プロローグ④『そして家の中には』
「だーかーらー!お兄ちゃん家に泊めろって言ってるの!」
目を閉じてユミは、地面を踏んだり手を振ったりしながら俺に向かって叫んでくる。ユーリはと言うと、泊めてもらえる前提のように目を閉じて足を組んで座っている・・・!?
「いやお前!態度違くね!」
俺の言葉を聞いて彼女は一度目を閉じて、それからジト目で俺を見つめた。しばらく俺とユーリは見つめ合う。そして、先に第一声を放ったのは彼女の方だった。
「だって、もう面倒臭いのよ」
「・・・と言うと?」
口を尖らせて言うユーリの言葉の意味がわからず、俺はユーリにもう一度聞き直した。
「だからさ、もう面倒臭いの」
いや意味わからん。
「なんのために聞き返したと思ってんだ!」
腹立たしいユーリの態度に今にも手が出そうになる。拳を握り締め、腕に力を入れてもう一度問いただした。
「あんったも面倒くさいわね。いい?私は、魔力さえ溜まれば帰れるの!こっちに来れたんだから当然でしょ?別にお世話になるところなんかどこでも良いのよ!」
「家出したって言えよ!」
ついつい本音が出てしまった。そもそも泊めるなんて言ってないし。俺は法にだけは触れないし。おっぱい欲しいし。ロリはあくまで閲覧用だし。なら家においても良くね?あっと待てこれは俺じゃない。とにかくダメだダメだダメだ・・・。延々と続く頭の中の『ダメだ』コール。どっかのアニメを思い出す。と、そんな事を考えている間にも彼女の怒りは昂っていたそうで。
「ハイハイ!頼めばいいのね!分かりました、泊めて下さいお願いしますー」
言いながら彼女は地面に手をついた。膝を曲げて正座をする。そのまま上半身を倒していき・・・って土下座し始めたこいつ!
「ちょ、お兄ちゃん!?」
「いや、まて、よせ!」
「私が悪うございましたー」
ユーリは地面に頭を擦り付け、前へ前へと頭を進めていく。段々と地面と接触する面積が広がる。
「って!謝るきあんのかコラ!」
「ホントごめんなさいー」
もはや寝ている。
すると、ナースが俺の様子を見に来た。二、三回ノックし「失礼します」と言いながら入ってきて、
「あ、どうもすいません」
「閉めんな!」
完全に誤解された。もうここにいられないよ、本当にやだ。
「あーー分かったよ!泊めればいいんだろ!その代わり家事手伝えよ!」
「分かりましたよろしくお願いしますー」
「楽しんでやってんだろそれ!」
叫んで俺は少女を立たせようと、伸びきった少女の両手を包んでいる、少女にはデカすぎるシャツの袖を思い切り引いた。が、引いたところが悪かったようだ。
「きゃっ!」
「あっ」
やばい。これはラッキーでも何でもないただのスケベだ。
今までの堂々たる態度が一変。彼女はシャツを引っ張られているせいで、両手を天井に向けた状態になり、目を瞑つぶって顔を赤らめている。俺はそんな彼女の顔がたまらななったためじっと顔を見つめていた。お陰で服をどうにか着ようとする彼女は、「見ないでぇ!」と小さな胸を肘で隠さんとする。
そのころ俺はというと、視線を彼女の顔からパンツへと変えていた。正直ユーリの胸になんか興味はない。どうでも良いのだ。だが、女子が履いているパンツというのは俺に何とも言えない高揚感を与える。俺はロリは好きだが幼児性愛者ではない。しかし!こんな綺麗な白色を見せられては、流石の俺も興奮してしまう。ぶっちゃけ少女より履いている、履かれているパンツが好きだ!
「はーっはっは!俺の家に泊まるということがどういう事か、その身をもって体感するがいい!」
俺はちょっと堂々とするが、実は息子がめっちゃ元気である。
ユーリは俺の視線に気づき、「見ないでぇ」と言いながら脚でどうにかパンツを隠す。が、俺にとってはサービスだ。ギリギリ見えるか見えないかぐらいのパンツとはまさにロマン。さらに謝ってくるなんて可愛いのなんの。
そんなことを考えながら完全に危ない男の目を顔に浮かべ、堂々たる態度で少女を見つめる俺を、ユミが掌でなかなか強めに殴ってきた。
「お兄ちゃん!いい加減にしてよ!」
俺はユーリの袖を握り締めながら殴り飛ばされたため、そのユルユルのシャツは彼女から完全に離れた。つまり、裸になったわけだ。白のパンツを除いて。
「失礼します、先程は失礼しまし...」
と、ここでノックの音が聞こえてきた。ゆっくりと扉を開けて顔をひょっこりと出したのは先ほどのナースだ。そして、
「失礼しました」
何故いちいち閉める!止めるとかしろよ!と言うよりこれは流石にまずい。少女をパンツ一丁にし着ている服を握っている、そんなお姿をその部分だけ見られてしまった。素性を何も知らない人にだ。
俺はもうこの病院に自ら来ないということを誓い、それから握っていた服を放した。
「はぁぁ。もういい、外で待ってろ」
そう言って俺は病室を出た。
それから、専門医の元へ行き、骨折の件の診断をしてもらったが予想通りメッチャクチャ驚かれた。診断中は終始例のナースが俺を蔑むような瞳で見てきたが、うん、この事はもう忘れよう。
ともあれ、治ったことは治った。だから俺は色々とやる事をやって家へ帰った。
夜、すっかり暗くなってしまった帰路では派手な髪の妹と上しか着てないように見える(実際上しか着ていないのだが)少女を連れている俺はいろんな人にジロジロと見られた。さらに、飛び降りのこともあってジロジロだけでなくヒソヒソもされてしまった。しばらく家出ない。
「ところで・・・」
言いながらチラリとユミを見ると、顔を合わせてユミが「何?」と首を傾げる。
少し気になることがあるのだ。お分かりいただけるだろうか?そう。当たり前のように溶け込んでいるユミの件だ。
「ユミ、どこまで来るの?」
嫌な予感がする。本当は聞きたくないがとりあえず、願うように聞いてみた。すると、
「お兄ちゃんの家に決まってんじゃーん」
「『じゃーん』じゃねぇよ二人も無理だ!」
「ダイジョーブ!ユミもお手伝いするから」
ダメだこりゃ。もうどうにでもなれ。
ため息をついて、それから俺はとりあえず家へ帰った。
―――家。
特にフィギュアなどが置いてある訳では無い。俺はアニメ漫画ラノベは大好きだが、だからと言ってブルーレイ漫画小説以外を買おうとは思わない。時々無性に欲しいものもあるが、それはそれである。つまり、無闇矢鱈と集めたりはしないのだ。さらに、買った漫画などは全て倉庫を借りてそこへ閉まっている。だから一見して俺の家が特殊なところはない。
「お兄ちゃんの家って広いよね」
ユミが玄関で言った。
ユミも俺も『俺の家』と言っているが、俺は断固として『俺の家』と呼んでいる。その理由は、俺のゲームセンスにあるのだ。
とあるPCゲームで、俺は圧倒的な戦闘力を発揮した。ゼットマシンガンII、略してゼットン2という頭脳戦FPSなのだが、そこでは裏取り引きのような形で、ゲームに勝てば金や物、情報を手に入れることがてきる。プレイヤーネーム『Haru』を、このゲームで知らない奴はそういないだろう。リアルネームなのだが周りは季節の春の事だと思っているらしい。で、俺はそれで金を稼ぎまくったのだ。そして手に入れたのがこの一室である。購入したのだ。
この家を買うまでの経緯を思い出し、うんうんと頷いて自慢げになっていると、正面、少女が俺のベッドで寝ている。ユミはPCを立ち上げてゼットン2をプレイしている。
勝手に上がって何してんだという怒りの矛先は両方に向いたが、俺は真っ先にゲームをしているユミのもとへと向かった。
「あぁぁぁあぁ!!ふざっけんな死にすぎだ!」
頭を抱えて反り返る俺を、渾身の笑顔を作ってユミは、
「所詮ゲームじゃん!」
クッソこいつ!
「とにかく!勝手にいじるな!言うこと聞け!仕事しろ!」
すると、うるさいなぁと言いながらユーリが目を覚ます。逆に寝てた事にビックリなのだが、とりあえずそんなユーリに視線が集まる。
「魔力貯めたいから寝かせて」
俺の額の血管が盛大に切れる音がした。
「また脱がされたいのか?」
少女は起き上がり臨戦態勢に入る。なかなかにかっこいいポーズだ。流石中二病末期といったところである。
俺もそれに対応して見事なまでの中二ポーズを披露。
笑うユミを眼光で黙らせ、少女と目を合わせる。
「この構えをさせたのはお前が初めてだぜ?」
右手を天井に向けて、左腕をL字に曲げながら左拳を握りしめる!右拳も握りしめながら大きく腕を振り、左肩の位置まで持って行ってステイ!これが俺の戦闘態勢だ!
「さぁどう出る・・・」
言った途端視界が大きく揺れる。
気づいたら俺は倒れていて、天井を見て大の字になっている。ユーリが腰あたりに乗っており、思いっ切りドヤ顔している。
ぶっちゃけこの体制ずっと続いて欲しい。
「分かったなら黙ってなさい!私は寝るの!寝たいのよ!」
それからユーリは俺の頬を殴る。途端、俺の意識は深い暗闇の中へと沈んでいく。意識が消える寸前見えたのは、キャッキャしながら見ているユミ、自慢げに見下ろすユーリ。
いつの間に俺の家は乗っ取られてしまったのだろうか・・・。
そして迎えた朝。とある大事件が起こるその朝である。
この時の俺は、こんな風に朝を迎えられるのが最後だったなんて、想像もしていなかった。
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