漂着物

海水浴場の朝は早い


夜に観光客が楽しんだ花火や

飲食の後始末をしなければならない


景観を守ることもそうだが

客を怪我をさせては大変だから、浜のケアは大切な仕事だ


中身の残ったマヨネーズの容器を拾いあげていると

「〇〇さん、また、あがったらしいですよ?」と声をかけられる


自分が子どもの頃はシーズン中に一回あるかどうかだったのに

今年はさすがに多すぎる


毎日のように浜辺にあがってくるアレを見るのは気が滅入る




朝の日差しを浴びてシュウシュウと音を立てているそれは

日の光が嫌なのだろうか、身をよじって暴れていた


暗褐色のぬめりを帯びた肌

指のようなものの間にある膜がブヨブヨとしていた


強い潮の香りと場違いな甘い匂いが鼻をつく

薄い膜に覆われた濁った眼球は飛びだし、表情は読み取れない


その顔や体は人間という存在自体を

悪意をもって真似てバカにしているようだった


暗い深海で、こいつはどうやって生きているのだろう?

想像もしたくなかった



「〇〇さん、すみません。お願いします」


「うん、慣れないと嫌だろうし、かまわないよ

あとは俺がやっておくから、他やっておいてくれる?」



手ごろな形の流木を

それの頭らしき部分めがけて振り下ろす


赤ん坊がすすり泣くような声をだしている


かまわず二度

三度と叩きつける


鳴かなくなった、これで死んだはずだ

軽トラのビニールシートと軍手を取りに行く


あれは直に触ってはいけない

面倒だがきっちりやらないと、肌がただれる


みんな、こいつの処分を嫌がる

誰かがやらなければいけないことだが

押しつけるのは気がひけた


今のところ、害はない

大丈夫だ


海に目をやる

風の雰囲気が変わった、今日は時化しけるかもしれない



目に入るのは馴れ親しんだはずの海の姿ではある

表面はまだ理解できる、まだ理解の範疇はんちゅう



だが、海の底はどうなっているのか

ときどき、怖くて落ち着かなくなる時があるのも、確かだ



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