怖いってなんだろう? ホラー風味 短編集

あきはる

しつこい

しつこかったんです


わたしには彼氏がいるから

そういっても聞いてくれなくて


あげくに「来世では恋人になろう」

なんて気味の悪いことをいってくるので

そんなことは絶対にありえない、と突っぱねたんです



わたし、悪くないですよね?



好きでもない、むしろ嫌いだったんですから

思わせぶりな態度よりいいと思ったんです


それで今の旦那と結婚して、妊娠しました

しあわせでした


遠方に住む向こうのご両親とは同居しなくても良かったし

贅沢をしなければ、そこそこの生活はできたはずですから


あの人が自殺したって話は耳にしましたけど

わたしには関係ないと思ってたんです



でも、あの人の母親が遺書を持ってきたんです、わたし宛ての

あれの母親とは思えないような小綺麗で礼儀正しい人でした


喪服姿で目の前で封を開けられたら

読まない訳にはいかないじゃないですか?


「次、生まれてくる時は、貴女のお腹から生まれたい」って

すぐさま破り捨ててしまいたかったけど、我慢しました

わたしだって、それぐらいの分別はあるんです



そのあと、近所に住んでいる父が倒れたんです

それで寝たきりになってしまって母が介護することになりました


わたし、お母さんに家事とか甘えるつもりだったんですよ?


それなのに、お腹が大きいわたしの方が

手伝わないといけなくなってしまって


うちの人、やさしい人ですけど

気が利くような人じゃないですから、大変でした




生まれてきた子は女の子でした


男の子か、女の子かはあらかじめ聞いていて

親子でおそろいの服をいつか着られたら、なんて思ってたんです


でも、ダメでした


なんだかひどくいやらしいんです

わたしにも彼にも似ていなくて気味が悪くて


わかってます

最初はお猿さんみたいだって


そうじゃないんです

好きになれなかったんです


母乳で、と思ってましたけど

生理的に無理でした


我慢しました


頑張ったんです


頑張ったんです


なんで、わたしばっかり責められるの?


あんないやらしい声で泣き叫ぶのに


なによりも、あの顔

あんなストーカー野郎にそっくりなのに


嫌って当然でしょ?

なにが悪いの?




……




すみません、取り乱しました

きっと、わたしは狂っているのでしょう


でも、わたし

しあわせになりたかっただけなんです

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