紳士



ボク、心霊スポットに行くのが趣味なんですよね


ええ、もちろん夜中ですよ

懐中電灯なんか持ってね

幽霊に会えないかな?てな感じで行きますね


ぼっちで行きます

友だちがいないわけじゃないんですよ?

ただ、他のみんなは行きたがらないし


まぁ、気分の問題で確証なんてないですけど

一人で行った方が出そうな気しませんか?


そういう意味じゃ

みんなでガヤガヤってのはボクの流儀に反するというか

ほら、きっと霊にとっても静寂せいじゃくを乱されて迷惑でしょうし

いや、大勢で肝試しはいけないってことはないんですけどね


というか、騒がしい連中は厄介というか怖いんですよ

友好的な人たちならいいんですけど


ヤンキーっぽい人だとか、カップルとかね

こっちがなんかされるんじゃないかって


あいつら、サルですからね、ケダモノです

メスに良いところを見せようとして

サルのくせに虎視眈々こしたんたんとチャンスをうかがってますから


幽霊が出てこないでイライラしているところに

ボクみたいなどこにでもいる平凡なオカルトマニアが出てきた日には

仕方ないから、こいつに因縁いんねんをつけて

ボコボコにしてメスに良いところを見せよう

なんてことを思うオスザルもいるかもしれないじゃないですか?


実際、何回か危ない目にも遭ってますからね

幽霊に会って危険な目に遭うってのならウェルカムなんですけどねぇ


生きた人間に危害をくわえられるってのは、ちょっと遠慮したいです



可笑おかしいですか?


そりゃ、そうですよね

幽霊がいるはずの心霊スポットには喜び勇んでいくのに

生きている人間の方が怖いだなんて


いや、ちがうかな

生きている人間が怖いからこそ、心霊スポットに行きたくなる

死にかれてるのかもしれませんね



まぁ、ちょっと話が脱線しましたね、失敬


とにかく、その日はその心霊スポットでおじさんに会ったんですよ

会った、って言うとちょっと語弊ごへいがありますかね


「こんばんは」とふいに声をかけられたんです、いきなり


心霊スポットに単身乗り込むようなボクですが

口から心臓が飛び出て死んでしまうかと思いましたよ


まぁ、幽霊じゃなくて人間

それも品の良さそうなおじさん、紳士ですね、紳士


シルクハットにステッキなんて格好じゃないですけど

山の中では珍しいスーツを着たおじさんでして

50歳なのか60歳になるのかなぁ、よく分かんないですけど

そんな人がこんな山の中の廃墟に出てくるものだからびっくりしました


あっけにとられてぼんやりしてるところに


「幽霊ですか?」

って訊いてくるものだから


ここの地権者かなにか、あるいはちゃんとした地元の人で

説教されたらどうしよう?とか思って身がまえちゃうわけですよ


思ったはいいものの、とくになにかできるわけでもなく

他に返事のしようもないんでバカ正直に「はい」って答えたんですけどね


すると、おじさん

そうですか、と

出る、出るとは聞くんですけど

なかなか出てきてくれません


毎日、通ってはいるんですが

やはり嫌われているんですかねぇ


そんなことを言うんです


で、話をよくよく聞いたら

この心霊スポットで息子さんを亡くしたんですって


なんだか申し訳なくなって謝っちゃいましたよ

ボクはその息子さんを見物しにきたわけで

なんだかひどく罰当たりなことをしてるんじゃないか?って



そうしたら、おじさん

いえ、お気になさらず、にぎやかなのが好きな子でしたから

親しか来ないより、いろんな人が来てくれるここが良いでしょう



そういう時はどういう返事をしたらいいんですかね?

気の利いた慰めのことを言えたら良かったんでしょうけど


お邪魔しましたと、その場にあっているのかわからない挨拶をして

その場を辞することしか、ボクにはできませんでしたよ



まぁ、そんなことがあってから

ボクみたいなオカルトマニアでも礼儀が身についたというか

心霊スポットから帰る時には、軽く手を合わせてね

お騒がせしましたって心で念じるようになったんですけどね



そんな話です


ちなみに幽霊にはいまだ出会えてません


どうしたら、会えるんでしょうかねぇ?

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