第1話

世界はどうやら、『ヒト以外の』生物を残して、あらゆる『科学文明』を終わらせたらしい。その証拠に、テレビとかいう劇が映る箱は真っ暗なまま動かない。

曇り一つないのが、ここまで恨めしく思う日が来るなんて、これまで考えた事もなかった。

博士のもとで、ずっとずっと働くものだとばかり思っていたから、図体ばかりの小心者は動かずにひたすら考えた。

どうすれば、これから生きていけるのか。

この巨体で果たして、狩られずに済むだろうか。

……ドラゴンの生態など何一つ知らなかったボクは、かなり悩んだ。

「……おーい、そこのデカイトカゲ君?」

誰かがボクをからかって呼ぶ。

怒りすら微塵も沸かない。

「……前足にちゅーもーくっ!!」

何だよ、と思いつつ足下を見下ろす。高さのあまり酔いそうだ。

ちょうど右前足のところ、三本ある鉤爪のうち左のところにソイツはいた。

「うわぁ……その牙いかしてるぅ」

何言っているんだ。と思って応えつつ口元に触れてみる。

「ボクに牙?そんなもの……」

……ある。小動物ボクにはないはずのそれが、ある。

「……私ティナ。雀のティナよ」

「……ボクはデロイ。一応これでも亀」

自己紹介したら、ティナは大声で笑った。

「アナタが亀?ないない、あり得ないって!どう見てもアナタ、ドラゴンよ?」

でしょうね。

「……ともかく、そこ退けてくれない?」

いいよ、と言って脚を上げる。

そこには血濡れた白衣が。

「有り難う、お腹空いてたのよ」

そう言うと白衣の中の肉片を貪り始めた。

ティナの栗毛が朱に染まる。

「……おい」

「何?」

「その人を、喰うな……」

「何で?」

「喰うなって言ってるだろうがッ!!」

鉤爪を振り上げると、いとも簡単に人喰い雀は鳥肉に変した。それどころか、瓦礫の山も五、六ほど吹き飛んだ。

余りに強くなった力に、自身驚愕を隠せなかった。しかしそれよりも、恐怖が勝った。

「あぁ……!!!」

嫌悪感、拒絶、この身体が如何に危険かを無知だった、その事への自責の念が襲う。

悲しいかな、ボクは最早、戻せない外れ方をしてしまったのだ。

鱗がしゃりしゃりと音鳴りして揺れる。

恐怖ではなく、空しさで。

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