→22:00

 改札が賑わう度に彼を探したけれど、もうすでに一時間近くもフライングを繰り返していた。


 普段は長所である背の高さも、こういう時は短所になるのかもしれない。――人混みの中に彼がいないと一発でわかってしまうから。



 私を見つけたら、彼はどんな顔をするんだろう。


「……怒られるかなぁ」


 電話の彼を思い出す。『危ないからダメ』と心配していた彼のことを。


「……でも会いたいし」


 喜んでくれたら。彼のハードルをまた一つ飛び越えられたら。そっちの気持ちの方が断然大きい。


「……よし。サプライズだ!」


 陣取っていたベンチから腰をあげて、自動販売機の横に少し移動する。

 ここなら、向こう側から来る人の死角になる。私は見えるけど、彼は見えない。

 覗き見してるみたいでソワソワする。


「次かな……そのまた次かな?」


 大勢の足音が近付く気配を感じて、首を伸ばす。


 先頭集団に彼はいません!

 続きまして、第2集団……またしても彼はいません!


「……菊地選手、出遅れたか?!」


 ボソボソ喋る私を怪しむ人なんて誰もいない。だって、周りに誰もいなくなってしまったんだから。


 でも、それでも、一人きりでも。


 好きなあの人を想って待つこの時間は、実はとてもとても楽しいかもしれない。

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