第3話

「君のご主人、何て言うの?」

「クロ、って名乗ってた」

ドラゴンと黒猫は瓦礫の都を進む。

他の動物はデロイの姿に怖じ気づき、近寄るどころか声すら出そうとしない。

そろそろ誰か、別の旅仲間が欲しいものだ。


と、瓦礫の向こうに白い影があった。

「……クロ?クロ!!」

影は応えず、更に向こうへ走っていく。それを追ってモモは鉄屑を肉球で蹴飛ばして走り駆け寄っていった。

そも、人が生きているとデロイは思いもしなかった。先の失敗で、人類は全て滅んだものとばかり思っていたのだ。


クロ?はモモから逃げているようだった。

別にデロイを見なかった訳ではないが、恐れる様子もなくただただ逃げていた。



――――あの影は本当にクロなのか?



その疑問が頭に浮かぶとほぼ同時、途端にデロイはモモを追った。

「待ってモモ!!あれは本当にクロなのか!?」

「間違うはずないだろ、ボクのご主人だ!」


聞く耳もたず、モモは一向に影を追い続ける。その目はまるで、平静を欠いている様な…………。

取り敢えず、どうにか落ち着かせないとと思ったデロイは、鉤爪を立てて走った。

足音は地鳴りを引き起こし、瓦礫は踏まれ粉々になる。


「……!!」

影はいきなり追ってきた巨体に一瞬たじろいだ。その逡巡をデロイの蛇眼は的確に衝く。

「ブグルルォォォォォォォッッッ!!」

今まで出した事のなかった、大気がビリビリと震える程の咆哮。影もモモも他の動物たちも、その轟音に静寂をもって平伏した。

僅かな瞬間でデロイは、万物に恐怖を植え付けたのだ。

デロイ自身も正直ビビっていた。

「……ほら、モモ。落ち着いたかい……?」

「余計奮ったわ阿呆!!」

散々言われたが、デロイは安心した。

モモの眼はようやく、平静を取り戻したようだった。

「で、あれは本当にクロなのか?」

「言われるまでもないだろ、失敬だな……」

そう言って、モモは影に向き直る。

影もまた、こちらに振り向いた。


互いの緊張はいよいよ最高潮、いざ対面の時だ。

「…………う」

「え?何だって?」

「…………違うんだよ、コイツは!!」

モモは声を荒げ、全身の毛を逆立てる。

あからさまな威嚇に影はにやついた。

「そう。私はクロじゃない」

デロイは愕然とするばかりで、影が如何に危険な力を有するかを量りかねたのだった。

「……【禍詠マガヨミ】のシロ……ッ!!!」

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