第5話 調査団「月夜の花」
銀座にあるTフォース支部
ビルの三階分のフロアに魔術師協会とTフォース支部のテナントが入っている。
部屋に翔太の父である博と翔太、ミゲル、香坂国連大使が顔をそろえている。彼らと向かい合って座るのは数人のアラブ人の男女がである。
「私はミゲルの父のファタファです。隣りが駐日大使のオーグリム大使。王立警備隊の司令官アダマです」
ファタファと名乗ったアラブ人は流暢な日本語で自己紹介した。
「日本語しゃべれるのですね」
驚く翔太。
「少しはわかります」
答えるファタファ。
「我々も日本がおかれている立場はわかっています。脱石油と経済政策という名目ですが紅海や地中海、砂漠で小さな時空の亀裂とそれにともなう蜃気楼がひんぱんに出現したり、砂丘に紅色の綿毛が散らばっているのが地元の住民が発見しているのが多くなってきているのです。サウジだけでなくオマーンやUAE,ヨルダン、エジプトで報告されているのです」
地図や写真を出すオーグリム大使。
「すごい蜃気楼が五個も出てる」
翔太がわりこむ。
「時空の穴は出ていないみたいですね」
身を乗り出すミゲル。
「イスラエルとの国境地帯に多く発生する傾向があります」
アダマ司令官が答えた。
「イスラエルとアメリカは同盟関係で後ろ盾でもある。そして何かを血眼になって探しています」
ファタファが声を低める。
「彼らが探しているのは「月夜のスズラン」
と難民の中に金属生命体とのハーフと時空の出入口を作り出せる能力者や時間を操作できる能力者を探しているのではないかと思われます」
結論を言う翔太。
「代表部から聞いたのですね。難民の中にはそういう能力者をハンターとして雇ったりしているのですが共通するのはその三つと時空遺物を探している事です」
アダマは難しい顔をする。
「月夜のスズランは時空異変や亀裂が多く発生する場所に咲く花でそれを手に入れると素人でも時空を操作できる。時空の出入口を自在に造り出せる能力者がいればどこにでも軍隊を送り込める。金属生命体とのハーフがいれば特殊部隊に組み込める」
博は花の写真を出して説明する。
写真には七色のパステルカラーの花をつけたスズランがある。
「別の難民が言うには月夜のスズランの場所を知る生き残りを探しているそうです」
オーグリムが難しい顔をする。
「本当にそんな花や能力者を探し出してどうするのでしょうか?」
香坂大使がたずねた。
「時空侵略者と取引を考えているのか仲間にしようとしていると思われます。イスラエルやアメリカが常時、優秀な能力者を募集するのは逆に時空侵略者を利用しようとしているようです」
ファタファが答えた。
「そんな事をすればサブ・サンのような侵略者を入れてしまう事になり歴史が改ざんされてしまう」
危惧する翔太。
「我々も長年アメリカを最重視してきましたが大幅な政策の転換をはかろうとしている。スレイグはイスラエルに一国二制度でも一国だけでもいいと言った。ようはイスラエルの好きにしてという事だ。サブ・サンが侵入してくるきっかけを作ったのはアメリカの実験でイスラエルは奴らを利用しようとしている。そんな事をしてれば奴らがもっと侵入して「八王子魔物侵入事件」のような事がリヤドやアブダビ、カイロでも起こる事になる」
オーグリムは声を低める。
「僕達はそのためにイスラエルのガザ地区やヨルダン川西岸に行って調査をしたいです」
翔太は思い切って言う。
「僕は現地へ行けない知人の代わりに手紙を出した人を連れて帰りたいです」
ミゲルが口をはさむ。
「イスラエルに入国するには普通に入国できる。ガザとヨルダン川西岸地区はハンターやTフォース隊員、国連職員も許可がなければ入れない。それにあの二つの地区は魔物が普通に出没する。魔物も強力なものばかりだと聞く」
オーグリムは首を振る。
「エジプトとの検問所は?」
翔太がたずねた。
「イスラエルとの共同管理だから向こうが首を縦に振らないと開かない。サウジアラビアからでも入れるが入国審査が空路にくらべて厳しい」
うーんとうなるオーグリム。
「異変を放置すれば南太平洋のカメレオンタワーのような事が地中海でも紅海でも起きてしまいます」
訴えるように言う翔太。
「それは我々も同じ。アラブ諸国連盟が集まる議会でも一致している」
ファタファがうなづく。
「イスラエルは入っているのですか?」
ランディがたずねた。
「はじめから出てないよ」
ミゲルが答えた。
「我々としてはアラブ諸国連盟の代表として特命チームの調査の要請をしたい」
オーグリムは言った。
その頃。Tフォース新木場支部
この先、どうすればいいのかわからない。
ケインは何枚かのFAXを見て頭の中が真っ白になっていた。
キャバクラとモデル事務所の解雇通知に家賃解約通知、魔術師協会とハンター協会の資格証更新書類と借金の請求書があった。
ケインはため息をつくとビール中ジョッキを飲む。テーブルの上にビールビンが八本もあり、蓋が開き、彼女の目は据わっていた。
「ずいぶん飲んでいるわね」
その様子をモニターを見てつぶやく大浦。
「この二日間でいろいろな事が起きているわね」
三島がお茶を飲んだ。
「曽祖父の殺人事件にパレスチナ代表部の襲撃に遺体遺棄事件、領海内でイスラエル軍のミュータントが襲ってきた」
佐久間は口を開いた。
「あの駆逐艦エイラートはなんで日本に来ている?」
三神は疑問をぶつけた。
「連中は在日米軍との演習で来日していた」
間村がわりこんだ。
「サラトガに聞いたら打ち合わせで来ていたらしい」
室戸が書類を出した。
「イスラエルでやればいいのにわざわざ日本に来て打ち合わせって変だろ?」
霧島がたたみかけるように言う。
「確かに変だ」
声をそろえる朝倉と貝原。
「エイラートは元はイギリス軍の駆逐艦で戦後にイスラエル軍が購入。第一次~第四次中東戦争を切り抜けている猛者で隊長をやっている。その部下も比較的最新艦でも紛争地を経験している」
間村はプロフィールを出した。
「軍歴がすごいな。部下も紛争地を渡り歩いている」
感心する三神達。
「そのエイラートは飛鳥Ⅱが好きでぞっこんだった感じね。さっきも未練たらたらよ」
大浦が思い出す。
「彼女はモデルもやっているしすごいモテモテなのは事実ね。人間やミュータントの愛人がいるし、駆逐艦だけでなく潜水艦のミュータントの愛人も数十人いた」
羨ましそうに言う佐久間。彼女は写真を何枚か見せた。全部、彼女の愛人である。
「すごいハーレムじゃん」
朝倉が破顔する。
「こいつの電子脳は空っぽだな」
しれっと言う室戸。
部屋に入ってくる数十人の中国系、東南アジア系の沿岸警備隊の隊員達。全員、沿岸警備隊チームメンバーである。
「アラブ諸国連盟から特命チームの要請があったのは本当か?」
李紫明が聞いた。
「本当よ。メンバーにあの客船も入れる事になっている」
佐久間は監視カメラ映像を指さす。画面ではケインは酔いつぶれ寝ていた。
「あの船。他の民間船のミュータントの間では評判が最悪よ」
アニータは腕を組んだ。
「人間や普通のミュータントの評判はすごいいいんだけど船のミュータントとほぼ付き合いがない。人間とミュータントの愛人も数十人くらいいる。戦闘機やフリゲート艦の愛人が何十人もいる。それだけモテるんだな」
困惑するアレックス。
「むらさき丸やロイヤルウイング達が嫌がるのはわかるな。タグボートや水先案内船まで嫌われる客船なんていない」
画面をチラッと見る三神。
「彼女は今は民間船のミュータントから村八分と同じ状態だね」
心配する朝倉。
「それはそうよね。人間やミュータントにいい顔ばかりして取り入ってればおのずとそうなるわね」
烏来がはっきり言う。
「自業自得ね」
ペクは腕を組んだ。
「同情なんてしないわ」
当然のように言うリドリー。
「女同士は熾烈だな・・・」
李鵜とキムがぼそっと言う。
「でも彼女のバリアを自在に使う能力は凄腕だし、相手の動きも見ている。彼女がイージス艦だったら無敵よ」
助け舟を入れる佐久間。彼女は画面を切り替えた。そこには民間船から護衛艦まで集まった訓練の映像である。そこでにっぽん丸とふじ丸相手に戦う姿や佐久間と戦う姿が映っている。
「客船じゃなかったら彼女は最強だな。たぶんオルビスやリンガムと戦っても勝てる」
アレックスが指摘する。
「アデプトにいる時はどうだったの?」
佐久間が聞いた。
「クレームもなく苦情もない。命令どおりにやるし、指示通りに忠実に遂行する。現役の隊員や兵士がやらない命令もためらいもなく遂行。格闘能力も高く、武器の扱いも手馴れている。ついたあだ名が「脳女」「戦争狂の女」ようするにバトルが三度の飯よりも好きというやつ」
アレックスは資料を出して説明した。
「脳女って何?」
アニータが聞いた。
「映画「脳男」のように感情のない男が悪人を無表情に倒していく。つまりケインも指示待ち人間で無表情に何の感情もなく戦う傾向があるって事」
アレックスが指摘する。
「そして死んだ者の血を舐めるクセがある」
リヨンが首をかしげる。
「なんか僕に少し似ている。かつては僕もそうだったからね。死んだ人の血を舐めればなんか情報が得られると思っていたんだ」
貝原がどこか遠い目をする。
「おまけにアスペルガー症候群で、症状の中には指示がないと動けないとか人とのコミュニケーションが取れないとかある。彼女はその典型じゃないか」
グエンがわりこむ。
「具体的な治療はないけど支援はできる。俺や三神も貝原もADHDだけどうまくやれている」
朝倉は身を乗り出す。
「今回は戦えない第五福竜丸の代わりに手紙の主を探しに行く。その前に精霊ピーを移す儀式をしていくのだろう?」
リヨンが聞いた。
うなづく三神。
「確かにそれは可能だ」
フランがうなづく。
「大型客船ならそれはできる。強力なエンジンや燃料タンク、エネルギータンクにバラストタンク。損傷受けて幾層もの船室や防水扉、防水区画が防いでくれる。だから客船は兵員輸送船として使えるし、魔術も高レベルのものを使えるから戦える」
当然のように言うアレックス。
「ガザ地区にいるドゥロス・フォス号は評判がいい。彼女自身も修道女で難民救済の活動をしている。人間やミュータントだけでなくマシンミュータントからも慕われている」
間村が資料を出した。
「ドイツの慈善団体からTフォースに捜索依頼が出ている。ドゥロス・フォスと一緒にイスラや他の客船や帆船のミュータントがガザ入りしている。帆船は五隻で現役で客船として活躍しているし、その船会社が捜索依頼をしてきた」
李紫明が捜索依頼書類を見せた。
「アラブ諸国連盟が特命チームの要請を出してきたらみんな依頼を出してきた感じだ。だがイスラエルとアメリカは反発しているし、飛鳥Ⅱが特命チームに選ばれた事を知った乗客達の問い合わせやクレーム電話がTフォースや自衛隊、国連事務所に殺到している」
FAXを見せる沢本。
「それは第五福竜丸の時だって同じだったじゃないか」
間村がため息をつく。
「彼女を入れるには問題がある」
アレックスが話を切り替える。
「まず借金だろ」
貝原がわりこんだ。
「詳細を調べたら闇金ばかり。法定金利を大幅に超える違法業者ばかりだ。まっとうなのは数社しかいない。弁護士を紹介するし過払いだから払わなくていいのもある」
間村が詳細を出した。
「おまえの実家は貸金業だろ。まっとうな事もやるんだ」
感心する霧島。
「普通に考えてみろ。借金で二十億はおかしいし、親戚に入れ知恵した奴がいるにちがいない。それに船会社は手放すとは言っていないが世界情勢で国内、周辺クルーズが中止になり、世界一周クルーズも延期になっている。クルーズの仕事がない時は勤務していたキャバクラとモデル事務所を解雇され、住むアパートもない。無職と同じだ」
間村が指摘する。
「殺人事件の重要参考人でパスポートを申請しないと不法滞在で強制送還になる。いっぺんに不運がやってきた感じだ」
肩をすくめる室戸。
「仲間にするのはわかったけど海上であんな大型の客船を止めるのは俺達だけじゃ無理だぞ」
沢本が困った顔をする。
「それはわかっている。フランス軍のマリアンヌやアッシュに止めてもうしかない。イスラエルの周辺国にシリアがある。その関係でロシア軍もいるからピョートルも来る」
間村が地図を出した。
「周辺海域にはサラトガ達も来るのか?」
三神が聞いた。
「ジョコンダも来る。空母「セオドア・ルーズベルト」も地中海に展開している」
霧島が答えた。
「壁の中に入る許可は出たのか?」
李鵜が聞いた。
「まだ出てない。最悪、ガザの海側の結界に穴を開けて入るしかない」
間村が難しい顔をする。
「結界を破壊なんて不可能だ」
李鵜やキムが声をそろえる。
「彼女はバリアを自在に操れる相手のバリアを破壊できる能力だ。他国の結界だって破壊できる。もともと持っている能力だ」
間村が資料を出した。
「だからアデプトからオファーが来たんだ」
納得するグエン達。
「魔術師としてもハンターとしても上級で妹二人も実力は申し分ない。妹二人も念写ができて空間と空間をつなげる事ができてそれを操れるし障害もない」
アレックスが指摘した。
「今回は沿岸警備隊チームは要請がないが連絡があれば加勢する」
李鵜が名乗り出る。
「そのつもりだ」
うなづく間村。
「出発はいつ?」
李紫明が聞いた。
「明日になる」
同時刻 都内にある首相官邸
会議室に閣僚達が顔をそろえていた。
「葛城長官、ファタファ書記官、オーグリム大使、アダマ司令官。特命チームにクルーズ客船のミュータントを入れるのは本当ですか?」
外務大臣が口を開いた。
「今回は結界やバリアを破壊して入る事になります。異変を放置すれば周辺国にどんどん広がり、南太平洋で起きた事が地中海や紅海で起きる事になる」
オーグリム大使はアルジャジーラの動画を見せた。そこには砂漠の砂丘に漂う紅色の綿毛や赤いオーロラや都市の幻影が五個出ているという映像がある。
「現役の客船である事は知っている」
ファタファが口を開く。
「現役の客船でその乗客達が国連事務所や防衛省、自衛隊にクレームと苦情が終日鳴りっぱなしだ。国交省にもクレームが殺到している」
国土交通大臣が口を開く。
「結界を壊せるものなのですか?」
三宅総理が難しい顔をする。
「飛鳥Ⅱと融合しているケインは子供の頃、港の結界を自分の作り出すバリアでヒビを入れた事がある。その時は六歳の子供で強い能力はない」
博はプロフィールを出した。
「米軍に入隊経験がありますね。階級は少尉で優秀なハンター。紛争地の任務が多かった。そして除隊してクリスタルクルーズ社に機関室勤務の乗員として勤務してハーモニー号と融合。ハーモニー号の時にアデプトからオファーが来て一年赴任。アデプトを一年でやめた後に日本郵船からオファーが来て飛鳥Ⅱとして来日した」
石崎防衛大臣が指摘する。
「そんな優秀なら米軍を除隊してアデプトも一年でやめるのかね?」
官房長官が疑問をぶつけた。
「その時は精神的な不調で辞めています。アデプトは駆逐艦のミュータントが猛烈にアタックしてきたそうです。俗に言うナンパしてきて彼女は彼を振ったのですが彼はあきらめられずストーカーしてきて逆に裁判で訴えられて彼女に二十キロ以内の接近を禁止させられた」
博は答えた。
「よくある男女の問題ですね」
しれっと言う厚生労働大臣。
「イスラエル政府は特命チームや国連職員の入国の許可はしていない。しかし異変が続けば彼らも受け入れるしかなくなる」
外務大臣が声を低める。
「国連やアラブ諸国連盟だけでなくNATOや欧州諸国の要請がありイスラエルやアメリカは無視できないと思われます」
石崎防衛大臣はいくつかの書類を見せた。
「ガザ地区に入った慈善団体やNPO、国連職員の捜索願いが船会社やハンター協会から来ているのです」
オーグリム大使が口をはさむ。
「専門家の試算によればガザ地区は二十メートルの壁と結界により数年で居住不可能になると言われている。壁の中には魔物が頻繁に出没し、作物や漁もできず、物資もないのが理由ですね。限界に達した人達は壁の外へ出て他国の難民キャンプに流れて難民になるか移民になる道しか残っていない」
厚生労働大臣が声を低める。
「それだけでなく難民キャンプで異変が起きておりその調査も含まれる」
三宅総理が口をはさむ。
「原因はサブ・サンだが作戦の失敗が続いていて大小のタイムラインがなくなりあとは大きな博打を打つか帰る選択を迫られていると思われる。よって彼らは動けないと見ている。動きたくても動けないがカメレオンは自由に動いている」
アダマ司令官はモニターをつけた
「カメレオンの生態は一部しかわかっていない。時空の亀裂の影響でこの魔物の目撃されている」
画像や絵に緑色の体色に牛や羊の角を持ち頭部には銅鐸にあるような模様がついている。両目は赤い。赤い目はその魔物が魔性である事を示している。
「これは?」
「饕餮(とうてつ)と言います。中国の魔物ですが目撃されたのはダダーブ難民キャンプです。あれは地上にしかいない魔物で海上は渡れません。彼らを乗せたのがカメレオンだとすれば大変な事になります」
博は顔を曇らせる。
「饕餮は体長がライオンやトラと同じ。興奮するとこの模様が赤く光る。中国の逸話には群れを作って万里の長城に押し寄せて戦った事が書かれていますが正確な生態はわかっていません」
アダマは画像を切り替える。
「今、言える事はカメレオンと同じ行動範囲に饕餮がいる事です。何者かが封印を破ったに違いないです」
博が危惧する。
「確か「グレートウオール」という映画がこの前、上映されたね。あれにも同様のモンスターとの戦いがあるがあれは伝説のうちの一つではなかったのかね?」
三宅総理が身を乗り出す。
「あれはあくまでも伝説や逸話の一部を描いたにすぎませんが誰かが封印を破り、召喚したのは間違いないです。今回はそれの調査が含まれます」
博は答えた。
その頃。新木場支部。
会議室に特命チームの日本メンバーが顔をそろえていた。
「話って何?」
ケインは口を開いた。
「あなたは特命チームに入ってイスラエルのガザ地区に入る事になる。イスラエル政府の許可は出ていないから海側から結界を壊して入る事になるわ」
佐久間は海図を見せた。
「冗談でしょ」
戸惑うケイン。
「今回は国連とアラブ諸国連盟、NATO、EUの要請で行く事になる。ガザ地区で連れ戻した後、難民キャンプの失踪事件の調査になるの」
佐久間は難民キャンプの写真を何枚か出して地図を出す。
「日本郵船の所属で横浜港船籍のまま国連とTフォースの所属する船として行く事になる。借金問題は大部分の借金は払わなくていいって羽生さんや間村が話をつけてくれたの」
「本当?」
「ほとんど過払い請求で闇金ばかりだったから警視庁も動いている。FBIが動いてアメリカにある実家も取り戻せるかもしれないし、祖父の名誉も回復になるわ。入れ知恵した奴をFBIが捜索しているわ」
「やっと一緒に暮らせるんだ」
泣き出すケイン。ハンカチでぬぐう。
「あなたの祖父はいろんなものを所有していてイスラの祖父や葛城茂元長官、氷川丸、第五福竜丸とも親交があった」
佐久間はジュラルミンケースを出した。
「これを知っている?」
大浦が聞いた。
「コペルニクスの腕輪。もともとはイスラの祖父の物よ」
ケインが怪訝な顔をする。
「カラムという隊員が持っていてそれをランディに手紙と一緒に届いた」
アレックスが答えた。
「そのイスラはドゥロス・フォン号と一緒にガザ地区にいる。連れ帰り、難民キャンプでの連続失踪事件の調査をする事だ」
間村は口を開く。
「私はイスラと仕事をするのはごめんだけどあんた達とならするわ」
本音を言うケイン。
「それとパスポートとハンターと魔術師資格証は申請した」
佐久間はパスポートやいくつかの資格証を渡した。
「各地の港を利用する事になるけどそれはTフォースが賃料を払う。入港の賃料は心配しなくていい」
間村が笑みを浮かべる。
うなづくケイン。
「調査が終わり、戦いが終ればあなたは再びクルーズ船として仕事に就ける」
佐久間は自信持って言う。
「そうなるといいわね。クルーズ船だけでなく定期船といった旅客船のミュータント達は戦争に巻き込まれるのではないかと思っているのよ。サブ・サンも想定外な事が起きていると見ていいし、カメレオンは進化して知性がある」
ケインははっきり指摘する。
「それは僕達も南太平洋の事件や南シナ海でも経験している。尖閣諸島の戦いよりも進化している」
翔太は身を乗り出す。
「カメレオンにはクイーンがいてそいつが指示を出している。たぶんサブ・サンの命令では動いていない。そしてどこかに総司令部や中継基地があり、情報収集艦がある。子供が生まれないのは地球の環境や大気が合わないからだ」
三神は声を低めた。
「それは今まで経緯を見て知っている。カメレオンはイナゴのように渡り歩くけど敵によって戦略を変えている。今までは卵から生まれるけどこのまま行くと人間やサメのように胎内で育てて生まれる方式に変わる。でも女王が命令を出す生態は変わらない。子供が生まれないなら客船を奪ってクイーンと融合させて孵化船を造るわ。氷川丸やクイーンメリー号、フランシス、ベクシルにも言ったけど相手にされなかった。祖父の論文も見せても家が没落したら相手にされなかった」
ケインは訴えるように言う。
「みんな実際に起きるまでは信じられなかった。いざ相手にしたら想定外の事ばかり起きたと言える」
レベッカは口を開いた。彼女はタブレットPCに祖父の論文を出した。
「封印されている魔物の知性は発達して進化しているなんて信じていない。でもカメレオンを見て思い知った。そして時空の亀裂と月夜の花の関係の論文も書いている」
佐久間がわりこむ。
「遅いでしょ!!」
目を吊り上げるケイン。
「あなたの祖父やイスラの祖父の名誉は回復される。論文も見直されている」
それを言ったのは福竜丸である。
腕を組みにらむケイン。
「だからドゥロス・フォスの手紙を君に預け、コペルニクスの腕輪をイスラに届けてほしいんだ。僕は高次脳機能障害やこの体じゃ行けないし、ランディはひよっ子ハンターで長距離は飛べない」
福竜丸は視線をそらす。
黙ったままのランディ。
「ランディ。納得したの?」
ケインは聞いた。
「納得したからここにいる」
ランディは不満げな顔で腕を組んだ。
「わかった」
ケインはしぶしぶうなづく。
「任務は難民キャンプの難民消失事件とスカンジナビア号の捜索になる。特命チームはエジプトのアレキサンドリアにあるTフォース支部を拠点になるわ」
佐久間は言った。
二日後。
会議室でケインは窓からのぞいた。
窓から見える海は横浜港や東京湾ではなく地中海である。ここは日本ではなくエジプトのアレキサンドリアにあるTフォース支部基地である。地中海へは世界一周クルーズで何度も来た事がある。
ケインは二階の窓から飛び降り、岸壁に出て海図を出す。
ここからイスラエルは目と鼻の先である。
岸壁に接近する六隻の巡視船。海上保安庁の巡視船「やしま」「あそ」「かいもん」「つるぎ」「こうや」とアメリカ沿岸警備隊の巡視船「ジャービス」がいる。
「やしま」のヘリ格納庫から顔を出す翔太、ミゲル、佐久間、オルビス、貝原と李紫明。
「乗って。偵察よ」
佐久間は手招きした。
「もう偵察?」
戸惑うケイン。
「時間ないの」
せかす佐久間。
しぶしぶ飛び乗るケイン。
六隻の巡視船は港から出て地中海に出た。
接近してくる三隻の他国の巡視船。
「リヨン、リドリー、ベレッタさん」
翔太は船橋ウイングから出てくる。
リヨンはイタリア沿岸警備隊の巡視船でリドリーはロシア、ベレッタはフランスである。
三人とも沿岸警備隊チームメンバーである。
「イスラエル政府の許可は出ていないが接近できますか?」
三神が聞いた。
「領海ギリギリなら接近できる。地中海で米軍の空母が警戒しているから気をつけろ」
リヨンが海図と位置を送信する。
「空母セオドア・ルーズベルトね。あれは普通の空母ね。空母サラトガがどこにいるか知っていますか?」
沢本が聞いた。
「在留米軍基地にいると思っている。トルコかイタリアかフランスにいるだろう」
ベレッタが口をはさむ。
「じゃあジョコンダも来ているな」
しれっと言う朝倉。
「イスラエル軍の艦船が警戒している。領海に入れば躊躇なく撃ってくる」
リドリーが注意する。
「それなら心配しないで。私は駆逐艦エイラートやハガネや戦闘機のミュータントの愛人だしデートした事があるの」
自信ありげに言うと海に飛び込み、緑の蛍光とともに客船「飛鳥Ⅱ」に変身した。
「大丈夫。接近できる」
飛鳥Ⅱは船首をテルアビブ港に向けた。
「本当に大丈夫だろうか?」
貝原と朝倉が心配する。
「ケインさん」
翔太が無線ごしに聞いた。
「船名でいいよ。いつも船名だったからね」
飛鳥Ⅱが答えた。彼女はエンジンを始動させて進んだ。
しばらく行くとテルアビブ港が見えた。
「飛鳥Ⅱ。僕達はイスラエル軍に追尾されている」
オルビスが注意して不審船の位置を送信。
「知っている。ガザ地区の港でなくても追跡される。船名を教えてくれる?」
飛鳥Ⅱは声を低める。
「駆逐艦エイラート。コルベット艦ハガネ。
フリゲート艦「ロマット」「ヘッツ」です。全員ミュータントです」
オルビスが報告する。
「どうするの?領海に入ればパスポートの提示を求められる」
リドリーが聞いた。
「このまま進んで私が誘うわ」
しゃらっと言う飛鳥Ⅱ
「イスラエル軍の無線が飛び交っている」
貝原が心配な顔で耳を傾ける。
飛鳥Ⅱはスピードを落としてテルアビブ港に接近した。
「♯$%*&@」
鋭い声が聞こえて接近してくる四隻の艦船。
「ヘブライ語よ」
ベレッタがささやいた。
ミゲルと翔太は翻訳機を出した。
「翻訳機はあるさ」
三神がつぶやく。
「そこの客船と巡視船。パスポートを見せてもらう」
翻訳機から日本語やアラビア語、ロシア語、フランス語、英語、中国語に変換される。
「ねえエイラート。私とデートしない?」
飛鳥Ⅱが誘った。
「俺達は警備している。任務とプライベートは別だ」
エイラートが語気を強める。
「そこのロマットは高級店に誘ったのはいいけどお金がなくて私が払ったし、まだ返してもらってないし、エイラートも十万位借りて返してもらってない」
飛鳥Ⅱが指摘した。
「そうだっけ?」
言いよどむエイラートとロマット。
「それにエイラートは裁判で二十キロ以内に接近してはいけないという決まりになっているし、接近しましたという証拠ビデオは撮れている」
飛鳥Ⅱはピシャリと言う。
「いや・・・その・・・」
エイラートの艦橋の二つの光が泳いだ。
「パスポートを見せろ」
ロマットが言う。
船橋ウイングにいた翔太、ミゲル、佐久間、オルビス、アレックス、李紫明はパスポートを見せた。
三神達は船内からパスポートを出した。
ヘッツ、ロマット、ハガネはヘブライ語でひそひそささやいた。
「許可は降りないようですね」
オルビスはささやき声を翻訳した。
「そうでしょうね」
リドリーが納得する。
「イスラエル政府からは入国許可は降りていない。この領海から出ていてもらう」
ロマットがビシッと錨で指さす。
ヘッツやハガネは三神達にパスポートを返した。
「エイラートだっけ。異変が起きているのに気がつかないのか?」
三神は声を低めた。
翻訳機から日本語がヘブライ語に変換されている。
「そんなものは起きていない」
エイラートは声を低める。
「本当はイスラエル政府内部に入られてわからないじゃないの?」
大浦が核心にせまる。
「アメリカと一緒にいつもいるならアメリカ政府にも入り込んだかもよ」
朝倉がわりこむ。
リドリーやリヨン、ベレッタはそれぞれの国の言語で言う。
「俺達は任務で動いている。政府内部に入り込んだという情報はない」
機関砲を向けるヘッツ達。
「戻りましょう」
それを言ったのは飛鳥Ⅱである。
「そうしましょう」
うなづく佐久間。
三神達は領海を離れた。
「オルビス。サラトガがどこにいるかわかる?」
飛鳥Ⅱはひらめいた。
「ここから百キロ離れたイスタンブール沖にいる」
オルビスが海図を送信した。
「どこに行くの?」
あわてて追いかけるリドリー達。
「サラトガの所」
しゃらっと答える飛鳥Ⅱ
「もしかしてまたデートをしようとか申し込むのか?」
朝倉が聞いた。
「あんただってよく電話番号を聞いているからそれと同じ事」
当然のように言う飛鳥Ⅱ
「俺はそんなに聞いて回ってない」
否定する朝倉。
「同じレベルで競り合っているわね」
あきれるベレッタ。
ムッとする朝倉。
「イスラエル軍のヘリコプターや戦闘機のミュータントがずっと上空から追跡している」
タブレットPCの海図を見せるオルビス。
「警戒しているわね」
佐久間のつぶやいた。
イスタンブールから百キロ沖
飛鳥Ⅱは空母「サラトガ」に接近した。
「ねえ。サラトガ。デートしない?」
誘う飛鳥Ⅱ
艦橋の窓に二つの光が灯る。
サラトガのそばに強襲艦「エセックス」沿岸戦闘艦「フリーダム」「リトルロック」がいるのは知っている。
「なんでおまえとデートしないといけない。俺達は任務で来ている」
そっけなく言うサラトガ。
「この前はデートしてくれたし一緒にホテルに入ったじゃん」
はっきり指摘する飛鳥Ⅱ
「ちょっとぉ!何さそっているのよ」
エセックスが声を上げた。
立ち止まる飛鳥Ⅱ。
「黙りなさいよアイリス」
「そっちこそ黙りなさいよ」
船体ごと向きを帰るアイリス。
シャアアア!!ガルル・・
舳先をつき合わせて威嚇する二隻。
ため息をつく三隻。
「またポンコツ司令部の命令で来たの?」
飛鳥Ⅱが指摘する。
「太平洋艦隊司令部からに決まっている」
アイリスが答える。
「ねえ。あんたはイスラエルに入国できるの?」
飛鳥Ⅱが質問を変えた。
「それを聞いてどうするのよ。残念よね。港に入港もできないって」
わざと言うアイリス。
「入港できるわよ。ちゃんと払ったわ。ブス女。女ギツネ」
悪態つく飛鳥Ⅱ。彼女はフランス語やイタリア語でののしった。
「黙りなさいよ!!」
アイリスは二対の錨と四対の鉤爪を出してその鉤爪で飛鳥Ⅱの船体をつかんだ。
「何するのよ!!離しなさいよ。12デッキと10デッキが壊れる」
飛鳥Ⅱはもがいた。彼女は四対の鎖でエセックスの船体をえぐった。
「あの少年とイージス艦と巡視船はどこに行ったの?」
唐突に放すアイリス。
「さあ?探してみれば」
突き放すように言う飛鳥Ⅱ
「アイリス。俺達は基地に戻るけどどうする?」
サラトガが聞いた。
「待ってよ。あの日本人の子供を乗せた巡視船がどこかにいるはずよ」
アイリスが怪しむ。
「そういえばそうだよな」
レジーとレイスはあっと思い出す。
「そこの客船・・・」
「船名を言いなさいよ」
ピシャリと言う飛鳥Ⅱ
「飛鳥Ⅱ。海保の巡視船とイージス艦と一緒に来ているのを知っているし、さっきイスラエルの領海に近づいただろ」
サラトガは声を低めた。
「だから?」
「隠しているとよくないよ」
レジーとレイスが声をそろえる。
「じゃあ船内を捜索すれば?」
しゃらっと言う飛鳥Ⅱ
「レーダースキャンしたけどいないわ。探しに行かないと」
アイリスが船内の探査結果を送信する。
「他の海域を探すぞ」
サラトガは離れた。
「行ったみたい」
接近してくる小型船と貨物船。偽装が解けて元の巡視船に戻った。
飛鳥Ⅱは鉤爪で船内から許可証を沢本に渡した。
「これは?」
沢本が聞いた。
「米軍の許可証。アイリス達はイスラエルに入国できるわ」
飛鳥Ⅱが答えた。
「器用にスったんだ」
わりこむ朝倉。
「借用しただけ」
しゃらっと言う飛鳥Ⅱ
「テルアビブ港や空港に普通に「探索者」がいるからバレるわね」
リドリーがうーんとうなる。
「佐久間。テレパシーで操れない?」
飛鳥Ⅱが無線ごしに聞いた。
「操れても下っ端だけよ。中級、上級はテレパスに対する訓練もやっている」
佐久間は首を振る。
「俺達のレベルじゃ突破は無理だぞ」
三神がつぶやく。
「どこに行くの?」
大浦と三島が追いかける。
「イタリア」
飛鳥Ⅱはしゃらっと言う。
「大丈夫か?」
ささやくアレックス。
「心配というより人選ミスかも」
李紫明が小声で言う。
しばらく行くとギリシャ沖を抜けた。
「オルビス。追跡されている?」
飛鳥Ⅱが声を低める。
「NATO軍基地が近くにあるから追跡をしていない」
オルビスが報告する。
「そこの客船と巡視船」
「え?」
大型客船が二隻接近してくる。船橋の窓に二つの光が灯る。
「ケイン姉さん」
「イザベラ。イレーヌ?」
飛鳥Ⅱがあっと声を上げる。
二隻の船首の船名は「クリスタル・シンフォニー」「クリスタル・セレニティ」である。
二隻ともクリスタルクルーズ社所有の客船である。
シンフォニー。全長二三八メートル。五万一〇〇〇総トン。ケインの妹であるイレーヌ・シュゼ・ラフォーゼと融合している。
セレニティ。全長二五〇メートル。六万八〇〇〇総トン。三姉妹の末っ子であるイザベラ・ミューズ・ラフォーゼと融合している。
「本当に客船と融合していたんだ」
翔太とミゲルが声をそろえる。
「船橋にいるのは友達ですか?」
三神がたずねた。
「紹介するわ。アマデア。セブンシーズ・マリナー。コスタ・フォーチュナ。クリッパーオデッセイ。ル・ボレアル」
クリスタルシンフォニーは紹介した。
五人のミュータントのプロフィールや融合している客船の詳細が翔太達の携帯や巡視船のミュータント達の電子脳にも入ってくる。
アマデア。全長一九二メートル。二万八八五六総トン。
アマデアは元日本郵船の客船「飛鳥」だったが十一年前にドイツの船会社フェニックス社に売却されて「アマデア」に変わった。
セブンシーズ・マリナー。全長二〇四メートル。五万総トン。リージェント・セブンシーズクルーズ社の客船である
コスタ・フォーチュナ。全長二七二メートル。十万二五〇〇総トン。
イタリアのジェノバにあるコスタクルーズ社の所有の大型客船で大小の客船を十五隻所有している。
クリッパー・オデッセイ。全長一〇三メートル。五二〇〇総トン。もともとは日本の小型客船「おせあにっくぐれいす」だったがドイツの船会社に売却されて「クリッパーオデッセイ」として就航している。
ル・ボレアル。全長一四二メートル。一万七〇〇総トン。
外観はヨット・クルーザー型のスマートな
形状をしており、港湾設備の整っていない入江等にも寄港するため、上陸用のテンダーボートやゾディアックボートへ移乗し易いよう、船尾水線部にデッキを設けている。 夏期は地中海や北欧、冬期は南米を中心に就航している。
「ここにいると嫌でも米軍がやってくる」
朝倉がわりこむ。
「知っている。サラトガ達はトルコの在留米軍にいて、セオドア・ルーズベルトはリビア沖にいる。私達がいる港に案内してあげる」
シンフォニーは二対の錨を出して手招きする。
翔太や佐久間は互いに顔を合わせた。
「衛星に追跡されているし、目をくらますのは不可能に近い」
オルビスは腕を組んだ。
シンフォニーの後をついていく飛鳥Ⅱ達。
しばらく行くと港が見えた。
「衛星が動いている時間で次の衛星が来るまで一時間だ」
オルビスが報告する。
セレニティと飛鳥Ⅱは緑の蛍光に包まれて縮小して元のミュータントに戻り、「やしま」に乗り込んだ。
「ここはローマだ」
三神と朝倉が海図を見ながら言う。
港に入港するシンフォニーと六隻の巡視船。
シンフォニーのリドデッキから飛び降りる五人の男女。
シンフォニーは緑の蛍光に包まれて元のミュータントに戻った。
上陸する翔太達。
元のミュータントに戻る沢本達。
「本当に三つ子でアルビノなんだ」
翔太と三神が声をそろえる。
「私はイザベラ。隣りはイレーヌよ。でもほぼ船名でいつも呼ばれているから船名でいいよ」
イザベラと名乗った女性は笑みを浮かべる。ピンクのヘアバンドをつけている。
「セレニティとかシンフォニーでいいの?」
翔太が聞いた。
「いいよ」
うなづく二人の女性。
「沙羅さんと違ってアルビノですか?」
翔太がおそるおそるたずねる。
「あの子は後天的で精霊に半分命を分けてもらった影響だけど私達の家系は先天的にアルビノが生まれる」
飛鳥Ⅱは何枚か家族写真を見せた。
「これは君の祖父?」
三神と翔太が写真をのぞく。写真は祖父の若い頃と祖父の曽祖父や高祖父の若い頃も銀髪である。
「アルビノの中には魔術の訓練を受けなくても高い能力を持つ者が生まれる」
リヨンが指摘する。
「そうよね。普通、バリアを破壊できる魔術はあるけど高レベルのハンターで相当訓練をしないと無理よ」
李紫明がうなづく。
「私の家系は相当訓練を積まないと習得できないような魔術が自分のもともと持っている能力として発揮できる。古代ローマ時代から特命チームに一族は呼ばれて参加した」
視線をそらすセレニティ。
「それってすごいじゃないか」
三神とアレックスが声をそろえる。
「それはマシンミュータントにとっては名誉な事だ」
沢本はセレニティの肩をたたいた。
「飛鳥Ⅱ。君はすごいよ」
翔太は破顔すると彼女を抱き寄せる。
ひどく驚く飛鳥Ⅱ。
何十年ぶりだろう。自分の体からなくなったものがそこにある。体温や心臓の鼓動音が聞こえた。
「客船の船魂はやさしいよ。大丈夫」
翔太は笑みを浮かべる。
「巡視船や戦闘艦とちがうのは旅客船は融合の苦痛はゆるやかに進むの。激痛はないけど確実に機械の体に変えていく」
飛鳥Ⅱは視線をそらす。
「融合した日に女性の船員を見た。船長が着るような制服を着用しているけど決して歓迎するような目ではなかった」
シンフォニーが口をはさむ。
「冷たい目でにらんでいた」
セレニティは遠い目をした。
「大丈夫だよ」
セレニティやシンフォニーとハグをして声をかける翔太。
「アマデア。セブンシーズ・マリナーとクリッパー・オデッセイ。電話番号教えて」
気軽に聞く朝倉。
「やだ」
三人の女性は声をそろえる。
「なんで?」
「あんたは巡視船で私達は客船。デートする相手は自分で決めるわ」
しゃらっと言うアマデア。
無視する二人。
ムッとする朝倉。
「もうナンパなんだ」
あきれる翔太達。
「すごいイケメン」
大浦と三島が声をそろえる。
端整な顔立ちといいスタイルのいい二人を見てうっとりする大浦と三島。
「ハリウッド俳優に負けない位かっこいい」
アレックスがつぶやく。
「客船のミュータントは男女共にモデルをやっているから容姿がいいわね」
リドリーがしれっと言う。
「そうだな」
沢本がうなづく。
セレニティとシンフォニーの後についていく翔太達。
港湾事務所に入る翔太達。
「次元ブリッジでローマにある魔術師協会支部とつないだのですね。シンフォニー。君は次元ブリッジで空間を魔術を使わないで繫げるのはすごいよ」
翔太は目を輝かせる。
「あなた・・・すごいのね」
感心するシンフォニーとセレニティ。
「というか時空の武器のせいで見えるだけなんですが」
困惑する翔太。
ドアを開けるとそこは別の部屋だった。
「レナ議員。トリップ議員。タリク議員」
驚きの声を上げる沢本とアレックス。
レナ議員はロシア、トリップ議員はイタリア、タリク議員はモンゴル出身である。三人とも本国では名の知れた政治家で時空遺物の所有者でもある。
「智仁?福竜丸?」
翔太とミゲルが声をそろえた。
もちろん智仁は皇位継承第六位で一人で来ると言う事はない。黒沢という執事や不知火という護衛もそばにいる。
普段、都内の展示館にいる第五福竜丸も元のミュータントに戻れる時は介助人と一緒に渋谷や新宿で遊んでいる。彼女も介助人なしにはイタリアには来れないからどこかに介助人がいるだろう。
「でもなんで客船ばかり?」
三神が聞いた。
「旅客船がただクルーズしているだけだと思ったの?」
アマデアが声を低める。
三神とアレックスがうなづいた。
「巡視船や戦闘艦のミュータントのレーダーは節穴だらけ?」
セブンシーズマリナーが強い口調で言う。
「失礼でしょ」
佐久間が目を吊り上げる。
「私達だって米軍の動向を間接的に見ているし、時空の異変を感じているの」
クリッパーオデッセイがわりこむ。
「俺達は行方不明のスカンジナビアを探している。それはたぶんカメレオンクイーンにされたと思っている」
コスタ・フォーチュナが写真を出す。衛星写真である。
「モルディブ沖で消失。でも沈没したわけではない。人工的に次元ブリッジを造ってテレポートした痕跡がある」
ル・ボレアルがわりこむ。
「その異変の中心はガザ地区やヨルダン川西岸地区なの」
セレニティが地図を指さす。
「アイリスから米軍の許可証をスってきたんだけど使える?」
飛鳥Ⅱは許可証を見せた。
「無理ね。本人が紛失届けを司令部や基地で出すと無効になる」
レナ議員が口を開いた。
「シンフォニーの次元ブリッジでガザ地域をつなぐのは?」
翔太がわりこむ。
「イスラエルの全地域が次元ブリッジをつなげないような仕掛けにになっているの」
「シンフォニーが飛鳥Ⅱのフリをするのはどうだろう?」
「煙突のファンネルマークでバレバレよ」
「でも大きさも長さもトン数も変わらないなら飛鳥Ⅱのフリをして僕達はバリアに穴を開けてガザ地区の海側から入る」
「サラトガの足止めを私がするわ。姉さんのフリをする」
シンフォニーが名乗り出る。
「僕が電波妨害をする」
オルビスがポンと手をたたく。
「私達の潜水艇なら領海内に入れる」
鋭い声が響いて翔太達が振り向く。
アーランが部屋に入ってきた。
「教えていないのによくわかったわね」
佐久間は腕を組んだ。
「火災調査団の時はあんな作戦を立案して悪かったと思っている。私も深海の街でしばらく拘束されて留置場にいた」
アーランははっきり答えた。
「反省しているならそれでいいわ。こっちは少しでも多くのアイデアはほしい」
佐久間は腰に手を当てた。
「潜水してガザ地区に入れないの?」
翔太が話を切り替えた。
「水中にも結界が張られている。レーダーとセンサーを組み合わせてあるし、魔物が水中にもいる」
アーランが海図を出して説明する。
「分身が使える人はいますか?」
智仁がひらめいた。
「巡視船「しもじ」が得意だったけどあいつは宮古島海上保安部勤務だし無理か」
朝倉が思い出しながら言う。
「僕が使える」
ボレアルが名乗り出る。
「それと気になる事がある。この警備船は中国なの?」
クリッパーオデッセイが写真を出した。
いくつかの写真に中国海警局の海警船が何隻か映っている。
「金流芯と箔麗花と夏謳歌と馬兄妹だ」
声をそろえる三神と李紫明。
「カメレオンがおとなしくいるのが怪しい。大西洋でこの船を見たという目撃がある」
コスタ・フォーチュナが写真を見せる。
「カメレオンの情報収集艦だ」
佐久間と沢本が声をそろえる。
「この海警船はどこに?」
李紫明が身を乗り出す。
「中国がアフリカ諸国に出資している関係でエジプト沖に出没している。たぶん「月夜の花」を狙っていると思う」
アマデアが核心にせまる。
「アメリカの沿岸警備隊のこの巡視船が来ている」
ボレアルが写真を出す。
「ニコラスとカプリカだ」
アレックスと沢本が声をそろえる。
「狙いは「月夜の花」ね。本当は知りたいけど時空武器や時間を操れる者が何人かいないといけない。条件もいくつか必要だから血眼になって探している」
セレニティが指摘する。
「セブンシーズ・マリナー。シンフォニーのフリをして米軍を引きつけてくれますか?」
翔太がひらめいた。
「いいよ」
うなづくセブンシーズ・マリナー。
「俺のテンダーボートや救命ボートに偽装装置をつけて小型巡視船のフリをさせる」
コスタ・フォーチュナがひらめく。
「今回は壁の中に入るのは三神、飛鳥Ⅱ、佐久間、オルビスとアーランよ」
レナ議員が口を開く。
「僕は?」
ミゲルと翔太が声をそろえる。
「壁の中は強力な魔物がうろついている。レベルの低いメンバーはつれていけない。そしてドゥロス・フォン号やイスラ、他のメンバーを連れ帰る事だ」
トリップが難しい顔をする。
「強力な技が使えるハンターがいなくなれば壁の中にいる人々は壁の外へ出るしかなくなる」
タリクは腕を組んだ。
黙ってしまう三神達。
「飛鳥Ⅱ。これを持って行っていいよ。光の精霊が入っている」
福竜丸は腕輪を渡した。
「精霊の腕輪じゃん」
驚く飛鳥Ⅱ、セレニティ、シンフォニー。
「僕の体じゃ無理だからだよ。放射能障害で無理だし、高次脳機能障害で記憶が飛んでいるから思い出せないのもあるし、船足も遅い。戦いも僕は障害者だから無理だけど科学で解析はできる」
自分の指輪を見ながら言う福竜丸。
「アルキメデスの指輪ね」
アマデアが指摘する。
「この指輪は孤児院の園長からもらった」
福竜丸はつぶやく。
「客船と組むのは初めてだ」
戸惑う三神。
「私もよ」
飛鳥Ⅱがつぶやいた。
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