1章『再認識』
最初ユーリ視点です
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朝からザワザワとうるさい外。
妙に豪華な宿に泊めてあげると言われ、期待に胸をふくらませて寝てみればこれ。昨日はと言うと、何故か王城に一番近いこの街でドラゴンが暴れたおかげでまともに眠れなかったし、今日は今日で謎の行列。この街は寝かせる気ないの?
すると、ノック音が部屋の中に響く。
「なによ」
私が一言不機嫌そうに告げると、扉がゆっくりと開く。
「国王が、お越しになさいました」
え?今なんて?
私はそのままのことを口にした。
「ですから、国王がいらっしゃいました。ドラゴン討伐の件です」
あぁそういう事ね。やっと認められたわけ。なんだか魔王討伐の一件から体が軽くなったかと思えば、よく分かんないけど懐かしい所行って、それ以来誰にも認識されないし。ていうか逆になんで忘れられるの?超活躍したのに。
とにかく、私という存在が認められたのは確かだから、これから王に挨拶すれば良いわけで。
「分かった」
私がそう答えると、ありがとうございますと言って足音が遠くへ消えていった。
「フィンスケ、準備して」
で、こいつ。フィンスケは昨日から妙にイライラしているみたいで、ずっとどこか遠くを睨んでいる。
寝てる時はすっごいニヤニヤしながら「ユーリぃ」とか言ってて気持ち悪かったけど、起きればこれ。何なのよ。
「どうせ、最後はみんな無視するから、やるだけやらせるだけだから、やだ、行かない」
まあこいつは放っておこう。重要なのは私が国民に魔精隊団長ユーリだと再認識されること。
と、
「ユーリ・・・なんだよな?」
フィンスケが、少し低い声で言った。
「お前は、本当にユーリでいいのか?・・・だって、あの空間転移をしたんだもんな?」
なんて答えれば良いのか分からない。はいと答えて、フィンスケが本当に信じるのか。疑っているのは確かだ。こう確かめてはいても、実際に信じているかは別だし、現に目が疑っている。
「・・・フィンスケは、どう思ってるのよ」
「お前の圧倒的な魔力、空間転移、俺を、俺と言い当てたこと。正直信じ難い。だって、俺はこの目で見たんだ、お前が魔王によって殺されるところを。だが、お前と言える根拠がある。しかし・・・断定ができない」
「・・・・・・あのさ、本当に死んだ所見た?」
フィンスケは眉間にしわを寄せ、無言で私を見ることで問い返す。
「だって、吸い込まれこそしたけど、私が息をしなくなっている姿を、あんたは見たの?」
言葉を失っている。信じられないのも無理ない。そもそも、『向こうの世界』の存在を知ってる人なんて、国王様と賢者ヨウリ、ハルや・・・ハルくらいだもの。
「実はね、あなたは知らないと思うけど、あの穴の向こうにもう一つ世界が――」
直後、鈍器で頭を打たれたような痛み。唐突に襲ってきて、視界を揺らす。ぼやけて、世界が消えていく。
「おい!」
フィンスケに抱えられて、辛うじて意識を保つ。
「待ってろ!」
展開される魔術式。ぼやけて暗い視界の中、ピンク色に発光するフィンスケの手。光っては消え、光っては消えを繰り返し――。
山は超えた。フィンスケが魔力を使い切る寸前までヒールを続けてくれた。
――フィンスケが居なかったら、ここに居たのがフィンスケじゃなかったら、私は死んでいただろう。
禁句だったのだ。この世界は、一定の行動が縛られている。時々、何かを言おうとして死んだり、何かをしようとして死んだり、世界が籠のようになっていたり・・・と、まるで何者かに飼われているかの様なのだ。
そして、私は言ってはならないことを言ったようだ。さらに、その言ってはならない言葉というのは「もう一つの世界」のこと。
世界のルールについて考えても霧がないのは分かっていた。あまりに確信に迫ると、抹消されるのも・・・そう、賢者――師匠のように。
私は立ち上がって、フィンスケに魔力を分け与える。
魔力が無い人は動けないし、下手したら死ぬから、使ってもらった分は返さなきゃ。
「大丈夫なのか?」
フィンスケが私に心配の目を向けてくれている。
「大丈夫、ありがとう」
そう言って私はフィンスケに向かって微笑みかけた。
それから、王城に行くために私は支度を済ませた。
そして、出ていく瞬間、
「行ってらっしゃい、ユーリ」
と、優しく言われた。
外に出て、用意された馬車に向かう。宿の前が妙に騒がしい気がする・・・この街ほんとに騒がしいな。
それから馬車に乗って王城に向かった。
✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱
王城に来て、私は言葉を失った。
馬車の中、巨大な門が開くのを見て、王城についたのだと認識する。で、城下町があって、道を進むと城がある。
城下町を進むと、広場があり、そこには人集だかりがあった。
「今から、露出、窃盗、脅しの罪に問われた謎の男を処罰する」
男の大きな声が響いた。
居たのは、ハル――と名乗る男だった。
彼は異常に「ハル」に似ていて、名前も同じだった。ハル、それは私が昔お世話になった人で、まるで父親の様な、とても優しい人だった。両親の居なかった私にとって、彼の存在はとても大きかった。――けど、九年前に魔王に殺された。それを思い出してしまうから、私は彼を見ると苛立ちや悲しみ、嬉しさが湧き上がってきて、頭の中が混んがらってしまう。
でも、彼は私をかくまってくれた。それは確かだ。だから、彼には感謝している。
そんな男が、今処刑台に首を置かれている。もう直ぐ殺される見たいで――
「ちょっとあんた!そんな所で何やってんの!?」
✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱
俺が死を覚悟して目を閉じた直後、ユーリの叫び声が耳に届いた。
聞き慣れた、キレイな声だ。可愛らしい、鈴のような声だ。そして、心の奥底で、最後にもう一度聞きたいと思った声だ。
「逆になんでお前が・・・」
そう言いかけて俺は口を閉じた。身の安全の事もあるが、そもそもユーリを王城に連れていくために街へ向かった馬車だ。ここにユーリがいることは必然である。
「何だ貴様は!」
民衆のど真ん中で叫び声をあげたユーリの周りからは人が離れて行き、叫んだ人が誰だか、ひと目で分かるようになっていた。
「先にあんたが名乗りなさいよ!常識ないわね!」
街のど真ん中で叫び声あげてるお前の方が常識ないと思うぞ。
「私は騎士・ジェノ・・・・・・」
「そんなのどうでも良いわよ!」
「なっ!?」
流石ユーリだ。正直清々したがな。俺は暴力振られていてコイツには恨みを持っている。ざまぁ無いぜ!
「ええい!黙っていろ!」
今まで真顔を突き通していた男は、手を大きく振って怒りを表に出す。
それから、
「やれ」
と言って隣に立っている男に刃を落とす指示を出す。
男は地面に埋め込まれて繋がっていたロープ目掛けて、持っていたナイフを大きく振り上げた。
「ちょっ・・・待ちなさい!」
叫びながらユーリがこちらに向かって走ってくるがもう遅い。ロープは切られ、刃が俺の首めがけて勢い良く降ってくる。
もうダメだっ・・・・・・。最後に、妹以外に心配してもらえて嬉しかった。ユーリの声を聞けて、嬉しかった。
そして、俺の目から一粒の涙が零れ落ちた。
――あぁ、死ぬ。楽しかったのかな、人生どうだったんだか・・・。
零れた涙が、地面に滴る音が聞こえる。
――生まれ変わったらイケメンになれたらいいな・・・。
それから俺は大きくため息を吐いた。
――あぁめっちゃ美人の彼女も欲しいな・・・。
そして、そんな下心ばかりの自分自身に対して、少し笑ってしまう。
――生まれ変わるのなら、次は頑張れるように・・・・・・
「いやいつ死ぬんだよ!!」
俺は目を大きく開けてがなり立てた。
と、
「・・・本当は来ない予定だったんだけどなァ」
落ちてくるはずの刃をロープごと持って立っていたのはフィンスケだった。
ロープを引きちぎって俺を助けたのだろう。
「勘違いしないでくれよ、ユーリがそう望んだんだ。お前のためじゃない」
なんだこいつ。
フィンスケは素直にありがとうと言いたくなくなる事を言ってから、持っていた刃を地面に投げ捨てた。
甲高い音を立てて刃が滑っていく。
「おいお前。国王はどこだ」
フィンスケが騎士に向かって告げると、騎士は苛立ちをこらえながら、声を震わせて、
「・・・国王様と呼べ下郎。何故そんなことを聞く」
と問い返す。フィンスケは眉毛をハの字にして挑発気味に
「国王様ぁ?何言ってんだお前。アイツのどこが国王だ。何にも知らねえくせに俺の仲間の知り合い殺そうとしてんじゃねえぞ」
最後は若干怒り気味に声のトーンを落としていた。
「貴様も騎士ジェノンの権限で処罰する」
騎士は剣を抜いて頭上に持っていく。フィンスケはそれを見て、目を閉じ、余裕をかましている。
それに騎士は怒り、
「この!」
と、剣を振り下ろす・・・が、
「なに!?」
ユーリが着いた。彼女は赤い湯気のような光を纏って高速でここに来て騎士の剣を蹴り飛ばす。刃は折れて、処刑台に突き刺さる。
「あんた、来てたのね」
ユーリは目も合わせずにフィンスケに言った。
「ユーリが悲しむのは、もう見たくないんだよ」
ユーリの口元が緩むのが見える。
「き、貴様ら!き、極刑だ!き、今日じゅうに殺す!き、騎士を愚弄したからだ!」
「きっききっきうるせぇよクソ騎士!散々俺のこと殴る蹴るしやがって!」
俺は立ち上がって、ずかずかと騎士に近づく。
騎士も騎士で、俺に対して臨戦態勢だ。
「クソがァァァ!」
速い。なかなかの速度で俺に向かってくる。が、速いはずのその拳は非常にゆっくりに見え、首を少しずらすだけで難なく避けることが出来た。
同時に近づいた顎に俺の右拳を叩き込む。
と、
「おわぁぁぁぁぁ!」
騎士は俺に殴られた勢いで、疾呼しながら腰を軸に回転する。
数回転してから、地面に背中から落ちた。
「囲めえぇぇぇ!」
気絶した騎士を眺めていた俺たち三人を、他の騎士や兵士が槍や剣をもって囲った。
騎士は何人いるだろうか、正直こんな人数は相手にならない。確実に殺される。・・・あ、死んでた方が良かったのかもしれない。
絶体絶命のピンチに、冷や汗が頬をつたる。
そして俺は深呼吸し、拳を強く握りしめ、腹をくくった。
これから進む道は茨だらけになりそうだ。
そう思って少しニヤけたのだった。
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