第4話 手紙
一時間後。警視庁取調室
ケインは腕を組み足を組み仏頂面でイスに座っていた。
周囲に羽生、田代、エリック、和泉の四人がいる。
「飛鳥Ⅱ。あなたは人間や普通のミュータントには人気があるけど船舶のミュータントからはクレームの嵐ね。航空機や電車のミュータントまで嫌われているのね」
田代は口を開いた。
「え?航空機や電車のミュータントからも嫌われていたんだ?」
驚くケイン。
「キャバクラや客船としては人間からは好かれているのは私達もわかる。それはキャバクラと船会社の徹底した管理や宣伝もあるし不祥事があればもみ消す。イメージに傷がつくからね」
和泉が説明する。
「このまま素行が悪ければ船会社からも港からも追い出されるね。その前に君には重要参考人であり容疑者でもある。そしてネットカフェにいない時間がある」
羽生は死んだ長沼とニトロドラックの写真を見せながら説明する。
「私はそんなものは持ち込んでいないし、殺してない!!」
机をバン!とたたくケイン。
「長沼さんと面識はありましね」
エリックが聞いた。
「魔術師協会横浜支部のハンターで官舎の部屋を借りれないか聞いたら断われたし礼儀もないのかと怒ってきた」
ケインが思い出しながら答える。
「だから口論になって殺した?」
たたみかける羽生。
「殺すわけないでしょ!!」
声を荒げるケイン。
「朝は大桟橋のカフェにいたのをにっぽん丸達から聞いてウラは取れている。ネットカフェも監視カメラの記録があり電車も駅のカメラにも映っていてなおかつ痴漢を駅員に突き出したのもウラは取れている。キャバクラでも確認取れている。でもネットカフェにいない時間のアリバイがない」
はっきり言う田代。
「ニトロドラックなんて受け取ってないし殺してない」
強い口調で言うケイン。彼女は腕輪や胸当て、ベルトを引っ張る。
「それはマシンミュータント用の制御ベルトよ」
冷静に言う和泉。
「知っているもん」
腕を組むケイン。
制御装置をつけられれば変身できず、魔術も能力も使えない。したがって何もできないのである。
その様子を取調室が見える窓からのぞく翔太、ミゲル、椎名、稲垣、三神、朝倉、佐久間の七人。
「彼女は濡れ衣を着せられたと思います」
翔太は訴えるように言う。
「それは羽生さん達だってわかっていると思うわ。でもなんで部屋に遺体があったのか誰が運んだのかを証明しないと彼女はパスポートを取り上げられて強制送還になるか刑務所送りね」
佐久間が腕を組む。
「彼女は現役の客船だよ」
椎名と稲垣が声をそろえる。
「船会社が手放せば中古客船としてどこかの企業に売却される。人間にしてみれば俺達マシンミュータントは物扱い。古代エジプト時代から変わってない」
朝倉が肩をすくめる。
「それにあの船の代わりなんていくらでもいるだろうね」
三神がさじを投げた医者のように言う。
「そんな・・・」
絶句するミゲルと翔太。
「そうでなくても世界情勢は悪化している。翌年に船会社は世界一周クルーズを発表しているけど南シナ海は中国軍とカメレオンの基地があり、マラッカ海峡とソマリア沖は海賊だけでなくカメレオンと魔物が出る。地中海も難民船に中東情勢も悪い。そうでなくても日本の領海スレスレにカメレオンの漁船や海警船が出没しているのもあって国内クルーズが延期か中止になっている」
佐久間は地図を出して説明する。
「客船や旅客船、貨物船、漁船のミュータントは仕事がない時は副業をやっている。長島は修理屋をやっているし、夜庭さんはジャンク屋をやっている。誰がその空白の時間を目撃していればアリバイを証明できる」
翔太がひらめく。
「それは警察の仕事だ」
三神が口をはさむ。
「そういえばビキニ環礁沖の時空の穴事件で彼女は第五福竜丸に近づいたね。僕は直接聞きたい」
翔太はポンと手をたたくと部屋を出て取調室に入った。
「入ったらダメでしょ」
佐久間と三神が飛び込む。
ミゲルは二人を押しのけて入った。
「一般人は入ったらダメですよ」
注意する羽生と田代。
「飛鳥Ⅱ。君はビキニ沖の時空の穴事件で東京湾で第五福竜丸に接近した。拉致しようなんて考えてなかった」
翔太は羽生と田代の間にわりこんだ。
「翔太君・・君ねえ」
あきれかえる羽生。
「あの漁船のいる展示館に私の祖父が二十年前に会いに行っているのを遺言ノートで見つけたからよ。祖父はあの漁船の知り合いだったし特命チームにも参加した事があるから近づいた」
重い口を開くケイン。
「飛鳥Ⅱ。君は時空の亀裂が見えているんだね」
翔太は身を乗り出す。
「見えるわ。妹達も見えるの。時空の穴もドーナツのような形と竜巻型がある。それにどこに現われるのかも感覚的にわかるし、妹は他人の死を一週間前に予言してそのとおりになっているし、念写もできる」
ケインは思い出しながら答える。
「じゃあ大震災の直前で出現した時空の異変も感知した?」
三神がわりこむ。
「感知できたけど私達じゃあどうにもならないわ。その時は特命チームは召集されてないし、仕事も忙しかったし、葛城勝元長官は特命チームはおろか調査団も送らなかった」
うなづくケイン。
「三年前の事件で俺が砂漠に捨てられ、カラムとシャロンが死体になって発見されて、葛城勝元長官は辞任して博長官が就任して特命チームが召集された」
三神が思い出しながら言う。
「第五福竜丸は時空の亀裂をふさぐ機器を作ろうとしているけど彼女のあの船体の状況と記憶障害じゃ無理ね。精霊の力に耐えられない。私なら耐えられる」
身を乗り出すケイン。
「ねえ、ネットカフェにいない時間は誰と会っていたの?」
翔太が話を切り替える。
「第五福竜丸展示館。別の時間ではアイリスとケンカした」
ケインは思い出しながら言う。
「ここから先は警察の仕事です」
羽生は咳払いをする。
「在日米軍横須賀基地には私がいれば簡単に入れるわ」
佐久間が笑みを浮かべる。
「確かに」
うなづく羽生。
「エリック、和泉。翔太君達と展示館へ行ってくれる?」
田代が聞いた。
「わかった」
エリックと和泉はうなづいた。
在日米軍横須賀基地
ロビーに入ってくる羽生、田代、佐久間、三神、朝倉。
そこにクリス、アイリス、レジー、レイスの四人がいた。
「検問所の意味がないじゃん」
不満をぶつけるレジーとレイス。
「検問所の兵士はすんなり通してくれた。簡単だった」
しゃらっと言う佐久間。
「それにこの間はよくも釣りエサにしたよな」
クリスは語気を強めた。
「それは成り行き。あの邪神クジャラスボラスがほしそうなエネルギーがそこにいたから依頼したの」
「何が釣りエサだよ。作戦もなにもないじゃないか」
クリスは目を吊り上げた。
「それは成り行きでそうなった!!」
佐久間は声を荒げる。
「やだね。事情聴取なんか」
クリスはフン!と鼻を鳴らす。
「少し黙って」
佐久間の両目が怪しく光る。
するとクリスの体がフラッと揺れておとなしくソファに座った。
「また使った」
レジーとレイスが声を上げたが二人ともフラリと揺れてイスに座る。
「なるほどね」
納得する田代と羽生。
「警視庁が何の用?」
観念したように聞くアイリス。
「昨日、中華街でこの人とケンカしましたね?」
田代は写真を見せた。
「ケインね。あの女は過去の事を蒸し返したから殴り合いになった。もっともクルーズのない日は沖合いでケンカした事もあった。やな女」
アイリスは腕を組んだ。
「そんなに仲が悪かったんだ」
三神と朝倉が声をそろえる。
「客船と強襲艦じゃあ合わないのは当たり前だけどその時は残った同士で組んだからよ」
アイリスはため息をつく。
「俺達も残り者同士なんだ」
朝倉がうれしそうに言う。
「あんた達は巡視船同士。こっちは客船よ。そのうえ、私のいる実家も古い家柄で古代ローマ時代が続く血筋で彼女の実家とは仲が悪かった。顔を合わせればケンカしていた」
遠い目をするアイリス。
「昨日は中華街で偶然出会ってケンカになったのですね?」
冷静な羽生。
「そう言う事になるわ」
うなづくアイリス。
「アリバイは本当のようね」
田代がつぶやく。
「そうね。アリバイが確認できたわね」
佐久間はうなづく。
「帰る前にこの三人を元に戻してね」
アイリスは言った。
その頃。第五福竜丸展示館。
翔太、ミゲル、椎野、稲垣、エリック、和泉は展示館内部に入った。
「すいません。営業は終了しました」
掃除をしていたスタッフが振り向いた。
「翔太君。介助スタッフが迎えに来るから大丈夫よ」
イスに座っていた女性が振り向く。誰だか知っている。第五福竜丸と融合している重本である。しかしもっぱら船名で呼ばれている。
「福竜丸。昨日、この人と会った?」
和泉はケインの写真を見せた。
「ここに来たよ。彼女が飛鳥Ⅱと融合しているのは知っている。彼女の祖父が二十年前に来日してここに来たけど茂長官に追い出された。僕は何回か彼や佐久間茂道さんと仕事をしたみたいだけど記憶がない」
思い出しながら歩き回る福竜丸。
「それはわかるよ。昨日は彼女と話をしたの?」
翔太が聞いた。
「彼女も時空の亀裂や穴が見えるみたいなの。僕がドゥロス・フォス号からの手紙の事を聞いて僕とランディの代わりにガザ地区に行く事と光の精霊を彼女に移す儀式をしようと提案してきた。僕の体じゃあ耐えられないのはわかっているからね」
福竜丸は視線をそらした。
「彼女がそういう儀式を知っているのは初耳だけどそれは可能よ」
和泉はうなづく。
「そしたら氷川丸に呼ばれ大桟橋のカフェに来いという電話が入ったらしいから行ってくるって別れた」
福竜丸が手帳を見ながら言う。
「僕達は氷川丸からイスラエルの「アデプト」にいた経験がある人を募集したら飛鳥Ⅱだった。彼女は客船と融合する前の六年間は米軍に入っていてたまたま港にいる客船を見て働きたくなって辞めてそこへ従業員として働き始めた」
翔太が思い出す。
「そしたらそれが飛鳥Ⅱになる前のクリスタルハーモニー号だった。妹二人も別の時期にクリスタルシンフォニー号とセレニティ号と融合した。たしかにあの大型客船といい強力なエンジンやエネルギータンクがあれば強力な能力を発揮できる」
納得するエリックと和泉。
「そんな事ができるんだ」
驚く翔太達。
「大型客船で世界中の海を航行している。世界情勢もわかっている。ただ性格は問題ばかりだけど可能だ。大型船である程、威力も強力だけど責任も大きくなる」
エリックは声を低める。
「彼女を特命チームに入れるには条件が必要だよ」
難しい顔をするエリック。
「彼女。怒りっぽいね。いつも怒っている。マーベルヒーローの「ハルク」じゃないけどいつも怒りを溜めている」
椎野が腕を組んだ。
「僕も同じ事を思っている」
ミゲルは翻訳機を通して口をはさむ。
「アスペルガー症候群の具体的な治療法はない。普通の人間やミュータントもそうだけど世の中は生きづらいのはあるな。それもマシンミュータントとなるとつらいな」
エリックはため息をつく。
「わかるよ。僕もそうだから」
福竜丸がうなづく。
「エリックさん、和泉さん。彼女のアリバイは成立ですか?」
翔太がたずねた。
「彼女のいた場所や寄った場所もだいたいわかったから釈放になるけど容疑者である事は変わりはないわ」
和泉は答えた。
大桟橋のカフェ。
「長島。飛鳥Ⅱが釈放されるのは本当なの」
ランディが口を開いた。
「アリバイを実証できたから釈放なんだけど容疑者である事は変わりはないよ」
長島が答える。
「そのアリバイのウラを取ったのは三神さん達が動いたからだよ」
夜庭がわりこむ。
「あのわがまま客船が出てくるの?」
ふじ丸とにっぽん丸が嫌そうな顔をする。
「でも出られてよかったじゃん」
雅人と亜紀がわりこむ。
「よくないわよ。あんな自分勝手な船」
にっぽん丸が不満をぶつける。
「そこまで言うの?」
飛鳥丸が驚く。
「人間や普通のミュータントの耳には入って来ないけど同じ客船、旅客船の間では評判は悪くてクレームの嵐よ」
にっぽん丸が答えた。
「長島さん。こんにちは・・・もう夕方だよね」
翔太は言いよどむ。
「翔太君。三神さんも・・・飛鳥Ⅱを連れてきたんだ」
長島と夜庭が声をそろえる。
うなづく翔太。
ケインは勝手に座った。
ムッとするにっぽん丸とふじ丸。
「長島さん。隣りの人は?」
翔太が気づいた。
「むらさき丸です。本名は硯谷です。瀬戸内海を周遊しています」
作業服姿の女性は答えた。
「ロイヤルウイングと同型船なんだ」
椎野と稲垣が声をそろえる。
「そうなるわ。一番最初組んでた相手なの。船名でいいよ」
むらさき丸は笑みを浮かべる。
「最初っていつですか?」
翔太と三神が聞いた。
「僕は五十七年前に二十歳で「くれない丸」と融合した。横浜に来る前は九州のクルーズ船だよ。ただハンターレベルや魔術レベルの格差でいったん解消したんだ」
どこか遠い目をする長島。
「ケンカしたわけではなくいったん解消して組みなおしただけ」
笑みを浮かべるむらさき丸。
「そうなんだ」
納得する翔太。
「飛鳥Ⅱ。出られてよかったわね」
わざと言うむらさき丸。
「仲良くは無理そうですね・・・」
ため息をつく稲垣と椎名。
「無理よ。この客船は怒りっぽいしすぐ手が出るしキレる」
はっきり言うむらさき丸。
「ケンカやめてください」
翔太が制止する。
黙ってしまうむらさき丸とケイン。
「むらさき丸。何か気になる事があるから来たのですか?」
翔太がたずねた。
「これはウワサなんだけど沼津の内浦にあったスカンジナビア号って知っている?」
むらさき丸は声を低めた。
「元はスウェーデンの船でステラ・ポラリス号。西武が買い取ってホテル&レストラン船にした。最近はスウェーデンの企業に売却されて業者が曳航していった」
翔太はタブレットPCを出して説明した。
「その船がどうかしたのか?」
三神と朝倉がわりこむ。
「業者ごと行方不明なの。ウワサだけどその業者は中国の企業で大型の収容船を借りて日本にやってきた。でも本当の正体はカメレオンが業者のフリをしていたのではないかとのウワサがある」
むらさき丸は駿河湾沖の海域の地図を出す。
「氷川丸は物探しの能力があるわ。その業者を探してもらいましょうよ」
それを言ったのはケインである。
「ちょっと本気?」
にっぽん丸とむらさき丸が声をそろえる。
「説得したいからロイヤルウイングとむらさき丸手伝って」
ケインが話を切り替える。
「やだ」
声をそろえる二人。
「無理」
にっぽん丸とふじ丸と飛鳥丸が首を振る。
「なんで?」
「氷川丸の別名は「印をつける貴婦人」だよ。物探しの能力の一部で印をつけられると特定の攻撃ができなくなる」
「例えばエンジンが動かなくなるとか魔術が封じられるといった不利な事よ」
長島とむらさき丸が答えた。
「じゃあ氷川丸なしでその海域に行きましょうよ」
ケインが誘う。
「やだ」
むらさき丸と長島と夜庭が声をそろえる。
「飛鳥Ⅱ。俺達とその海域へ行こう」
名乗り出る三神。
「むらさき丸。翔太君達を乗せてくれる?」
朝倉が困った顔をする。
「いいよ。あの客船に任せられないもの」
チラッと見るむらさき丸。
「・・・険悪な雰囲気」
つぶやく長島。
「朝倉。貝原と隊長達を呼んできて」
三神は言った。
一時間後。駿河湾沖。
「本当に君はロイヤルウイングそっくり」
船橋内で周囲を見回す翔太、椎名、稲垣。
「それはそうよ。くれない丸と同型船だもん。彼は横浜でレストラン船で私は瀬戸内海汽船の周遊船よ」
むらさき丸は答えた。
「おかしいわね。曳航の業者は中国で収容船はスウェーデンなのにホームページも登録証もない」
大浦が資料にアクセスする。
「住所も偽物という可能性もあるわ」
三島が核心にせまる。
「昨日、沼津の内浦から曳航を開始したらそんな遠くには行っていないな」
沢本が怪しむ。
「あのまま米軍にいてイージス艦と融合したらよかったのに」
飛鳥Ⅱは不満を言う。
「君がイージス艦と融合したらよけいに最悪だね。五十回以上営巣送りになるよ」
しれっと言う朝倉。
「黙りなさいよね」
声を低める飛鳥Ⅱ。
「黙っててくれる。音が聞こえない」
不満をぶつける貝原。
黙ってしまう飛鳥Ⅱ
稲垣はバックから無線機を出してダイヤルを操作する。
それをのぞきこむミゲル。
しばらく進む七隻の船。
「あれ?油が浮いている」
三神と朝倉は波間に漂う油膜に気づく。
「その油膜は二十キロ先で終っているわ」
むらさき丸の船橋の二つの光が怪しい紫色に輝く。
「え?」
「私の能力は追跡できる能力よ。遠隔透視や念写もできる」
むらさき丸は二対の錨を出した。
「むらさき丸。君はすごいよ」
翔太と三神が声をそろえる。
「その能力があるならTフォースに入れるわよ」
大浦がわりこむ。
「無理ね。氷川丸は自分の家族に危険が及んで第五福竜丸がゴミ捨て場に捨てられた事件が起こってから禁止にしたんだけど、警察の要請で協力する程度ならOKなの」
むらさき丸が視線を移した。
「海上保安庁に協力する事は可能なのか?」
沢本が聞いた。
「いいわ。協力する。あの客船とは嫌だけどあなた方だったらいい」
むらさき丸は飛鳥Ⅱを錨で指さした。
「嫌な女」
声を低める飛鳥Ⅱ。
「怪しい電波がイスラエル大使館から米軍基地を経由している」
貝原がわりこむ。
「イスラエル大使館?」
三神達が聞き返す。
「しゃべっている言語がわからない。でも別の電波が南シナ海やソマリア沖から出ている。たぶんカメレオンだ。壁を破壊せよ?なんだろう?」
困惑する貝原。
「壁?」
「スレイグの国境の壁か?万里の長城か?壁はいろいろあるよな」
戸惑う貝原。
「ミサイルがやってくる!!」
三神はだしぬけに叫んだ。
とっさに飛鳥Ⅱは四対の鉤爪を出して黄金色の光る六角形を作り出し彼らの前に出た。
ドヴァーン!!ドドーン!
一〇発のミサイルは彼らの手前で爆発した。
立ち込める濃密な煙の中からぬうっと姿を現す一〇隻の艦船。
「海上保安庁である。ここは日本の領海である。出て行ってもらう」
沢本は英語で警告した。
「&%$#*=%&」
「何語?」
戸惑う三神達。
「ヘブライ語よ。イスラエルの公用語」
それを言ったのは飛鳥Ⅱである。
「よくわかるわね」
感心する大浦とむらさき丸。
「私の家系は古代ローマ時代から続いているからヘブライ語もわかるし、クルーズ船として世界各地の港に寄港するから五十ヵ国語はしゃべれるわ」
当然のように言う飛鳥Ⅱ
大型駆逐艦は錨で指さし声を荒げた。
言い返す飛鳥Ⅱ
ミサイル艇や中型駆逐艦が錨で指をさして声を低める。
「なんて言っている?」
沢本が聞いた。
「どうやら私達は第五次中東戦争や第三次世界大戦の原因になるから刑務所に入れてしまえと言っているのよ。私達だけでなく客船のミュータントも何隻か名前が挙がっている」
声を低める飛鳥Ⅱ。
「冗談だろ?なんでそれで刑務所に行かなければいけない?」
「おかしいだろ!!」
反論する朝倉と三神。
大型の駆逐艦がののしった。
「・・・ひどい言葉すぎて訳せないわ」
困惑する飛鳥Ⅱ
「構わないさ。言っている事はだいだい何かわかる」
沢本は六対の鎖を出した。
大型駆逐艦がむらさき丸を指さして声を低めた。
「その船の船橋にいる子供をよこせと言っている。取引に使うだって」
戸惑う飛鳥Ⅱ
「渡さないわよ」
四対の鎖を出すむらさき丸。
大型駆逐艦は笑いながら錨で指さす。
「なんで笑っている?」
沢本が聞いた。
「駆逐艦エイラートと私は付き合っていたけど私は嫌いだった。でもあいつはストーカーするし、おまけに最低なDV男だった。だからアデプトは辞めたの」
飛鳥Ⅱは大型駆逐艦を錨で指さした。
エイラートと呼ばれた大型駆逐艦は叫びながらクルクル回る。
「好きだ。好きだと言うけど私はやだね。あんたなんかスクラップにして二束三文で売却してやる」
船橋の二つの光を吊り上げ、はっきり言う飛鳥Ⅱ。
頭を抱えるしぐさをするエイラート。
「飛鳥Ⅱ。聞いて。僕にいい考えがある」
翔太はひらめいた。
「何をやるのかわからないけど早くやって。相手はどのみち攻撃してくる」
船内無線を通して言う飛鳥Ⅱ
「みんなむらさき丸に近づいて」
翔太はバックから時空武器を取り出し、目を半眼にして精神集中した。
三神達は身構えながらむらさき丸に接近。
エイラートが何か叫んだ。と同時に、衝撃波が広がった。
波間を飛ぶカモメはほぼ止まっているように見え、トビウオはヒレを広げたまま浮いているように見えた。
「・・・あなた、すごいわね。時間の流れを遅くしたのね」
飛鳥Ⅱが気づいた。
「止める事もできるけど時間は二分だよ。飛鳥Ⅱ。東京湾にテレポート」
翔太が指示を出す。
「テレポート」
飛鳥Ⅱは唱えた。力ある言葉に応えて彼らは青い光に包まれて消えた。次の瞬間、東京湾に青い光とともに姿を現す七隻の船。
彼らは浦賀水道から東京湾に入った。せつな、元の時間に戻った。
「よかった。あいつらやってきてない」
朝倉とむらさき丸が周囲を見回す。
すると一〇隻のタグボートや水先案内船と一緒に氷川丸が接近してきた。水先案内船やタグボートの船橋の窓に二つの光が灯っている。
「飛鳥Ⅱ。パイロット船が言いたい事があるそうよ」
氷川丸は口を開いた。
「横浜港湾局です。入港するなら賃料を払ってください」
パイロット船が請求書を送信する。
「え?」
「それと入国管理局の足柄です」
そのパイロット船の船橋から甲板に出てくる男性。
「入国管理局?」
「パスポートと就労ピザの期限が切れていますので申請をしてください」
当然のように言う足柄。
「え?」
「国内クルーズや周辺国クルーズはないからに決まっているじゃないの」
はっきり言う氷川丸。
「だからって賃料を要求するの?まだ入港もしてないわ」
飛鳥Ⅱは二対の錨を出した。
「今まで誰のおかげでやってこられたと思っている?船会社のおかげだし、俺達が水先案内とタグボートが案内するからだろうが」
ダグボートはビシッと錨で指さした。
「残念だな。入れなくて」
水先案内船やタグボート達はからかい、ののしり、罵声を上げる。
「飛鳥Ⅱ。このままですと不法滞在で拘束されます。それと魔術師協会からですが資格証の更新をお願いします。更新しないとハンター資格や魔術師の資格を失います」
当然のように言う足柄。
「ええええ!!」
ひどく驚く飛鳥Ⅱ
「ちょっと待ってください。入港の賃料は僕達が払いますから話を聞いてください」
それを言ったのは翔太である。翔太とミゲル、椎野、稲垣は船橋ウイングに出てくる。
「海上保安庁は彼女に調査を手伝ってもらっている」
沢本がわりこんだ。
どよめくタグボート船達。
「翔太君。いたんだ」
驚く足柄。
「氷川丸。沼津にあったスカンジナビア号が行方不明になった。曳航業者はカメレオンの可能性があるの。客船に卵を産みつけられればそれはクイーンになる可能性がある」
むらさき丸が思い切って言う。
「飛鳥Ⅱ。あなたは特命チームに選ばれたのよ。さっき葛城長官から聞いたの。あなたは帰ってこなくていいわ。船会社はあなたの代わりの客船を選ぶだろうからね。モデル事務所も、キャバクラの店のママも特命チームに選ばれた事を聞いたら納得してあなたは解雇よ。それとアパートの部屋は私が引き払うように頼んだし修繕費も払ったから、荷物は月島の倉庫に預けたから。あとは自分でなんとかしなさい」
そっけなく言うと氷川丸は帰っていく。
「そんな・・・」
解雇通知や資格証更新の申請書類、アパートを引き払ったという通知を受信して絶句する飛鳥Ⅱ
「あばよ。自分勝手な客船」
「港に帰ってくるなよ」
「ダグボートや案内船をバカにするなよ」
からかい悪態つきながらタグボート達は去っていく。
むらさき丸は四対の鎖で翔太達をつかんで巡視船「あそ」の甲板に乗せた。
「帰るのか?」
三神が聞いた。
「民間船のミュータント達があの客船の事をどう思っているかはっきり言うとみんな厄介払いできて喜んでいる。QE2のイスラ同様にいても迷惑だしいつも問題起こすし尻拭いをしているのは私達よ。入港の料金を払えなければ漁港や貨物港にも入れないわね。残念よね」
むらさき丸は他人事のように言う。
「本当にそう思っているの?」
椎野が目を吊り上げる。
「私はみんなの思っている事を代弁しただけ。そのうちにあなた方もわかるわ。問題起こす度に私達は尻拭いしてきた」
怒りをぶつけるむらさき丸。
ため息をつく沢本達。
「私は仕事があるので帰ります」
むらさき丸はそう言うとどこかへテレポートしていった。
「全員、言いたい事を言って帰った」
不満をぶつける貝原。
「どこに行くの?」
三島と大浦が追いかける。
「出て行くに決まっている」
東京湾から浦賀水道に出る飛鳥Ⅱ
三神達もあわわてて追跡する。
「パスポート切れていたらアメリカに入国できないでしょうが!!」
大浦が声を荒げた。
「妹の家に泊めてもらうからいいの!!」
飛鳥Ⅱは声を荒げる。
「携帯電話料金はちゃんと払ったの?」
三島が聞いた。
「携帯?・・・しまった今月分忘れた」
ふと思い出し頭をかかえるしぐさをする飛鳥Ⅱ
「それじゃあ連絡もできないな。パスポートがなければ入国もできない。アメリカ領の海域に入ればアメリカ沿岸警備隊の巡視船が警備しているし、かならずパスポートの提示を求められる」
沢本がわりこむ。
「少し黙りなさいよ」
立ち止まる飛鳥Ⅱ。
「強気でいるけど本当はどうしたらいいかわからないんでしょ」
無線ごしに指摘する椎野。
「黙りなさいよ」
威嚇音を出す飛鳥Ⅱ
「僕のお父さんは外交官だし、おじさんは王立警備隊の司令官として、国王陛下と一緒に来日している。なんとかする」
ミゲルは名乗りを上げる。翻訳機が日本語に変換される。
「僕からもお父さんに言うよ」
身を乗り出す翔太。
「僕達もなんとかカンパ金を募るから」
稲垣がわりこむ。
「東京湾を出て日本の領海を出てしまえはあの変なエイラートという駆逐艦がウロついているだろうし、海警船やカメレオンの漁船がウヨウヨいる。それに借金の取立て屋だってやってくる」
沢本は東京湾の外湾を錨で指さした。
無言になる飛鳥Ⅱ
「君はそんな事はのぞんでいない。元のミュータントに戻れば入港賃料はかからない」
三神が提案する。
「新木場支部においでよ。部屋は用意できるよ」
翔太は強い口調で言う。
「・・・わかった」
飛鳥Ⅱはボソッと言うと緑色の蛍光に包まれて縮小して元のミュータントに戻り、「あそ」の甲板に着地した。
「基地に戻ろう。今後の事は後で考えればいい」
三神は言った。
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