第06章 開発はボッチでしよう②
(作者注)こんなタイトル付けてますが、誰かと一緒にやるのも、助けあえるし楽しいと思いますよ、多分。それからこの物語はフィクションです。実在の理系の方とは関係ありません。
新しい関数を使おうとして上手くいかなかった壱人が愚痴を言ってきた。
「最近のエラーちゃんは言ってる事がどんどん回りくどくなってきてる。今だって間違ってる以外、教えてくれない」
それを聞いて頷きつつも、イッQは
「それがエラーちゃんの個性だから。キャラ設定は大切にしないと」
「プログラムの支援機能に、そこまでのキャラ付けは必要なのか!?」
それは仕方が無いとしても、と壱人は続ける。
「大体、関数の使い方も、ネットで検索するのが前提なのはおかしいよ。なんでローカルのリファレンスだけで解決できないんだ?」
リファレンスは関数の辞書みたいなものである。その解説は、英語か英語の直訳なので、初心者は読んでも理解できない。
「でもまあ、そうやって勉強するものだし」
とイッQは言うのだが、壱人は前々から考えていた事を言ってみた。
「それで、検索でよく出てくるプログラムの質問サイトに質問してみようと思うんだ。自分で調べるの大変だし」
しかしそれにはイッQが難色を示す。
「止めておけ。お前くらいの質問内容だと『グ〇れ!』で終わる」
そう言われれば、そういう例も良く見かける。しかし何事もやってみなくては分らないのではないかと壱人は反論した。
「確かにこれは極端な例だ。しかし例え回答をもらっても、理系の文章を解読するには特殊技能が必要なんだよ!」
そう言って、イッQは理系と意思疎通の難しさを語り出した。
理系だからといって、特別に気難しい訳では無い。質問すれば親切に教えてくれるだろう。しかし、どうしても超えられない壁がある。力量の差があれば、それは顕著になる。なぜなら彼らが理系脳だから。
ある時、丁寧に説明しているサイトの文章を読んでいても理解できない事があり、それがなぜなのかと考えていたら、一つの結論に達した。
「あの人達は、日本語を使ってないんだよ」
「いや、日本語だよ!?」
イッQの言葉が不可解でついツッコミを入れてしまう。とりあえず壱人の見たサイトは日本語だった。
「一見、日本語に思えるけど違うんだ。彼らが使っているのは『理系語』なんだ」
「理系語って何だよ!」
未知の言葉に壱人は混乱する。そんな壱人にイッQは
「もしお前が『赤』という色を説明するように言われたらどうする?」
「夕日の色、トマトやイチゴの熟した色、血の色、とか?」
「まあ、そんな感じだろう。だけど理系が説明すると、『RGBのR』と答える」
「何それ?」
RGBは光の三原色に使われるR(レッド)=赤・G(グリーン)=緑・B(ブルー)=青の事である。そして光の三原色とはこの三色の割合を変えて混合することにより、様々な色を表現する仕組みだ。赤と緑を合わせて黄色というように。コンピュータ関係の色指定では良く出てくる。
「それって知らないと分からないだろ?」
「そうだよ。正確を期するあまり、専門用語を専門用語で説明してしまうのだ。当然、初心者には分からず、知識のある人間にしか伝わらない」
「意味ねー」
「だから何度教えてもらっても理解できない。しかも理解できないのは自分の頭が悪いからではないかと悩んでしまうオマケまで付いてくる。だったら自分で調べた方が早いしストレスが無いんだよ!」
言ってる事は分からなくもないが、力説するイッQに対して壱人には疑問が浮かんだ。
「でもこの前、コミュニケーションが大切だって言ったじゃないか?理系とだって普段から話していれば分かり合えるかも」
「それは絵師さんとの話だ」
イッQの説明では、文系は世界を文章で認識し、音楽系は音楽で、美術系は絵・色・形で、そして理系は図形と数式で把握しているのだという。
「音楽や絵なら、まだ何とかなりそうな気がするが、図形と数式の世界の人とは無理だろ?」
「無理だね」
即答はしたものの、ある事を思い出し、また質問する。
「文系と理系のコンビって小説とかで良くあるけど?」
「あれは文系の考えた理系だから話が通じるんだよ」
「でも理系の人たちだって文章を使っているわけだから、やろうと思えばできるんじゃないのか?」
しかしその質問にもイッQは「逆に考えてみれば分る」と即答した。
ある小説があったとして、それを数式で説明するように言われたら正確に説明できるだろうか?そのつもりは無くても慣れないものを使えば間違う事もあるだろう。
「それと同じで、理系に文章で説明しろっていうのがそもそも間違いなんだよ」
更に加えると、一つの事象を千の言葉に例えるのが文系なら、千の事実から一つの真実を導き出すのが理系だ。つまり考え方がそもそも正反対なのである。
理系と文系の深い溝の意味がなんとなく分かり、壱人の勢いも無くなっていく。
「プログラムやってる人たちの集まりにも興味あったんだけどな」
「あれは文系脳が耐えられる場所じゃない」
「でも相談できる人がいると心強いと思うんだ」
「お前はゲームが作りたいのか?それともゲーム作りに
そこまで言われると困るのだが、これをきっかけに知り合いが出来るかもしれないと、ちらりと考えたのは事実だ。それにしても、なぜイッQはこんなに拒否反応を示すのかが壱人には不思議だった。
「イッQさんは、なんでそんなに反対するの?」
それについてマイナマイナのツッコミもとい解説が入る。
「キズというものは、若い頃にはすぐに治っても、年をとる毎に治りにくくなるのデスデスよ。だから年をとればとるだけ傷付きたく無くて臆病になるのデスデス」
「冷静に分析するの止めてください。
とにかく、とイッQは続けた。
「前にも言ったが、人付き合いは片手間で出来るものじゃ無いんだ。それなりに時間や労力を費やす覚悟が必要なのを憶えておけ」
そう言われて、確かにゲーム作り以外で時間を取られるのも面倒だという事で、コミュニケーションに前向きだった壱人も、また元の人見知り傾向に戻ってしまい、その影響なのか、ヒヨコのような何かであるピヤ号の頭の上に黒い羽毛が一枚生えていた。
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