第11話 会場に居た男(Miami Boy)

 ホテル『シカゴ』の20階。

 エレベーターを降りたマルヴォは、短い廊下を進んでくだんのパーティー会場へと忍び込んだ。


 会場は広くて明るく、いくつものテーブルに食べかけの料理やシャンパンが並んでいる。パーティー自体は既に終わっており、スーツ姿のホテルスタッフがのんびりと片付けを始めている。まだらではあるが、参加者らしき者たちもまだうろうろと談笑を続けている。



「…………」

 会場の隅から全体を窺うマルヴォ。

 ターゲットである『有賀モネ』の姿はテレビで何度か目にしている。一時期は『美人すぎる国会議員』としてフューチャーされたほどの容姿を持った女性だ。見かければすぐにわかるだろう。


(しかし見当たらないな……。既に部屋へ戻ったか……?)


 執拗に辺りを見回すマルヴォ。

 会場にいる女性を隈なくチェックしていく。


(……ん?)


 するとその視線を、一人の男が横切った。


(あいつは……)


 その男は、どこかで見覚えのある人物だった。


(あいつはたしか…………現役国会議員の‶舞網まいあみ〟!)


 舞網まいあみ 光太郎こうたろう。28歳。

『たばこゼロ社会』を推進した清宗院せいそういん派閥ファミリーに所属する若手国会議員の男である。

 内閣発足当初に頻繁にメディアに露出していたため、その憎らしいアルカイックスマイルがマルヴォの記憶にもしっかりと焼き付いていた。


(このパーティーは大学の同窓会――あの野郎、有賀と同級生だったのか)


 すぐさま二人の共通点を見抜くマルヴォ。

 さらに、自分の脳内に眠っていた舞網の情報をゆっくりと呼び起こす。


(とあるゴシップ雑誌の記事によれば、舞網は一時期、有賀と深い関係にあったとされている。現在の関係性は不明だが、奴は有賀の部屋番号を知っている可能性が比較的高い。これはチャンスかもしれないな)


 脳内で探り当てた微かな導線を手繰り、無理やりに勝機を見い出すマルヴォ。

 まだ仲間のいなかった時期に情報収集と銘打ってコンビニで立ち読みを続けた成果を遺憾なく発揮した瞬間であった。


(ム……奴が動いた!)


 舞網がふらつきながら会場を出ようとしている。どうやらシャンパンを飲みすぎているようだ。向かう先は廊下の男子トイレだろう。


(この好機、逃す手はないな)


 笑みを漏らしたマルヴォは、忍び足で舞網の背中を追った。

 ――右ポケットに忍ばせていたブツを握りながら。

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