第3話 手紙
二時間後。
都内にある駐日パレスチナ常駐総代表部に足を踏み入れる翔太、ミゲル、智仁、貝原、三神、朝倉、佐久間、ランディ、オルビスの九人。
「・・なんで僕まで呼ばれる?」
首をかしげる貝原。
「怪しい電波がないか探るだけ」
朝倉が肩をたたく。
「わかった」
うなづく貝原。
広い会議室に数十人のパレスチナ人の男女が顔をそろえていた。
「私は代表のセシルです。あなた方日本が置かれている状況は知っています。特命チームや火災調査団、沿岸警備隊チーム、時空監視所があるのは知っています」
初老のパレスチナ人は口を開いた。
「僕達はガザ地区から脱出したパレスチナ人に託した手紙を受け取りました」
翔太は話を切り出した。
「僕にも難民ボランティアをしていたロシア人の友人から二通目の手紙をもらいました」
智仁は口を開いた。
「俺にも手紙が来たんだ。クルド人やパレスチナ人、シリア人で時空の通路を作れる能力者と金属生命体とのハーフがいるから助けてくれという内容だった」
三神は困惑しながら手紙を出した。
「サウジアラビアでも砂漠に異変が起きているから日本に来た。たぶんこの異変は時空侵略者が関係している」
思い切って言うミゲル。
「僕は知り合いから手紙を託されたんだ。古い友人のドゥロス・フォスは仲間のミュータントと一緒にガザ地区に国連の団体と入ってそこから帰ってきていない」
ランディは手紙を出した。
「我々の同胞のほとんどは移民と難民だ。壁の向こうから脱出してきたが難民になってしまった仲間もいる。その仲間が言うにはイスラエルとアメリカは何かを血眼になって探している。一つ目は時空の亀裂や揺らぎがたくさん発生する場所に咲く「月夜のスズラン」二つ目は時空の通路を作り出す能力者。結界でさえ通り抜ける能力者や変異体を探し出して殺害する事。三つ目は時空侵略者を追い出すか仲間にする事」
セシルは難しい顔をする。
「時空侵略者を仲間にするって本気ですか。彼らに入られたらどうなるかわかると思います。戦前のロシア帝国や尖閣諸島の戦いの中国がそうだ」
三神が答えた。
ニコライ二世とその家族はロシア革命で殺害されソ連が誕生した。中国は多くの問題を抱えている。
「ドゥロス・フォスは国連の団体と一緒にやってきた。彼女だけでなく客船や帆船のミュータントと一緒に。ハンターも連れてきたがこの手紙は一年半前だ。現在はもっと悪くなっている。あと一年くらいで居住不能になる。居住不能になれば難民になるか国外退去になって移住する道か餓死かが待っている」
別のパレスチナ人が説明した。
翔太の脳裏に怪しい影が入ってくるという映像がよぎった。なぜかわからない。
翔太は時空武器を銃に弓の変えて矢を射るのと三神が動くのと同時だった。
光る四本の矢は天井や壁にいた陽炎に命中。三神の片腕が長剣に変形して壁にいた陽炎を突き刺し、オルビスは片腕のバルカン砲で窓や地面にいた陽炎を撃った。
一〇人の黒づくめの者達が落ちてきた。
「追跡者だぁ!!」
アラビア語で叫ぶパレスチナ人達。
佐久間と朝倉は貝原は身構えた。
「ここにはこいつらしかいない」
ミゲルが口を開いた。
「わかるの?」
思わず聞く翔太と智仁。
「僕は小さい頃から時空の亀裂が見えてマシンミュータントでないかそうであるか見える。おじさんも王族で王立警備隊の守備隊長をしている。これも代々伝わっているのがこの腕輪」
ミゲルはアラベスク模様に真珠がはまっている腕輪を見せた。
「これは「海の雫」だ。時空遺物だよ。確か月の雫」と対になっているが月の雫の方は個人が所有してと聞いている」
目を丸くするセシル。
「でも君と智仁は連れて行くことは無理だ」
三神がわりこんだ。
「なんで?」
智仁とミゲルが声をそろえる。
「どうやってサウジアラビア政府とアフマド国王を説得する?天皇陛下と宮内庁や日本政府をどうやって説得するんだ」
朝倉が目を吊り上げる。
「この間の南太平洋の事件では執事の黒沢さんやお父さんに聞いたら日本政府と宮内庁と天皇陛下に説明するのが難しかったし反対されたというのを聞いた」
翔太は強い口調で言う。
「それにしてもこいつらは何だ?」
貝原は覆面を取った。
「イスラエル軍の特殊部隊の一つで「追跡者」暗殺もれば潜入もやる。姿を消せる能力者で構成されている」
セシルが答えた。
「今度はイスラエルが狙ってきたのね」
佐久間は死んだ兵士から身分証を取る。
「奴らはしつこいよ」
別のパレスチナ人がわりこむ。
「カメレオンもそうだけどイスラエルは周囲を敵国に囲まれているから戦いに慣れている。これはほんの序の口ね」
佐久間は声を低める。
唐突に佐久間、三神、朝倉、貝原の携帯が鳴った。
「マシンミュータント訓練所からだ。明日、相模湾沖で護衛艦、巡視船だけじゃなく旅客船、客船もふくめた戦闘訓練をやるんだって」
朝倉がメールを読んだ。
「じゃあ氷川丸達も来るな」
三神がうなづく。
「僕達も見学していいですか?」
翔太が名乗り出る。
「いいよ」
三神がうなづいた。
翌日。相模湾沖。
相模湾から五十キロ離れた沖合いに一〇〇隻近い大小の船舶が集まっていた。船橋や艦橋の窓に二つの光が輝いている。
「すごい集まったね」
翔太は巡視船「みずほ」のヘリ甲板から身を乗り出す。
ミゲルや椎名、稲垣、福竜丸、智仁、ランディは周囲を見回した。
護衛艦やミサイル艇だけでなく漁船、定期船、貨物船、周遊船だけでなく客船もいる。
訓練は始まっていてミュータント達はそれぞれの持っている能力を駆使して戦う。
手前のバリアが消えてバリアから巡視船「こうや」と「あそ」が出てくる。戦っていた相手は掃海艇とミサイル艇である。掃海艇とミサイル艇の船体には大きなバツ印のえぐれた傷口がある。
「こうや」と「あそ」が三神と朝倉が変身しているのは知っている。二人はお互いの鉤爪でたたきあって喜んでいた。
「えらい目にあった」
住吉丸、福寿丸、小林丸、飛鳥丸は疲れきった声で「みずほ」に接近してきた。四隻はラッタルに近づくと元のミュータントに戻り階段をのぼってくる。
「飛鳥Ⅱやにっぽん丸、ふじ丸だけでなく大型フェリーもいる」
ランディが指をさした。
「ホラホラ。かかってきなさいよ」
挑発する飛鳥Ⅱ
「あんたのコアをえぐってやるからね!!」
「もう一回勝負」
二隻の客船は一〇対の鎖を出して身構える。
にっぽん丸とふじ丸である。
にっぽん丸は紺色の船体に船橋構造物は白色。ふじ丸は白色の船体である。二隻共目立つのはオレンジ色の煙突である。二隻は三井商船所有の客船である。
飛鳥Ⅱは二対の錨をぶらぶらさせたまま英語で悪態をついた。
にっぽん丸とふじ丸が呪文を唱えた。力ある言葉に応え、海の波が複数の刃となり上空からは稲妻をともなった炎の弾が出現した。
飛鳥Ⅱの周囲に張ったバリアによりそれらは弾かれた。
ふじ丸とにっぽん丸が動いた。
飛鳥Ⅱは船首の船底にあるスラスター全開でにっぽん丸の火の玉をかわし彼女の二対の錨の連続突きを二対の錨と二対の鉤爪で弾いた。ふじ丸の体当たり。エンジン全開でかわした。
四対の鉤爪と二対の錨から黄金色の魔法陣が浮き上がる。にっぽん丸の氷の槍とふじ丸の石のつぶてをその六対の鎖で弾いた。
飛鳥Ⅱは二対の錨から六角形の青色の円盤をフリスビーのように投げた。
ふじ丸とにっぽん丸の周囲をバリアで囲まれる。
「しまった・・・出られない」
ふじ丸とにっぽん丸はそのバリアから出ようと体当たりをするがビクともしない。
「どうするの?参りましたと言えば」
しゃらっと言う飛鳥Ⅱ
「出られない」
ふじ丸とにっぽん丸はもがいた。
「だってそれは大型の魔物とか閉じ込めるのも可能なの」
自慢げに言う飛鳥Ⅱ
「・・・参りました」
二隻はため息をついた。
「はい次」
審判役の貨物船が呼んだ。
大型フェリーと小型フェリーが接近してくる。船首に「オレンジ8」「三河」と書かれていた。
「その二隻じゃなくて佐久間と戦いたい」
不満な声を上げる飛鳥Ⅱ。
「何様のつもり」
「なんやねん。ムカつく」
不満を言う三河とオレンジ8
「本当かよ」
「マジか?」
周囲にいた船舶たちがどよめいた。
「本気でやろうとしているの?」
長島と夜庭が声をそろえた。
「そうよ」
あっさり答える飛鳥Ⅱ
「あんたなんかミサイルの的にしてやるわ」
護衛艦「あしがら」が近づく。変身しているのは佐久間である。
三神と朝倉が船首を向けた。
飛鳥Ⅱと「あしがら」の周囲に結界が張られた。
遠巻きににじり寄る二隻。
わざと二対の錨や四対の鎖をプラプラさせて挑発する飛鳥Ⅱ
佐久間は二対の錨を交互に突き出した。
それを二対の錨で弾く飛鳥Ⅱ
ミサイルを発射する佐久間。ミサイルは全部正確に命中した。しかし全部、彼女の手前にあるバリアにより爆発した。
飛鳥Ⅱは二対の錨と四対の鉤爪から浮き上がるように黄金色の六角形の魔法陣が出る。
とっさに二〇ミリ機関砲を連射する佐久間。
彼女の魔法陣がすべて割れた。
佐久間が動いた。二対の錨からくだんの魔法陣が浮き上がりその錨で交互に殴り、体当たりする。
大きく揺れる飛鳥Ⅱ。
佐久間の周囲で雪がちらつきそれが吹雪になり飛鳥Ⅱを包む。しかしそれを吹き消すように激しい焔の竜巻が氷を溶かして彼女は「あしがら」に体当たり。
佐久間はすぐ後ろの結界の壁に激突した。
「痛い?」
飛鳥Ⅱは鉤爪でマストをつかんだ。
「当たり前でしょ!!放しなさいよ」
艦橋の窓の二つの光が吊り上がる佐久間。
「ねえ。私と組まない?」
飛鳥Ⅱが誘った。
「やだ」
きっぱり言う佐久間。
「ねえ、三神。私と組まない?」
マストをつかんだまま誘う飛鳥Ⅱ
「なんでおまえと組む?気安く呼ぶなよ」
ムッとする三神。
「別に呼んだっていいじゃない。ねえ、佐久間茂道って知らない?」
マストを放す飛鳥Ⅱ
「それは私の祖父だけど」
佐久間が体勢を立て直す。
「あなたの祖父と私の祖父のジョージは知り合いで魔術アイテムを交換するほど仲がよかったの。その中で「月の雫」という遺物を持っていた。何か知っている?」
飛鳥Ⅱは聞いた。
「その月の雫と対になる海の雫を持っています」
ミゲルが拡声器を使って名乗り出る。
「イスラエルとアメリカが血眼になって探しているのは「月夜の花」という遺物よ。アラブ諸国で起きている異変を説明できる」
核心にせまる飛鳥Ⅱ。
「やめなさい!!飛鳥Ⅱ」
氷川丸が声を荒げた。
「そっちこそ黙りなさいよ。いつまでも山下公園から動かないつもりでいるけど世界情勢が悪化すれば私達にも召集ハガキやメールが来て敵と戦わないといけない。カメレオンが進化して客船に化けて来たら港に巣穴が作られる。そして航空機に進化したら空港が巣穴になる。確実に何もしなければそうなる!!」
飛鳥Ⅱはビシッと錨で指をさす。
「まだそうなってないでしょ!!」
一喝する氷川丸。
フランス語とギリシャ語でののしる飛鳥Ⅱ
フランス語で一喝する氷川丸。
イタリア語で悪態つく飛鳥Ⅱ
英語でののしる氷川丸。
「じゃあここでタイマン勝負よ!!」
飛鳥Ⅱは錨で指をさす。
「いいわよ。決着つけましょうよ。あんたもQE2同様にダメダメな女ね!!」
氷川丸はビシッと錨で指さす。
「それはどういう意味?」
「部屋がゴミ部屋で汚部屋でゴミ袋が天井まで山積みになっていて捨てられないからネットカフェにいる」
「なんで知ってるの?」
「知らないと思ってるの?みんな知っているし、船会社だって知っているから私が定期的に業者を呼んでゴミを捨てるように頼んでいるの」
「・・・」
「それに協調性がないうえに常に上から目線で周囲が見えない。すぐ突っ走るし人の話を聞かないし話を合わせられない」
氷川丸はピシャリと指摘する。
「それにさあ君がみんなからなんて言われているか知っている?」
ロイヤルウイングがわりこんだ。長島が変身している。
「知らないわ」
二対の錨で腰に手をあてるしぐさをする飛鳥Ⅱ
「君は「すぐキレる女」「すぐ殴る女」「高飛車な女」「相棒にも友達にもしたくない船のナンバー1」だよ」
はっきり言う長島。
「そんな言われよう?」
ひどく驚く飛鳥Ⅱ
「QE2と融合するイスラは、ギャンブル依存症で自分の祖父の葬式の日にカジノに行くほどのダメっぷりでゴミ部屋。協調性がなく他人と話も合わせられないKYなのはみんな知っている」
にっぽん丸が説明する。
「君はギャンブルやらないだけマシだね」
ふじ丸が口をはさむ。
「あなたは横浜港から出て行きなさい。世界情勢が丁度悪化してよかったわね」
強い口調で言う氷川丸。
「そういう言い方は何よ」
船橋の窓の二つの光が吊り上がる飛鳥Ⅱ
シャアアア!!ガルル・・・
舳先を互いに向き合わせ獣が吼え威嚇するような音を出す二隻。
「やめろ!!」
三神と翔太は声を荒げた。
はたっとやめる二隻。
翔太は三神が変身する「こうや」の船橋ウイングにいる。
「彼女を追い出すのはやめてください」
翔太ははっきり言う。
「なんで?」
氷川丸が聞いた。
「彼女を見ていると俺の六年前にそっくりだからだよ。追い出したら俺みたいに突っ走るから追い出してはいけない」
三神が強い口調で言う。
「そうは言っても彼女と組んだ相棒はみんな別れている。一番最初は強襲艦「エセックス」のアイリスで二番目がふじ丸と私。三番目はQE2のイスラ。QE2とあなたはいつもケンカしていた」
にっぽん丸が指摘した。
「アイリスと組んでいたんだ?」
三神と佐久間が声をそろえた。
「性格の不一致で解消になった」
ふじ丸がわりこむ。
「なんかわかる」
佐久間と三神が納得する。
アイリスも負けん気強くて勝気。性格もキツイけどサラトガやレジーとレイスとうまくやっている。彼女には協調性もあるし他人と合わせられるし、三人と性格がぶつからなかったからである。
「ふじ丸とにっぽん丸とはまったく合わないのもわかるな。俗に言う問題児」
しれっと言う朝倉。
「問題児じゃないもん」
言い返す飛鳥Ⅱ
「そこがダメダメって言っている。性格とか直せよ。まず部屋を掃除しろよ」
朝倉が指摘する。
「あんたに言われたくないわ!!」
飛鳥Ⅱが威嚇音を出す。
ため息をつく沢本達。
どよめく船舶達。
「一番最悪だったのがQE2とあなたが組んだ時よね。性格も不一致で協調性なく自分勝手でいつもケンカしていた」
氷川丸が言う。
「あれは彼女が殴ってきたし、すぐ部屋を汚くするし何かとギャンブルに誘うから嫌気がして解消した」
言い返す飛鳥Ⅱ。
「飛鳥Ⅱ。あなたの症状は成人期アスペルガー症候群ね」
佐久間が指摘した。
「アスペルガー?」
翔太やにっぽん丸達が聞き返す
どよめく長島達。
「アスペルガー症候群は対人コミュニケーション能力や社会性、想像力に障害があり、
対人関係がうまくいきづらい障害で、知的障害や言葉の発達の遅れがないものを言うの。明確な原因は現在もわかっていないが、何らかの脳機能の障害と考えられている。「アスペルガー症候群」もADHDも、現代になってようやく少しずつ認知度が広まってきているの。今までは障害だと気が付かれずに、本人が生きづらい思いをしたり、周りも理解に苦しんだりすることも少なくありませんでした。しかし、実はアスペルガー症候群は決して珍しいものではなく、約四千人に一人の割合で発症すると言われています。本人や家族の自覚のあるなしなども含め、広い意味で診断するとその数はもっと多いと考えられる。
知的な遅れがないことから障害と認知されづらい側面もあり、周りの理解を得づらい部分があります。しかし、症状や対処方法を知っているだけで、自分も周りも心が楽になる生き方ができるの。そのためにも周囲の人々が適切な知識を持ち、障害を理解することが重要になるの。 アスペルガー症候群は、二〇一三年に発行されたアメリカ精神医学会の
『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版においては「自閉症スペクトラム障害」の中にまとめられています。そのため、今後この診断がつくことは少なくなることが予想される。一見しただけではその人がアスペルガー症候群かどうかは気づきにくく、本人も自覚していない場合もあります。アスペルガー症候群の人によく見られる一〇個の特徴を紹介されている」
佐久間はホログラム映像を作り出して二対の錨で指さしながら説明した。
「俺と朝倉と貝原は成人期ADHDなんだ」
三神が口をはさむ。
無言になる飛鳥Ⅱ
「これが一〇個の特徴」
佐久間が資料を送信する。
1・明確な指示がないと動けない
2・場の空気を読むことができない、空気に沿った対応ができない
3・冗談が通じず、会話の行間や間を読むことができない
4・曖昧なことを理解できない
5・好きなことは永遠とやり続けてしまう、話し続けてしまう
6・スケジュール管理ができない
7・自分が興味のないことは頑なに手を出そうとしない
8・急な変更にうまく対応できず、だまされやすい
9・名前を呼ばれないと自分だと気が付かない
10・相手の気持ちをおもんぱかれない、人を傷つけることを平気で言う
「半分は当てはまっているし思い当たる事もたくさんあるわ」
つぶやく飛鳥Ⅱ。
冗談だと思っていたがほぼ症状が当てはまるし、場面場面で思い当たる事はある。
どよめく船達。
「氷川丸。彼女を追い出さないでください。特命チームに入れないと異変を調査できない」
翔太は決心したように言う。
「ちょっと本気?」
「本当ですか?」
船達が驚きどよめいた。
「今度の異変はアラブ諸国で起きている。それもガザ地区の壁と結界のせいで魔物や時空侵略者が侵入している。その異変がどんどん広がっている。そしてカメレオンは進化している。放置すれば客船と融合したカメレオンが現われて横浜港や世界中の港にも巣穴が作られてしまう」
三神は訴えるように言う。
「海南島の基地や南シナ海の中国の基地の隣りにカメレオンの巣穴と基地がある。一番の原因はそこよ。でもまだ戦争にもなっていないからうかつに攻撃できない」
佐久間がホログラムの地図を出した。
「私は特命チームに入れるのは反対よ。協調性ゼロだもの」
氷川丸ははっきり言う。
「そこまで言うのかよ・・・」
あきれかえる朝倉と三神。
「警視庁です」
「え?」
警察所有の警備艇が接近してくる。船内から羽生と田代、エリックと和泉が出てきた。
「ケイン・クラーク・ラフォーゼさんですね。警視庁の羽生です」
「田代です」
警察手帳を出す羽生と田代。
「魔術師協会のエリックと和泉だ」
エリックは紹介した。
「警察がなんで?」
飛鳥Ⅱが聞いた。
「今朝、魔物ハンターの長沼久司さんがあなたが住むアパートの部屋で遺体で見つかりました。警視庁まで来てくれませんか」
羽生はタブレットPCを送信した。
「え?死体?」
ひどく驚く飛鳥Ⅱ。
どよめく船達。
「それとニトロドラックが夜の勤務先のキャバクラのロッカーから見つかりました」
田代がタブレットPCで画像を送信する。
「ニトロドラック?」
聞き返す飛鳥Ⅱ
「別名ゴーゴージュースだよ。飲みすぎると舌がもつれて幻覚を見てしまう。でも栄養価は高い」
朝倉が説明する。
「違法な液体薬物だ」
三神がわりこむ。
「あだ名はマシンミュータントの危険ドラックだ」
朝倉はチッチと錨を振る。
「私はちゃんと会社の検知器で毎朝チェックするしそんなものを持ち込む客は追い出される決まりよ。私は夜の出勤先で荷物検査で見せたしチェックした」
声を荒げる飛鳥Ⅱ。
「それは我々のほうで調査済みです」
羽生は答えた。
「でも部屋はゴミ部屋で天井までゴミ袋が積みあがっている中に遺体があった。前日から今日までアパートに帰っていませんね。どこにいましたか?」
田代が詰め寄る。
「昨日はアパートの集合ポストに寄って郵便物を確認してからネットカフェにいて夕方は電車で新宿にいった。そしたら電車で痴漢にあって駅員に突き出して出勤した」
おぼろげながら思い出す飛鳥Ⅱ
「もちろんそれも確認済みです。でもネットカフェにいない時間もありますね。それに部屋も掃除されていないようね」
田代がたたみかける。
「でも私は殺してないし、ニトロドラックも持ち込んでない」
訴える飛鳥Ⅱ
「あなたは重要参考人として同行してもらいます。数日間は留置場になります」
羽生は当然のように言う。
「・・・最悪。私の部屋が事件現場になっっちゃった」
頭を抱えるしぐさをする飛鳥Ⅱ。彼女は緑色の蛍光に包まれて縮小して元のミュータントに戻って警備艇に乗り込んだ。
「氷川丸。飛鳥Ⅱが刑務所に入れられてしまう」
翔太が声を上げる。
「私は嫌よ。これまでに何度も尻拭いしてきたと思っているの!!」
氷川丸は声を荒げる。
「すいません・・・」
あやまる翔太。
氷川丸は海域を離れた。
「彼女の持っている遺物がなければ調査ができない。時空侵略者に取られてしまう」
ミゲルは身を乗り出す。
「こればかりはどうしようもないよね」
住吉丸は肩をすくめる。
「僕は語り部の仕事があるから誰か送って」
あっと思い出す福竜丸。
「送るよ」
住吉丸は海に飛び込み漁船に変身して福竜丸を乗せた。彼は小林丸、福寿丸と来宮兄妹を乗せた飛鳥丸と一緒に去っていく。
「僕も仕事に戻らなきゃ」
長島と夜庭が離れていく。
他の旅客船や貨物船も帰っていく。
他の巡視船、巡視艇、護衛艦や掃海艇も基地に帰っていった。
「ケインさんにはかばってくれる人はいないようですね」
ミゲルがつぶやく。
「そうみたいですね」
うなづく翔太。
「僕は黒沢と一緒に彼女が売却されないように頼んでみる。大浦さん皇居に送ってくれますか?」
何か決心したように言う智仁。
「いいわよ。ランディもおいで。送るわ」
大浦と三島が接近する。
智仁とランディは「かいもん」に乗り込むと住吉丸と一緒に離れていく。
「外面がよくて人間にだけいい顔をしていてもいつか自分に跳ね返ってくる」
佐久間がため息をつく。
「いざ気がついたら周囲はクレームの嵐で一人ぼっちだった」
朝倉がわりこむ。
「でも彼女の持っている月の雫がなければ異変を調査できない。それにゴミ部屋に死体やニトロドラックなんておかしいし出来すぎている」
三神が訴えるように言う。
「わかっているわ。私達も警視庁へ行きましょ」
佐久間は手招きした。
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