第22話


 同じ頃、小野川は井上にショートメッセージを送り終えたところだった。

 走りながら文字を打っていたため、文面は「すぐ公園に」という非常に短いものしか作れなかった。しかし、これで井上が気付いてくれれば、まずは家のそばの公園には来てくれるはずである。小野川は送信が完了したことを確認すると、ひとまず安堵した。

 幾分か余裕もでき、後ろを振り返る。何度か角を曲がるうちに、いつの間にか、先ほどまで追いかけてきていた足の速い男の姿は消えていた。疲れ果てた群集は、遥か後方に数人いるだけだ。中には、もうこちらを追う気の無い者もいる。

 小野川の持久力も既に限界だった。もともと長距離を走ることにまったく慣れていなかったため、激しく消耗している。小野川は後ろを振り返り、集団との距離を測りながら壁にもたれて歩き始めた。早くどこかに隠れて休みたい。

 彼がそんなことを考えていると、目の前の脇道から突然、黒い顔の男が姿を現した。それは先ほどまで彼を追っていた男であった。小野川の逃走経路を読んで先回りしたらしい。この男を撒きたい一心で小野川は敢えて直線的な道を選ばなかったのだが、それが裏目に出たようだ。小野川は自分の不運を呪った。

 彼は小野川の姿を認めると、有無を言わさず襲い掛かってきた。

 今の小野川には、応戦するだけの体力も気力も残っていなかった。


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