後。ローマにある魔術師協会支部。
「客船のミュータントはモデルもやっているから男女ともにスタイルがいいわね」
佐久間が不満げな顔で口を開いた。
「そうだね」
三神がうなづく。
飛鳥Ⅱもミュータントに戻るとパリコレモデルに負けないくらい容姿もいいし美人だ。男性もモデルをやっているから端整な顔立ちでスタイルがいい。
「それにしてもサミットとミレニアム、フォーチュナやイスラは背が高いな」
三神が気になる事を指摘する。
壁の中では非常時で気がつかなかったけど今見ると背が高い。身長は一九〇センチ~二メートル位だろうか。
「スタークリッパー。俺とご飯行かない?」
「え?」
「リリアン。電話番号教えて」
どこからか聞き覚えのあるセリフが聞こえてきた。
三神と佐久間は声のする方へ近づいた。
「サミット。一緒にご飯に行きませんか?」
朝倉は声をかけた。
「嫌よ。あっち行って」
シッシッとサミットに追い払われる朝倉。
「なんで?」
不満げな顔の朝倉。
「私は客船であんたは巡視船だし魅力も空っぽ。三神さん。相棒を変えたら?」
「え?」
「相棒選びは大事だよ」
ミレニアムがわりこむ。
「俺の相棒だよ。彼がいるから俺はやってこれたんだ」
朝倉をかばう三神。
「そうなんだ」
納得するミレニアムとサミット。
「三神さん、佐久間さん。無事でよかった」
翔太、ミゲル、智仁が駆け寄る。
「彼女のおかげで俺達は脱出できた」
三神は視線を移した。
視線の先に飛鳥Ⅱがいた。彼女はシンフォニーとセレニティと一緒にいる。
「彼女は他国の結界を破壊できる能力者よ。だからジョコンダやアデプトから目をつけられているのね」
佐久間が納得する。
「彼女を入れないと作戦自体がなりたたないと思う」
三神が声を低める。
「それはわかっているわ」
佐久間がうなづく。
「三神、佐久間。無事か」
部屋の奥から駆け寄ってくる沢本や間村達。
うなづく三神と佐久間。
部屋には特命チームメンバーもいる。
「あ、葛城長官だ」
誰かが言った。
部屋に葛城博、レナ、タリク、トリップとオーグリム大使が入ってくる。
「あなた方を特命チームとして呼んだのは行方不明になっているスカンジナビア号と三年前に座礁転覆事故を起こして解体所で半分沈没状態だったコスタ・ロックブーケ号の捜索と「月夜の花」の捜索のためである」
博は正面モニターに写真と地図を出した。
「俺達は戦わなくていいのですか?」
フォーチュナがたずねた。
「まだ戦争にもなっていない」
博が注意する。
「南シナ海にあるカメレオンの基地をなんとかしたいです」
飛鳥Ⅱがわりこんだ。
「まだ戦争にもなっていないのに攻撃はできない」
博が強い口調で注意する。
黙ってしまう飛鳥Ⅱ
「コスタ・ロックブーケを買い取った会社があったのですか?」
フォーチュナが話を切り替える。
「ノルウェーにある企業が買い取り、収容ドック船を使って曳航した」
タリクがいくつかの画像を見せた。写真には巨大なドック型収容船に収容する作業が映っている。いずれにしても大型船のミュータントが何隻か映っている。
「イタリアから五十キロ離れた地中海で忽然と消えた」
トリップが口をはさむ。
「スカンジナビアも同じ消え方をしている事からやったのはカメレオンと思われる」
レナが報告する。
「魔術を使ってテレポートですか?」
シンフォニーが質問する。
「その形跡がなくやったのはサブ・サンだろう」
博が答える。
「さすがエイリアン。すごい科学力だ」
ミレニアムとフォーチュナが感心する。
「コスタ・ロックブーケ号は半分沈没した状態で解体所にあったのを二隻のミュータントを使ってドック船に運んでいる。この二隻はカメレオンであると見ている。最近は船体の模様を消すために偽装装置を使っていると思われ、解体所や廃船置場をうろつく姿が目撃されている」
博が指揮棒でモニターを指さした。
三年前の座礁事故で船長が先に逃げ出した事件として日本でも報道された。そのロックブーケ号を起こして曳航するプロセスをバラエティ番組の特集でやっていた。その後は解体処分になり廃船置場に係留されていた。
「もしかして今度は客船と融合しようとしている?」
飛鳥Ⅱと翔太があっと声を上げて顔を互いに見合わせる。
「わざわざスクラップ置場や廃船置場に行くのはそこには状態のいい廃船があるからだ。それはカメレオンが拉致するのをやめて廃船に目をつけたと見ている」
タリクが説明する。
「Tフォースや各国政府は解体所や廃船置場の警備を強化と業者の身元も調査が始まっている」
博は口をはさむ。
「それって遅すぎませんか。予測できたと思います」
飛鳥Ⅱが強い口調で言う。
「中国政府や海警局と一緒に動いていてなかなか動きがつかめなかった」
レナが語気を強める。
腕を組み不満げな飛鳥Ⅱ。
「動きがつかめないが異変が続いているから異能力の客船のミュータントに頼んだ。船会社にお願いしたのは我々だ。世界中の船会社で世界一周クルーズや周辺クルーズが相次いで延期や中止になっているからチャンスだと思ってね。そこで調査団を結成する。リーダーはドゥロス・フォスになる」
博は提案する。
どよめくミレニアム達。
「沿岸警備隊の中に海警船を入れるのか?」
フォーチュナが李紫明を指さす。
ムッとする李紫明。
「彼女がいなければ海警局の情報が入らなくなる」
トリップが助け舟を出す。
「クイーン・メリーや氷川丸、フランシスは反対しますがそれはどうされますか?」
飛鳥Ⅱが聞いた。
「それは私達の方で説得するが君が参加するには条件がある」
博が話しを切り替える。
「条件?」
「君はアスペルガー症候群の他にヒステリー障害があるから心療内科やカウンセラーを受ける事。それと調査団として活動するなら二人以上で行動する事。二人の妹以外とね」
「え?妹以外と?」
「イスラと組む事になる。この調査や作戦には敵のバリアや結界の破壊や邪眼が必要でね。カメレオンや他の時空侵略者への使用を許可が出ている」
博は声を低めた。
嫌な顔をする飛鳥Ⅱとイスラ。
「チームのリーダーや隊長の指示に従う事。イスラ。君はアメリカやEU、イギリスの警察から逮捕状が出ている。窃盗や密入国に脱獄にパスポート偽造・・・いろんな事をやっているね。五〇年は刑務所から出られない。チームに入るのは減刑の意味もある。飛鳥Ⅱ。君は横浜船籍で日本郵船所有だが日本に帰って入港の賃料が払えなければ入港できない。クルーズも相次いで延期や中止でミュータントに戻っても仕事はない。そのうえ、殺人事件は解決していないから容疑者として刑務所に収監されるだろう」
博は説明した。
黙ってしまうイスラ。
「まるで犯罪者扱いね」
不満げに言う飛鳥Ⅱ。
「調査や作戦の目的は敵の殲滅も含まれる。あなた方は国連特命チームの支援チームとして動く事になる」
博は冷静に言う。
「米軍のミュータントのコアをえぐるの?」
飛鳥Ⅱが聞いた。
「アメリカは日本と同盟国でNATOと米軍は協力関係にある。同盟国の戦闘艦を殺せば当然、刑務所行きになる」
トリップがあきれる。
「本当にダメな姉」
ささやくセブンシーズマリナーとボレアル。「でも米軍とイスラエル軍は月夜の花を
狙ってやってくる」
シンフォニーが心配する。
「それは俺達が足止めをする」
黙っていた間村が口を開く。
「そのために俺達はいるんだ」
アッシュがはっきり言う。
「あなた方は客船よ。戦闘艦じゃない。潜水艦のミュータントがどこにいるのか見えるのは戦闘艦のミュータントだけ」
マリアンヌが声を低める。
「でもサラトガと戦ったから今度は追い払える」
食い下がるミレニアム。
「空母サラトガや遼寧はなんとかなってもカメレオンクイーンの空母波王はそれでは倒せない。出会ったらエサになるだけ。深追いしないで国連軍と合流する事」
レナが注意する。
うなづくミレニアムとフォーチュナ。
「イージス艦の能力をコピー能力でコピーする事は可能です」
ひょろっとしたアルビノの男性がわりこむ。髪は銀髪のアフロヘアーである。
「君は?呼んだのは誰かね?」
博がたずねた。
「私が呼んだの。アルタニア号のパオリ。あの客船にまかせられないから」
アマデアが飛鳥Ⅱを見ながら紹介する。
飛鳥Ⅱとアマデアは睨んだ
「僕なら強襲艦の能力をコピーできるし変身も可能です。四万トン~六万トン前後の船舶なら変身できます」
アピールするパオリと呼ばれた男性。
「アルタニア。君は客船だ。戦闘艦と戦うようにできていない。支援チームに入りたいのなら二人以上で組む事」
博が注意する。
「はい」
うなづくアルタニア。
「・・・以上で話は終る」
博はそう言うとレナ、タリク、トリップと一緒に退室した。
「・・・君はアルビノでランディと同じように最初からマシンミュータントなんだね」
手を差し出す翔太。
「パオリです。よろしく」
握手するパオリと翔太。
「君は最初から船のミュータントなのか?」
驚く三神と朝倉。
「僕は赤ん坊の頃、ノルウェーのベルゲン港に捨てられていた。ハンターになってTフォースに入ったのも自分はどこから来たのかルーツを知りたいんだ」
うなづきどこか遠い目をするパオリ。
「苦労しているな」
しれっと言う朝倉。
「あなたはランディを知っているの?」
大浦がわりこむ。
「去年。クルーズで横浜に寄港して彼だけでなくロイヤルウイングや氷川丸に会った」
うれしそうに言うパオリ。
「最初から船のミュータントは珍しいわね」
佐久間とマリアンヌが近づく。
「そうだね」
翔太がうなづく。
乗り物と融合するとマシンミュータントはほとんど職業を制限されてしまう。最初からマシンミュータントだとおのずと就職先も決まってしまう。
「翔太。この人が船に変身するとあの船にそっくりだよ」
智仁はタブレットPCの画像を見せた。
「君は変身すると飛鳥Ⅱやクリスタル・シンフォニーにそっくりだね」
驚く翔太、智仁、三神。
「よく言われます。クルーズのない日にボレアルとアマデアと一緒に日本に遊びにきてにっぽん丸とふじ丸も驚いたし、ランディと一緒にいた来宮兄妹もびっくりしていた」
後ろ頭をかくパオリ。
「なんで日本に?」
朝倉がわりこむ。
「日本のアニメや漫画が好きでコミックマーケットに来ただけなんだ。コミケだけでなく「ニコニコ超会議」に行った時はミレニアムとサミットやルビーやクラウン、フォーチュナも来ていた」
パオリが思い出しながらタブレットPCを見せた。画像に背の高い男女が映っている。
「マーベルコミックや日本のアニメや漫画が好きなミュータントは多いし、ニコニコ超会議も有名だから来るんだよ」
パオリが言う。
「なんか聞いた事があるな。向こうでは日本の和食やお弁当が人気だって」
沢本がわりこむ。
「人気だよ。フランスだと弁当専門店があって公園で食べるんだ」
パオリが弁当の写真を見せる。
写真をのぞく翔太達。
さすが美食の国。弁当もおしゃれである。
「パオリちゃん」
セレニティとシンフォニーが近づく。
「イレーヌ。イザベラ。おひさしぶり」
二人とハグするパオリ。
「パオリいたんだ」
「マフィンとカミラ。ひさしぶりです」
「本名で呼ばれるのはひさしぶりだけど船名でいいよ」
ミレニアムとサミットが言う。
「佐久間さん。僕達もサラトガやエイラート達の足止めするし、役に立つよ」
パオリが提案する。
「いいけど。無理はしないように。それが条件よ」
佐久間は腕を組む。
「たくさん暴れられる」
手をたたき合うフォーチュナとミレニアム。
「ただ暴れたいだけね」
しゃらっと言うマリアンヌ。
「翔太君。僕は捨てられた時から持っていた物があるんだ」
パオリは小さい袋から琥珀球を出した。
琥珀球をのぞきこむ翔太、ミゲル、智仁と福竜丸。
「地図だ」
福竜丸がのぞく。
ミゲルは装飾がほどこされた虫眼鏡でのぞいた。
「これは?」
翔太が聞いた。
「王族関係者に継承されている時空遺物専用リーディングストーン。大昔の学者は目が悪くなるとこの石で書物を読んでいた」
ミゲルが答えた。
智仁と福竜丸が首をかしげる。
「・・・地図だけど半分?」
ミゲルがのぞきながらつぶやく。
「太平洋なんだけどなんか足りない。たぶんもう一つ琥珀球がある」
翔太は壁に貼ってある世界地図に時空コンパスを近づける。すると日本を針はさした。
「たぶんランディだ。彼が琥珀球を見せてくれた事があるんだ」
あっと声を上げるパオリ。
「横浜に戻ろう」
翔太はうなづいた。
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