第2話 手紙
三十分後。横浜防災基地
「ランディ。それをどこで手に入れたの?」
二階の会議室で大浦は切り出した。
「カラムから手紙が来てその中に一緒に入っていた」
ランディと呼ばれた米国人少年は答える。
「それを誰かに言ったのは?」
「今の所、亜紀と雅人と飛鳥丸」
ランディが答えた。
「カラムは難民を保護する活動をやっていたみたいで写真もある」
ランディは写真を何枚か渡した。
「どこの難民キャンプ?」
三神達がのぞきこむ。
「難民キャンプってたくさんあるの?」
ランディが聞いた。
「世界で一番大きな難民キャンプは一〇ヶ所あるの」
世界地図に書き込む大浦と三島。
「難民の中にガザ地区のパレスチナ人がいるぞ。クルド人の難民もいる。ガザ地区なんてどうやって入るんだ?」
朝倉が首をかしげる。
「これはシャロンとカラムと一緒だ。どこの難民キャンプ?」
三神が写真を指さす。
「ガザ地区で写真を撮った。これはエルサレム。よく入れたわね」
感心する大浦。
写真に映るのはパレスチナ人居住区にいる人々やエルサレムにいるハンターである。
「そんなに難しいの?」
雅人と亜紀が声をそろえる。
「ガザ地区の漁港はイスラエル軍の警備が厳しくて普通に行ったら撃たれるか捕まるかのどっちかというのを聞いた」
飛鳥丸だった漁師がわりこむ。
「イスラエルとパレスチナは仲が悪いだけでなく完全に敵視しているからな」
朝倉が指摘する。
「それだけでなくガザ地区は高さ二十メートルの壁に囲まれている。作物もなく漁師達は海に出たくても警備が厳しいから出られない。専門家の計算によるとあと数年で居住不能になる」
沢本はタブレットPCの画像を見せる。
「数年でどのくらい?」
亜紀、雅人、ランディが声をそろえる。
「衛生状況も悪くライフラインもない。漁や作物もできなければあと二年か一年だろう。専門家によっては五年というのもあるが実際は一年も持たないかもしれない」
沢本は国連のホームページやNPO団体のページを見せながら説明した。
「それにイスラエルはパレスチナだけでなくハマスとも最悪よ。停戦合意は何度も無視されているし二つの検問所のうちの一つはエジプト政府が管理する「ラフィ検問所」は閉鎖されている。もう一つの「エムズ検問所」は国際援助、医療支援目的だけどほとんど開いた事がないわね」
三島は地図を出して指をさす。
「ヨルダン川西岸にもパレスチナ人居住区があるけどほぼイスラエルの入植が完了していてパレスチナ人達は出て行っている状況よ。そしてアメリカは大使館を本気でエルサレムに造ろうとしている」
大浦は地図を出して拡大する。画像にエルサレムの映像が出てくる。
「確かエルサレムってイスラム教とユダヤ教とキリスト教の聖地だっているのを聞いた」
飛鳥丸がわりこむ。
「だから日本も他国もテルアビブに大使館を作っている。スレイグは選挙演説でエルサレムに大使館を造ると公約した。だけどどこまで本気なのかはわからない」
沢本が画像を切り替える。画面に選挙演説の様子である。
「そんな場所でカラムは何をしていたのだろう?ガザ地区にそのパレスチナ人はいるんだろうか?」
首をかしげるランディ。
「国連の事務所に行ってみないか?何も情報がなかったら帰ってくればいい」
三神は提案する。
「僕は行く」
ランディはうなづいた。
一時間後。都内にある国連事務所
地図を見ながら三神達は国連難民高等弁務官事務所が入っているビルに入った。
「あれ?翔太君。智仁さま?」
三神達は驚きの声を上げた。
ロビーには翔太だけでなく椎野や稲垣、福竜丸だけでなく佐久間達や羽生達もいた。
「その人は誰?」
ランディと飛鳥丸が声をそろえた。
「サウジアラビア王室の王子様といった方がいいのかもしれない。アブドゥールズイーズ・フォン・ミゲル王子。王位継承は百五十六番目でアフマド国王のいとこの親戚なんだけど王室関係者なんだ」
困惑しながら説明する智仁。
「そういえば今日から四日間の予定でサウジアラビアのアフマド国王とその関係者が一五〇〇人以上来日している」
ポン!と手をたたく朝倉。
「石油で潤って大金持ちの国王がなんで来日している?」
三神が聞いた。
「サウジアラビアは石油に頼らない政策に舵を切っているからだよ」
ミゲルは翻訳機を使って答えた。アラビア語が日本語に変換される。
「君は何歳?」
飛鳥丸が聞いた。
「僕は十六歳だよ。脱石油政策だけでなく最近になって砂漠で異変が起きているから調査に同行している」
ミゲルは答えた。彼は砂丘に虹色の綿毛がたくさん散らばっている写真を出した。
「サブ・サンとカメレオンが侵入してからおかしなことばかりね」
三島と大浦がわりこむ。
「誰かがわざと時空に亀裂を開けなければ起きないよ」
翔太が指摘する。
「長年、サウジアラビアはアメリカを最重視してきたけどスレイグに大統領が変わってからは石油に頼らない経済政策に転換をしようとしている」
戸惑いながら説明するミゲル。彼はタブレットPCでロイター通信やアルジャジーラのニュースを見せる。映像には尖閣諸島の戦いや南太平洋の異変の戦いの映像である。
「なんかわかる。アメリカは本当に当てにならないよ」
翔太が本音を言う。
尖閣諸島の戦いや南太平洋の異変でも米軍は参戦しなかった。戦いが終ってからブレガー国防長官を派遣してきた。最近は国連の分担金を一回停止させたけどやっぱり分担金を削減する方向で打診してきた。
「佐久間さんはなんでここに?」
三神が話を切り替えた。
「私の曽祖父が都内の公園で難民申請したばかりの難民と一緒に殺害されていたからよ」
困惑しながら写真を出す佐久間。
「そしたら佐久間茂道さんの家は何者かに荒らされていた」
エリックが写真を見せた。
「茂道さんは難民救済ボランティアの活動をしていたみたいで空き巣犯は難民関係の書類を捜していた」
和泉が答えた。
「すごい荒らされよう。仏壇や神棚まで壊す空き巣がいるのか?」
三神と朝倉が声をそろえる。
家の中は嵐というより竜巻が通過したかのようにフライパンや書類やらコップが散乱していた。仏壇が壊れ位牌が散らばり、神棚や本棚、タンスが倒れている。
「福竜丸はなぜ?」
三神は聞いた。
「僕は古い友人から手紙が来たんだけど名前や誰かが記憶がなくて」
福竜丸は首をかしげた。
「みんな共通しているのは「難民」とシャロンとカラムね。福竜丸は古い友人の手紙が届いた。サウジアラビアの砂漠で異変が起きていて難民キャンプの難民の何人かに時空の通路を自在に造り出せる能力者がいる。それを探してくださいという手紙よね」
佐久間が結論を言う。
「僕はそのガザ地区に行かなければいけない気がするんだけど僕の体じゃ無理だから誰かにお願いしたい」
福竜丸は視線をそらした。
「僕が行く。その手紙の主を探せばいいんでしょ」
ランディが名乗り出る。
「いいの。古い友人は漁船でなくて客船らしいんだけど誰かわからない」
福竜丸は手紙を渡した。
「俺もガザ地区へ行く。なんでかわからないけど答えがそこにある」
三神ははっきり言う。
「無理だな」
間村と沢本がわりこんだ。
「なんで?」
三神とランディが声をそろえた。
「おまえはバカか?」
あきれかえる間村。
「ガザ地区とエルサレムは強力な結界に護られ、ガザ地区は二十メートルの壁と結界と警備が厳しい。エルサレムはイスラエル政府直属の部隊「アデプト」と警察の特殊部隊とイスラエル軍が警備している。そこにいるハンターは高レベルで選考基準が紛争地での経験が物を言う。マシンミュータントも第一次中東戦争~第四次中東戦争の経験者かイラクやアフガンといった世界中の紛争地での傭兵経験が必須。邪神ハンターも傭兵経験がなければ採用されない。国境警備隊もその能力が求められている」
「そして「探索者」と呼ばれる者達がいてTVドラマ「視角探偵日暮旅人」のように感情や重さ、思念といった物をその場で映像化できる能力者が普通に警察と一緒にいて「デアデビル」のような能力者も普通にいる」
霧島と室戸がタブレットPCの画像を見せて説明した。
「イスラエルの周囲は敵国だらけだから常時、優秀な人材の募集をしているしスカウトする連中を世界中に派遣している」
間村は地図を指さした。
「アデプトに入った事のある人はいないのか?その人にどうだったか聞いてみるのはどうだろう。糸口が見つかればいい」
三神はひらめいた。
「それはすごくいい」
ランディとミゲルがうなづく。
ため息をつく佐久間達。
「氷川丸や長島さんの所へ行って民間船の知り合いがいないか聞いてくる」
翔太が助け舟を出す。
「僕も行く」
福竜丸がわりこむ。
「朝倉。何か進展があったら連絡だ」
沢本はささやいた。
朝倉はうなづくと三神、翔太、椎野、稲垣、ランディ、ミゲル、福竜丸と一緒に退室した。
「雅人、亜紀。飛鳥丸。千葉に帰るわよ」
大浦は手招きした。
「エリック。羽生さん。イスラエルや中東に知り合いはいますか?」
室戸が聞いた。
「さすがにいないな」
困惑する羽生と田代。
「知り合いはいない」
首を振るエリックと和泉。
「我々は警視庁に戻って進展があれば連絡する」
羽生は口を開く。
「わかったわ」
うなづく佐久間。
羽生、田代、エリック、和泉は退室した。
「アデプトの経験がないかレベッカ達に聞いてみようか」
間村は言った。
その頃。横浜防災基地
二階の会議室に氷川丸、にっぽん丸、ふじ丸、長島、夜庭と住吉丸、福寿丸、小林丸が顔をそろえていた。
「辻川さん。隣りの人は?」
翔太はたずねた。
「氷川丸でいいわ。日本郵船の飛鳥Ⅱよ。彼女がミュータントだというのは知っているわね?」
火川丸はたたみかけるように聞いた。
ミゲル、翔太、ランディ、智仁はうなづく。
「キャバクラ嬢かと思った」
しれっと言う朝倉。
「本名はケイン・クラーク・ラフォーゼ。私も「アデプト」に一年位入っていた事があるのよ。もちろん向こうからオファーが来て欠員が出たから行った」
ケインと呼ばれたミュータントは答えた。
「イスラエルにすんなり入国はできたのか」
三神が核心にせまる。
「許可が出ればスカウトと一緒にVIP用の出入口から空港から出られる。専用車があって送迎もしてくれた。興味があるようだけどあんたのレベルでは無理ね」
はっきり指摘するケイン
「はっきり言うな」
しれっと言う朝倉。
「いくらすごい能力があっても不安定じゃ無理ね。その相棒は低レベルのハンターだしそこの農薬散布機は短距離しか飛べないしハンターのレベルもひよっこだし、レース用には出来ていない」
ビシッと指をさすケイン
ムッとするランディと朝倉。
無言になる三神。
「そこの木造漁船は五〇年前にゴミ捨て場に捨てられて修理はしたけど障害が出ている。記憶障害と放射能障害に船体の状況といい介助人が必要じゃ旅行すら無理ね」
はっきり言うケイン
「なんか勘違いしてない?僕は好きでなったんじゃない」
声を荒げる福竜丸。
「僕達はケンカに来たんじゃない。クルーズ船なら各地の港を寄港する。テルアビブに入港する事は可能だと思う」
翔太は身を乗り出す。
「それは無理ね。世界情勢が不安定でカメレオンと時空侵略者問題がある。現在はどこも世界一周クルーズはしていない」
目を吊り上げるケイン
「え?していないのか」
驚く三神と朝倉。
「何も知らないの?」
長島と夜庭がわりこむ。
うなづく翔太と三神。
「サブ・サンが来なかったらどこの船会社も世界一周クルーズを企画してやっている。それは世界情勢が安定していてはじめて可能なんだ。そして世界一周レースも世界情勢が不安定だからレース予選の延期や中止が相次いでいる」
長島が説明した。
「そんな・・・」
絶句するランディ。
「このまま行くと第三次世界大戦が始まるでしょうね。もちろん私達にだって重大な問題だし客船のミュータントといえど戦わなければいけない。そうならないように祈らないといけないけどね」
不安を口にするケイン
「イスラエルの港に入港するにはパスポートもいるし、荷物検査も受けるし、何よりも身元がはっきりしないミュータントや人間は入港もできない。港にも「探索者」と呼ばれる監視者が普通にいる」
にっぽん丸が写真を出した。
「本気で行くの?漁船ですら入れないし、警備は厳しい」
住吉丸が困った顔で言う。
「でもそのガザ地区?から手紙が来た。古い友人でドゥロス・フォス号だよ」
福竜丸は氷川丸に渡した。
「ちょっと待ってドゥロス・フォス号?」
ケインと長島が声をそろえて互いに顔を見合わせた。
「知り合い?」
椎野と稲垣が聞いた。
「ドゥロス・フォス号はドイツの慈善団体が所有する客船でタイタニックが建造されて二年後にアメリカで建造された船で現役で活躍する世界一古い客船」
長島がタブレットPCで画像を見せた。
「最初は蒸気船だったけど途中でディーゼルエンジンに換装。設備も現在船とほぼかわらない。彼女がミュータントなのもあるわ。彼女にはあだ名があってマシンミュータントの「緑の魔女」よ。彼女の能力は植物を生育させたり野菜を早く成長させてしまう事。その逆も出来る。客船だけど国連だけでなく各国の軍隊や政府機関からもオファーが来る」
ケインが説明する。
「それはすごいよ」
目を輝かせる翔太。
「手紙には彼女とクイーンエリザベス二号のミュータントと何人かの帆船のミュータントと一緒にガザ地区にいる。でも日付は一年半前よ。手紙を壁の外に脱出するパレスチナ人に託したと書いてある」
氷川丸が腕を組んだ。
「クイーンエリザベス号って神戸海上保安部がコカインを国内に持ちこもうとして乗客を逮捕したよな」
ふと思い出す三神。
「あれはキュナード社所有の新造船の普通の客船。キュナード社の同じ名前の船は三つあるの」
にっぽん丸はタブレットPCを見せた。
「初代クイーンエリザベス号とクイーンメリー号はミュータントだったんだ。あだ名は「双子の聖魔術師」二人ともゾンビや幽霊、邪神の眷属を聖なる魔術で倒せる事。クイーンメリー号はアメリカでホテルになっていてゴーストシップとして有名だよ」
ふじ丸が指摘した。
タブレットPCの画像にクイーンメリー号とその船内の内装が表示される。
「二代目のクイーンエリザベス2号は引退してキュナード社からシンガポールの企業に渡った。あの船はミュータントで横浜港にも何度か来たよ。プライベートでも遊びに来て見た事がある」
長島が思い出しながら言う。
「僕達にとっては芸能人と同じくらい人気で高嶺の花だよ。キュナードの客船でQE2だけミュータントなんだ」
うっとりしながら言う夜庭
「この手紙の内容だと居住不能になるのは間違いないわね。物資もなければライフラインもない食料もなければ餓死は確実ね」
翻訳しながら指摘するケイン
「僕の手紙には世界最大の難民キャンプに異変が起きているのを知らせている」
智仁がクララの手紙を出した。
「全部ロシア語?でもだいたいわかる」
驚くケイン
「なんて書いてある?」
智仁が聞いた。
「ダダーブ難民キャンプで連続難民消失事件が起きている」
直訳するケイン
「ダダーブキャンプって最近国連が閉鎖したキャンプだよ。みんな不思議がっていたしケニア政府はなんで何も言わないのか不思議だって言ってた」
あっと思い出す長島。
「青年海外協力隊に参加していた知り合いが突然日本に帰ってきたから知っている」
夜庭がわりこむ。
「そういえば中国はアフリカの国々にもいろいろ出資している。カメレオンだってそこに出没していたら巣穴が難民キャンプに造られても不思議じゃない。俺はそこに行く」
身を乗り出す三神。
直感が言っている。たぶんそこに時空の亀裂や異変がある。
「ケニアはともかくイスラエルにどうやって入国するかを考えないといけない」
翔太は核心にせまる。
たぶん調査にいかないといけない。異変が現在進行形で起きている。
「僕の父は外交官で国王と一緒に来日しています」
提案するミゲル。
「中東諸国とイスラエルの関係は最悪の仲だし、ラフィ検問所はエジプトとイスラエルが管理していてエジプトは事を荒立てたくないから絶対断る」
朝倉が首を振る。
「ジョコンダやサラトガに口利きをしてもらうのは?」
三神がひらめく。
「イスラエルの後ろ盾はアメリカよ。アメリカなしじゃあイスラエルは成り立たない。ジョコンダ議員にはよくないウワサだらけだし世界の秘密を知りすぎている。ついたあだ名は「戦争を呼び込む女」「接触すると死ぬ女」と呼ばれている」
懸念するケイン。
「ジョコンダにはいろいろ疑惑があってスレイグだけでなくバロン上級顧問とすごく仲がいい」
氷川丸はタブレットPCの画面を見せた。
「スレイグの側近でしょ。都市伝説ではスレイグはあやつり人形でいろいろ吹き込んでいるのはバロンだって」
長島は政治風刺画を見せた。
画像にはピノキオのようにスレイグを操るのがバロンである。
「バロン・ロックハート。彼には二人の兄弟がいて一番上がバロン。二番目がゼノン。三番目がフレイ。これがもう一つの風刺画。スターウオーズのジャバ・ザ・ハットに似せて描かれている」
夜庭が政治風刺画を見せた。
「お父さんに聞いてみるよ」
翔太はつぶやいた。
海上自衛隊横須賀基地
会議室に消防士と四人の戦闘機パイロット、沿岸警備隊隊員が入ってきた。
「アレックス?高浜?」
沢本が驚きの声をあげる。
「俺は数年前にオファーを断ったんだ」
困惑する高浜。
「イラクとアフガンでの紛争地での任務の途中でスカウトが来たんだ」
アレックスは口を開いた。
「私とアンナ、リアムはオファーをもらった事があるし大野も尖閣諸島の戦いの後にオファーが来たのよ」
レベッカは書類を見せた。書類は全部英語で五枚である。
「選考書類?」
沢本と佐久間が声をそろえる。
「なんか受験をする書類みたいだ」
霧島が腕を組んだ。
「イラクやアフガンだけでなく世界各地の紛争地での任務や活動が選考基準でそこの軍の推薦書類と持っている能力の種類が書かれている。俺の場合は特命チームに選ばれたのが選考基準なんだ」
大野が説明する。
「特命チームに入っていても弱い能力者は選ばれない」
レベッカは指摘する。
「だから翔太君や椎名さん、稲垣さんや長島、夜庭、福竜丸には来ないのか」
納得する沢本。
「それだけでなくオルビスにもオファーが時々来るそうよ。彼は魔術は使えないけど乗り物を交換できる能力と光線系の能力と威力の高さが選考理由」
アンナが指摘する。
「俺のは消防士としての能力より二刀流に惚れ込んだらしい」
後ろ頭をかく高浜。
「俺の場合は巡視船と融合する前と融合した後にもオファーが来た。五十キロ離れた場所からでも命中させられるからというのが選考理由」
アレックスはうーんとうなる。
「選考理由はさまざまだな」
感心する沢本。
「もし私がスカウトされたらガザ地区やパレスチナ自治区には入れるの?」
単刀直入に聞く佐久間。
「スカウトされてイスラエルには入国はできる。そこでの任務はガザ地区や自治区、他の紛争地への攻撃や戦いの日々が待っている。命令は絶対で逆らったら即強制送還だ」
アレックスはため息をついた。
「その様子だと経験済みのようね」
佐久間が推察する
うなづくアレックス。
「ガザ地区や自治区にはイスラエルの許可がないと入れない。ヨルダン川西岸は半分ほど入植が完了していてパレスチナ人達は出て行っている状態だ。親戚や知人を頼って他国に移民として移住している。それはガザ地区も同じで壁に閉じ込められて限界に達した人から壁の外に出てどこかに移住する。残っているのは行き場がないか身寄りがない人達だけだ」
レベッカは地図を出して説明する。
「でも国境なき医師団や国連の団体、NPO団体が入っている」
間村が指摘する。
「あれはイスラエルの許可をもらって入っている。最近は入れなくなっているし、壁の外に出て行くのは限界が来て出て行く人達よ」
アンナが言う。
「専門家に言わせればガザ地区はあと数年で居住不能になる。ライフラインもなく、作物も漁もできない。物資も医療物資もない。そして二十メートルの壁に結界。魔物は入り放題。五年という専門家もいるけど国連やTフォース、魔術師協会、ハンター協会の試算だと一年はもたない」
リアムはタブレットPCを出して現地の現状写真を見せた。
「ヨルダン川西岸の自治区にどんどん入植が可能になったのはそこに結界を張って魔物を入られ放題にしたからよ。すごい強力な魔物や邪神の眷属や巨人を放り込んだ。ハマスや自治区のハンター事務所や詰所は壊滅。ハンターも死亡。限界に達した人々は出て行ったから可能になった」
アレックスは地図を出して魔物の写真を出した。そこには身長三〇メートルの巨人や体高一二メートルのマンモスのような巨象や巨牛や鋼鉄牛に火の馬やトカゲから邪神の眷属が多数映っている。
「邪神クトゥルーの眷属やこれは邪神クジャラスボラスもある。東京消防庁だけではなかったんだな」
高浜があっと声を上げる。
「邪神クジャラスボラスを呼び出せる物や体の一部はほとんど破壊したが一部を保有ししている所はある。イスラエル政府の中に保有している者がいるようね」
佐久間が指摘する
「これは時空侵入者じゃないのか」
高浜が指をさした。
魔物の中に稲妻の塊や炎に覆われた生命体が多数映っていた。
「それなら危険よね。中国政府のように侵入されるのも時間の問題ね」
佐久間が声を低める。
「イスラエルの後ろ盾はアメリカだ。スレイグじゃアメリカ政府内部に入られたかもしれないぞ」
間村が困った顔をする
「中国政府内部にいるサブ・サンは手持ちのタイムラインを使い尽くして簡単には動けずあとは自分の世界に帰るか最後のタイムラインに賭けるか迷っている。これはチャンスかもしれない」
佐久間は思わず立ち上がる。
「でもどうやってイスラエルに入る?」
話を切り替えるリアム。
「そうよね。そこよね。国連職員として入るのは?」
佐久間がひらめいた。
「無理だな。イスラエル軍や国境警備隊、警察には「探索者」と呼ばれる者達がいてどこにテロリストが潜んでいてもそれを視覚化して映像にして見せる能力者がいる。普通の警備員でもデアデビルのような能力を持っている。諜報機関モサドやアデプトにも普通にいるしハンターにも普通に時空魔術師がいて強力な召喚獣を召喚できる能力者がそこらにゴロゴロいて警備している」
アレックスは資料画像を出した。
「まず葛城長官に掛け合ってから政府に警告しないといけない」
佐久間は言った。
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