1章『信用は裏切られる』

折角清々しく起きたのに、外はうるさい。何かと思って見てみれば謎の行列。

 なんで朝っぱらから頭使わなきゃいけないんだ。


 まあ、こんな事は頭使わずとも検討はつくがな。


 ドラゴン討伐の件だろう。こう言った場合は街を助けた功績やドラゴンを倒した報酬を「お偉いさん」が讃え与える。ただ、「お偉いさん」が来ると言うのは少し想像とは違う。普通に考えれば来いと言うものだろうが、わざわざ出向いてもらえるとは。


 俺は起床し、着づらい例の鎧を履いて部屋を出た。


「フィーネさん」


 朝から偉いな・・・フィーネは店のカウンターでもう仕事を始めている。


「おはようございます」


 ニッコリと笑って返された言葉に胸の内が暖かくなるのを感じる。綺麗な鈴のような声に癒されつつも、俺は聞きたいことを聞くことにした。


「外の行列・・・何かわかる?」


 フィーネは少し止まってから、


「そんなことも知らないんですか?」


 なんだか昨日もそんなことを言われた気がする。俺はコクリと頷き、フィーネの返事を待つ。


「ん〜、王ですね」


 王・・・?ここら一帯で一番偉いってことか?流石にそこまでの人が来るのか?


「・・・ドラゴンの件か」


「まあ、そうだとは思いますね。もっと言うなら恐らく魔王討伐の件も含まれるのではないのでしょうか」


「・・・魔王討伐?」


「本当に何も知らないんですね」


 ため息混じりにフィーネは呟いた。

 それから紙とペンを取り出して、詳しく説明をし始める。


「この世界は二つの勢力に分かれています。魔王軍と、王国軍です。彼らは通常戦争をしていましたが、一年前にそれは終わりました。魔王が居なくなれば、魔族は王国軍に手を出さないのだと考えられていました。実際、そうでした。しかし、最近になって魔王がまた見つかりました」


「倒したのに・・・か?」


「はい。また新しく魔王が現れたのです」


 こいつらはバカなのか?魔王がいなくなったところで、戦争は終わらず、その殺意や恨みから、魔族がまた魔王を立てるだろう。そして王国軍に侵略されるのを防ぐ――当たり前の事じゃないのか?根本的な終戦を迎えていないことを理解してないんじゃないのか。


「魔王の定義ってなんだ?」


 フィーネ達がバカではないと言うのであれば、そもそもの魔王の定義が俺の常識とは違うのではないのだろうか。


「魔王は空間移動が出来ます。それは禁術で本来二度使ったら死にます。しかし魔王は何度も使えます。また、空間移動を完全に使えます」


「完全に?完全じゃないのってどんなのだ?」


「そこまでは私も知りません。ただ、今知らせるべきは今言った話でしょう。要するに、魔王が強いから倒す為のリーダーも強くなくてはならないんですよ。だから、王が直々にそのスカウトに来たわけです」


 なるほど、全てに合点が行った。でも・・・。


「ありがとう!助かった、泊めてもらったことも重ねて感謝するよ」


 フィーネはありがとうございましたと小さく頭を下げる。それを背中に、俺は急いでユーリやフィンスケを探しに行った。


 

✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱✱


 

 ここか・・・。

 やっとの思いでそこに辿り着いたのだが、時すでに遅し。完全に騎士だらけだ。


 ここまで来るのに苦労したのに。教えてくれる人は僅かで、それどころか教えない人はついでに罵声だ。全く、人情もくそもないな。


 と、部屋から複数人の騎士がぞろぞろと出てきた。

 その中にはユーリがいて。何故フィンスケはいないのだろうか。


「お願いします!」


 宿の中から大きな声が聞こえてくる。物凄く気になる。多分フィンスケに頼んだいるんだろうが。


「失礼します」


 俺は兵士の間を縫って進み、宿に入ろうとするが・・・。


「ちょっと待て」


 まあそうなるわな。


「お前・・・ハルという名だな?」


 おっ、俺の事も評価に入れてもらっていたのか。これはラッキーだ。


「逮捕だ」


 !?

 突然騎士は俺の腕を取り、後ろに持ってかれ、動けなくされる。


「ちょっ、痛いって」


 あまりに強引で、腕の曲がり方がおかしくなって痛い。


「黙れ!犯罪者め!目撃情報は出ている!」


「ちょ、ちょっとタンマ・・・。いったい何の話だ?」


 兵士は非常に怒っていて、俺に相当な恨みがあるようだった。


「とぼけるな、露出、窃盗、脅し・・・凶悪犯じゃないか!」


 露出窃盗はさておき、脅しってなんだ?

 俺はそのまま思ったことを口にした。

 と、


「宿主を脅し無料で泊まっただろ!」


「待て待て待て!誤解だ、それはフィーネの温情で・・・」


 話してる途中、何やら視線を感じた。見れば、そこにはフィーネが。


「フィーネ、なんとか言ってくれよ」


 するとフィーネは表情を変えて


「間違いありません、彼です」


 と、俺を指さした。

 途端、兵士達は俺を馬車の方へ連れて行き、手前になって背中を蹴る。その勢いで馬車に入れられた俺は、最後に、復讐するために顔を覚えてやろうとフィーネを見てみれば、彼女は何やら小袋を貰っており、中から取り出して確かめるように見られていたそれは金貨だった。

 ・・・確実に売られた。

 恐らく王一行はユーリやフィンスケの件の他に俺を捕まえるという目的があったみたいだ。

 フィーネは魔王討伐と言うでかい話を持ちかけることでその目的を隠そうと考えたわけだ。朝早かったのもその関係だろう。

 完全にやられた。怪しいとさえ思わなかった。


 そして、馬車は動き出す。

 過ぎ行く景色の中、フィーネがニッコリと俺の目を見て笑うのが見えた。

 何故笑ったのだろうか・・・バカにしているのか?

 そんなフィーネの姿は瞬く間に消え、それから大きな門を後にし、広大で緑豊かな草原に出た。


 ・・・スライム?

 遠くには様々な生物が動き回っていた。門を出ればモンスターがいる、という王道パターンだ。スライムもいればゴブリンもおり、小さなドラゴンのような生き物もいた。

 そんな多種多様な、いわゆる魔獣を眺めていたら目的地には到着したようで。


「でろ」


 無愛想に一言命令され、俺は渋々外に出ようとする。なのに、出ようとしているのにも関わらず、わざわざ手枷てかせに付いている鎖を引っ張ってくる。


「ちょっ、痛いって・・・」


「喋るな!」


 今にも殺されかねないこの状況に舌打ちし、俺は仕方なく口を閉じてやった。足がプルプルしているのはあくまでも寒いからだ。勘違いするな。勘違いするなよ・・・。


 震える足を懸命に動かし、誘導され、たどり着いたそこは想像とは違う所だった。

 俺が想像していたのは牢獄。岩を四角くほったようなジメジメしたところに何本かの鉄棒が刺さっていて、中はベッドがひとつ置いてある――そんな光景を想像していた。

 が、今目の前にあるのはカーペット。ずっと下を見ていたからそれが今見える。真っ赤なカーペットだ。そのカーペットに沿って顔をだんだんと上に向けて、視線を正面に移していくと、長く伸びたカーペットの先には一つの大きな椅子があった。

 赤く、金色で縁取られていた。椅子は縦に大きくなっており、横幅は一人座る分だ。

 そう、まさに王城。さらに、その中でも、俺は王が座る椅子に対面している。

 まさかこんな所に連れてこられるとは・・・。


 少しの間ボケっとしていたら、大きな椅子の右側から、二人の騎士に挟まれた、赤の生地を白い毛で囲ったようなマントを羽織った、金の冠をかぶっているおっちゃんが出てきた。

 俺は俺を捕まえてきた兵士に押し出され、王座の正面に跪ひざまづかされる。


 おっちゃんは椅子に座ると、


「手枷を外せ」


 と強めに言った。

 兵士は「しかし・・・」と言って少し抵抗したようだが、しばらく王の顔を見つめてから「分かりました」と俺の手枷を外した。

 また、


「さがれ」


 と言って、騎士や兵士を部屋から出した。


「いいのか、おっちゃん。お前、俺に殺されるかもしれねえぞ?」


 俺は正面に堂々と座るおっちゃんに、今まで溜まっていたストレスをぶつける。

 が、


「やれるなら・・・だ、少年よ」


 言いながら正面に掌を上に向けて差し出して、手の上に黒色の球体を生成し始めた。それの迫力は並のものではなく、ただの小さな黒い玉であるはずのそれが、今にも自分を殺しそうな凶器にも思えた。


「・・・クソが。俺をここに呼びたした理由はなんだよ」


 おっちゃんは少し考え「呼び出した・・・ねぇ」と呟いてから、


「まあ呼び出したと言って良いかな。少年、フィーネを知っているか?」


 フィーネ、今一番思い出したくない人間の名前だ。


「そいつがどうしたってんだ」


「私の孫娘でな。外の世界を知りたいとどうしても言うんだ。閉じ込めておくのも可愛そうだと思ってな、街に送ってやったんだ。一番王城に近い街にな。そして警備もつけた。が、ドラゴンの襲撃によって警備どころではなくなった。私は心配したよ、輩に襲われないかってな」


 それからおっちゃんはよっかかっていた体制から前かがみになり、組んだ手の上に顎を乗せて言った。


「案の定さ」


 それから立て続けに、低い声で、


「大切なたった一人の孫娘が危険な目に遭ったんだ。誰がそんな目に遭わせたんだって考えるだろう?フィーネに問うたよ。そしたら君だ。勿論処罰させてもらう。王の権限の元な。噂になるだろうよ、脅し程度で死刑って。でもな?それが抑止力になる、君のおかげてフィーネが安全になるんだ。そういった意味では感謝するよ」


 このおっちゃんやっぱり王だったのか。てか過保護すぎだろ。おかげで殺されるかもしれない。国も国だ、なんでこんな奴を王にするんだ。


「じゃあ、君には屍になってもらう」


「どういう意味・・・」


 慣れない敬語を行使し、半ば理解している質問を、そう出ないと言ってもらいたくて、聞き返した。


「死刑だ」


「ふざっけんじゃねえよ!」


 直後、兵士や騎士が扉から出てきて、俺を捕らえた。

 連行される道の途中、例の三下がいた。彼は、申し訳なさそうに


「俺のせいなのか・・・?」


 と呟く。

 まあ彼のせいではない。きっかけはどうであれ、問題だったのはフィーネだ。何とか言ってやりたいが、言おうものなら口をふさがれるのが落ちだろう。

 だから、俺は笑顔を作ることで、それを答えとした。


「・・・ッ」


 言葉を失っているようだ。

 それから、小さく呟いた。


「ほんとにMだったのな」


「違ぇよ!」


 俺の作り笑顔の意味絶対理解してないだろあいつ!


「黙れ!」


 はいこれ。どうせそうなるも思ったが、まあ黙れと言われるだけならいいだろう・・・。


 そして俺は公衆の面前で、いかにもな死刑道具の前に立たされる。

 ギロチンと呼ぶのか、首を落とされるみたいだ。と言うより、人いなさすぎじゃないか?なんか、見られるのも嫌だけど、見せしめとか言ってこの人数はハル君少し寂しいぞ。

 と、


「今から、露出、窃盗、脅しの罪に問われた謎の男を処罰する」


 でかい声で俺を連れてきた騎士が言った。

 ああ、なるほど、知らされてなかっただけか。


 騎士が言ったあと、一分と立たないうちに俺の正面は人だらけになっていた。

 首を設置させられ、後はあの刃を落とせば殺すという状態に。

 まぁ、人生としては最悪だな・・・。そう言えば昔、死刑ゲームで俺を殺すという理不尽な遊びをさせられてたっけか。頑張って痩せて、筋トレもしてきたのに・・・。・・・・・・いつ頃から痩せたっけか。

 それにしても、脱童貞もまだなのに、今から死ぬのか。理由も最悪だ。あぁ・・・。ユーリ襲っておけばよかった。


 そうして俺は全てを諦め、静かに目を閉じた。

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