海水浴にて

浜の砂の性質なのだろうか

海水はにごっていて、よく見通すことができない

きれいな海がよかったが、せっかくの余暇よかにケチをつけてもおもしろくない


子どもは妻に預けて

海の家で借りた浮き輪に乗ってぷかぷかと浮いていると

なにかが手のひらにからまってくる


海藻か何かだと思って、勢いよく引き抜いてみると

ブチブチブチという嫌な感触がした

見てみると黒々とした人間の長い髪であった


周りに人はいない

波打ち際で遊んでいるのが遠く見えるだけ

もしも、海の中に誰か沈んでいたら、その限りではないが


私が抜いたのは人毛じんもうに見えた

指の間にからまった毛が、なんだかひどく汚いものに思えて

海中で手を動かして流した


海に詳しくないから

人の毛のような海藻もあるのかもしれない

そう、言い聞かせて浜に戻る


どうにも気分が落ち着かない

誰かおぼれた人でもあったのかもしれない

その髪の毛がわたしの手にからんできたのではないか?

近くに溺れていた人を見捨てて戻ってきたのではないか?


気になって遊泳客を見守る監視員にたずねてみたが

そういう話は聞いていないとのことだった


一時間経ち、二時間経っても

なにか、人がいなくなっただとか騒ぎがあるわけでもない


まるで、自分が事故を期待しているかのように思えてきて

もう、海水浴という気分にもなれず

先に民宿みんしゅくにもどり、さっさと風呂に入り

そのまま、うたた寝をする


誰にも知られず海の底で

奇妙な形の魚に肉をついばまれ

かにや虫に千切られて

白い骨になっていく女の夢を見た


帰っていた妻に話すと、女ではなく男かもしれないのに

あなたはほんとうに女が好きねと笑われた

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