第45話
一方、明は歩みを止めることなく自問していた。
風早の死を目撃した瞬間に起こったこと、そして今も続く、この状態はどう解釈すればいいだろうか。
5月10日から彼が目にしてきたもの。それは風早亮、そして鈴原茜がきっかけをつくり、そして生まれた世界だったという。今はその世界も、後ろへ徐々に遠ざかっていく。
「ねえ。いま、何が起こってるの?」
傍らの莉緒が明を横目で見る。その瞳には憎悪や怒り、そして怯えなどさまざまな感情が渦巻いていた。
「うまく説明はできないけど、たぶん、これは君の兄さんが見たものと同じなんだ」
明はただ前を見つめて言った。一連の出来事は昂ぶりとともに訪れたように思える。自分もまた、何らかの“きっかけ”を生み出したのではないか。明はそう考えていた。
「この先はどこへつながっているの?」
「恐らく、別の上縞町じゃないかと思う」
莉緒はその言葉の意味するところをすぐには理解できず、怪訝な顔をした。
一方の明は、井上の家で見た夢と、水木の言葉を思い出していた。
“一度生まれたものがそうあっさりと消え去ったり元に戻ったりすることはない”。
水木はそう言った。それは正しいのかもしれない。明自身も、なんとなくそう感じ始めていた。
今起こっていることは、彼がこれまでずっと望んでいた回帰ではない。
すべては、それ以前の上縞町から、ある種の連続性を持っている。先ほどまで彼がいた上縞町は、単に時間軸上で過去の存在となっただけで、その町自体や住んでいた人間そのものが半月前の状態に立ち返ることはないのだろう。
それに、仮にここで全てを放棄するという選択肢があったとしても、今の明には、そんなことはとてもできなかった。
なぜなら、全てが自分を含む人間の内から生まれたものであり、それが目にしてきた全てのものの骨子でもあったと気づいたからだ。
また、自分と同じく顔を替えられてしまった小野川のこともある。
彼はそう思い至り、勢い任せの破壊願望や群集への怒りを押さえ込むことができた。
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