お前のゲームは10年経っても完成しない

第06章 開発はボッチでしよう①

（作者注）こんなタイトル付けてますが、誰かと一緒にやるのも、助けあえるし楽しいと思いますよ、多分。

　ゲーム作りの休憩中、〇イッターを見ていた壱人は、フォローしている“ネルネルねずみ”の新しいイラストが上がっているのを見つけた。

　ネルネルねずみの事は、色々なミッＱのイラストを眺めている時に知った。フォロワー数はそれ程多くは無く、「ＲＴ」や「お気に入り（現在の“いいね”）」が100を超える事はめったに無いが、壱人にとってはお気に入りで応援している絵師である。そして珍しく相互フォローしている数少ない人物なのだ。

　そのイラストを眺めていた壱人はイッＱに話しかけた。

「イッＱさん、ネルネルねずみさんって知ってる？」

　突然の質問にイッＱは少し考えたが、すぐに答えは返ってきた。

「ああ、知ってるよ」

「ネルネルさんって、イッＱさんの時代でもイラスト描いてるの？」

「休んでた時期があったけど、10年後も元気だよ」

　そう言ってイッＱは立ち上がり、壱人の肩越しからツイッターの画像を覗き込む。

「お、このイラスト懐かしいな」

　ネルネルねずみの画風は、線はしっかりしてて、色使いもリアル寄りなのだが、キャラクターが少しデフォルメされているので、全体の雰囲気は柔らかい。躍動感のあるポーズが多く、その快活で優しさも感じさせる世界観が気に入っていた。

　そのイラストを見ながら、壱人は思い付いた事を呟いた。

「ネルネルさんにゲームのイラスト頼めないかな？」

　突然の提案にイッＱが驚くのを見て、壱人は慌てて付け足す。

「イッＱさんのイラストがダメな訳じゃないよ。だけどネルネルさんがこのゲームのイラストを描いてくれたら、凄いと言うか、気分が上がらない？」

　イッＱにはその意味がとても良く理解できた。自分の作品に憧れの人が参加してくれるなら、こんなに嬉しい事はないだろう。しかしイッＱはきっぱりと反対した。その理由を次のようなものだ。

　ネルネルねずみとは確かに相互フォローしてるが、最初に挨拶したきりで、後はイラストが上がった時にＲＴやお気に入りをするだけで、感想などをリプライした事はない。壱人にとっては照れくさいとか恥ずかしいという理由だが、相手にしてみれば応援はしてくれてるのだが、それ以外は何を考えているのか分らない人間である。そんな相手から突然イラストの依頼されても困るだけだというのだ。

「こういうのは普段からのコミュニケーションが大切で、自分の都合のいい時にだけ関わろうと思ったって上手くいかないんだよ」

　相手へのリスペクトを常に持ち、それを伝え、信頼関係を築いている事が重要なのだ、とイッＱは言った。

「しかもお前はゲームを作るのもこれが最初だし、信用される要素がほとんど無い」

　それにもしだ、と続ける。

「好意で受けてくれたとして、お礼はどうするんだ？」

　今はバイトをして多少の余裕はあるが、まずイラスト一枚辺りの単価など分からないので、そこから調べる必要がある。それに金の話を嫌がる人もいる。話を出すタイミングも良く考えなければならない。

「そして実際に依頼する段階になったら、もっと考える事があるぞ」

　まず、どのようなイラストを描いてもらうのか、具体的に要望を伝えなければならない。

　描いてもらうキャラクターの特徴はもちろん、表情やシチュエーションなど、描くために必要な情報をやり取りする事になる。相手に一任する事もできるが、白紙の状態で丸投げするのは失礼だろう。

　それに縦横サイズや受け取る時の拡張子など、データ形式も決める必要がある。

　キャラクターが描けたとして、背景を抜きにした一枚絵なのか、線と色だけはレイヤー分けするのか、基本的な部分（顔、腕、服）までは分けるのか、それとも全ての部品を分けるのか？分けてあると何かあった時に変更が楽だが、細かくなれば相手への負担になる。

　また、手を加える必要があった場合、どの程度まで変更は許されるのかも確認した方が良い。拡大縮小、色変え、小道具を足すのは問題無いのか？

　例え先に許可をもらっていても、実際に変更する場合は、再度確認した方がトラブルが避けられる。かと言って、何度も連絡すれば、相手の迷惑にもなりかねないので、その辺りのバランスも必要だ。

「そういう細かい気遣いが必要なんだぞ」

　イッＱに矢継ぎ早に言われ、壱人は頭が痛くなってきた。

「それにもし仕上がったイラストが考えていたのとは違った場合に描き直して欲しいとか、締め切り過ぎた時に催促するとか、お前できるのか？」

「できない…」

「下手したら、それが原因で疎遠になる可能性だってあるんだぞ」

　イッＱの言葉に反論できずにいる壱人にさらに追い打ちを掛ける。

「そして一番怖いのは…」

　一拍置いてから声を低くして脅すように言い放った。

「描いてもらったのは良いけど、ゲームが完成しなかった場合だ！」

「う、確かに」

　イッＱの言っている事は考えすぎかもしれないが、そこまでのリスクを冒してまで依頼したいのか問い掛けられて、ネルネルさんにイラストを依頼するのは確かにワクワクするようなアイデアだが、今はまだ早いのかもしれない、と壱人は思った。他人と一緒に作業するというのは、結局コミュニケーション能力が必要だからだ。

「でも、いつかはネルネルさんにイラスト描いて貰いたいよな」

　そう最後にイッＱは付け足した。イッＱにとっても、やはり憧れの絵師に自分のゲームに参加してもらえる事は夢なのだ。

「まずは今のゲーム完成させて、実績作るところから始めよう」

　壱人は新たな目標ができてモチベーションが上がった。これからはもう少し人とコミュニケーションする努力もしよう。バイトを頑張ってお礼ができるようにして、失礼にならないメールの書き方も勉強しなくては。やることが多く道のりは遠そうだが…。