第2話

「ドラゴンだ……」

「自分を亀だと思い込んでるらしいぞ」

「雀を一屠ひとほふりだったとさ」

「怖いね」「怖いね」「怖いね」




ボクは逃げ出した。世界がこんなに恐ろしいものだったとは、全く知らなかった。

鉤爪にはまだ生暖かい感触がこびりついている。雀を絶命させた時に付いた、血の感触。

翔ぶ感覚が判らず、ひたすら脚で街の跡を駆ける。


どこまで走ったか、感覚が麻痺した頃。

突如としてソレは現れた。

「……ナァ」

猫だ。ニャアではなくナァと鳴いた、黒猫。

「ナァ、ナァ」

「……なんだよ、からかいならよしてくれ」

「違ェよ」

「キェェェェ!?」

しゃ、シャベッタァァァァァァァァァァァァ

「驚く事ァないだろうさ、君だって喋ってるんだから」

……まぁ、言われてみればそうだな。

「ボクはモモ。身寄りの無い哀しい猫さ」

「……それはボクもなんだが」


というかこの猫、今のボクを見て怖じ気付くどころかかえって堂々としてはいないか。


「ボクの飼い主は魔法遣いだからね、一応」

「……胡散臭っ」

「失敬な!」


いや魔法遣いとか、御伽噺じゃないんだから。

「ドラゴンだってあり得ないだろ、幻獣モンスターなんだし」

「解った解った……で、飼い主は?」

「言っただろう……身寄りの無い猫だ、と」

「…………」

しばし沈黙が、重くのしかかる。

独りぼっち同士はその修羅場を、ただ待ってやり過ごす他、打開策がなかった。


そしてそよ風が吹いた時、いよいよ限界だったかモモが口を開いた。

「……来てくれ。ご主人を助けてくれ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る