霊感
今は少しお休みしてるんですが
知り合いにライターをやってらっしゃる方がいましてね
タバコに火をつけるライターの方じゃなくって writer
作家さん、とまではいかないんですが売文業って言うんですかね?
取材して書いた記事を雑誌にのせてもらったりね
そういうことをやっておられる方
今は結婚をされて
「それなりに」
しあわせにやっているとのことなんですが…
話はだいぶ、さかのぼります
学生時代、中学校の頃ぐらいですかねぇ
彼女は地味な子でしてね、今では彼女自身忘れたい過去
まぁ笑い話にはなっているんですが
「特別な自分」でありたくて
「霊感のある人」を演じていたって言うんですね
思春期にはよくあること、なんでしょうけど
たとえばですねぇ
ある男子生徒をぼんやりとした目でながめて
「あの人には悪い霊がついている」 なんて言ってみたり
なんでもない場所で
「ここは良くない所だ、ここにはいたくない」
と怖がってみせたりとするわけです
本当は、まったく感じてないんですけどね
いわゆる霊感っていうのを
そんな彼女ですから、オカルトだとか怖い話が好き
そんな友だちのグループにいたわけです
ある時
みんなでコックリさんをやろうという話になって
放課後の教室に女の子ばかり四人で集まった
十円玉に四人が指を置いて
はじめてみると、これがうんともすんとも言わない
彼女、Mさんはこれはいけない、と思ったんだそうで
彼女の意思で十円玉を動かして、質問にそれらしい返答をした
他愛のない質問に適当に返答してね
「わ~」とか「きゃあ」とか、楽しんでいたんです
それが、ふと気づくと勝手に動いてるんですね 指が手が腕が
他の子の意志で動かしてるんだろうか?と思ってたんですけど
違う
なにか彼女が動かしたことに対して
怒ってるような、そんなメッセージを示すんですね
すごい速さで
ち が う
わ で は な い
否 否 否
う そ つ き う そ う そ
う そ つ き ら い
し し し し ね
これ 私のことじゃない?
私に対して 怒ってる?
こわい
もうイヤだ
手を離そうとする
動かない
離れない
接着剤でくっつけたみたいに
他の子も怖くなったのか
一人、そろそろ終わりにしよう、と声をかける
みんなそれに同意して
「こっくりさん、こっくりさん おかえりください」
作法にのっとって終わらせようとするのだけど
止まらない
狂ったように十円玉は動き続ける
誰ひとり指を離さない、離せない
あんまりにも怖いもんだから声も出せない
目を背ける事もできずに、涙をポロポロ流しながら
こっくりさんの盤面をみんなして見つめている
その内
一人の子が白目を剥いて
反り返った 口からは泡を吹き出す
それでも、指だけは離さない、いや離れない
離すことは許されない
ひぃ
誰のものとも分からない悲鳴があがる
バンッ
と開く教室の扉
「誰かいるのか?」 と 見回りの先生が入ってきて
ふっと
ようやく何かから解放される
みんな安心して わんわん泣いたそうです
泡を吹いて倒れてしまった子ですけど
保健室で目を覚ました
だけど、コックリさんのことは全部忘れてしまっていた
そんなことがありましてね
それ以来、Mさんは
「私には霊感がある」
と言うのをやめたそうです
そういうものに首をつっこんじゃぁいけない
そう思ったんですね
それから何年もあとになるんですがね
Mさん、大人になってからは、その出来事も忘れて
お仕事に打ち込んでいたわけですが
そろそろ結婚を考えるような彼氏もできて
大変だけれども充実した生活を送ってた
しかし
ある日ですね
よく分からないものが見えるようになってしまった
ふと気付くと 街いく人がみんな風船を持ってる
「へ?」 彼女はとても驚いたそうです
自分以外の全員が、自分のことをペテンにかけてるんじゃないかって
よく見てみる
いや、持っていると思ったけど体から生えてるんですね
体から糸みたいのが出ていて丸っこい風船みたいなものとつながっている
たくさん風船を持っている人もいれば、ひとつも持っていない人もいる
異様な光景なのだけど、誰も気にとめていない
他の人には見えていない? なんなのこれ?
その風船は一晩寝たら見えなくなったって言うんですね
他にも
お化粧をしている時にチラチラと視界の端に何かが見える
目の焦点をそこに合わすとフッと消える
イヤだなぁ、イヤだなぁと思いながら
気のせいだ、気のせいだと思い込みつつ化粧を続けてたんです
なにげなく横を向いたら、それと目があってしまった
盛んに口を開いたり閉じたりして
何かを訴えかけている
だけど、なにを言ってるか分からない
それが四日かな五日かな? ずっと24時間ですよ
トイレの時も、お風呂の時も、そばを離れないでついてくる
手で払いのけてみるんだけど、ダメ
手ごたえが無い、すり抜けてしまって意味が無い
塩をふってみても、効くといわれるお札を試してもダメ
もう、ほとんどあきらめの気分になっていたら
いつの間にやら、いなくなっていた
彼女が見えてしまうもの
それらを「霊」としてしまって良いかは
ちょっと分からないんですが
一応「霊」ってことにしておきましょうか
怖いけれど、特に害があるわけでもなく、法則性があるようでない
見えたり見えなかったり、よく分からないことばかり起きる
Mさん、中学生のころは欲しかった「霊感」ですけど
今は必要としていないし、困っちゃいますよねぇ
そういった心労が祟ったんでしょうか?
取材先で気を失い倒れてしまった
目が覚めた時には病院のベッドの上にいたそうです
Mさん、横になって点滴を受けながら考えてみる
きっかけがね、よく分からないんですよ
霊感が身につく、ね
なにか劇的な出来事があったわけでもなくね
本当にまったく身に覚えが無い
どうしてこんな風になってしまったんだろう?
そこにMさんの様子を見にやってきたお医者さんに
「妊娠していますね、安定期に入るまで無理はしないでください」
そう、言われた
お腹に赤ちゃんがいるっていうんですね
そこでつながったんですね
いま、おつきあいしている彼氏っていうのが
自分には霊感があるんだ
とそんなことを言ってたのを思い出したんです
その時は、冗談かなにかだと思ってたんですが
本気だったわけですね
Mさんなりの結論としては
霊感が備わってしまったのは
妊娠がきっかけであろうと
女の人は妊娠出産を経験すると
体質が変わるなんて話も聞きますが
どうなんでしょうかねぇ?
妊娠して霊感が身につく
そんなこともあるんでしょうか?
当時付き合っていた彼氏、お腹の子のお父さんとですね
そこからは結婚だ入籍だと忙しかったけれど
無事に生まれて、今はいっしょうけんめい子育てしてる最中だそうです
最近、会いましてね
よく分からないものが見えることもあるけれど、だいぶ慣れてきた
でも、ちょっと悩んでいることがあるんだという
生まれてきた赤ちゃん、女の子なんですがね
今はもう言葉もすっかり達者になってるんですが
なにかが見えているようで、時おり何もない空に向かって
しきりに話しかけているのがね、大丈夫なのかなぁと
お母さん、Mさんも見えてる時は良いんですけどね
見えてない時もあるので
どうしたら良いですかねぇ?って訊いてくるんですよ
どうしたら良いと思います? みなさん
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