第01章 ゲーム作りを始めよう④

 アパートの傍を川が流れていて、川沿いに道が続いている。五分歩けば橋があり、渡ると駅前の繁華街である。壱人はとにかくそちらに向かった。


「あれが自分なら、目立つ事はしたく無いはずだし、それにあそこまで行けば隠れる場所も沢山ある」


 そう考えて橋まで全速力で走り渡ろうとした、その瞬間、橋の上には既にミッQフィギュアが変なオーラを発しながら立ち塞がっているのが見えた。

 いつの間に先回りされたのか?兎に角、踵を返し、別の方向へ逃げる。

 気になってチラリと後ろを見ると、ミッQフィギュアの移動手段が分かった。空を飛んだのだ。

「反則だろ、それ!」


 壱人は別の橋を目指して川沿いの道を走るが、ミッQフィギュアの空中からの追跡は続いた。休みなく走ったせいで疲れてペースが遅くなる。

 その壱人にミッQフィギュアは最後の手段を使った。


 ミッQビーーーム!!!


 直撃した壱人は河原に転げ落ちた。かろうじて意識はあるものの、後ろは川で逃げる場所が無い。

 すぐに、ミッQフィギュアが近くに着地した。

 壱人は、一か八か川を泳いで渡ろうと思ったが、川は昨日の雨で増水している。溺れてしまうかもしれない。ただ選択の余地は無く、片足を川に入れたが、流れが早くて戸惑った。

 その時、10年後の壱人の呼びかけが聞こえた。


「そのゲームは傑作でも何でも無いんだぞ」


 壱人は顔だけ振り返る。


「だからそんなに一生懸命になる必要なんて無いんだ」


 10年後の壱人は続ける。


「面白いゲームなら、これからいっぱい発売される」


「イラストも3Dモデルも格好良くて、豪華声優が声を充てて、ストーリーも重厚で演出も凄い感動するやつが何本も」


「空いた時間に気軽に遊べるゲームも無料でいくつも出てくる」


「自分で作る必要なんて無いんだよ」


 壱人は手元の卵を見た。他人の作ったものでワクワクしたり感動したりするのは良いと思う。自分の知らない世界を見せてくれる。

 だけど「それとは違う」と思った。難しいことは分からない。このゲームを思い付いた時の心の衝動は、とにかくそういうものとは全然違っていた。

 どう説明したら分からないので、頭の中に浮かんだ言葉を発する。


「俺は面白いゲームがしたいんじゃない。自分の作ったゲームがしたいんだ」


 ミッQフィギュアが一瞬止まり「それは10年掛かって無理だった」と、10年後の壱人は心の中で呟いた。

 そして、慎重に距離を縮めてかなり近付くことが出来たので、光の卵を持っている手を狙ってミッQビームを発射する。


 ビームは命中し、卵は壱人の手を離れ、ミッQフィギュアの近くに落ちた。苦々しくそれを拾い上げる。

 しかし光の卵に触った瞬間、中に入っていた想いが10年後の壱人に流れ込んだ。


「このゲームが作りたい!このゲームは絶対に面白い!!このゲームで遊びたい!!!」


 あまりに強くて胸が苦しくなる。

 10年後の壱人は、それに流されないように懸命に自分に言い聞かせた。


“ この卵の中には、素晴らしいゲームが入っていて、生まれるのを待っているのかもしれない。

 だが、結局生まれる事は出来ないのだ。いずれ腐って腐臭を放つ。

 中身が腐っているのが分かっていながら捨てられず、持ち続ける自分自身を苦しめる。

 そうなる前に、叩き割って、中身をぶちまけなければいけないのだ ”


「このまま地面に叩きつけてやる」そう思って卵を持った手を振り上げる。だが、考えた通りに体が動かない。

 その隙をついて壱人が卵を奪い返した。

 10年後の壱人が、もう一度、卵を奪おうと自分の方に近付いて来るのを見て、壱人は最後の力を振り絞って叫んだ。


「どんな事があっても完成させるから!」


“ どうせ口先だけだ。自分の事だから良く分かっている。まだ何もしてないから、そんなことが言えるんだ ”


「俺はどうしても、このゲームが遊んでみたいんだ!」


“ 俺は10年間も努力してきたんだぞ。お前なんかより、ずっとそのゲームが遊んでみたいんだ! ”


 そう思ったら、痛みで胸がいっぱいになった。体にはもう力が入らない。そして、光の卵を壊す事は自分には出来ないと10年後の壱人は悟った。

 ミッQフィギュアは完全に動きを止めた。


 その様子を見ていた、マイナマイナが空から降りてくる。

「終わりましたデスデスか?」


 マイナマイナに今の気持ちを伝え、記憶の卵を壱人に戻して欲しいと10年後の壱人は頼み、自分はこのまま帰りたいと伝えた。

 しかしマイナマイナは、あっさりこう言った。


「悪霊反応が残っているので、このままでは帰れませんデスデスよ」


「どうしましょう…?」


 困惑した10年後の壱人がマイナマイナに助けを求めると、マイナマイナから驚きの発言が出た。


「あのゲームが原因のようデスデスので、このまま大学生の常雲壱人くんを手伝ってゲームを完成させるというのはどうでしょうデスデスか?」


「そんな事して良いんですか?」


「後で確認しますが、大丈夫デスデス」


 それを聞いて10年後の壱人は、ここ数年無かった気持ちが沸き起こった。最後のチャンスを貰えた事に感謝する。その為、マイナマイナの「タイムリミットはありますが」という言葉は聞き逃していた。


 呆然と見ていた壱人に向かって叫ぶ。


「おい、そのゲームを作るぞ!俺が手伝う。曲がりなりにも10年ゲーム作りをやってたんだ。何かの役には立つ」


「そして今度こそ完成させるんだ!」


何だか分からない状態だったが、壱人も力強く答えた。


「ああ、絶対に完成させてみせる!」

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